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第一章 〜水晶使いの誕生〜
第4話 特殊なスライム
しおりを挟む村では冒険者たちを中心に、魔物への対策を進めていた。
一段落したところで、村長がリーダーに尋ねた。リーダーはもう冒険者モードに入っている。
「今回攻めてくるやもしれない魔物とは、一体どんなものなのですか?」
「どうやら、スライムの仲間だそうだ」
スライム、と聞いて、村長は困惑した。
「スライム……ですか?」
「そうだ。スライムを甘く見るなよ? そこら辺のスライムは確かに弱い。この村の人でも、火攻めをすれば勝てるだろう。だが、進化を繰り返すと手に負えなくなる。最も伸びしろがある魔物と言っても過言ではない」
リーダーの言うとおり、スライムが進化すると、酸が強力になったり、体が毒性を帯びたりする。単純に大きくなったりもする。
スライムは環境に合わせて進化しやすい魔物でもある。
上位スライムと、毒スライム、ビッグスライムである。
だがこれらは、大した脅威ではない。銀級の冒険者だと、ソロでも簡単に倒せる。
だが、リーダーが話しているのは、それよりもより上位の存在。
数多くの伝説の中にドラゴンはもちろん、スライムも入っていた。ドラゴン種、アンデッドに並んでスライム種が謳われているのだ。
それも1つではない。最低でも3,4つ。
だが伝説に謳われた魔物はいずれも、既に討伐されていたり、他の伝説の魔物に殺されたり、寿命で朽ちていたりと……いずれも存在しない。
他にも伝説の魔物ほどではないが、そこそこ強力な個体が目撃されている。
特殊と言われる個体である。
特殊は、進化しないと生まれない。
しかし、魔物が進化することは実はあまりない。
では、上位個体はどのようにして生まれているのか。
その理由は、単純である。元から上位個体として生まれてくるからだ。
また、一般的なスライムであっても、一般人が偶然出くわした場合、逃げるしかない。スライムを倒すには、核を壊すしかないのだ。
それに、流動体の体は、武器の入りが悪い。プヨプヨしているが、実はドロドロなのだ。
その証拠に、核を破壊すると、力を失ったようにプヨプヨしなくなるのだ。
このプヨプヨが気持ちいいのだが……。
そのため近年では、生まれたばかりのスライムを人に馴れさせ、ペット化させる動きがあり、王都内の一部の貴族の間では大人気なのだ。
戦闘中であるのも忘れて触ってしまう輩が現れるレベルだ。
これがうまく行けば、王国中に広まることだろう。数年後には大人気まちがいなし!
……話を戻そう。
スライムは火に弱い。あのプヨプヨの体は火に焼かれると、蒸発してしまうのだ。
火を使えない場合、武器に魔力を通して強化して核を狙うしかない。
今では誰でも生活魔術を使えるのだ。
しかし、生活魔術は攻撃用ではないため、勝つのは難しい。別に戦う必要はないのだ。
だから、逃げる。
──私が初めて倒した魔物はスライムだったな。
昔のことをふと思いだした。
スライムは体全体が脳であり筋肉である。そのため変幻自在なのだ。
ある程度分散されても、核が無事な限り、寄り集まって元通りの大きさになる。
しかし核が無事でも、核が空気に当たっていると死んでしまう。核は空気に触れると、崩れてしまうのだ。
であれば、核に息を吹き掛ければいいのではないか。
無駄だ。そもそも核は、スライムの体内では自在に動くことができるのだ。
それ以前に、核に息を当てることができるなら、槍とかで突いて核を破壊できるのだ。
そもそも先が尖っていないと、あのプヨプヨした体に入らないのだ。
尖っていなくてもそんなことができるのは、ミスリル級以上の実力者のみだ。そのため、誰もそんなことはしないし、やろうとも思わない。
──私はやったことがあるがな。
警戒し過ぎるにこしたことはない。村人の警戒心を上げるために、言う。
「……それに、あの魔物がここに来ないわけがない。報告によるとあの魔物は、人間を好んで襲っているそうだからな」
「スライム」と聞いても、村人たちの顔に油断は一切生まれなかった。
だが、ほぼ確実に魔物がやってくる、と聞いて絶望を隠しきれない者も複数いた。
ベテランの冒険者が警戒している魔物だからだ。
村人たちは、白金Ⅲがどれほどのレベルなのか、アミリスの話でなんとなく理解していた。
そのレベルの冒険者たちが警戒している。
これがどれほど危険なのか、わからないはずがなかった。
だが、村人たちは知らなかった。
確かに、白金は平均より上位のランクである。
しかし岩壁の盾のランク──白金はパーティーとしてのランクである。
つまり、個々人の実力は、銀から金級といったレベルでしかなかった。
しかしその実力をチームワークで補い、白金級まで上り詰めたのであった。
