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第三章 ~戦闘狂の水晶使い~

第90話  クラーク村

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 ケモミミ族の住まう、ワインド国。
 その端っこ。

 潮の香りが風に乗って微かに漂ってくる。



 ケモミミというネーミングは誰によるものか。
 それはわからない。気づいた時には、それが定着していた。

 だが、この世界に住まう人たちはそれが普通で、違和感など何も感じない。

 ――転生者は別だ。

 みんな共通して抱く感想は「誰だ、こんな名前つけたの?」である。



 ケモミミたちの住まう漁村の1つ、クラーク村。
 とりわけ特産があるわけでもない、いたって普通の村。
 他の村にないものと言えば、孤児院だ。

 ある魔物の影響で、ここ数年、孤児が増えている。
 騎士団が何度も討伐に赴くも、遭遇できず、失敗。運よく遭遇しても、勝てなかった。

 領都や王都に預けることもできたが、そこで生きていくには金が必要だった。

 そのため、村に孤児院を作らせた。
 建築費や修理費など、諸々の費用はすべて国と領持ち。
 援助も出るし、職員には給金も出る。食料の援助もある。 

 こうして最大限の援助はされてはいるが、問題は山積みだった。

 職員の不足。
 食料の援助が出るとは言え、満足のいく量ではない。

 そしてなにより――事の発端の魔物が討伐されていないこと。

 またいつ、孤児が増えるかもわからない。
 増えたら、今度こそそれらを養うことは難しい。

 なぜなら、孤児が増えるということと、大人が死ぬことは同義だからだ。 



 そんな村の近くの上空に、仮面を着用し、馬に跨った男がいた。

「あそこがクラーク村か…………。思った通りのザ・漁村だな」

 男は人間。
 へラリア国騎士団長の命と、ワインド国国王からの要請により、この村に赴くこととなった。

 そう、ライン・ルルクスだ。



「今回は【水晶使い】として、ではない、と…………。なら、こっからは陸路で行くか。よし、フレイ。歩くぞ」

 すると、即座に了解の念が伝わってきた。



 道なりに数分進むと、村が見えてきた。
 道すがら、森の中を魔力探知で見たが、魔物の影が複数確認できた。どれも雑魚だったが。
 
 上空から見たら、たしかにかなりの数の魔物の影が見えた。
 だが、固まっておらず、複数で固まって歩き回っていた。まるで何かを探しているかのように……。



 なんて考えていたら、いつの間にか門が目の前だった。
 無断で入るわけにはいかない。

「ごめんくださーーい!!」

 服装は、仮面を外し、服の色は白から黒に変えてある。オリハルコンは剣に変え、腰に差してある。

 どこからどう見ても冒険者だろう。冒険者として来てるわけだし。
 冒険者として行け、とも、冒険者として来い、とも言われてある。
 
 村じゃ外から丸見えだから、オレがいつもの恰好だったら速攻隊長が来て、村ごとお陀仏だ。

「お待ちしておりました、ルルクス様。リアナス・ロックワードと申します」
「ああ、よろしく。オリハルコン級冒険者、ライン・ルルクスだ」

 出てきたのは、青髪ジト目の女の子だった。16歳ぐらいかな? 猫を彷彿させる顔だ。

「こちらへどうぞ」
「あ、ああ……」

 素っ気ないな……。よそ者で、異種族だから、か……?
 長期滞在の予定だから、仲良くなっておいて損はないんだが。



 案内されたのは、村の孤児院だった。
 結構新品。綺麗だ。

 そのまま中に案内され、奥の部屋へ通された。 

「滞在中はこの部屋をお使いください。風呂とトイレは出て左手に進み、2つ目の門で曲がった通路にあります。では……」
「ああ、ありがとう」

 中へ入ると、なかなか綺麗な部屋だった。
 どれも新しい。まあ、この部屋を使うことは少ないだろう。雨が降ったら別だけど。

 荷物を置き、外に出る。
 早朝にへラリアの王都を出て、もう夕方だ。

 一応、フレイがどこにいるのかを確認しておかないとな。



 少し歩くと馬小屋が見えたので、寄ってみた。すると案の定、フレイがいた。快適そうだ。

