戦闘狂の水晶使い、最強の更に先へ

真輪月

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第二章 〜水晶使いの成長〜

第8話  初級を超えし者

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「スタート!」

 その掛け声と同時に、魔法の撃ち合いが始まった。

 ただの村人、オレ。
 対するは、銀級レベルの魔法使い、フォーレン。

 互いに50メートル離れた位置から魔法を撃ち合う。

 とはいえ、オレの使う魔法は、水晶に限られている。
 だが、オレには型がない。自由に扱える。そこが強み。

 初手に選ぶのは……うん。これだな。

「──『晶弾しょうだん』」

 オレの持つ技の中で、段違いに速い。

「は! ──『我が魔力に応えし水よ、我が盾となれ』」

 そう唱えると、水でできた円盾──サークルシールド──が現れた。
 だが、それすら無視して晶弾は突き進むだろう。だって所詮水出し。
 ……そう思っていた。

 ──ガキン!

 水との衝突とは思えないような音がした。
 だが、水の盾も無事では済まず、晶弾もろとも消え去った。

 なるほど。魔力によって作られたものは、一定のダメージを受けると消える、と。

「魔法対決は初めてのようだな。魔物の中には魔法を使うのもいるんだが、出会わなかったのか」
「そうだ。魔物は食料となるものしか相手にしてないからな」
「フンッ! 次はちゃんとこれだ! ──『我が魔力に応えし火よ、我が拳となれ』」

 げ! 『火球ファイアーボール』かよ。
 初級攻撃魔法だよな、本で見たわ。
 あ、ちょうどいいわ。さっきのお返しだ。

「──『晶壁しょうへき』」

 地面に手をつき、目の前に高さ約3メートル、幅約2メートルの水晶の壁を作る。

 ──ボン!
 と、何かが破裂する音が壁の向こう側でしたが、なんともない。守り特価なのかな?

 ──ただ、なんか変だ。

 こう……、調子の悪いときに運動してるときみたいな、まだ先があるという……。本来の実力を発揮できてないような……。

 たしか、村長に借りた魔法の教科書には、オレの知識と同じく、イメージが大事って書かれてた。
 オレの魔法のイメージと違うのか? イメージが足りていないのか。
 いや、生活魔術は普通に使える。

 考えるのは後回しにしておこう。

 ……破られる! 

 ──ガシャァァン!!
 
 水晶の壁が破られた。

「なかなか硬かったぞ。4発攻撃魔法を放ってやっとだ」
「ふん、たったの・・・・4発だろ?」

 呟きで返事をする。そこからも撃ち合いは続いたが、少々押され気味だな。
 基本、詠唱しなくても水晶は作り出せるが、詠唱したときよりも若干脆い。

 とはいえ、名前を考えようにもすぐに浮かば…な……い……。

 名前?
 そうだ……。
 前世で読んだ小説とか漫画も……生活魔術も英語だ!
 オレの詠唱は……標準語!

 試してみるか。

「もう、決めるぞ? すでに3分経ってるんだ。現役の冒険者相手によくここまで戦ったよ。1分経たずに終わると思ったんだがな。これが私の本気だ! ──『火球ファイアーボール』四連!!」
「なるほど。いいだろう、オレも本気で相手をする! ──『水晶拳クリスタルフィスト』四連!!」

 な!?
 でかいぞ…………どっちも。

 ってか、詠唱を英語にするだけでこんなに変わんの?
 「英語」だから変わったのか、無意識からくる「イメージ」によって変わったのか。

 そこはまだわからない。
 ただ、この世界の歴史に転生者が関わっているのは間違いない。
 クラスで転生させられたんだからな。



 お、魔法がぶつかった。どっちが勝つかな。

 と、のんびり見るつもりでいたんだが、まぁ……オレが勝った。
 こう……バチバチッていうのを期待してたんだが、あっさり押し勝っちゃった。

 水晶は大きなダメージは受けず、そのままフォーレンさん向けて飛んでいった。
 本当にほとんどダメージは受けていないな。

 フォーレンさんは迎え撃つつもりでいたが──四つとも、プログラミング済み・・・・・・・・・だ。

 『水晶拳クリスタルフィスト』は、フォーレンさんの迎撃が当たる寸前で粉々になった。
 あとは、水晶の破片が大量に降り注ぎ、勝負はオレの勝ちに終わった。

 ちなみにプログラミングとは、少し余分に魔力を込め、どのように、何秒後にいつ動くのかわイメージすることで、魔法に単純な動きを付けることだ。
 単純な動きというのは、体積が変化しなければ基本セーフだ。

「あ~、痛てぇ」
「はいはい、──『回復ヒール』」

 ふむ、やはり英語か。
 あれ? オレを診てくれた時は英語じゃなかったよな?

