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第三章 ~戦闘狂の水晶使い~
第94話 クラーク村での戦い③
しおりを挟むここは、謎魔物の攻撃のおかげで家屋がなくなり、広場とつながった。
おかげで、騎士団祭の会場よりも広い。
棍を剣に変える。
そして、【魔導士】の技からアイディアを得た新技を使う。
「――『晶装・剣』」
この剣、片手両刃剣の形を模倣し、水晶で再現する。しかも、大量に。
それら全てをオレの周囲に待機させる。
その数、12本。
そして、謎魔物が距離を詰めてきた。
それと同時に、手に持った大剣を振り下ろしてきた。
だが、オレはそれを受け流した。
大剣は地面にめり込む。
すかさず、足で押さえつける。
謎魔物は必死に剣を抜こうとするが、オレがそれを許さない。
オレも必死で押さえつける。
その隙に、謎魔物を囲むように『晶装・剣』を展開する。
――そして黒ひげ危機一髪のように、剣が謎魔物の体中に刺さる。
そして極めつけに、オレの手にあるオリハルコンの剣を、謎魔物の胸に刺す。
「これで――」
――グシャ!
顔を強く殴られ、背後にあった家にぶつかる。
その衝撃で家は倒壊する。誰かさん、ごめんなさい。
「ぺっ」
口の中を切った。
家にぶつかる前に『晶皮』が間に合ったが、謎魔物の攻撃をもろに食らってしまった。
大きな攻撃を加えていたこと、オレが謎魔物の胸の前に立っていたことが幸いし、骨折はなさそうだ。
修理費は国に請求しようか。聖火の指輪を買って、懐が冷たいんだ。
にしても、剣はどれもあまり深く刺さっていない。
つまり、それだけ筋肉が発達しているということ。
とは言え、武器は返してもらわないとな。
オリハルコン――謎魔物の体に刺さっている剣を消し、再び手の中に出す。
ここまで攻撃の効きが悪いのなら、狙う点は…………
1つ、眼球。
2つ、『音砲』による防御無視攻撃。
だが、どれも決定打にはならない。1つあるとすれば、眼球から脳へ。
ただ、これをやるには、謎魔物が動かないでいてくれること。頭蓋骨が硬くないこと。
この2点が鍵だ。
そして、謎魔物の攻撃は侮れない。破壊力が桁違いだ。
あの、周囲に振動を与える魔法らしきもの。
これはフレイの『激震』と同じだろうと推測できる。
あの武器は、とんでもない質量だ。
それにあの謎魔物の桁違いのパワーに、あの長い手が生み出す遠心力。
質量×圧倒的なパワー×遠心力。振り下ろしの場合、重力加速度も味方する。
大剣使いは何人もいるが、目の前のこいつは桁違い。
その実力はおそらくだが、連合や騎士団の隊長を優に超えるだろう。
つまり、オレがこいつに勝てば――英雄だ。
あの謎魔物に刺さった剣はもう消してしまおうか。出血による弱体化も狙いだ。
あいつの毛皮には、棍や水晶の殴打効果は効きが悪い。
「――『晶装・槍』」
とりあえず、少しでもダメージを与えることを目標とする今は、使用するのは刺突武器の方がよさそうだ。との判断から槍を作る。
維持魔力も考え、生成したのは3本。
すべて、オレの周りに待機だ。
近接戦だ。
距離を詰め、直前で武器を片手斧に変化させ、振り下ろす。
「動きは学習させてもらったぜぇ……!」
謎魔物が先ほどからオレに対して行っていた攻撃と同じ動きだ。
あれだけ何度も見せられたら、誰でも学習できる。
それに、こいつは結構慎重派らしい。見た目に反し、冷静だ。
攻撃は避けられた。――が、想定の範囲内だ。
あえて中心線より若干右側を狙った。
だから、謎魔物は左側に90度回転しながら避けた。
だが、その方向には水晶の槍がある。
少しでも深い傷を負わせるため、30メートル離れているところに待機させていた。
そして、水晶の槍が謎魔物の背中に刺さる。
進行方向は一定。加速度もあり、謎魔物に到達する頃にはかなりのスピードに到達していた。
今回はかなり深く入った。
──だが、先ほどとは状況が違った。
