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第三章 ~戦闘狂の水晶使い~

第103話  戦争の前菜②

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 仕留めた魔物4体の遺体を一か所にまとめ、部屋を出る。
 念の為、すべての階を見て回ったが、魔物はいなかった。

 立ち入り禁止の地下1階には、無事な組合員に事情を話し、案内してもらった。ついでに、魔物の処理も押し付けてきた。

 そしてオレは冒険者組合をあとにした。

「フレイ、大丈夫か? ここで休んでてもいいんだぞ?」

 フレイはさすがに眠いから休むらしい。

 受付嬢に話を通し、フレイを預かってもらった。
 寝るだけだから、場所を提供してもらっただけだし、金は取られないだろう。

 オレは1人で南門まで向かい、門の上に立って戦況を見渡した。

 攻撃を受けているのはこちらの門だけ。念のため、他の門にも必要最低限の戦力を配置している。
 指揮官が不在でも、これぐらいの判断はできているのか。

 すでに数人、死んでいる。
 戦場の様子はなんとなく掴めた。加勢するとしよう。

 覚醒し、門の上から飛び降りた。
 ちょうど、多数対1人の戦況に置かれているエルフの目の前に降りた。

 そして、そのまま腰に提げた刀で居合斬りを放ち、魔物5体を斬り伏せた。

「あ、ありがとう……ございます」

 ん? 聞き覚えのある声……。
 振り向くと、そこにいたのは冒険者学校時代の同期、リーイン・ケミスだった。
 
 よう、とか久しぶり、と言いたいところだが……魔法使えば即バレするか。
 いや、誰が聞いているともわからない戦場だ、ここは。言うべきではない。

 だが、振り返って少し見ていたため、取返しがつかない。
 ええい! こうしてやる!!

 オレは親指を立てた。何が「イイね」だ!
 さすがに恥ずかしかった。仮面があってよかったぜ……。
 何を思ったのか、リーインも「イイね」を返してきた。

「う……うわぁああ!」
「――『晶壁』」

 窮地に立ったエルフがいたため、『晶壁』で防いだ。

「その魔法……」

 やはりばれるか。
 最強決定祭でも水晶の魔法は……制限をかけていたか。

 唇に人差し指を当てる。
 静かに、のサインだ。
 リーインも悟ってくれたらしい。

「オレはあくまで【水晶使い】だ」
「うん、了解」

 とりあえず、他のピンチに陥っている騎士を助けに向かう。
 フレイがいてくれたらもう少し楽だったんだが、寝ずに飛んでくれたからな。
 オレも寝てないけどさ。

「――うっ!」

 近くで1人の騎士が止めを刺されそうになっていた。
 その間に入り込んで、魔物の攻撃を防ぐ。

 魔物はカマキリ。2つの大鎌の振り下ろし。
 棍に変え、水平に構えて攻撃を防ぐ。

「お前はもういい。下がって回復してろ!」
「は、はい!」

 鎌を受け止めていたら、周りを別のカマキリに囲まれた。
 だがその程度、障害にもならない。
 360度囲まれているなら、この魔法が最適だな。

「――『晶弾・乱』」

 全方向に『晶弾』を発射し、すべてのカマキリの息の根を止める。
 ハチの巣状態だ。つまり、即死。

「……にしても、数が多すぎる。雑兵の低級冒険者じゃ相手にならないレベルの魔物ばかりだな」

 時間がかかりすぎる。オレが参戦した状態でも、数人は死ぬだろう。
 なるべく死なせないようにはするが……まあ、割り切るしかない、か……。

 とりあえず、重傷を負った騎士をかばい、下がらせる。
 1人下がったら1人出てくる。が、ストックも残り少ない。





 かばって、殺して、かばって、殺して……。
 
「ふむ……だいぶ減ってきたが……。結界の術者はどこに……」

 援軍として【魔導士】が来てくれる予定だが……。いつ来るかわからない。

 あまり期待はできそうにないが……せめて雑兵は片付けておかないとな。
 術者は確実に隊長級。そいつが出てくる前に騎士たちは下げる必要もある。

「うぅあ゛!」

 ――!!
 内側から真っ赤な感情が溢れ出てくる。

 あの4人のときは、持ち物で誰か判明したが、それ以外は種族すらわからない状態だった。

 だが、目の前の光景は違う。

 オレの目の前で、オレが死なせないと決意したあとで、オレが覚悟をしたあとで――!!!