つまり、チームワークが少しでも崩れると、白金パーティーとしての力は失われる。
そこが、弱点である。
「村長、準備ができました」
魔物を迎え撃つ準備が終了したことを、村の若者が知らせに来た。
「では、戦えない女子供、お年寄りはここに待機、戦える者は弓矢と油、火を持ってあそこにいる冒険者の方々の元へ集合。……火は向こうに用意してあるな。うん。村長はここに残る者たちをまとめておいてくれ。パニックになられては敵わん」
「わかりました」
村の戦士たちを目の前にリーダーは、
「ちょうど48人か。なら、3人1組になってくれ。1組に松明を1つ、油を1瓶、弓矢を15本配布する。矢を射る順番も決めておいてくれ」
スムーズに動けるように指示をしていた。
前衛を岩壁の盾の前衛が努め、後衛に村人たち、中距離を魔術師、治癒術師。
その時、森から人影が出てきた。
「人」ではない、人の形をした何かであった。
その証拠に、何も体に纏っておらず、また、テカテカと光を反射していた。弾力のありそうな見た目に、肌色でない体表。
スライムであり、スライムでなかった。
一般的なスライムは、大人の膝ほどの高さと、二人分の肩幅の横幅を持つ。だが今回現れたのは、人と同じ形をしていた。
「うろたえるな! 作戦通りにいけ! 誰も死なせはせん!!」
「「おう!!」」
一方その頃村の広場には、戦えない村人たちが集まっていた。
森の方向から声が聞こえる。
クロウも向こうにいる。腕の中には、未だ眠っているラインが。傍らには、ヤハがいる。
他の女たちも同じ心情だった。
──神様、どうか私の夫を、この村のみんなをお守りください。
戦いが始まった。
──後ろにいる妻、子供、または親を死なせるわけにはいかない。
──後ろにいる村人たちを死なせるわけにはいかない。
村の戦士、戦えない村人たち、冒険者たち。誰もが想う人がいる。想われている。
死にたくない。負けたくない。
迫りくる魔物、心にこみ上げて来る恐怖。
にも関わらず、彼らは魔物へ立ち向かっていく。
背後に──護るべきものがあるから。
スライムには、魔術が有効である。体が不定形で、水っぽいからだ。
スライムの体の残りは錬金術によく使われるのだが、スライムは雑食で弱いため、飼育ができていた。
だが、売ればまあまあの金になるため、金欠の冒険者が探すのである。
だが、今この状況でそんなことは言ってられないのだ。スライムは火に弱い。そのために火を用意していたのだ。金よりも、命だ。
人型スライムが、柵を壊して、村に侵入しようとしているが、まだ誰も動かない。
──だが、人型スライムは柵を壊さなかった。
柵などないかのように、そのまま進んできたのだ。
「不定形の体は便利なものだな」
「ああ、だが、狙い通りだ」
突如、人型スライムを──いや、人型スライムの体から飛び出ている柵を狙って、火矢が降り注いだ。柵の木には、油が染み込んでいる。
よって、このスライムは、内部から炎に焼かれる。
人型スライムは、その場で腕にあたる触手を振り回した。苦しんでいるのだろう。
だが、それだけでは終わらない、終わるはずがない、終わらせるわけがない。
足元にも油が大量に撒かれているのだ。木を伝って地面に落ちた火が、またもや息を吹き返したように激しく燃え始めた。
そしてそこへさらに追い打ちをかけるため、今度は人型スライムを狙った火矢が16本。それに混じって、魔術師の火属性の魔法。
村人たちには、矢を射る間隔を伝えてある。村人たちは狩りで、冒険者たちは訓練で体内時計はかなり正確だった。そして、岩壁の盾は、チームワークが武器だった。
そこからは、一進一退の戦いであった。矢が尽きた村人たちは村の広場に戻っていった。
今だ燃え続けている人型スライムに魔力を帯びた武器で攻撃を仕掛けている。
だが、
──核に当たらない。
袈裟斬り、薙ぎ払い、突き……何回も繰り返した。魔法や物理的に目くらましや拘束を仕掛けたが、いずれも効果がなかった。それなのに、だ。
体内での核の動きが速いのだろう。仮にそうだとしても、異様な速さである。
だが、それももうすぐ終わりだ。あと20秒だ。それだけ耐えれば、勝てるだろう。
冒険者の前衛の2人は、スライムの酸と触手による攻撃を受けていたが、治癒術師が定期的に回復魔法をかけていた。
15秒後、村の方から多くの男どもがやってきた。万が一のため、一定の時間が経てば矢を持って共闘するよう指示していたのだ。
そして、村人たちは狩りによく行くため、弓の腕はかなりのものだった。
そして20秒後、冒険者たちが、左右に避けるとともに、一斉射撃が始まった。もちろん、矢は火矢である。
だが、その中に明らかに矢ではない物が混じっていた──。
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