「前にオレを診てくれた魔法と今使った回復魔法、呼び方がなんで違う?」
「呼び方?」
「え~と、その文字のまま読むか、わけのわからない組み合わせで読むのか」
「『状態異常看破』は、最近開発された魔法で、しかも使える人が限られているの。『回復ヒール』は、三賢者の時代に開発された、かなり古い魔法なの」
「へぇ~。そうなんだ」
「そういうこと。世の中の半分の魔法は、三賢者の時代に開発されたと言われているんだ。その時代に開発された魔法は読みがおかしいんだがな。読み通り唱えたら、発動しなかったり効果が弱まったりするって聞いたぞ」

 ……三賢者。

 また三賢者か。
 歴史に深く根付いているようだな。生活魔術を開発したのも三賢者、ほとんどの魔法を開発したのも三賢者。
 調べてみるしかないが、その前に……。

「……勝った」
「あっはっは。そうだな、私は負けてしまったな」
「何言ってんの? 『火球ファイアーボール』しか使っていなかった。手を抜いていたんじゃないの? おまけに『火球ファイアーボール』は初級攻撃魔法。手を抜いていたとしか思えないんだけど」
「……普通そこは喜んでいいところだと思うんだが。確かに『火球ファイアーボール』は初級攻撃魔法だ」
「──でもフォーレンは、それを好んで長年使ってきたの。威力、精度……その全てが中級レベルよ。ま、手を抜いていたのは事実だけどね」

 ラミリスさんが補足を加えた。やっぱり手を抜いていたのか。

「中級って……。いや、初級が存在するなら中級も存在するんだろうとは思ったさ。でも、聞いたことはないよ」
「あまり公にはされていないがな。存在する。とは言っても、使える人は魔鉱レベルだな。そもそも、魔法は生活魔術、初級、中級とレベルが上がっていくにつれ、詠唱に時間がかかる。英雄と言われるぐらいになれば、上級魔法が使えるって噂だ。そんな人は数えるほどしかいないけどな」

 レベル……か。そんなものまで伝わってんのか。
 転生者の存在は確定だな。米とかパンとか。
 作物は三賢者の一人が伝えたものがほとんどらしいな。

 ──いや、まて。

 そいつが同じクラスのやつだったら、時代が開きすぎだ。
 あいつは、魔王を倒せって言ってクラスごと転生させたんだったよな? 
 魔王を倒す際、少しでも数が多いにこしたことはないはずだ。

 仮に三賢者がクラスメイトじゃなくても、なんのために?

 ──前の世界は、入りにくく出にくい。

 そう言っていた。
 それが真実だとしたら、三賢者は転生させられた人たちだ。

 あの言葉が嘘だったのか? だが実際事実として、オレは転生している。
 嘘とは思えないし、嘘をつく理由もわからない。
 強大な敵を倒すのに、なんでバラバラにする必要がある?
 わからないことだらけだな。必ず問い詰めてやる、オレたちを転生させた、神とやらを……っ。



「──でもフォーレンさんの『火球ファイアーボール』は中級レベルって言ってるってことは中級魔法を、見たことがある、もしくは勝負したことがあるってことだよね?」
「そうだ。ミスリル級の人が偶然王都から来てたからな、その場で勝負を頼み込んださ」
「ほんと、あのときは大勢の人が見ている前で、土下座するんだもの。こっちが恥ずかしかったわ」
「しょうがないだろ。あんなチャンス、滅多とないぞ。私の名は少し有名になったし。初級の壁を越えしものってな」
「それは魔鉱レベルになればいるわよ」
「あそこまでの才能がないのに壁を越えたんだ。もっと褒めてくれてもいいだろ? なぁ、ライン」
「それを真正面から打ち破ったオレを褒めてくれてもいいんじゃない?」

 その日は、三人でいろいろ話した。
 他愛もない雑談だらけだったが、いくつか有益な情報を手に入れることができた。

 冒険者になるには、冒険者学校を卒業しないといけない。
 その冒険者学校は毎年春に、15歳の子が受験する。
 冒険者は危険な職業ではあるが、毎年多くの人が受験し、倍率は2倍~3倍らしい。
 定員は60人、全寮制。
 合格しても、途中で何人かやめていくらしい。

 成績優秀な上位10人は、近衛騎士団に入隊できる。
 こちらも、給料制だが、冒険者よりも高給。
 大半の受験者は、こちらを狙っていると言っても過言ではない。
 もちろん、入らなくてもいい。魔鉱クラスの人たちはこの、入らない選択をした人がほとんどだそう。

「ラインは、冒険者学校を受験するのか?」
「その予定だね。前の事件の後、冒険者になりたいって親に言ったら、頑張れってさ」
「まぁ、最近は魔物による被害も減ってきているわ。ここ数年の話だけどね」
「その話は、半分本当で、半分は嘘だ」
「? どういうこと?」

 半分嘘……?
 どこが嘘なんだよ。

「魔物による被害が減っているのはこの領だけだ」
「まさか、この領の魔物が減っているって?」
「そうだ。魔物とはいっても、人に害となる魔物だな。特に、ゴブリンとの遭遇率がめっきり減ったな」
「人にとって益となる魔物は、増えても構わないのよ。ただ、害となる魔物が増えると、少々厄介なのよ。無駄に知恵があるから」

 無駄にって……。

「魔物が隠れているか、遭遇率が低くなっているだけか……。考えられるのは特殊ユニークの存在か」
「フォーレン、どういうこと?」
「魔物の数は減ったが、大食いの特殊ユニークが産まれたか、ということ」
「ありえない話じゃなさそうね。一応、組合に話しておきましょうか」
「いや、もう話したさ。それで、今日だ。」
「そういうことだったのね」

 全然話の流れがつかめない。
 内容は理解できるんだけど……。

「? どういうこと?」
「オレたち、この村に家を建てて、週に2日来るようにしようと思ってな。前の事件が事件だ。この村は交易も盛んだし、領都とも近い。領都には、まだ2つの白金グループがあるし、大丈夫だろうってことでな」

 ……マジか、ラッキー! 
 いろいろ修行できそうだ!


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