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第二章 〜水晶使いの成長〜
第9話 準備
しおりを挟む冒険者たちが村に家を建ててから1ヶ月が経った。毎週末に来る。
月火水木金土日まで伝わってんだよな。
家を建てるのは意外と大変だと聞いていたが、冒険者が建てるんだ。
村人の家を見て、仕組みを理解すればさっさと森へ木を採りに行き、1日半で建ててしまった。
特に、フォーレンさんは大工の家の次男坊だったそうで、家の仕事をいろいろ手伝っていたため、簡単な家を建てる程度は朝飯前だった。
オレ?
オレも手伝ったぞ。森に同行して、見張り兼狩猟係として。
……血抜きを待っている間に木を村に運んだり。
冒険者たちは週末を村で過ごすためにやって来たのであるから、もちろんのこと、畑はない。
つまり、オレたちにいろいろと戦いのノウハウを懇切丁寧に教えてくれるのだ。
あの人型スライムが所持していた武器を借り、どれが一番適しているのかを見定めてくれた。
オレは、素手、棍、ナイフがいいらしい。確かに動かしやすい感じがした。
近距離武器2つ、中距離武器1つ……素手はどうなんだろ? 近距離に含まれるのか、微妙だな。
中でも、棍を使う時の動きが格段にいいらしい。適正武器は棍だな。
このままこの武器を貰いたいところではあるんだけど、一応遺品だからな。やめておこう。
──カーンカーンカーン
集合の合図だ。
「皆さん、話があります。村長に話は通してあります。この前村を襲撃した人型スライム。その話が、国王陛下の耳に入りました。そこで陛下は、ある王命を公布しました。その内容とは──」
その内容とは、大きく3つに分けられた。
・各村に金級、もしくは白金級パーティーを村に派遣する。
・各村に近衛騎士一名を村人の一員として派遣する。
・村人は、近衛騎士や冒険者からの指南を受ける。
オレたちに関係あるのは三つ目だけだ。
一つ目と二つ目は、冒険者と近衛騎士に関係があるだけだ。
ちなみに、近衛騎士は最低でも、冒険者ランクでの魔鉱クラスにあたるらしい。
国王陛下とやらは、良さそうな人だな。
漫画や小説なんかじゃ、悪逆非道とか無能が多いけど、そんなことは現実にはあまりないのかもな。
指南してくれるのは、正直ありがたい。修行により一層身が入るというものだ。
「指南を受けられるのは、15歳以上のみだ。と言うより、15歳以上の人は強制だ。ただ、50歳以上の人は強制ではないので、安心してくれ。受けてもいいし、受けなくてもいい」
──絶望。
まぁいい。
独学で強くなってやるさ!
村長と薬師は多分、受けないだろう。
生活魔術を教える立場にあるし、村長だし。二人とも、50手前だが大丈夫だろう。
生活魔術は、もう短い詠唱で発動できる。
それで終わりかと思ったら、生活魔術Ⅱの本を出してきた。Ⅰと何が違うのかというと、燃費の違いだそう。
Ⅰは、働きに見合う消費魔力が少ないが、ⅡはⅠより多めだそう。
冒険者レベルの魔力量にでもなれば、ⅠもⅡもあまり変わらない。オレにとってもあまり変わらない。
ただ、魔力は体力と同じように、使い続ければ増えるし、使わなければ減る。
村人は魔力をあまり使わないため、Ⅱを覚える人は少ない。
まあ、維持魔力があるからな。
魔力を使わない、手でできることは手でやるのがいいんだろう。
それにⅡは、魔法具でできるからな。わざわざ覚える必要がない。
さてさて、Ⅱの方もさっさと覚えてしまおうか。
え~と、なになに?
