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第一章 〜水晶使いの誕生〜
第2話 ラインの誕生
しおりを挟むヘラリア国のとある農村にて、新しい生命が産まれようとしていた。
「頑張れ! 頑張るんだクルリア!」
隣で応援しているのは、クルリアの夫、クロウだった。
そして、必死で力んでいるのはクルリア。
めでたく、夫クロウとの間にできた第二子を出産中である。
『第二子』ということは、第一子がいるということである。
長男ヤハ、年齢はまだ4歳。
だが、他人思いの優しい子である。
また、彼は頭が良かった。農民の長男でなければ、いわゆる、エリートの道を歩んでいただろう。
だが、悲しいことに、農民の長男は家を継ぐ義務がある。
また、農民の長男でなくても、平民が出世して貴族になることは基本はない。
国の要職についたり、大きな手柄を上げれば貴族の地位はもらえる。
また、逆に貴族でも悪い行いをすれば平民に落とされる。
この世界の階級は、四段階ある。
上から王家、次に貴族、次に平民、最後に奴隷。
ただ、王家でも、王子や王妃は王ほど権力はなく、王妃は侯爵ほど。子供に権力はない。
貴族は、上から公侯伯子男となっている。
平民は、会社での上下関係のようなものしかない。
ちなみに、農民も平民のうちである。
奴隷は、まず存在しない。鉱山などの危険地帯での労働奴隷は昔いたが、魔法技術の発達と、職業化によりその存在は必要なくなった。
魔法技術の発展により、より良い装備を着ることができるようになったためだ。
どうしても必要になれば、犯罪者を導入している。
例えば、初めて手をつける場所で、崩落の危険性がある場所だ。もちろん、装備などは着けてからだ。
ちなみに戦争奴隷も昔いたが、各国で協力して戦争を起こさないように取り組んでいるため、その第一段階として、戦争奴隷制度を廃止したのだ。
この日産まれた子供は、ラインと名付けられた。父親と同じ蒼の瞳に母親と同じ漆黒の髪を持っている。
余計なお世話かもしれないが、この世界は美形が多いため、顔のことで悩むことはないだろう、きっと。
10年後、ラインは10歳の誕生日を2日前に迎え、無事に10歳となっていた。
誕生日のために、父がうさぎ型の魔獣を家族の人数分狩ってきてくれたのだ。つまり、1人1匹まるまる食べれた。
誕生日とは言えど、ラインは、その日もいつもと変わらぬ日々を過ごしていた。
朝、日の出とともに目覚め、父が近くの井戸で水を汲み、その後朝ごはんを食べる。朝ごはんを食べたら、12歳までの子供は、昼まで学校に通い、13歳以上からは、家で農作業。
昼ごはんを食べ、すべての農民が農作業をする。が、子供は農繁期などの忙しい時期でない場合は、友達と遊んだりすることもある。
その後、日の暮れとともに夕食を食べ、衣服を縫ったりし、就寝となる。
朝ごはんは、パンにスープ。
昼ごはんは蒸かした芋やいろいろな野菜。
夕食は、米とスープ、野菜、たまに肉がつく。肉は、たいてい、鹿型の魔獣か、うさぎ型の魔獣、たまに熊型の魔獣。大体3日に1回の頻度で食卓にならぶ。農繁期は一週間に1回ほどになる。
今日もまた、いつもと変わらぬ日々を過ごすはずだった。だが今日は、村に珍客が現れた。
みんなで農作業をしているとき、村の門に複数の人がいた。
「なるほど。確かにここは少し危ないな」
そう言って村に入ってきた。
すると先頭の男が声を張り上げた。
「私たちは白金Ⅲの冒険者だ。村長はいないか? 話さねばならん事がある。」
「──私が村長ですが」
すぐ隣にいた初老の男が答えた。
「あ……あなたでしたか。すみませんが、村の人を一か所に集めてもらえませんか。大事な話がありますので」
「わかりました。お~い、金を鳴らせ。では、村の広場へ」
それを聞いた若者が広場の中心にある物見やぐらの鐘を鳴らした。
──カンカンカンと、鐘の音が3回響いた。
集合の合図だ。
農作業をしていたラインとその家族は一度農作業を中断して、村の広場へ向かった。
そこには、先ほど村の門にいた人たちがいた。
「父さん、あの人たちは?」
「あの装備は、多分、冒険者じゃないか?」
「静かに!」
村長の声でみんな黙った。
