戦闘狂の水晶使い、最強の更に先へ

真輪月

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第一章 〜水晶使いの誕生〜

第3話  絶望の兆し

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「あ゙ァァァ……あ゙……、あ゙…頭が……わ…れる……」

 その日の夜、ラインは激しい頭痛に襲われていた。

 それを見たクロウが、冒険者パーティーの泊まっている、この村の宿である村長の別宅に向かった。



 宿で談笑していた岩壁の盾のもとに、一人の男がやってきた。

「すまない、治癒術師の方はいないか。息子が!」
「私は僧侶です。息子さんはどこですか」
「こっちです。お願いします!」

 まだ7時と、日が沈みきっていなかったため、寝支度をしていなかったアミリスは、すぐに宿を出ることができた。

 村はたいして大きくなく、家は、30軒ほどしかない。
 だが、家1軒1軒は、都市の物より若干大きく、また畑もあるため、村の周囲は4km弱といったところだ。
 また、村長の別宅とクロウの家は間に3軒しかないため、走ればすぐに着く。

 治癒術師……後衛型とはいえ、アミリスは冒険者である。一般人よりも体力は多い。
 5分としないうちに家に着いた。

(ラインくん!?)

 そこで目にしたのは、つい数時間前まで元気に話をしていたラインだった。
 今はもう眠りについているが、苦しそうな顔をしている。その証拠に、体中が汗でびっしょりだった。

(あのときはまだ元気だった。こんなに苦しそうなら、気づかなかったはずがない)

 アミリスは、常に魔法を使用して村人の様子を見ていた。
 幸いにも、大きな怪我や病気を抱えている人はいなかったが。

「つい先程、急に頭が痛いと言い出して……」
「とりあえず見てみましょう。──『状態異常看破』」

 アミリスは見た者の病気、怪我を診断できる僧侶特有の魔法を発動した。本来なら、発現している箇所、病名、種類が出てくる。

 ……どこにも異常がなかった。

 体質や、未知のウイルス、呪いによるものだとしても、問題となっている箇所は分かる。
 にも関わらず、何も見えなかったのだ。つまり、ラインの体は健康体であるということだ。

「な!? え?」

 初めて見る結果に、アミリスは動揺を隠せないでいた。

「どうしたんですか? まさか、とてつもなく重い病気とかなんですか?」

 クロウも、アミリスの態度を見て動揺し始めていた。
 その言葉を聞いて、クルリアもヤハも動揺し始めた。

「いえ、そうじゃない…、そうじゃないんです。それどころか、何も見えないんです。健康体であると……。とりあえず、頭を冷やしておいてください。明日の魔物討伐が終われば、街に行くことができます。なので、そのときに街に連れて行って、高位の治癒術師に診断してもらいましょう」

 何も見えなければ、魔法を使えない。簡易的な応急処置をするしかない。
 そう判断したアミリスは、とりあえずラインの頭を冷やすことにした。

 だが、そもそも病気を完治させる魔法など存在しないのだ。
 怪我や呪いであれば治すことはできる。ウイルスが原因であれば、ウイルスを殺すことができる。

 だが、完璧ではない。
 強力なウイルスや呪いは薬師や聖人・聖女でないと治すことはできない。
 だが、強力なものはそうそうなるものではないのだ。そんな強力なウイルスがいないから。

「どういうことですか!?」
「私の使用したスキル、『状態異常看破』は、病気や怪我の発現場所、名称が出てくるんです。その結果次第で、どのような魔法をかけるのかを決めるんです。ある程度の病気であれば私でも治すことができます。ですが、重度の病気ともなると、応急処置しかできないのです。ですが…」

 ──ラインくんの体に、異常が見られなかったのです。

 今度ははっきりと、そう口にした。

「なるほど、分かりました。ありがとうございました」
「いえ、お力になれず、申し訳ありません」

 お互いにショックは隠しきれていない。





 夜が明けて、魔物討伐の日。
 今日は朝から冒険者たちの様子が慌ただしかった。それを見た村長がリーダーに何があったのか尋ねた。

「どうされたのですか?」
「あぁ、村長! 今すぐ村人を一か所に集めてください」
「一体な──」
「早く!! 鐘を鳴らすな! こちらに来ない可能性も十分にある」

 リーダーはあせっていた。毎朝、討伐チームから連絡が来るはずであるのに来なかった。
 そのため、チームのレンジャーに様子を見に行かせたら、近くの木に付いた僅かな血痕以外、何もなかった。

 討伐チームは、最低でも金Ⅲ級以上の冒険者パーティーたちで構成されていた。
 この岩壁の盾は白金Ⅲの冒険者パーティーである。それでも、厳しいと思われた。
 それに加え、守らねばならない存在が多いというハンデまで背負っているのである。勝ち目は、かなり低いと思われた。

 だが、魔物がどこに行くのか分からない。この村に来る可能性もあるし、別の方向に行くかもしれないし、動かないかもしれない。

 だが、魔物からしたら、人間は美味しい獲物だった。
 しかも、捕まえやすい。

 だが、大勢の人間を敵にするのは危険だということもわかっていた。冒険者という強力な存在がいるからだ。そのため、村を襲うことはまずない。

 低級で、弱い魔物であれば。

 今回現れたのは、かなり強力な存在。
 冒険者でも、白金級でなければ厳しいという。冒険者組合は、領の中では、領都にしかない。
 その魔物の危険性から、領都から派遣するしかなかったのだ。

 王都の冒険者組合にも連絡は行っているが、援軍は必要ないと判断し、要請しなかった。そのため、援軍は期待できないだろう。
 ただでさえ、領都の冒険者組合は人手不足気味なのだ。白金級は、岩壁の盾の他に3パーティーほどしかない。

 一応レンジャーの報告を受けて領都に連絡はしたが、領都からこの村まで、馬に乗って3時間はかかる。
 援軍は期待できないだろう。

(だが、村人をみすみす殺させるわけにはいかない!)

 リーダーは不安を決意で覆った。

「村人の諸君、急遽集まってもらってすまない。落ち着いて聞いてほしい」

 リーダーの神妙な顔つきと静かな言葉に、村人たちは一層耳を傾ける。

「魔物討伐チームとの連絡が突如途絶えた。だが、この村には私たちがいる。命に変えても必ず守る。幸いにも、今回の対象となっている魔物は1匹で行動している。だから頼む! 援軍が来るまでの遅延戦闘に協力してほしい。もちろん、無理にとは言わない。だだし、人数が多いほど稼げる時間は多くなり、守れる人も増えるということだけは……知っておいてくれ」

 場は、静まり返った。命を助けるために命を賭けろ、だなんて矛盾だ。そう思ったときだった。

「……お、俺は手伝うぜ」

 最初にそう言ったのは、体格のいい若い男だった。
 その男に続くように、他の男どもも、俺も、俺もだと言い出した。その中には、クロウもいた。
 ついでに村長も、わしも手伝おうかの、と言い出した。

「みんな、ありがとう。あ、村長は残った村人たちをまとめてください。パニックを抑えられるのは、村長でしょう?」

 村長は、少し残念そうな顔をしたが、その後の言葉を聞き、薄く笑みを浮かべた。

「よし、では、すまないが、この村に油はないか?」
「ゴロンの実から採れる油があります」
「どのくらいだ?」
「主流ではないので、あんまり多くはないですが、あの小屋に入れてあります」

 そう聞くと、

「そうか。フォーレン、ちょっと見てきてくれ」
「はいはい」

 と言い、魔術師の男に見に行かせた。
 魔術師の男は、濃い緑のローブに身を包み、短杖を腰に刺し、布で顔を隠している。





 ものの1分弱でフォーレンは戻って来た。

「──リーダー、村人はああは言ってるが、かなりの量だ。瓶20本は余裕であったぞ」
「おぉ、そうか。村長、油をいくらで売ってくれる?」
「……その話は、事が終わってからで。嫌な予感が……」
「わかった。では、森側の柵に油を撒いてくれ。柵にも油を掛けておいてくれ。弓を使える者はここに残り、使えない者は女子供を守るんだ!!」

 と、言ったは良いが、成人した男はほぼ全員弓を使える。
 狩りをするために、14歳の誕生日の次の日から弓を扱う練習をするのだ。得意でないのは3人だけだった。

「そうか、それは心強い!!」

 その後、村人総出で油を大量に撒き、弓矢部隊は準備に取り掛かった。
 また、3人が女子供守護部隊に参加し、女子供守護部隊は、6人となった。

 リーダーは魔物が来ない可能性もあると思っているが、そんなことはありえないのだ。 

 人間の味を覚えたから。
 人間の弱さを知ったから。
 人間は群れることを知ったから。



 美味な食事を求めて、魔物は動き出す。
 生来の、食に対する猛烈な執着心はとどまることを知らなかった。
 それ故に、進化を重ね、強さを得た。 
 強さを得た結果、より多くの味を知ることができた。

 中でも、人間は格別だった。
 逃げ足は早く、狩りを楽しめる。
 そして美味。
 数が多く、群れている。
 この魔物にとって、人間は究極の食材だった。

 村に災いが訪れるのは…………すぐ、そこ。


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