 それだけ確認し、部屋に戻る。
 その道中、美味しそうな匂いが漂ってきた。匂いのもとを目指して進むと、複数の子供がいた。

「やあ、お邪魔してるよ」
「兄ちゃん、遊んで!」
「「遊んで遊んで!!」」
 
 うわ。子供のコールが始まったよ…………。
 それを聞きつけ、他の子供もやってきた。そして、コールに加わる。

「だーー! わかったわかった! ちょっとだけな!」

 そう言うと、嬉しそうな表情を浮かべた。こうしてみると可愛いもんだ。

 よく見ると、子供たちの年齢はバラバラだ。

「何して遊ぶんだ?」
「冒険者ごっこ!」
「騎士ごっこ!」

 これは男児たちだ。

「魔法使いごっこ!」
「救出ごっこ!」

 これは女児たちだ。

 おままごととか言われなくてよかった。
 どうやって断ろうかと考えていたんところだ。

 そして、オレを何に巻き込むかで喧嘩が始まった。
 どう鎮めようか…………。
 水晶で一発……。村から追い出されそうだ。

「落ち着けお前ら。全部まとめてやろう! な!」

 途端、沈黙。オレが何か…………ん? 後ろからなにか不穏な気配が……。

「…………何をしているのですか?」
「ね、ねぇちゃん……」
「ああ、リアナスさん…………」
「お客さんを困らせたらダメでしょ! 相手は覚醒者よ!? その気になれば一瞬で殺されるわよ!?」
「いや……一体オレをなんだと思ってるんだ! んなことしねぇよ!!」

 まったく……。
 オレをどんな快楽殺人犯だと思ってんだよ。
 もしくは、すごい短気な人間だと思ってるか。

「…………」
「いや、なにその間?」
「まあ、いいです。あなたはこのまま部屋に戻ってください。ご飯は部屋に運んでありますので。食べたら、そのまま置いておいてください」
「あ、はい」

 なんでだろう…………逆らえない。
 なんか…………オレも孤児みたいに扱われてるな……。

 この状況を打破する方法を考えながら、部屋へ戻り、賄いを食べたのだった。



 そして、夜7時。
 ドアがノックされた。

「どうぞ」
「失礼します、ルルクス様。うちのリアナスが申し訳ありませんでした」

 入って来たのは、白髪交じりの初老の女性だった。
 そして、開け口一番に謝罪した。挨拶よりも先に。

「いえ、警戒するのも当然ですから……。まあ、もう少し打ち解けてくれたら、こちらとしても嬉しいのですが、ね」

 若干嫌味がこもってなかったとも言えない。
 ま、思いは口にしないと伝わらないことが多いからな。

「あ、失礼いたしました。私、この孤児院の管理者で、村長のベカース・サーサと申します」
「ああ、すでに知っていると思うが、オリハルコン級冒険者の、ライン・ルルクスだ」

 村長にはすでに話が通っていると言われていた。
 もちろん、冒険者ラインとして、だ。騎士や、【放浪者】として、ではない。

「あの子の故郷は、あの子が唯一の生き残りでした。ですが、それ以前にも何か人間関係で何かあったのか……あのような態度を取ってしまうことが多く……。ですが、根はとても優しい子なのです」

 ああ、子供たちへの対応を見たときにそれは知った。

「ん? ってことは、あの子も孤児なのか?」
「ええ。年長者でしっかりしているので、手伝ってもらっています」
「なるほど。さて、入りな、リアナス」
「!?」
「!!」

 村長が挨拶をしている最中に、扉の前に気配を感じてた。扉の下にある隙間から足が見えたし。
 1人でいること、立ち聞きしていることから、リアナスだろうと考察した。

 扉の前に移動し、ドアを開ける。

 ドアの前には、驚きのあまり固まっていたリアナスがいた。

「な、なんで……わかったのですか…………?」
「上位冒険者を甘く見ないことだな。お前がさっき子供たちに言い聞かせていたことだぞ~~?」
「うっ……す、すいませんでした」

 リアナスは照れ隠し兼謝罪で頭を下げる。
 だって、さっきから顔は耳まで真っ赤だったし。


 
 会話の内容もあって、リアナスの心の扉が、少し開かれたのだった――

 

 
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