107 / 168
第三章 ~戦闘狂の水晶使い~
第101話 宣戦布告②
しおりを挟む『ここまで来れば……』
「――魔物がどうやってこの町に入った?」
事件のあった家からかなり離れた場所にある路地裏にて、2人の男が対峙していた。
殺人犯とオレだ。
「お前はさっき、目的を果たしていない、と言ったな。目的はなんだ?」
『ふん! 言わないし、これでさよならだ。だが、ここまで付いてきたお前に敬意を表し、名を名乗ろう』
何様のつもりだ、おい?
それに、オレが逃がすわけないじゃねぇか……。
男の周りに『晶弾』を殻のように配置させる。
それだけではなく、その外側に『晶装・剣』を数本配置させる。
「これで逃げられまい」
『魔物連合第九隊隊長、セイレーン。……ケミー』
セイレーン。
海に住む、歌声で船乗りを惑わし、殺す半人半鳥の魔物だ。
だがそれは前世のセイレーン。
こちらのセイレーンは、いまいち習性が判明していない、超希少種だ。
そう名乗ると、男は幻術を解き、化け物の姿となった。
人間より一回り小さい体躯。
姿は人がベースだ。背中からは羽が生え、体中も羽毛に覆われている。
「まさかの隊長がお出ましとはな……。だが好都合! 連合初の、殉職隊長の称号を授けてあげよう」
『目的は果たせなかったが、果たす必要もない。それじゃあな……』
その瞬間、セイレーンの姿が掻き消えた。
透明化ではないようだ。魔力探知に何も映らない。
『探しても無駄だ。それは幻術だ』
どこからか声がしたが、何も生き物が見えない。
路地裏のため、視界も狭い。
「ちっ! 逃げられた!!」
と思った矢先、少し離れた上空に雷が落ちた。
天気は晴天。となると……
「――騎士団長か、【魔導士】か……。と、なると……」
雷は何もいない空中で止まり、ナニカを焼いた。
そのナニカは、黒焦げになりながら落ちて行った。
落ちた先に向かうと、やはりそこには先ほどのセイレーンが落ちていた。
路地裏なのは不幸中の幸いか。
『ぐ……幻術が解けたか』
「――我が前に幻術は無意味だと知れ」
そう言って現れたのは、雷を纏った騎士団長だった。
「騎士団長、なぜここへ……?」
「この町は私の手の中……ということだ」
「……なるほど…………?」
この町で起きていることはすべて理解できているということか?
でも、騎士団長は加護持ちじゃないよな。
……となると、電気の力か?
『特級が2人、か……。これは分が悪いな。あの人間を殺さなければ……』
「なあ、なぜあの老人を殺したんだ?」
『……私には、『人』など顔で判断できない』
こいつの目には『人』を細かく区別できないのか。
……となると――
「――あの老人は人違いで殺したということか。真の標的は誰だ?」
『もう諦めた。話す必要はない』
犯人はあの老人に似ている誰か……?
1人しか思い浮かばない。
そう、吸血鬼の元・間者。
今はこちら側の監視下にあり、大人しくしている。
『ああ、お前らに、我らが盟主からの伝言だ。その鼻かっぽじてよく聞け』
鼻じゃない。耳だ、バカ。
鼻かっぽじっても鼻くそが出るだけだ。ああ、耳も一緒か。
『そう遠くない未来、お前らと連合は全面戦争を行う。そして――』
まるでこれまでのは余興と言いたげだな。
まだ札を用意しているのか?
『――今日はその第一段階だ。エルフの都市一つを襲っている』
「!?」
「嘘だ。そんな報告は来ていない。都市に魔物が攻撃を仕掛けて来たら、各国各都市に連絡が行く仕組みが確立されている」
ああ、そんな仕組みができてるんだ。なら、嘘か?
この情報は魔物に知られても問題は……ない。
『まあ、自分で確認するんだな。お前たちに敬意を表し、都市の名を教えよう。――その都市の名はメギオン。それじゃあな』
エルフの都市、メギオン。
その都市の名前はよく知っている。他の国の都市の名前は全くと言っていいほど興味のないオレでもわかる。
その都市は、冒険者学校時代の同期、リーイン・ケミスの出身地にして、現在の活動地。
「連合の隊長をここで逃がすと思うか?」
『いいや……逃げる。――『霧隠』』
その瞬間、路地中に濃い霧が溢れた。
霧が魔力を濃いく含んでいるため、魔力探知が使えない。肉眼も使えない。
ダサい魔法だ。
「騎士団長、追えますか?」
あれ……騎士団長がいない?
「騎士団長? 団長ーー?」
呼びかけるが、誰も答えない。
騎士団長は追えている?