「これから冒険者の方々から重要な話があるそうだ。では、よろしくお願いします」
「ありがとうございます、村長。え~、私たちは白金Ⅲの冒険者です。この村の隣の森で、凶悪な魔物が発見されました。討伐のため、複数の冒険者パーティーが向かっています。私たち『岩壁の盾』が万が一のためこの村に滞在します。討伐は4日後に行われる予定です。なので、何人か、村の周囲の柵の強化を手伝っていただきたい。以上です」
「では、10歳以上で手伝ってくれる者はここに残り、残りは農作業に戻ってくれ」
行ってみたいなぁ…………。でも家のことが……。
「ライン、行ってこい」
「いいの?」
「残りはお前がいなくてもできるさ」
「わかった、じゃあ、残るよ」
ラインは冒険者という単語にワクワクしていた。
「13…14…15……18人か。これだけいればなんとかなるかな」
赤い髪を肩まで伸ばした男がリーダーに尋ねる。
「いつまでに完成させる予定だ?」
「3日後だ。だが、なるべく早いほうがいい。あぁ、村長も仕事があるのでしたら、戻っていただいて結構ですよ。あとは、こちらで指示しますので」
「では、お言葉に甘えて。何かあったら来てください。家はあれですので」
そう言うと村長は、駆け足で家に帰っていった。
「わかりました。さて、集まってくれてありがとう。早速だが、3チームに分けようと思う。成人してない、16歳未満はそこのピンクの髪をしたお姉さんのところへ集まってくれ。女性は全員あの赤髪の長い髪の男のところに。男は、私のところへ。移動開始!」
オレはあのお姉さんのところか。
「私の名前はアミリス。僧侶よ。私たちは村の門周辺の柵の強化をしましょう。とはいっても、柵を強化する木がありません」
僧侶のお姉さんは、見た目通りよく通る声をしていた。
「そろそろ物資が届くはずです。あ、言っているそばから来ましたね」
そう言うと、門から大きめの馬車が3台入ってきた。
「これでとりあえず作れるだけの柵を作りましょう。今ある柵はバラバラにして、また材料として再利用します。では、取り掛かりましょう」
そうしてオレ達は柵を壊し始めた。破壊のための再生って学校で習ったな。こういうのを言うのかな。
男衆が木を切ってきて、女衆と子供衆で柵を強化という流れで、順調に柵はできていった。
そして、3日後の昼前、村の周囲の柵は前とは比べ物にならないほど強化されたのだった。
今のところ、魔物に関する連絡は何もない。
暇になったので、僧侶のお姉さんに冒険者の話でもしてもらおう。ちょうど一人でいるし。
お姉さんから、冒険者についていろいろ教えてもらった。
冒険者のランクは、下から、鉄、銅、銀、金、白金、ミスリル、オリハルコンだそうだ。
また、各ランク内でも、下からⅢ、Ⅱ、Ⅰとなっている。
計21段階ある。銅~金にかけて人数が多いそうだ。
また、冒険者になるには、筆記試験と実技試験があり、それをクリアせねば冒険者になることはできないそうだ。
筆記試験は、魔物や薬草についての簡単な知識。実技試験は、練度を測るためのもの。あまりにも点数が低すぎると冒険者にはなれない。
冒険者学校での卒業テストに当たり、基礎に当たるから、落ちることはまずない、とのこと。
「もしかして、冒険者になりたいの?」
「どうだろう。でも、少し興味があるかな。オレ、次男だし、冒険者になることはできるんだ」
「確かに、冒険者は他の職業と比べて多く稼ぐことができるわ。でも、それは銅級から。銅級になるのは才能がなくても努力すればなれる。でも、冒険者はいつ死んでもおかしくないのよ。才能がないと正直、厳しいわ」
……絶対なるとは言ってないんだが。
「でも、もし冒険者になろうと思ったら、私を訪ねて。領都にいるはずだから」
「わかった、もし、なるならね」
もし、の部分を強調しておいた。
「一応、名前を聞いておこうかしら」
「ライン」
「そう、覚えておく」
ラインは、礼を行って家に帰った。
だが、その日の夜、ラインに災いが降りかかる。
またこの日、森の外で待機していた冒険者パーティー5つが、跡形もなく消え去ったことは、まだ誰も知らない。
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