暖房魔法
『魔力よ、我が身の冷気を消せ』
『温暖』
寒冷魔法
『魔力よ、我が身の熱を消せ』
『寒冷』
洗浄魔法
『魔力よ、汚れを取り除け』
『清潔』
なるほど。清潔は、そのままだな。
確かに、こんな魔法具は一家に1つあるな。オレん家にもある。
「村長、これ、わざわざ読まなくてもできるんじゃない?」
「まぁ、できるやつもたまにいるが……。魔法具を見ても、理解しにくいと思うんだが……」
別として教えられて育ってきたからこれがいるのね。
オレみたいな元異世界人とは考え方が違うのか。
あ、もう1つあった。
通話魔法
『我と彼を繋げ』
『通話』
他の4つと違って短い。
村長に手伝ってもらってやってみたが。
念話ができた。もちろん、声に出しても話せた。
魔力消費が極端に少ないうえに、消費は使用者のみ。消費魔力が回復量よりも少ない。
5分で全体の一割ほど回復すると思っていた魔力だが、体力と同じように、回復スピードは使用魔力に反比例する。
魔力と体力は若干リンクしている。
使い過ぎると体力が減る。というか、疲れる。
魔力がすっからかんになるまで使ってみたが、1500メートル走った時よりも疲れた。
ただ、体力があれば魔力を使い切っても動けそうだし、そもそも魔力も体力と同じように増えていく。
って、書いてあった。
うん、全部Ⅱに書いてあったこと……Ⅰとの差がえげつないな。
本格的に魔法を使う人が見るものらしいからな。冒険者学校の教科書はこれより進歩したやつらしい。
倍率が高いっていっても、受かるだろ。ってか、受からないイメージがない。
ただ、フォーレンさんが言うには、
〈ラインは強すぎるから目立つなよ。冒険者になりたいのであれば、加減が大事だ。成績が良すぎると、近衛騎士団に飛ばされるぞ。半強制的にな〉
だそうだ。他にも、妬みとかいろいろあるんだそう。
冒険者と近衛騎士団って、少し違うようでかなり違うらしい。冒険者学校卒業後、近衛騎士団に飛ばされると三年ほど訓練がある。
給料制で、完全週休二日だったかな。
シンプルにまとめると、ホワイトな自衛隊だ。自衛隊がブラックとは言っていない。あくまで例えだ。
冒険者は警察の他に、探偵、ハンター、猟師とか……いろいろ雑多にある。
冒険者は基本依頼を受けてから動くらしいからな。前世で読んだ本とほとんど同じ仕組みだ。
この仕組みを作ったやつ、転生者だろ。
兎にも角にも、あまり目立たないようにしないとな。
返り討ちにしてやってもいいけど、キリがないだろうな。大人しくしておこう。
近衛騎士団はエリート集団ではあるそうだけど、お堅そうだからな、冒険者のがいいや。
あと5年もないんだから、修行しとかないとな。
時間は有限、時は金なりっていうからな。
冒険者の遺品をいくつか譲ってもらった。
低級品ばかりで余った物だったが、それでも、動きは練習できる。
根、ナイフの2つだけだが、充分だ。ナイフは2本もらった。二刀流!
これらは訓練のためのものであって、冒険者になったら自分で買うさ。その時には売って足しにしよう。いや、村に返すべきだな。
いろいろと確かめていた。
まず、『不可知の書』。
これに書いてあったことは、俺が無意識のうちに書いていたことだった。
だって……消せたからなぁ。これが仮にステータスだったとしたら消えなかっただろう。
まあ結局元通りにしたけど。
ステータスないのか……。
あったところで、HPとかがないんだったら意味ないけどさあ。なんかショック。
やっぱりゲームの世界でないと、ステータスはないのか。それが普通なんだろうな。
それに、この世界に生まれたときからある職業なんてものはないらしいからな。
「──おっと、君を忘れていたよ。もう出尽くしたようだな」
カクトツの血抜きの最中であることを忘れ、物思いにふけっていたようだ。
オレはこの時間が好きだ。
一人でじっくり考えることができる。
魔力を少し放出しているため、魔物もあまり寄ってこない。
1年後。
棍、ナイフは独学で練習している。
素手での戦い方は冒険者の誰かに教えてもらっている。
オレの担当がいるわけではないから、しょうがない。しかし、全員多少の心得はあった。
フォーレンさんとラミリスさんは後衛型だから見てもらうだけ。
村の人は剣を使えるように練習しているから、たまにそこに混じって剣も少しは使えるようになっている。
弓は元々村人たちが得意だったから、村の暇人に頼んで教えてもらってる。
近距離、中距離、長距離、魔法。オレすげぇ。
毎日山に通っているからか、身体能力もだいぶよくなっていると思う。
棍を使ってポールダンスみたいなのもできた。水晶を足場にして自由に動けるようにもなった。
役には立っていない。
強くなったのはオレだけじゃない。村の人たちもだ。
おかげで、狩りの成功率が格段によくなった。肉を食べれる頻度と量が増えた。
ま、半分はオレのおかげだとおもうけどね。
オレは晶弾を少し狩り用に改良して、小さな傷一つで殺せるようにした。
まるであれだな。サイレンサー付きの銃。いや、弾が比べ物にならないくらい小さいから性能はそれ以上か?
1ヶ月後。
水晶の扱いにだいぶ慣れてきた。魔力には変換効率があったらしい。
慣れてくるにつれ、同じ物でも消費魔力が少し減っていた。
3ヶ月後。
棍と水晶のコンボ技が編み出せた。
突きと同時に、棍の先に当たるように薄い水晶を作り出し、衝撃波を飛ばす。
防御無視攻撃の下位互換とでもいうものか。内部が硬ければこの攻撃はあまり効果が出ない。
半年後。
素手とナイフの練習に入ってから、既に2ヶ月。
だいぶ様になってきた、とリーダーさんに言われた。リーダーさんが名前を隠している本当の理由は、昔、巷で少し有名になったためらしい。
厄介事があるんだろうな。
村長には適当な名前を名乗って、真相を知っているのはチームのメンバーと村の近衛騎士、そしてオレだけだそう。
厄介事については、メンバーしか知らない。
村長……どんだけしつこく聞いたんだよ。
1年と1ヶ月後。
素手とナイフ……両方とも慣れてきた。簡易的なガントレットを作ることで、素手での破壊力が増した。防具にもなる。
空中に水晶のナイフを複数作り、手数で圧倒することもできるようになった。
ナイフを水晶で覆い、簡易的な剣も作れた。
山に入って走ったり魔物と戦ったり、近衛騎士の人や冒険者と組手をしたりしたことでかなり筋肉が付いた。
で、さらに続けると絞れた。細マッチョの爆誕だ。
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