戦闘狂の水晶使い、最強の更に先へ

真輪月

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第二章 〜水晶使いの成長〜

第61話  卒業

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「えーー、副騎士団長ミュイ・ライトリクス様、戦闘続行不可能! よって勝者、ライン・ルルクス!」

 骨は折れていないかな。
 ただ、背骨に――先端を丸めたとはいえ――『晶棘』が刺さったわけで…………

「――背骨にひびが入ってますね。すぐ治しますので、動かないでくださいね。悪化したら、後遺症になりますから」
「そうなっても、治るだろう?」
「私のように、覚醒した回復術師なら……ですがね。体力は消耗してもらいますが」

 あ、治るんだ。

「ちなみに、この状態だとどれぐらい持っていかれる?」
「『全快フルポーション』を使えば、なにも消費しません。こちらは魔力をごっそり持っていかれますがね」
「そちらに無理のない範囲で頼む。だが、寝るわけにはいかん。動ける程度には残しておいてくれ」

 この人が治らないと、次に進まないんだけど。
 まぁ、だからこうしてこの2人の会話を聞けるんだが。

「疲弊して体力の少ない副騎士団長様相手だと、難しいですね。まあ、やってみましょう」
「ああ、よろしく頼む。怪我と体力さえ回復させてくれたらいい」
最初はなからそのつもりです。――『回復ヒール』」

 さて、それじゃあオレは、向こうで待っているとしよう。





「さて、では卒業試験……これにて終了だ。……騎士団長様」
『さて…………よし、繋がったな』

 ああ、すべての冒険者学校と中継してんのか。
 だから、さっき少し待たされ…………雑談時間があったのか。

 いや、言い換えたのは副騎士団長がこちらの思考を読んだかのようなタイミングでこちらを見てきたからでは、決してない……ぞ。

『さて、君たちは来年度より、王都にある近衛騎士育成学校に通ってもらう。出発はそちらにいる近衛騎士の指示に従うように。では、待っている』

 そして、映像を繋ぐ魔法具は元の色――黒色に戻った。映像が切れたのだ。

「さて、たった今より、君たち卒業生は近衛騎士に名を連ねることとなる」

 つまり、お上の言うことは絶対。
 悪いことはせず、おとなしくしとけよってことか。

「入学式が4月20日に行われる。ただ、向こうの暮らしに慣れ、他校の生徒との親睦を深めるため、4月1日に出発とする」

 馬車で1週間はかかるから、1週間半は向こうで過ごすのか。
 身の回りを整える時間は十分すぎるほどあるな。

「さて、明日は卒業式ですので、今日は部屋に戻ってください。副騎士団長様も、そろそろ王都行きの馬車が到着する頃と思われます」
「そうか、では失礼しよう」
「本日はありがとうございました」
「それじゃ、卒業生諸君。また会おう」

 そう言うと副騎士団長は颯爽と去っていった。数人の供回りがそのあとを追いかける。


 


 そして、翌日――3月9日。

『――これにて、卒業式を閉会する。卒業生諸君、これからの健闘、活躍を祈る』

 この3年間、楽しかったな。



 卒業式をささっと済ませ、オレは里帰りしていた。

「ただいま~~」

 事前に両親には『通話トーク』で帰省の旨を伝えていたため、村の門をくぐると、ほとんどの村人が出迎えてくれた。

 父さん、母さん、兄さん、村長、岩壁の盾のメンバー、ラーファー…………。

「「お帰り!!!」」
「ライン、お前、すごく強くなったんだろ? 見せてくれよ」
「大きくなったなぁ」
「領都は、王都はどうだった?」
「これからどうなるんだ?」

 予想はしていたが…………。質問の嵐!! もはや熱帯低気圧だな。

「ラーファーさんに模擬戦を申し込んだ! 身長は175! 体重は64! 発展していて楽しかった! 近衛騎士育成学校に行く予定!」

 領都、王都はどうだったのかという質問。
 これは十中八九オレの来ている服が原因だろう。村で着ていた服は……着れるものは現在も持っているが、この服のが気に入ってるんだ。

 身長はどれほど伸びたかな?
 覚えてない。出発前は165センチだっけ?
 体重は筋肉の増加に伴い、増えた。これでも軽いほうだ。もちろん、男子の中で。

「さて、ライン。早速るか?」
「ちょっと待って。着替えてくる」
「戦うなら、村の広場を使うといい」

 村長の提案で、会場は広場になった。意外と広いから、大丈夫そうだ。
 今は農閑期なのか、みんなゆったりしている。ちょうどよかったかな。

「なんだ、ライン? 模擬戦って聞こえた気がするんだが」

 声をかけてきたのは、御者のモフール・ユーサー。元上司だ。

「はい、この村の近衛騎士と………」
「そうか、なら見て帰ろうか」
「大丈夫なんですか? たしかにオレが一番最後でしたけど………」

 この村を離れたら、もう領都に帰らないといけないはずだ。サボっていいのか?

「俺はこの後は仕事はないからな。……と言うより、今日はもともと休みだったんだが。特別手当が出るっていうから引き受けたんだが」

 休日出勤、ご苦労様っす!!

「ま、最後にお前の雄姿を目に焼き付けようか」
「ははは…………どーも」

 変な期待されちゃってら。
 ラーファーさんとの勝負は1対1。近衛騎士第三隊に所属する彼は、個として戦うことに長けている。
 はっきり、どうなるのかわからない。と、言っておく。

 副騎士団長に卒業試験で勝ったのは内緒だ。
 たとえまぐれだったとしても、勝ったという事実があるから…………勝率が0でないことの証明となった。

「それじゃ、着替えてこようか」

 着替えは持参してある。
 体操服ではない。体操服でもいいけど、なんか恥ずかしいから……。共感者募集。



 着替え、村の広場に向かうと、そこは人で埋め尽くされていた。
 戦いの場は、おおよそ直径30メートルの円。そして、村人たちは一か所にまとまっていた。

「ライン、ラーファー。大きな怪我はしないように」
「わかってる」

 アミリスさんは回復術師だが、覚醒していない。
 切り傷とか骨折、捻挫ぐらいなら治るが、四肢の欠損は治らない。
 その状態で回復魔法を唱えられたら、傷口が塞がり、二度と治らない。

『審判は私、アミリスが行います。負けの条件は、どちらかの降参、戦闘続行不能状態、審判の合図の3つとします。なにか異論、質問は?』
「ない」
「問題ない」

 残りの3人は、戦いの余波が村人に及ばないように、村人たちの前に立っている。
 身体強化は発動済みだ。

『それでは、両者、覚醒してください』

 ん? その指示は初めて聞いたんだが? まあいいか。

 オレは審判の指示通り、覚醒した。

「「おお!!」」

 そんなに驚くことか?
 いや、驚くか。そして、ラーファーさんも覚醒した。しかし、そこで違和感を覚えた。

 ――あれ、こんなに小さかった・・・・・っけ? 

 前回――冒険者学校の入学試験を受ける前に感じた圧が、今では驚くほど小さい。
 これは……本当に勝てそうだ。

「せ、成長したな、ライン。3年前とは雲泥の差だ」
「その言葉は、戦ったあとのがいいんじゃない?」
「そう……だな。失礼した」

 武器はない。防具もない。素手と素手での戦い。
 『晶装』を使えば、武器も防具も用意できるが、そんなことはしない。
 外的要因による援助はなしだ。

 だから、自分に制限をかける。

「オレはこの戦いで、魔法は使わない。純粋に、拳のみを使って、――勝つ」

 一泊置いての勝利宣言。
 何人かの息を飲む音が聞こえた。あと、唾を飲む音。
 静かだから、余計はっきりと聞こえてしまった。不快だな……。

「そうか。これで負けてしまっては、俺の立つ瀬がないな……。悪いが、勝たせてもらう」

 両者共に勝利宣言をしたところで、村人を守っている冒険者3人の警戒レベルが強まった。
 その証拠に、さっきまで武器を抜いていなかったのに、今は武器を構えている。

 あれ、ラミリスさんがいない。
 辺りを見渡すと、わりとすぐに発見できた。村人の中に混ざっていたのだ。

『では、両者準備ができたようなので』

 そこで言われてもなぁ…………。なんか締まらない……。

『――開始!!』




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