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第三章 ~戦闘狂の水晶使い~
第89話 騎士団長と副騎士団長
しおりを挟むへラリア国王都の東側。
森から、魔物の大群が顔を覗かせていた。
しかし、その魔物はどれも雑魚と言われるものたち。最も数が多いのはゴブリンだ。
隊長はいない。
隊長に準ずる魔力を保有する個体が6体。
隊長がいない代わり、これらが指揮を執るようだ。
彼らは言わば、連合のはみ出し者。雑兵だ。
しかし、どの個体にも連合の証である2本の赤い痣がある。色は薄いが。
この色が濃いと、上級者の証。
隊長ともなると、赤黒く染まる。
その光景を俯瞰する3人。
2人は覚醒アヌースに乗り、1人は魔法の力で浮かんでいる。
「これだけの量がいるとは…………。さて、行ってくる。合図をしたら降りて来てくれ」
「かしこまりました」
騎士団長はアヌースから飛び降り、魔物軍のど真ん中に、轟音とともに着地した。
覚醒に伴う身体能力の向上により、着地によるダメージはない。
そこに、電気によりさらに身体能力をさらに向上させてある。
電気による身体能力アップは時間制限と凍結時間が存在するため、使いどころを選ぶ。
だが、この魔物の軍勢相手だと考える必要がない。
『敵…………』
『テキダ』
『てき!!』
「ああ、その通り。――『拡散雷』!!」
騎士団長を中心に、放射状に電気が発射される。魔物に当たっても、そのまま貫通し突き進み続ける。
それだけではなく、隣にいる魔物にも電気が移る。
それを幾度も繰り返すことで、密集しているこの状況も後押しし、すべての魔物に電気が伝わる。
『『グアアア!!』』
それだけで、ほとんどの魔物が地に伏した。
内部から焼かれ、口から煙を吐き出しながら倒れる。
食用ではないため、香ばしい匂いとは程遠い。
「やはりお前たち6体は残ったか」
『ググ……』
「――『昇雷』」
剣を上に向け、雷を発射させる。
すると、すぐ隣に副騎士団長が音もなく出現した。
「3体ずつでどうだ?」
「異論はありません」
「じゃあ、右3体を私がしよう」
「は!」
それだけ言うと、それぞれ、各々の目標に向け、駆け出した。
騎士団長の電気を纏った攻撃が、魔物を内側から焼く。
副騎士団長の息も吐かせぬ連撃とステップで、魔物は反撃はおろか、身動きすら許されない。
結果、この2人が魔物を狩り尽くすのに、あまり時間はかからなかった。
「終わり、と」
「騎士団長、この程度であれば、私たちが出るまでもなかったのでは?」
「久しぶりに体を動かすのも悪くないと思っただけさ」
結局のところ、騎士団長も戦いたかっただけだ。
「たしかに……ここ数年、訓練で動かす程度で、実戦はしてなかったですからね。訓練はかなり実戦に近かったですが」
騎士団長と副騎士団長は役職柄、都市内にいることが多い。切り札的存在だ。
「それにこのあと、ラインはワインド国に無期滞在させる」
「あそこは現在、人手不足というわけではなかったかと思うのですが……?」
「ああ、海岸部のある地域。そこで、連合が睨みを効かせたまま動かないらしい。そこで、ラインだ」
海岸部にある漁村の中の一つ。
そこのすぐそばの森の中で、連合の魔物が大量に居座っていた。
理由は一切不明。
ただ、いいことは全くないので、解決しようとなったのだ。
なにより、そこは村であること。
村には冒険者パーティーが1つと騎士が1人、滞在する。そう、それだけ。
だから、下手に手を出せないらしい。
そして、いつ攻めてくるともわからない状況。
そこで、【水晶使い】の登場だ。今回は長期のため、『ライン』だが。
そして、アヌースに乗り、王城へ帰った。
戦闘中、【魔導士】が上空から睨みを効かせていたが、なにも異常はなかった。
だが、あまりの呆気なさに、【魔導士】はどうしても不安を拭うことができなかった。
オレとターバは騎士団長から、戦闘が終了し、帰還するとの報告を受けたため、王族の護衛を離れ、部屋に戻った。
当の王様がファンキーな見た目のため、守る必要があるのか考えていた。
まあ、戦闘能力はないんだけどさ、見た目の割に。
こんなのを聞かれたら、不敬罪辺りで罰せられそうだな。
あるのか知らないけど。……ないわけないか。
それから間もなく、騎士団長ら3人が帰って来た。服に血は一切付いていない。
騎士団長はそのまま執務机に、副騎士団長はその背後に立つ。【魔導士】はオレたちの横に並ぶ。
数分前と、なんら変わり映えのない光景だ。
「さて、早速で悪いが……ライン」
「は!」
「ワインド国の漁村の1つ、クラーク村に行ってくれ。長期滞在となるため、【水晶使い】としてではなく、ラインとして行ってくれ」
「長期滞在? その理由は……?」
長期滞在してくれと言われて、はいそうですか、てなるわけないだろう。
このご時世に長期滞在。
裏があるとしか思えない。
「ああ、実はその村付近の森に、連合が大量に居座っているようだ。あくまで村のため、下手に手を出すことも、攻められた際に迎え撃つこともできない」
ああ、なるほどな。
とは言え、国も人材を渋っているわけではない。それどころか、限界ギリギリの数を派遣している。
それはそこの国も共通だ。
「なるほど、それの解決ですか。了解しました」
「明日、向かってくれ。今日はもう帰ってゆっくりするといい」
「はい! では失礼します」
帰っていいとのことなので帰った。
帰ったら荷造りだ。宿も引き払う準備をしとかないとな。
ちょっとだけ、城を出たら急ごう。
ラインが帰り、室内にはターバ、【魔導士】、副騎士団長、騎士団長の4人が残った。
「さて、行ったか。ターバは明日より、覚醒アヌースの乗馬訓練だ。ラインやアーグと同じ立場となる。ただし、活動範囲はへラリア国内に限る」
「わかりました」
「アーグ、お前はこれまで通りで頼む」
「了解」
「それと、アーグ、ターバ、ラインのような役職を、正式に【放浪者】と呼ぶことが決まった。それに伴い、他国からも数人、【放浪者】が選抜されることとなる」
今まで、ラインたちを【放浪者】と呼んでいたのは、へラリア国とフェンゼル国のみだった。
命名者はラインだ。
「さて、話は以上だ。何か質問は? …………ないようだな。では、これにて解散!」
解散し、それぞれ帰路に着く。
騎士団長と副騎士団長は役職柄、残ったままだが。
ターバは――内面、うきうきしながら――騎士宿舎へ。
【魔導士】は宿へ。
その頃ラインは、商店街を歩いていた。
一度宿に戻ったのだが、不足品が複数あったため、ここを歩いている。
「えーー……っと」
洗剤各種は近衛騎士団が宿とともに手配済み。
服や靴の替えは嵩張るからなし。魔法の効果で清潔に保たれるし、必要がない。
「あれ、何を買いに来たんだっけ……? …………ああ、歯ブラシと歯磨き粉だ。…………この指輪で済ませるか」
歯磨きでは、磨き残しが出る可能性があるが、この指輪――聖火の指輪は確実だ。
よし! 帰ろう。…………いや、違う!
念の為。そうだ、念の為、再確認だ。
朝起きる。
顔を洗う。
服を着替え……そうだ、パジャマが破けたんだ。パジャマは浴衣でいいか。
朝ごはんを食べる。これは賄いとして出る。
その後は……ああ、弁当箱でも買うか? 念の為を考えて2つ。
ああ、聖火の指輪をもう一つ買っておこう。クールタイムの解消だ。
う~~ん、こんなものか……。トランプでも買っとこ。
買うものは浴衣、弁当箱2つ、聖火の指輪、トランプ。ああ、あとは荷物を入れるカバンだ。
幸い、全部ここで揃う。金も十分ある(入りの割に使うことがなく貯まる一方だった)。
「まさか、あの指輪があんなに高いとはな…………」
魔法具店に入ったものの、並んでなかった。
そのため店主に問い合わせたら、奥から持ってきた。丁寧に箱に入れられて。
値段を聞いてびっくりした。金貨が飛ぶとは…………。
ま、使い道も特になかったし、良しとしよう……。
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