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終章
終章
しおりを挟む深い闇の中に、また何か深い色が渦巻いている。
重苦しい、呼吸すらままならない様な闇の中、周囲よりは少し明るい黒衣をまとう御乙神織哉が立っていた。
上も下も判別が付かない、足場すらもない闇の中、どこからともなく声がする。
「何ということをしてくれた。あの娘が死ねば、星覇の使い手は完全に滅亡の子と成ったのに」
「御乙神の人間に追い詰められて命を絶つなど、こんな好都合な事は無かったのに。何をしてくれたかこの人形が」
老若男女、幾つもの声を縒り合せた声だった。そしてあらゆる方向から聞こえてくる。
微弱ながら数え切れぬほど重なる声は多種多様だが、どれも灼けるような冷たさがあった。そして、怖気が立つほど、怒っている。
けれど御乙神織哉は、自らに向けられる多数の怒りを無表情で受け流す。端正な顔に赤い目を光らせ、淡々と答える。
「あの娘は御乙神一族の人間ではない。俺は御乙神一族を殺し尽くすと約束した。あの娘を殺すのは契約違反だ」
限りの見えない闇の中、御乙神織哉の右腕が砕け散った。血は流れず、まるで土屑のように空間に散っていく。
「戯言を言うな。己が立場を忘れたか」
続いて左足が砕け散る。バランスを崩し傾いた所で、今度は左腕が砕け散り、そして右足も吹き飛んだ。
四肢を失った御乙神織哉は、哀れな姿で闇の中に倒れ伏す。しかしひときわ凄味の効いた声が響き渡る。
「何なら死体に戻してやろうか。焼け焦げた死体に戻り、未来永劫、次元の狭間を漂うがいい」
鈍い破裂音がして、鍛えられた胸板が砕け散った。
そして唯一残った頭部は、顔半分が焼け焦げ、残った部分も火傷にただれ、艶やかな黒髪も抜け落ち、美男子の風貌は跡形も無くなった。
焼けた髑髏と成り果てた御乙神織哉に、四方八方からの声が重なり命を下す。
「息子をお前の憎しみに取り込め。星覇の使い手に、母親を殺された憎しみを思い出させろ。お前の憎しみはもう尽きてしまったか。その程度だったのか、お前の妻への愛情は」
闇の中から、人影が浮かびあがる。
それは、洋装の少女もあり、軍服の老爺もあり、古代の貴族もあり、武人もあり、多種多様の人間たちがはるか遠い場所まで埋め尽くして姿を現す。
老若男女が夜空の星のごとく浮かび上がり、赤い魔物の目を禍々しく光らせながら、同じ唇の動きをする。
「契約を執行せよ。恨みを晴らせ。御乙神一族を滅ぼせ」
織哉の髑髏が、全方位を埋め尽くす魔物達と同じ赤い目を、禍々しく光らせる。
すると、動画を逆再生するように腕や足が復元していく。見る間に元の端正な姿に戻り、黒衣の美丈夫は闇の中に溶け込んだ。
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