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第三章 ~戦闘狂の水晶使い~
第96話 クラーク村での戦い⑤
しおりを挟む『お前、この魔物、倒した?』
森から出てきた人狼はカタコトな言葉でそう、オレに問いかけた。
「ああ、そうだ。お前は何しにここへ来た? 場合によっては、ここで死んでもらう」
そう言うと、他の魔物が次々と姿を現した。どれも雑魚だが、白金級の実力は有していそうだ。
騎士は……呼ぶ前に来たな。上々。
「ルルクス様、一体何事ですか!?」
「まあ、待て」
慌てるシーヨーを宥め、会話を続ける。
「お前たちはこの魔物を倒そうとしていたんじゃないのか?」
『そう。だが、負けた。勝ったお前を残すのは、脅威。だから、倒す』
「……そうか」
たしかに、こいつらは戦闘向きの個体だ。簡易的ではあるが、武器を所持している。
複数体は防具も所持している。冒険者から剥ぎ取ったものだろう。サイズもあっていないし。
「ライン、どうするの?」
「リアナス、これを使って戦ってくれるか?」
オリハルコンを拳銃にし、リアナスに渡す。
「これは?」
「これを敵に向けて、この引き金を引くんだ。こんな風に」
目標を人狼に合わせ、引き金を引く。
銃口から『晶弾』が発射され、人狼の眉間を撃ち抜く。
人狼は、ふらふらと辺りを歩いた後、倒れた。
「お前の身は守るから、攻撃に専念してくれ」
「……わかった」
「シーヨー、お前も無理はするなここからあまり離れない範囲で戦え」
「は!」
シーヨーには……いや、この村の誰にもオレが【水晶使い】であることは打ち明けていない。
【放浪者】であることは打ち明けた。
そうでもしないと、あの魔物を倒したことを怪しまれるし、謎の回復力も怪しまれる。
正直、最後の一撃とこの回復力は自分でも不思議だ。
ターバみたいに【不死】の加護があるわけではない。器は持っているけど。
人狼を殺したおかげで、魔物たちが一斉に敵意丸出しで襲ってきた。数だけは多い。
全員、連合に所属している証として、2本の赤い痣がある。
それに、オレの記憶が確かなら、こいつらは金、もしくは白金級。
この村の冒険者パーティーを出したら、死ぬ可能性があるし、邪魔だ。
襲ってくる魔物たちに向け、オレとリアナスは『晶弾』を放つ。
リアナスに渡した銃の中では、ひたすら『晶弾』が生成される。
リアナスの命中率は40%ほど。オレは100%。
そのせいか、リアナスを狙ってくる魔物が増えた。『晶盾』で身を守ってはいるが、オレからすればそちらは死角だ。
「シーヨー、リアナスを守れ!」
「はい!」
リアナスをシーヨーに預け、覚醒する。
そして――
「あまり長く立っていられないんだ、時間重視で行かせてもらう。逃げるなら今のうちだぞ……?」
――一拍置いて、『晶弾・龍』を放つ。
無数の『晶弾』は、木々と一緒に魔物たちも貫く。そして、この場にいるすべての魔物は息絶えた。
逃げようとする魔物は、一匹もいなかった。
「リアナス、すまなかったな。こんな血生臭い手伝いさせて……」
「ううん。狩りにも行ったことあるから」
ああ、この世界はこんな世界だったな。
「それはそうと、この魔物は一体なんだったのですか?」
「ああ、そいつは連合からも狙われていたらしい。連合からの情報だがな」
「この魔物の正体は?」
「わからない。体が回復したら、調査に行くつもりだ」
こいつが現れたのは、最低でも5年前。かなり最近だが、幼体ではなさそうだ。
むしろ、これが成長中とは思えない。
何はともあれ、体の回復が先決だ。
この状態じゃ、まともに戦えない。自力で歩くことすら難しい。
「調査する場所の目途は……?」
「ない。ただ、そうだな……1月いっぱいまでこの村にいる予定だ」
そう、オレは【放浪者】に就く者だ。各地を回り、連合の殲滅に努めないといけない。
そして、いざというときは隊長との戦闘もありえる。
「とにかく、今は戻ってゆっくりする。いざというときは、フレイを頼れ。リアナス、あいつを放しておいてくれないか? あいつには伝えておくから」
「わかったけど、大丈夫なの?」
「ああ、大丈夫だ」
「そう……わかったわ」
フレイに、村の警護を任せると伝え、了承を取った。フレイは強いし、このまま馬小屋に入れていたら、体も鈍るだろう。
体が鈍るのはオレも一緒か。回復したら、調査のついでに魔物を狩ろうか。
一週間後
「ライン、もう大丈夫?」
「ああ、傷はすべて塞がった。傷跡は若干残ったけど、まあいい」
腹と左肩に傷跡が残った。後遺症がないのは幸いか。
この世界の方が、医療においては上手だな。
「それじゃあ、行くとしようか」
フレイに跨り、村を去る。
いつこの村に戻ってこれるかわからない。
村が見えなくなった辺りで仮面を着け、空を飛ぶ。
奇跡的に一命を取り留めた村長から事前に、魔物に襲われた村の位置を聞いておいた。
謎魔物が現れた方向と村の位置を照らし合わせ、進む。
そして、一日と経たずに、最初に襲われたであろう村の跡地に辿り着いた。
「ここからは、しらみつぶしに探すしかないか……」
念の為、『透視』と魔力探知を発動させる。フレイにも探してもらっている。
あの魔物が急に出現した理由を考えた。
一番可能性が高いのは、成長するに従って、徐々に狂暴化、変異していった説。『人』だって、成長するにつれて片親に似てくることがある。
となると、あれは人狼の変異体かもしれない。
だが、万が一の可能性を考慮し、こうやって探索を行っている。
それは、後天的に魔物を狂暴化させる「何か」がある可能性。
薬などの特殊な何か……。
あれは、脳をやられていた。
つまり、口にしたとすれば、それは劇薬。そんな副作用を持つものが何十年、何百年も発見されていないのは考えにくい。
国が隠蔽している可能性もなくはないが、民に害が出る可能性のあるものを隠蔽するとは考えにくい。
特定の生き物にのみ作用する、となれば、『人』に害がなければとりあえず安心できる。
その後、確実に消すが。
「フレイ、そろそろ暗くなってきたし、あの村で休憩しようか」
フレイから了解の意思が伝わってきた。
近くの村の跡地で休息を取り、早朝に出発した。
少し進むと、ぽっかりと木々が生えていない場所を発見した。そこはそんなに広くなかった。
「フレイ、あそこへ」
フレイも気づいていたのか、すぐにその場所へ向かってくれた。
降り立つと、そこは……。
「遺跡か……?」
石畳の地面、絡み合う蔦、積みあがる石。それも、文明的な積み上げられ方だった。
少し探索する。表面積が狭いため、範囲は狭い……――
「これは…………?」
石の下を見ると、地下へ続く階段があった。
ここの周りだけ石が散らばっていたため、気になって最初に見たんだが。まさか最初から大当たりとはな……。
地下への階段を下ると、そこには部屋があった。一応、罠を警戒して床には降りない。
壁にはいくつもの傷跡があった。どれも、斬撃や刺突ではなく、何かに抉られたようだ。
そして部屋の中心には1メートルほどの高さの石柱が置かれていた。
その石柱には全体的に罅が走っていた。
罅のせいであちこち崩れ落ちている。
部屋の四隅には白い石が置かれていた。だが、いずれも真っ二つに割れていた。
そして、部屋の奥に壁画が描かれていた。『千里眼』を発動し、見る。
「――災厄を引き起こしし魔狼ここに封印せん」
その言葉とともに添えられている絵には、オレが死力を尽くして倒した謎魔物が描かれていた。
そっくり。
封印か……。どうやってやるんだ? 誰がやったんだ?
時代を想定できるものがない。つい最近まで、誰にも開けられていなかったのだろうから、埃も積もっていない。
まあいい。誰がこの封印を解いたのかもわからない。あとは罠だが……。
複数個水晶を作り、地面に落とす。何もない……か……?
とりあえず、降りてみよう。
……大丈夫そうだ。さて、ちゃちゃっと調べてしまおうか。
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