すると、徐々に視界が晴れてきた。
それと同時に、路地から騎士団長が歩いてきた。
「騎士団長、奴は……?」
と問うと、騎士団長は首を横に振った。
『やつは町の外へ逃げた。殺せなかった』
騎士団長の話によると、あのセイレーンを追いかけ、路地から出たが、それは偽物で、本物は町の外へ羽ばたいて行ったそうだ。
騎士団長を騙す……気配をも作り出す幻術だったらしい。
本物に向け、騎士団長は雷を落としたらしいが、さすがは魔物連合隊長。
逃げられたらしい。
「ライン、念のため覚醒アヌースと共に外に出ていてくれ。あの魔物の言葉が真実かどうかを確認してくる」
「は!」
「それと、あの魔物について知っていることを教えてくれ」
「はい。連合の第九隊隊長で、名はケミー。種族は見た通り、セイレーンで、幻術の使い手です」
「わかった。情報の真偽を確かめた後、『通話』を送る。それまで、外で待機だ」
「は!」
オレはフレイを迎えに、宿まで走る。
魔物連合第九隊は隠密部隊。情報収集も担っている。
その隊長が幻術使いなのは必然だろう。
気配までも幻術で作り出すとは驚いたが。
騎士団本部
騎士団長は、たくさんある中の一つの魔法具を起動させる。
相手は、アグカル国の一都市、メギオンの騎士団本部。
だが、応答がない。
誰か一人は待機しているはずだ。
応えてくれないと、繋がらないし、向こうの様子を知ることもできない。
諦めかけたその時、
『――はい、こちらアグカル近衛騎士団、都市メギオン』
画面に一人の男が映った。
服を見る限り、たしかに騎士のようだ。
『へラリア騎士団長だ。そちらの状況を聞かせてくれ』
『何もありませんよ。魔物の襲撃も、連合との衝突も。何も……』
『……そうか……。では、失礼。何、少々悪い悪寒がしたものでね』
『そうですか。では……』
接続が切れる。
一見、何も問題はない背景と言葉。だが、騎士団長は確証を得た。
『通話』を起動させる。
相手は、町の外で待機中の【水晶使い】ライン・ルルクス。
『――ライン、大至急だ。大至急、メギオンへ向かえ!!』
『は!』
『【放浪者】数人にも伝達はするが、来るのは遅れる』
『わかりました!』
そして、『通話』を解除する。
騎士団長が確信を得たのは、奇跡にも近かった。
常人ならともかく、覚醒者が覚醒している状態でも見逃すであろう、たった一つの違和感。
だが、騎士団長はそれに気づき、一切顔には出さなかった。
違和感。その正体は、騎士の耳。
エルフの耳は、通常、身体強化、覚醒につれて長くなる。
だが、騎士の耳は通常状態にしては長かった。長さは目算で身体強化時のものだった。
普通のエルフより耳が長い……にしては長すぎた。
ラインを派遣させた要因は、違和感7割、用心2割、勘が1割。
時間はそろそろ夕暮れ。ラインが都市に到着するのは、単純計算で翌日の早朝だろう。
覚醒アヌースであれば、一日ぐらい眠らなくても飛ぶことができる。
『頼んだぞ、ライン……!』
騎士団長は職務上、ここを離れることができない。副騎士団長も然り。
放浪者である、【双剣士】ターバはへラリア国内でのみ活動。
第三隊隊長も国内活動。
であれば、用心を重ね、【魔導士】アーグを送るべきか。
信頼の置け、かつ、強い人間はラインを除いてその3人のみ。
そうと決まれば、アーグに『通話』を繋げる。
そして、話は終わった。
幸いにも、アーグは鬼の国、フェンゼル国の東部にいた。
その場所は、へラリアから見て東北東。エルフの国と接している付近だ。
1日半もあれば到着する。
覚醒アヌースでも、飛び続けるのは少々厳しいが、アーグが魔力を共有すれば大丈夫だろう。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる
仙道
ファンタジー
気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。 この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。 俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。 オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。 腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。 俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。 こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。
12/23 HOT男性向け1位
ダンジョンに行くことができるようになったが、職業が強すぎた
ひまなひと
ファンタジー
主人公がダンジョンに潜り、ステータスを強化し、強くなることを目指す物語である。
今の所、170話近くあります。
(修正していないものは1600です)
男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)
大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。
この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人)
そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ!
この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。
前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。
顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。
どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね!
そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる!
主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。
外はその限りではありません。
カクヨムでも投稿しております。
異世界帰りの少年は現実世界で冒険者になる
家高菜
ファンタジー
ある日突然、異世界に勇者として召喚された平凡な中学生の小鳥遊優人。
召喚者は優人を含めた5人の勇者に魔王討伐を依頼してきて、優人たちは魔王討伐を引き受ける。
多くの人々の助けを借り4年の月日を経て魔王討伐を成し遂げた優人たちは、なんとか元の世界に帰還を果たした。
しかし優人が帰還した世界には元々は無かったはずのダンジョンと、ダンジョンを探索するのを生業とする冒険者という職業が存在していた。
何故かダンジョンを探索する冒険者を育成する『冒険者育成学園』に入学することになった優人は、新たな仲間と共に冒険に身を投じるのであった。
【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。
木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。
しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。
そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。
【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる