戦闘狂の水晶使い、最強の更に先へ

真輪月

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第三章 ~戦闘狂の水晶使い~

第92話  クラーク村での戦い

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 村に来て、一月が経過した。
 季節はすでに冬。11月だ。

「ライン! 薪割り!」
「Yes,sir!」

 孤児院は他の家より多くの薪を必要とする。
 だからこうして、薪割りを手伝わされている。子供にやらせるわけにはいかないしな。

 斧は用意してもらってある。
 昨日までの一週間で、森の木々を切り倒し、村人全員が使用する分の木を用意した。

 見張りは騎士とフレイに任せた。
 だが、襲撃はおろか、近寄ってもこなかった。

 どうにも、連合の意図が読めない。

「今日はこれだけお願い」
「おう!」

 リアナスの口調は依然と変わっていない。
 もう、リアナスの性格の問題だ。諦めた。

 薪を割り続け、昼ご飯の時間になった。

「もういいよ、ライン」
「あいよ」

 薪が山積みだ。声しか聞こえない。

「午後はどうするの?」
「ああ、森の調査にな」
「ふ~~ん。意味あるの?」
「……いずれある」

 今のところ、たしかに何も起こっていない。
 何も起こらないにこしたことはないんだが、連合がいる時点で何か起こる。



 昼ご飯を食べ、すぐに出ていく。

「フレイ、行くぞ!」
「ぶるっ」

 そして、いつも通りフレイに乗って駆け、村が見えなくなってから仮面を着け、空を飛ぶ。

 どうせ今日も何もないだろうから、食用の魔物でも探しておこうと思っていた。
 魔力探知と『千里眼』を発動させる。

 カクトツとバモを見つけた。
 一緒にいるな。今日はたい……りょ…………?

 一か所に、バモとカクトツが合わせて10匹ほど集まっていた。

「なんだ? 何が起こっているんだ? 偶然か……?」

 視点を離し、広く辺りを見渡す。
 すると、カクトツたちの周りに連合のものらしき影があった。

「なんだ? 狩りか? いや、それにしては何か…………」

 森の奥の方にも複数の影があった。

「分隊が本隊に向かって獲物を追い込んでいる? いや、向こうにそれ以外の魔物はいない。何かがあるな」

 分隊の方を注意深く観察していた。そして次の瞬間――

 ――ズドンッ!!

 一瞬にして、分隊の魔物の反応が消滅した。

「何が!? …………ありゃなんだ?」

 連合の影かと思っていた大きな影が残っていた。こいつが魔物たちを瞬殺したのは間違いない。

 だが、オレにとっても敵となる存在だろう。
 それに、あんな強力そうな魔物を野放しにはできない。 

 あの魔物たちに話を聞いてみようか。
 本隊のもとに降り立つ。

「おい、一ついいか?」
『『!?』』
『敵!? ――【水晶使い】!?』

 まあ、そうなるわな。少なくとも、『人』と魔物は敵対関係だ。

「あの、森の奥の魔物にいついてだ。ここで一番偉い奴は?」
『私が、この複合分隊の指揮を任されたものだ』

 そう言って出てきたのは、ディービービ。普通のディービービよりも長い。

 普通のディービービが灰色であるのに対し、目の前の蛇ディービービは白色。
 アルビノだ。
 
「複合分隊? なんだそれは?」

 まあ、答えてくれるわけがない。

『各隊から選抜された分隊の複合部隊だ』
「なんのために?」
『あの魔物の討伐のためだ。あいつを誘き寄せるための罠も、こうして用意した』

 そう言いながら指差したのは、あのカクトツたちだ。

「お前らであいつを倒せるのか?」
『…………』

 連合は戦闘力の計算ができないのか? それとも…………捨て駒か?
 目の前の分隊長は隊長に準ずるレベルではある。が、他のやつらは……。

『……お前、かなり強い。私よりも』
「ああ。……で? それがどうした」
『どうか、今回は私たちに協力してはくれないか? あいつはここらの人間の村も壊滅させている。どうだ? お前にとっても悪い話ではあるまい?』

 正直、受けたい。
 こいつの話が本当なら、こちらにもメリットはある。…………本当なら、だが。

「なら、教えてくれ。お前たちがあいつを討つ理由はなんだ? あれは魔物だろう? それも、隊長級以上の」
『魔物はすべて仲間ではない。あれは我らと違い、理性がなく、殺戮衝動に支配されている。仲間も何十と殺された』
「…………そうか。なら、協力はしてやる。だが、信用はしない。オレはあの魔物を倒す」
『感謝する』

 こいつらとあれを同時に相手するのは、かなり厳しい。オレが負けたら、村に魔物が行くだろう。

 オレに勝ったのが連合ならまだいい。この蛇さえ押さえれば、あとは雑魚だ。

 だが、あの魔物が行ったら、孤児が増える。
 だが今度は受取先がなく、野垂れ死ぬだろう。それだけは避けたい。

「あの魔物の正体は?」
『異形でよくわからない。近親種すら、判別はできない』

 まったくの謎ってことかよ!