さっきは大剣を押さえつけていたため、殴られるだけで済んだ。
今回は違う。大剣は謎魔物の手の中。
そして、天高く振り上げられている。
武器を棍に変え、水平に構え、防ぐ。が…………
大剣にはあまり力が入っていなかった。それに気づいた瞬間、腹に衝撃が走った。
オレの体は、ボールのようにバウンドしながら地面を転がった。
「がはっ……がほっ…………!」
吐血する。
肋骨が数本やられたか。
今は、オリハルコンで完全武装をしている。
防具も装備している。手甲も足甲も。そして――胸鎧も。
胸鎧《ブレスプレート》越しでもダメージが入った。だが、オリハルコンにダメージはないように見える。
つまり、今のはオレの『音砲』と同じ、貫通――防御無視攻撃。
『激震』か? 『重撃』の可能性もあるか。
それにしても、今のはかなり重い一撃だった。
覚醒していなければ、今頃は戦闘不能だっただろうな。危ない。
ダメージはかなり大きいがな。正直に言って、痛い。
どっちが先に倒れるか……。オレの負けは、村人たちの死だ。
こいつがこの辺りの村を襲い、壊滅させた犯人なのは確実だ。
おまけに、すごく強い。
口元の血を拭い、棍を構える。
そして、周囲に水晶の槍を出しておく。今度は、これらを上空に動かす。
今度は、30本だ! 集中力が少し持っていかれるから、早めに使いたいところだ。
再び距離を詰め、顎を狙い、棍を突き出す。
そして棍を刀に変え、体全部を使って思いっきり振り下ろす。
その際に足を曲げていたため、そのままバックステップで反撃を躱す。
それでも、鼻先を大剣が通った。脳がいろんな場所にあるんじゃないかってぐらいの反応速度だ。
だが、その風圧がバックステップを後押ししてくれる。
その瞬間、謎魔物に一瞬、隙が生まれる。
上空の槍を、すべて落下させる。自由落下ではなく、下向きに力を加え続けているため、加速度がいろいろすぎことになる。
今回は柄を短く、穂を大きくしてある。
そして無駄なく、全部が謎魔物の上に落ちる。
そこに、さらにオレのサポート。
振り下ろされた大剣を、『晶鎖』で地面に固定。万が一を考え、何重にも『晶鎖』を出す。
いくら馬鹿力でも、これを破ることはできないだろう。
謎魔物が上を向く。その顔には、諦めが浮かんだように錯覚した。
だが、オレはこいつの強さを身をもって知った。だから、さらに一手、用意した。
オレの前に、水晶の剣を12本出し、剣先はすべて謎魔物の方向を向いている。
謎魔物に槍が当たるその瞬間、すべての剣を発射させる。
そのとき、謎魔物を中心に凄まじい衝撃波が走り、すべての水晶が砕け散る。だが、オレの体にダメージはなかった。
オレの『魔法排除』と同じ効果があるのか? まあ、高確率でそれだろう。
だが、それで終わりではない。
もう1つの手――物理攻撃。
謎魔物の背後に回り込み、刀を鞘に納める。
その瞬間、謎魔物の首と体がサヨナラした。首ちょんぱだ。
オレの脇腹からは血が流れている。
「ああ、オレも……やられたか…………」
大剣は地面に固定されたままだ。じゃあ、オレは何に……。
謎魔物の剣を持っていない方の手を見ると、何かが霧散しているところだった。
それと同時に、大剣も霧散している。
おそらく、魔法の効果で生み出していたもの。
オリハルコンの下――腹部を怪我している。傷跡を見れば何にやられたのかわかるんだが…………。
もう、無理だな。
――そのとき、オレの意識は途絶えた。
体中から血が流れている。回復術師のいないこの村では、オレの命も怪しいな。
騎士が連絡してくれるか……。いや、もうすでに連絡しているかもしれない。
村長はあのときすでに致命傷というか、死にかけだったし。
もう、オレは何も考える余裕はなかった。
そのままオレの意識は、暗い暗い……闇の中へ沈んでいった。
天空へ浮上しなかっただけマシだと思おう。
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