 リーインが――胸を貫かれた。
 操作範囲内だったら、『晶壁』で防げた。だが、あそこはオレから40メートルは離れている。

 かろうじて感情に支配されずに済んだ。
 ギリギリのラインで踏みとどまった。

 周りの騎士に助けは必要なさそうだ。
 それを判断し、リーインを食べようとする魔物たちに近づき、範囲内に入った瞬間、『晶弾』で攻撃し、ヘイトをこちらに向ける。
 その隙にリーインを『晶殻』で覆う。

 リーインの周辺の魔物を掃討し、『晶殻』を解除する。

「リーイン!」
「ラ……ライ……ごめん、ドジした……」
「もう喋るな」

 誰の目から見ても明らかだ。もう、助からない……。

「最期に顔が見れて……顔見せて」

 ああ、仮面着けているもんな。
 仮面を外し、顔を見せる。

「ああ……あの頃に……みんなに会いたかっ……た……」

 そう言うと、リーインは静かに息を引き取った。
 その瞬間、オレの意識は業火に覆われた。

 怒り、怒り、怒り、怒り、怒り…………!!





 次の瞬間――オレが正気を取り戻したとき、この場に魔物はいなかった。
 地面は抉れ、魔物はどれもぐちゃぐちゃの肉塊や、原型を保っていてもハチの巣状態。

 誰がやったのかは明らかだ。もちろん、オレだ。

 時間がどれほど過ぎたのかはわからないが、太陽は昇っている。
 完全に昇りきってはいない。まだ早朝の範囲内だ。

 つまり、オレが我を失ってからあまり時間はかかっていないのだろう。
 にしても、オレがここまで破壊した……? できるのか?
 魔狼フェンリルを殺したときのように、制限が壊れたのか?

 怒りによって枷が外れる? いや、魔狼フェンリルのときは感情は平常だった。
 となると……脳のリミッターか、神器の完全解放のどちらかによるもの。もしくは、その両方か……。

 ともかく、この力を引き出せるように修行しないとな……。
 そうだ、駿のところに行けばいいじゃないか! あいつは【最強】なんだし。
 前回、攻撃がほとんど通らなかったし。

 まず、炎の火力で水晶が溶かされる。
 あいつは【魔】の器で、オレの魔法に干渉して消してくるし。
 抵抗はできるようになったが、それでも成功する確率は3割ほど?

 辺りを見渡すが、騎士も魔物も遺体は放置のまま。
 なのに、騎士の姿はない。

 オレがどれだけ派手に暴れたかがわかるな。
 すぐそばにリーインの遺体がある。
 怒りが再燃しそうになったが、怒りをぶつける相手がいないせいか、すぐに鎮まった。
 こうして思考を働かせていないと、すぐにまた暴走しそうだ。

 それでも、この結界は消えていない。

 つまり、術者は別にいる。森の中だろうか……。
 ここを離れるわけにはいかない。この都市の戦力はかなり低下している。

 そう思っていると、森の奥から異形の蛇が姿を現した。

 腕は6本。上半身は人間に近いと言えば近い。下半身は蛇。全身を緑色の鱗が覆っている。
 連合第三隊隊長の……ナーラージャ。

「何をしに来た……?」
『なるほど……【水晶使い】がいたか』

 何やらぼそぼそと呟いていて、こちらに声は聞こえない。 
 覚醒はしていないが、聴力強化は発動させている。
 それでも聞こえないほど距離があったし、何よりこちらは風下だ。

「……お前は本体か?」
『ああ、私の人形を殺したな、お前は……だが、私は戦いに来たわけではない』
「じゃあ、何をしに来た?」

 怒りをぶつける相手を見つけたオレは、いつ爆発するかわからない。
 オレは無傷だ。魔力も半分も消えちゃいない。

 覚醒し、戦闘態勢を取る。

『何、全滅したようなので私が出てきたまで……』
「……戦うか?」
『いや、今のお主と戦う気はない。平常のお主と戦う気もないがな』
「無駄口を叩くな……! 死にたいのか!?」
『私はこれを言いに来ただけだ』

 異形蛇が真ん中の腕の手を叩くと、結界が消え去った。

「お前か……!」

 そんなオレを無視し、異形蛇は深呼吸をし、拡声魔法を発動した。

『我ら魔物連合はお前たちを蹂躙する!!』

 そう言うと、異形蛇はこちらへ背を向け、森へ帰ろうとした。

「――待てよ。逃がすはずがないだろう!」
『今更仲間が死んだ程度でそこま――』

 うるさいので、距離を詰め、ありったけの魔力で串刺しにした。
 冷静な部分でオレの状態を分析したが、若干、すべての能力が向上しているようだ。

 そして、異形蛇は予想通り、霧となって散った。

 

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