『――隠れるぞ!』

 は? いや、聞いてねぇぞ! 
 幸い、フレイに跨っていたため、そのまま上空へ飛び立つ。

 あの魔物は…………まだ100メートル以上離れている。隠れるの早すぎ。
 


 それからほどなくして、魔物がやってきた。
 そうしたら案の定、カクトツたちを襲い始めた。

 だが、カクトツたちは逃げない。
 よく見ると、足に木の枝を打ち込まれている。

 ここからなら、魔物の姿がよく見える。

 全身が真っ黒な体毛に覆われている。だが、赤い痣は一本もない。
 身長は少なくとも2メートル以上。3メートルには届かないだろう。
 腕は猿のように長い。
 毛皮の腰巻を履いている。

 人狼の親近種のように見える。
 だが、その仕草――捕食行動は吸血鬼ヴァンパイアだ。

 カクトツたちを捕まえ、噛み付き、血を啜る。その後、肉を食べる。
 吸血鬼ヴァンパイアなら、血を吸っておしまいだ。

『――かかれぇ!!』

 魔物が最後のカクトツに手を伸ばした瞬間、号令がかかる。
 
 それを引き金に、連合の魔物が総攻撃を仕掛ける。

 謎魔物に、火が、水が、土が、風が、爪が、棍棒が……降り注ぐ。

 だが、どれも決定打には程遠い。
 それどころか、全くと言っていいほどダメージは入っていない。

『攻撃の手を緩めるな!』

 正直、無謀だ。
 魔法が当たっても、痛痒を感じていなければ――反撃を受ける。

 ――ドズンッッ!!

 謎魔物を中心として、地面が揺れる。
 そして、連合の魔物は分隊長を除いて全滅。そう、たった一撃で、だ。

 木々も根元から倒れる。

『――『岩噛いわがみ』!!』

 分隊長は大口を開け、謎魔物に迫る。
 牙に毒はないが、技術スキルによって噛む力を増大させている。
 蛇型魔物特有の技術スキルだ。
 普通の魔物は喋らないらしいからな。そんな技術《スキル》名だったのか。

 だが、隙が大きい。
 準隊長級なのは保有魔力量だけか。喋ることができるのはいいことだが。

 謎魔物は、分隊長の大きく開いた口に生えた2本の牙を掴み、そのまま蛇をぐるぐる回す。
 そしてそのまま上空へ投げ…………

「……え?」

 狙いはオレか!? 
 オレに向かって大蛇が飛んでくる。戦闘は避けられないってか……。

「フレイ、頼んだ」
「ぶるる!!」

 フレイは『激震インパクト』を蛇めがけて放つ。
 それだけで、硬いはずの鱗が粉々にひび割れる。そのまま内部から破壊され、息絶える。

 え、フレイ、こんなに強かったっけ?
 この蛇、少なくとも魔鉱級だぞ。

「フレイ、少し離れたところで待機していてくれ」

 お前はどうするのか? という意思が伝わって来た。

「ああ……あいつを倒す。どのみち、このまま進めば村だ。ここで食い止めないとな」

 フレイは、もう、それ以上は言わなかった。

 謎魔物の前に降り立つ。フレイはまた駆け去っていった。

「お前の相手はオレがやってやる」

 謎魔物がこっちを向いた。目の焦点はあっているのか? 虹彩がない。
 呻き声も上げない。口から血が垂れている。

 だが、武器もない。
 しかしあの巨体だ。武器は必要ないのかもしれない。

 と、思ったのだが、死んだ魔物たちの体から、血が謎魔物の手の中に集まった。 

 すると、その手の中に大剣が出現した。

「ちっ! 血を操れるのか! しかも、錬金済みか」

 なかなか厄介な敵だな……。血には鉄が含まれてはいる。
 つまり、あの武器は鉄製。
 だが、魔法でもって生成したものだ。あなどれない。





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