戦闘狂の水晶使い、最強の更に先へ

真輪月

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第三章 ~戦闘狂の水晶使い~

第95話  クラーク村での戦い④

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 クラーク村では、建物の修繕が行われていた。
 ラインと謎魔物との戦いで倒壊した家屋の数、7。修復が必要な家屋は全部で8つ。
 寝る場所のない村人は、孤児院で過ごしている。

 潮風の影響もあり、この村に畑はない。
 漁業で生計を立てている村だ。つまり、船と網は必需品。
 それらが無傷だったのは、不幸中の幸いだった。

 修復資金はすべて国がもっている。支援物資も無料で届く。
 周辺の村からも人手がやってきて、村の修復は2週間で終わった。

 それに、相変わらず漁はできていた。

 本来、魚介類は野菜などの農産物よりも高値で取引される。

 今回、このような事態に巻き込まれたため、クラーク村の魚介類は、国が通常より若干高値で買い取り、通常の値段で商人たちに提供した。

 国からすれば、大赤字となる行為だ。
 しかし、【水晶使い】が関わっているとなると、国は無下にできなかった。



 2週間が経ち、村は元通りに回復した。
 しかし、村のどこにもラインはいない。





 11日前――ラインと謎魔物との死闘から、わずか3日後。
 孤児院のベットで寝ていたラインは、目を覚ました。

「ライン! ――目が!」

 横にいたのはなんと、リアナスだった。

「リア……ナス……? なんでここに?」

 オレはてっきり、当番でいるのだろうと思っていた。

「寝ぼけてる?」
「いや、そういう意味ではなく……当番か何かか?」
「いや、たまたまよ。なんとなく様子を見に来たの」

 嫌々ここにいたわけではないのか。よかった。

「あれから、何時間経った?」
「時間……? えーー……っと、72時間弱?」
「3日後か。そうか、3日も眠っていたのか」
「いや、3週間は目を覚まさないって言われてたわよ?」

 WとDの間違いだろ。weekとdayの。
 まあ、目は覚めたからよしとして…………。問題は、だな。

「お前、口調変わったな。何かあったのか?」
「もう、肩に力を入れる必要はないと思って。ラインのことを、信用できたみたい」

 何、そのヒロインみたいな台詞セリフ

「人間不信だったのか?」
「…………」
「何があった? お前の過去に。言いたくないなら言わなくていいが」

 言わなくてもいいとはいったけど、聞きたい。
 言わなくてもいいなんて思っちゃいない。

「私の村は、あの魔物に襲われたわけじゃないの…………」

 ああ、そういうことか。話は読めた。

「私の村を襲ったのは魔物じゃなくて、『人』だった――」

 リアナスは語り始めた。厳重に閉じ込めた記憶を。





 彼ら・・は、親切な人たちだった。
 彼ら・・は、村に時々来る隊商で、村によく、薬や雑貨を売りに来ていた。
 
 ──でも、ある日突然、村に火を放った。

 隊商の荷馬車の中には、数えきれないほどの人がいた。
 村人たちは全員、惨殺された。
 村には騎士と冒険者がいたけど、あいつらの中にも覚醒者が数人いて、瞬く間に村は地獄絵図と化した。

 でも、あいつらの中の1人に見つかって、死を覚悟した。 
 でもそいつは私を殺さず、逃がしてくれた。

 私を袋の中に入れ、「トイレ」と言って隊から離れ、私を解放した。

 1人で森の中を生き残ることのできるようにと、ナイフと救護用花火をくれた。

 救護用花火は、3時間後に使えと言われていたから、言われた通り、3時間後に使った。
 日時計を使って、時間を計った。

 夜が来る前に、冒険者パーティーが到着し、私は救われた。
 そしてそのまま、この村の孤児院へ預けられた。

 そしてその1週間後、盗賊たちが全滅したとの噂が流れてきた。





「…………これが、私の人生」

 そう言うリアナスの目には、なんの感情も浮かんでいなかった。悲しみも、怒りすらも……。

「私の身は、私で守る。でも、子供たちを放ってはおけなかった」
「自分と同じ境遇だったからか?」
「それもあるけど何より、安全だから」

 そうか、やっぱりこいつは人間不信なんだな。『人』不信っていう方がいいのか?

「そうか……いでっ!!」
「傷は完全に塞がっていないから、安静にね。私の魔力じゃ、止血と治癒力促進しかできなかったの」

 そう言われ、自分の体を見る。
 リアナスの急変した態度に目を奪われ、自分の体のことなど、頭から抜け落ちていた。

 オレの体は、服の上からだとわかりにくいが、包帯でミイラ状態だった。

「騎士団から治癒術師が派遣されたから治りが早くなったんでしょうけど、それでも……」

 オレ、こんなに傷多かったか?
 大きな傷は、腹と左肩ぐらいだと思っていたんだが。
 それに、明らかに武装していた箇所も怪我をしている。

 一体、何が起きたんだ? だが、かろうじて歩くことはできそうだ。

「……ちょっと歩く」
「だ、大丈夫なの?」
「リハビリも兼ねてな。…………ぐっ!!」
「肩を貸すわ」
「ああ、ありがとな」

 ほんと、丸くなったなこいつ。
 目を盗んで仮面を着け、『透視』を使う。うん、魔物ではなさそうだ。

 

 外に出ると、村は急ピッチで復旧作業が進んでいた。魔物の死体はそのまま放置だ。

「なんで死体を放置したままなんだ?」
「まだ調査が済んでいないの。未知の魔物とのことだから、近いうちに国から調査隊が派遣されるわ」

 一応、ちゃんとしているようだ。
 とは言え、これと同じ個体が出現するとは思えないけど。まあ、確率は0ではないか……。

「なあ、こいつはここから一歩も動かしてないのか?」
「ええ、そうよ」
「つまりオレの今立っているここは…………」

 そうだ、オレはこの位置から魔法を放ち、一瞬の隙にあの、今魔物の頭部が転がっている辺りに立っていた。

 覚醒していたとは言え、あそこまで一瞬にして移動し、居合斬りを放ち、魔物の首を斬った。
 
 オレはリアナスに肩を貸してもらいながら魔物のもとへ移動した。
 そして、首の断面を触る。…………硬い。肉も、骨も。
 それに、抵抗などなかったかのようにスッパリ斬れている。

 肉は弾性も有している。
 これを斬った? オレが? 

 「すまん、ちょっと離れていてくれ」

 リアナスを離れさせ、刀を出す。
 そして覚醒し、刀を振り下ろす。だが、骨に止められてしまった。

 肉は、こいつが死んでいるせいか、あっさり斬れた。でもやっぱり、多少の抵抗はあった。 
 しかし、この骨の硬さはどうなってやがる? 

 技術スキルを使えば骨も斬ることができるだろう。
 でも、ここまで綺麗には斬れないだろう。

「何やってるの?」
「ああ、いや。少し気になることがあってな。……とっとと…………」
「大丈夫じゃなさそうね。にしても、何があったの? その傷、まるで内側から破壊されたよう…………」
「そうなのか?」
「うん、『状態異常看破』で見ればね」

 あれ、『状態異常看破』って回復術師専用の魔法だったよな? 
 ああ、そう言えばさっき、「私の魔法では」って言っていた。つまり……

「リアナス、お前…………回復術師なのか?」
「独学だけどね。学校にも行っていないしね」

 まあいい。ただあの瞬間、オレは「できる」と思った。

 漫画風に言えば、あの瞬間オレは限界を超えた。
 その反動として、オレの体が内部から崩壊したと考えるのが妥当か。

 つまり、オレの強さはまだ限界じゃない。
 まあ、器の能力も条件を満たしていない今、使えないからな。
 能力が目覚めると、強くなるかもしれないな。

 しかしこの場合、成長で突破するものではなさそうだ。
 覚醒みたいに、成長限界の突破が必要なんだろう。ゲームで言う、レベル限界の上昇。

「ん…………?」

 森から謎の気配……? この感じ、魔物か?
 魔力探知で見える範囲にいる。これは…………ちょっとまずいか?

 いや、大丈夫そうだ。雑魚の集まりだ。

 そして、森から一体の魔物が姿を現した。それは、人狼だった。
 その体には2本の赤い痣が浮かんでいる。連合の魔物だ。

 そして口を開き、近くにいるオレに話しかけてきた。
 喋れるらしいが、実力は一般の人狼と同じぐらいだろう。
 敵意を向けてくるようでも、勝てる。

『……お前、これ、倒した?』

 カタコトだった。頭もよくなさそう。
 
 

 
 

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