30 / 168
第二章 〜水晶使いの成長〜
第29話 クラス内戦闘③
しおりを挟むやれやれ、少し手の内を見せてしまったな。
魔法発動可能範囲が現時点では、およそ30メートルであること。
『晶壁』の存在と、ある程度の硬さ。
……まあ、どうせいつか見せるんだし……いいか。
「はい、次に行きますよ!」
こうして──オレの出番が来ないまま──昼飯の時間となった。
3戦プラス……12戦だから……残り5戦か。
「昼ごはんを取りに行きますので、何人か来てください!」
クラスの中心になりそうな男子グループが行った。
さてさて、手を洗いに行こうかな。
「ターバ~、手洗いに行こ~」
「おお、りょーかい」
オレたちが手を洗って戻ってくると同時に、先生たちが弁当を持ってやってきた。
「一番の人から取りに来てください」
弁当箱は、木製だ。一つ一つに、名前が刻まれている。
そして中身は……
「おお、肉弁当!」
「これは……なんの肉だ?」
「ブタじゃね?」
「ぶたって何?」
ヤマルが会話に入ってきた。
「……家畜化されたギープだ」
「ああ!」
オレからしたら、ブタってのが慣れてるからな。ギープなんて単語、そうそう出てこねぇよ!
「昼休憩は1時間ですので、1時になったらまた始めます! 戦う2人は……39番、ライン・ルルクス対40番、サヤ・ワーグ!」
うぉい! 昼飯直後かよ!
「まあいいわ、さっさとご飯食べよ! せっかく温かいのに、冷めちまう」
「どこで食べるよ?」
「ん? 観戦してた階段のところでいいんじゃないか?」
「わかった」
やはりみんな、思い思いの場所で食べるようだ。
ヌー、ヤマル、クォーサの3人は木陰で。
中心になりそうなグループは、グラウンドを囲んでいる、石畳の上で。
まあ、バラバラだ。
で、先生はと言うと……
「すみません、お邪魔しちゃって」
「いえ、お気になさらず……」
オレとターバのところにいる。なんでも、生徒と親交を深めるため、だそうだ。
「ところで、入学試験の結果で、このクラスが決まったんですよね? 俺は何位ですか?」
「2位か3位のどちらかですけど、確か2位……」
「おお!」
へーー。
「なんだよ、ライン、そのどうでもいいと言いたそうな顔は」
「よくわかったな、その通りだ。そんなことより、食べようぜ」
「「いただきま~す!」」
ターバとはこんなやり取りをやってるけど、仲がわるいわけではない。
不思議と、こんなこともできる。……前世にもいたけどな。
あいつは、今、どこにいるんだろうな。
既に死んでいるか、どこかにいるか、まだ産まれていないか……。
神(仮)の発言、あの時に決めた設定から、転生者は属性特化型だ。
スゥが転生者である可能性……?
──ない。
攻撃に意外性がなかった。まあ、ほぼほぼ勘だけどな。
「ラインくん、どうかしたんですか?」
「ん……いや、何も。ただ、どうやって倒そうかな、と」
「今思いついているのは?」
「まず、水晶は使わない」
「自信満々ですねぇ!」
「で、刀を使うかどうか、どちらを選んだとして、どう戦うか、何秒かけるか」
まあ、実は自分の中で答えは出てるんだけどな。刀は使わず、時間はかけない。
戦法は受け……カウンター。
「美味しいですね、これ」
「そうっスね」
ホカホカのご飯、その上に敷き詰められたブタ肉、そこにタレをかけられていた。時間が経っていたせいか、タレがご飯に染み込み、より一層旨味が引き立っている。
そして、ご飯とブタ肉の間には、千切り野菜。
早い話、豚丼だ。千切り野菜はキャベツ、人参など。
結論。とても美味しい。
「今日中に終わりますかね?」
「あ、やっぱり今日中に終わらすつもりだったんですか」
「なら、時間をかけずに終わらそうかな」
「いや、でもそれは……自尊心に傷がつきそうな……」
「そんなんで傷つく方が悪いんですよ!」
……誰かごめんなさい。
傷つく方が悪いのは、まあ、事実そう思ってる。結局は、個人の心の問題だ。
ってことで、オレは知~らね! 自分で解決してくだせぇ。
「やはり、この方法でいくか!」
「どんな方法?」
「……見たらわかるよ」
「楽しみにしてますからね、ラインくん」
ハードル上がった? 1ミリぐらい。
対して変わらない。まあ、クラス一番になれたら、いいかな。なれそうだけど。
「「ごちそうさまでした!」」
「先生、持っていきますよ」
「ありがとうございます、ターバくん!」
「ほれ、ラインのも持ってくから」
「お、ありがとな」
ターバきゅん優しい~~。
「さて、少し体を動かして……」
「──ラインくん、少しいいですか?」
「……? なんですか?」
いつになく真面目な顔だ。オレは何もやっていないから、何か、あったんだろう。
「ラインくん、君の強さは、はっきり言って異常です」
「つまり?」
「覚醒……してませんか?」
ああ、なるほど。オレだけ覚醒してるんじゃないかって疑ってるってことか。
「残念ながら、してませんよ。脳内でいろんな動きをシミュレーションしてるんで、それが原因じゃないですか?」
「しみゅれ……?」
「妄想してるんですよ。いくつか型を決めておけば、実際にその状況になったとき、楽になりますからね」
シミュレーションぐらい伝えとけよ、誰かよ!
いきなり謎の単語を、当たり前のように使うオレ。どんな目で見られるかわかったもんじゃない。
これからは考えて喋らないとなぁ。
「なるほど、既に我流を身に着けているんですか」
「──いや、違います」
我流ではない、断じて。
その域まで達してないし、妄想だし……。異常な強さって言われてもな……。
理論より感覚派だから、わかんないなぁ。
「……なんとなく理解できました」
お、これで理解できちゃうの? さっすが~~!
「ただいま」
「おかえり、ターバ」
「ライン、食後の運動しよ~」
「腹いっぱいだから、もう少し後でな」
「まだ20分しか経ってないんですから焦らなくても大丈夫ですよ」
そうそう。食後すぐの運動なんか、不健康だ。リバースしちまうぜ?
「10分ぐらいでいいだろ?」
「ああ、いいよ」
こうやってな。ボーッと、してるのも、悪くない……。
この、硬い、石でできた階段に背中を押し付ける。背骨があたるが特に痛くはない。
そして、青く輝く空を見上げ、太陽を見て眩しさのあまり、目を瞑る。
右手には刀。転んでいる場所が悪いおかげで、眠くはならない。
そして──
「ライン、10分経ったぞ」
──静寂が音を立てて崩れ落ちた。
「はいよ」
聴覚強化を発動させずとも、話し声が聞こえてくる。
最初から静寂ではなかったのか。オレが、音として認識していなかったのか。
まあ、なんでもいい。自分の世界に入ってたんだろう。
体を動かすと言っても、軽く組手をするだけ。
もちろん、武器は使わない。
だって、次、オレの番だし。武器なんか使ってみろ。
本気になるぞ。
ヘトヘトになるまで戦って、それで負けましたでは話にならん。
そして、時間になった。
「39番、ライン・ルルクス対40番、サヤ・ワーグ!」
対戦前の握手をして、離れる。
「お手柔らかにね、ライン?」
「痛い思いはさせない。安心してくれ」
精神的には痛いかもしれんがな。
瞬殺ではなく、一撃で終わらす。受けの姿勢で行く。
「開始!」
サヤ・ワーグが、短剣を抜き、構える。
短剣とナイフの違いはわかりにくい。大きさはほとんど同じである。
だが、ナイフは切ることしかできない。本来、生活用品として生み出された代物だからだ。
短剣は、言わば、短い片手剣だ。それを知ったオレは、ナイフではなく、短剣を使おうと決意した。
サヤ・ワーグの構えは、上半身を前のめりにし、膝を曲げている。攻めの型だ。オレは納刀したままの姿勢。構えていないわけではなく、居合斬りの構えだ。
間合いに入ってくれば……一撃だ。
勢いよく駆けて来る。
短剣は右手に持っている。順手だ。
そして引き絞っている。突きだろう。
いや……居合斬りを受け止めるつもりか? 無理だろうけど。
そろそろ間合いに入って来る。短剣を更に強く引き絞り、突き出そうとしている。
引き絞り過ぎだな。
オレが居合斬りの構えをしているため、その間合いに入っていないことが、安全だと思っているようだ。残念。
オレは前へ、僅かに体を移動させ、抜刀した。
もちろん刀の先端は、首に当たるかどうかの位置で止めてある。
もちろん、短剣はオレには当たらない。
腕を精一杯伸ばしても届かないだろう。
投げたら当たるかもしれないが、サヤの右手から目は逸らさない。
「終わり、だな」
「そうね、降参……」
「勝者、ライン・ルルクス!」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる
仙道
ファンタジー
気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。 この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。 俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。 オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。 腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。 俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。 こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。
12/23 HOT男性向け1位
ダンジョンに行くことができるようになったが、職業が強すぎた
ひまなひと
ファンタジー
主人公がダンジョンに潜り、ステータスを強化し、強くなることを目指す物語である。
今の所、170話近くあります。
(修正していないものは1600です)
男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)
大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。
この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人)
そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ!
この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。
前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。
顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。
どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね!
そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる!
主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。
外はその限りではありません。
カクヨムでも投稿しております。
異世界帰りの少年は現実世界で冒険者になる
家高菜
ファンタジー
ある日突然、異世界に勇者として召喚された平凡な中学生の小鳥遊優人。
召喚者は優人を含めた5人の勇者に魔王討伐を依頼してきて、優人たちは魔王討伐を引き受ける。
多くの人々の助けを借り4年の月日を経て魔王討伐を成し遂げた優人たちは、なんとか元の世界に帰還を果たした。
しかし優人が帰還した世界には元々は無かったはずのダンジョンと、ダンジョンを探索するのを生業とする冒険者という職業が存在していた。
何故かダンジョンを探索する冒険者を育成する『冒険者育成学園』に入学することになった優人は、新たな仲間と共に冒険に身を投じるのであった。
【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。
木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。
しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。
そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。
【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる