39 / 168
第二章 〜水晶使いの成長〜
第38話 土曜日
しおりを挟むそれは、木曜日の暮会でのこと……。
「みなさん、何人かバイトを希望していたと思いますが、全員、バイト先が決定しました。前に紙を貼っておくので、各自見ておいてください。それでは、お疲れ様でした!」
オレは後ろの方の席に座っているため、前に貼られている紙をすぐに見ることはできない。
他の奴らが既に見ているからな。
少し時間をずらして見るとしよう。
「ライン、俺らの配布先同じだった!」
「配布先言うな! ……んで、バイト先はどこよ?」
できれば自分の目で……なんて、合格発表のような信念は抱いたりしない。
「荷馬車の警護だと。スゥも一緒だ」
「ほ~ん……警護ねぇ。何から守るんだ? 盗賊か? モンス……魔物か?」
「さあ? でも、俺らは一まとまりとして動かされるんじゃね?」
「それもそうかもな。バランス良さそうだし」
ターバが前衛、スゥが後衛、オレが場合に応じて前衛や後衛。
できれば、あと一人、近距離でも遠距離でもいいから欲しいところだが、しょうがないか。
1つの馬車に護衛は何人もいらない。
「……あれ、でも、オレらが荷馬車の警護? 結構大任じゃね?」
「だよな。でも、契約期間は1年らしいぞ? 他は3年契約がほとんどなのに」
「……1組のバイト希望者の上位3人がやらされるのかもな。で、何曜日? 土曜か日曜かのどっちかだろ?」
「それが、書かれてないんだ。とりあえず、今週は土曜に行けばいいらしい。だから、そこで指示があるはずだ」
「なるほど。で、時間は?」
「朝の9時に領都東門前だ。揃って来るように言われている」
「わかった」
でも、荷馬車の警護か。定期便なのか?
「なぁ、みんなはバイトどこに配属されたよ?」
午後6時。
いつもの4人と晩ごはんを食べているとき、みんなに質問してみた。
「私たちは揃ってあの服屋です」
「ああ、あれね」
「と言うより、クラスのバイト希望者の2人に1人がそこだね。クラスの2/3は希望してたから、16人ぐらいかな? もちろん、曜日は別れてるけどね」
「で、みんなは?」
「日曜日」
「ラインは何曜日だ?」
「オレは……決まってないな。わかってるのは、荷馬車の警護であること、明後日にとりあえず行くこと。それだけ」
「そうか。頑張ってな」
「戦うこともあると思うけど、頑張って」
ありがたいねぇ。情けが心に染みるねぇ。使い方合ってるのから知らないけど。
「ああ、ありがとな」
そして、土曜日。
朝ごはんを食べ、少し部屋で休憩し、ターバたちと寮の玄関の外で待ち合わせる。
オレたちは8時半の便に乗る予定だ。
「よ! そろそろ行くか?」
「そうだな」
「ねぇ、ライン、ターバ。荷馬車の警護って、アヌースに乗るのかな? それとも、馬車に乗せられるのかな?」
「さあ?」
そこら辺は行けばわかるだろ。
そして、8時50分。東門前に到着。
すると、
「ラインくん、ターバくん、スゥさんですか?」
横手から声をかけられた。気品が漂う女の人だった。
「はい、そうです。貴方は……?」
スゥが上手く答えてくれた。
「今回、貴方たちを雇ったサミス・キーランと申します。私はこの街の物流を担う者の1人です。そして貴方たちには、私の保有する荷馬車の内1つの警護をお任せしたいのです」
物流を担う者……。
社長までは行かないが……重役……部長あたりか? パイプができたと喜ぶべき……か?
いや、この人が馬車に乗るわけではなさそうだし、パイプはできないかな。
……違う。そんな目で見る相手じゃない。
物流を担う者? 一つの街を影で支える一企業の社長相当じゃないか!!
「もちろん、武器は貸し出します。ターバくんとラインくんは、弓を使えると聞いておりますが、スゥさんはどうですか?」
「私は使えません。明後日の方向に飛んでいきます」
「なるほど、わかりました。では2人には弓矢を貸し出しましょう」
「キーランさん、オレは矢は必要ありません。弓だけで大丈夫です」
「? わかりました」
一瞬、コイツは何を言ってるんだ? って顔をしたが、納得してくれたようでなにより。
「さて、皆さんには荷馬車に乗ってもらうことになります。乗り物酔いは大丈夫ですか? 大丈夫だと聞いていますが……」
あ~~、そういや、水曜の自習で学校の周りを走る馬車に乗せられたな。
「えぇ、大丈夫です。試されたので」
「わかりました。では早速、仕事の説明に入るので、ついてきてください」
そう言って案内されたのは、2階建ての一軒家だった。
門の外にあるのはどうかと思うけどな。
と、思ったが、その理由は家に入ったときに明らかになった。
「どうぞお入りください」
「お、お邪魔します」
入って左側には、武器があった。
学校の武器庫の半分にも満たないが、ほとんどの一般的な武器は揃っている。
なるほど。この家が外にあるわけだ。
門を抜ける際、武器は門に預けなければならない。
そんなこと、いちいちやってらない。……と言うわけでここに建てられたのだろう。
「では、この中から好きなものを選んでください。選んだら私のところまで持ってきてくださいね」
「「わかりました!」」
「あ、私は武器は大丈夫です」
スゥはいらないのか。
まあ見た感じ、魔法の込められた短杖は無さそうだったしな。
魔法の込められた短杖は、魔力探知で発見できる。
そして、オレは刀を。ターバは、剣を2本。
棍や槍といった、長い武器はなかった。
「すみません、槍や棍などの長い武器は、いろいろ邪魔になるそうなので……」
「あ……いや、全然……問題ないです。刀でも十分戦えますから」
「そうですか? それにしても、刀を選ぶとは珍しいですね?」
「使いやすいと思いますけどね? 攻撃方法が少々制限されますけど、切れ味は最高ですよ」
そして、レンタルできる武器を登録し、別の箱に入れ、家を出た。
そしてそのまま、隣接する1階建ての一軒家に通された。
「基本は土曜日と、平日の放課後に来てください。放課後は、荷馬車の方から迎えに行きます。そしてバイト代ですが、月に銀貨一枚と半銀貨一枚です。貴方たちが警護する馬車の御者は、あそこにいる、モフール・ユーサーです」
モフール・ユーサー。
年齢は30後半だろうか? 逞しい、引き締まった体をしている。
日焼けで染まった小麦色の肌に、鋭い眼光。
路地裏に入ったら喧嘩を売られてそう……いや、売る側か。
「……どうも。モフール・ユーサーだ。ふ~ん、なるほどなるほど……。こいつらが1年の上位3人、か。確かに強そうだな。頼りにしてるぜ?」
「「ありがとうございます!」」
見た目で損してる人だな。ちょい悪兄貴みたいだ。
「さて、行くかぁ……って、もう行っていいんですよね?」
「ええ、どうぞ。行ってらっしゃい」
「わかりました! よし! んじゃ、3人とも。後ろの荷台に乗りな!」
そう言われ、荷台に乗った。
「よし、それじゃ行くぞ! ……森の方は特に注意しておけよ」
そして走り出した。
アヌースが馬車を引くので、さすがに幌はついている。
なるほど。確かに槍や棍は無理そうだな。
森の方に注意しておけって話だったな。
覗き見るための隙間が作られているから、ここから見ればいいんだろう。
ちょうどいい場所にあって、姿勢が楽だ。
それと、ゴブリンなどの害獣……害魔物? は魔力探知で発見できることがわかった。
つまり、常に魔力探知を発動させておけば問題はない。
ただ、この幌が僅かに魔力を帯びているため、結局隙間から覗かないとならない。
「──着いたぞ」
馬車で3時間。ようやく目的の村に着いたらしい。
「よし、まずは飯にするか。そこに木箱が4つあるだろ? それが支給される弁当だ。1人1個な」
「わかりました。モフールさん、どうぞ」
「おう、ありがとよ!」
「はい、ライン、ターバ」
「ありがと、スゥ」
「ありがと!」
一番近くにいたスゥが配ってくれている。
「食ったら、洗って乾かすからな。その間に荷物を馬車に詰めるぞ」
空になった弁当箱を、『水滴』で井戸水を操って洗い、日当たりのいい場所で乾かす。
土で汚れないように、下には木の板を敷いている。
乾かそうと思えば、『水滴』で弁当箱に付いた水を操り、全く濡れていない状態にすることもできる。
まあ、時間の目安には……ならないか。
村の農産物を積み、あとは領都へ帰るだけとなった。
「よし、これで全部だな!」
「見た感じ……そうですね」
「よし! さて、何か必要なものはありますか?」
と、モフールさんが村人に聞いた。
意外にも丁寧な口調だ。公私混同しないのか。
にしてもこの仕事はてっきり、運送業だと思ってたが……。便利屋か?
「そうですね……」
「魔物による被害とか、必要な物とか。必要な物は、行商担当に伝えて量を増やすこともできますよ? 明日明後日にここに来るはずですが」
「いえ、今のところ大丈夫ですね」
「わかりました。では、また来ます。よし、帰るぞ」
「「はい!」」
こうしてオレたちは、行きより狭くなった馬車に乗り、帰路についた。
時刻は午後4時。
武器をスゥに任せ、領都の中に入ってキーランさんのでっかい倉庫に作物を下ろし、門の外に出た。
「それじゃ、お疲れさん! 今日は魔物が出てくることもなく、盗賊に会うこともなくてよかったな。魔物に関しては、害になる魔物は発見次第……仕留めろよ? それじゃあな。また月曜に」
「「お疲れ様でした!」」
その後スゥと合流し、冒険者学校行きの便が都合よくあったので、それに乗って帰った。
ちなみに、弁当箱は馬車に積んだままだ。
あのままにしておいていいらしい。
0
あなたにおすすめの小説
《カクヨム様で15000PV達成‼️》悪魔とやり直す最弱シーカー。十五歳に戻った俺は悪魔の力で人間の頂点を狙う
なべぞう
ファンタジー
ダンジョンが生まれて百年。
スキルを持つ人々がダンジョンに挑む世界で、
ソラは非戦闘系スキル《アイテムボックス》しか持たない三流シーカーだった。
弱さゆえに仲間から切り捨てられ、三十五歳となった今では、
満身創痍で生きるだけで精一杯の日々を送っていた。
そんなソラをただ一匹だけ慕ってくれたのは――
拾ってきた野良の黒猫“クロ”。
だが命の灯が消えかけた夜、
その黒猫は正体を現す。
クロは世界に十人しか存在しない“祝福”を与える存在――
しかも九つの祝福を生んだ天使と悪魔を封印した“第十の祝福者”だった。
力を失われ、語ることすら封じられたクロは、
復讐を果たすための契約者を探していた。
クロは瀕死のソラと契約し、
彼の魂を二十年前――十五歳の過去へと送り返す。
唯一のスキル《アイテムボックス》。
そして契約により初めて“成長”する力を与えられたソラは、
弱き自分を変えるため、再びダンジョンと向き合う。
だがその裏で、
クロは封印した九人の祝福者たちを狩り尽くすための、
復讐の道を静かに歩み始めていた。
これは――
“最弱”と“最凶”が手を取り合い、
未来をやり直す物語
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~
空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。
もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。
【お知らせ】6/22 完結しました!
最強賢者の最強メイド~主人もメイドもこの世界に敵がいないようです~
津ヶ谷
ファンタジー
綾瀬樹、都内の私立高校に通う高校二年生だった。
ある日、樹は交通事故で命を落としてしまう。
目覚めた樹の前に現れたのは神を名乗る人物だった。
その神により、チートな力を与えられた樹は異世界へと転生することになる。
その世界での樹の功績は認められ、ほんの数ヶ月で最強賢者として名前が広がりつつあった。
そこで、褒美として、王都に拠点となる屋敷をもらい、執事とメイドを派遣してもらうことになるのだが、このメイドも実は元世界最強だったのだ。
これは、世界最強賢者の樹と世界最強メイドのアリアの異世界英雄譚。
SSSレア・スライムに転生した魚屋さん ~戦うつもりはないけど、どんどん強くなる~
草笛あたる(乱暴)
ファンタジー
転生したらスライムの突然変異だった。
レアらしくて、成長が異常に早いよ。
せっかくだから、自分の特技を活かして、日本の魚屋技術を異世界に広めたいな。
出刃包丁がない世界だったので、スライムの体内で作ったら、名刀に仕上がっちゃった。
最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。
【完結】うさぎ転生 〜女子高生の私、交通事故で死んだと思ったら、気づけば現代ダンジョンの最弱モンスターに!?最強目指して生き延びる〜
旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
女子高生の篠崎カレンは、交通事故に遭って命を落とした……はずが、目覚めるとそこはモンスターあふれる現代ダンジョン。しかも身体はウサギになっていた!
HPはわずか5、攻撃力もゼロに等しい「最弱モンスター」扱いの白うさぎ。それでもスライムやコボルトにおびえながら、なんとか生き延びる日々。唯一の救いは、ダンジョン特有の“スキル”を磨けば強くなれるということ。
跳躍蹴りでスライムを倒し、小動物の悲鳴でコボルトを怯ませ、少しずつ経験値を積んでいくうちに、カレンは手応えを感じ始める。
「このままじゃ終わらない。私、もっと強くなっていつか……」
最弱からの“首刈りウサギ”進化を目指して、ウサギの身体で奮闘するカレン。彼女はこの危険だらけのダンジョンで、生き延びるだけでなく“人間へ戻る術(すべ)”を探し当てられるのか? それとも新たなモンスターとしての道を歩むのか?最弱うさぎの成り上がりサバイバルが、いま幕を開ける!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる