戦闘狂の水晶使い、最強の更に先へ

真輪月

文字の大きさ
110 / 168
第三章 ~戦闘狂の水晶使い~

第104話  戦争の前菜③

しおりを挟む

「チッ! やっぱり偽物か!」

 この怒りは、しばらくは消えそうにないな。
 さすがに人相手に怒りは湧かないが、魔物を見ると襲い掛かってしまいそうだ。
 まずは、精神を鎮めるべきか。
 そのあとで解放状態を習得すればいい。

 ――ゴォッ!!

 突如、こことは反対側――北門付近で特大の火柱が上がった。
 
「何が!?」

 よく見ると、何かが火とともに打ち上げられている。その影は――

「――魔物が打ち上げられている……つまり、術師は味方か……?」

 何はともあれ、急いで確認した方がいいだろうけど……遠い、めんどい。
 ここで待っていよう。どうせ味方だ。

 そう思い、門に背中を預け、座り込むと『通話トーク』が入った。
 相手は【魔導士】だ。

『なんの用?』
『ははは……機嫌が悪いようですね。今、北門に魔物がなにやら文字を書いていたのでね。書き終わるのを見計らって攻撃したのさ。ちょっと来てほしい』
『……わかった』

 過去一番、気が沈んでいる。
 涙が、悲しみがすべて怒りに変換されている。
 本音を言えば、今すぐにでも森に入って連合の魔物を殺し尽くしたい。





 【魔導士】の元――北門に着いた。
 そこには、オレと同じく、仮面を着けた男がいた。

「これです」

 そう言い、仮面の男――【魔導士】は北門の壁の下方を指した。
 そこには大きく、こう書かれていた。

「……我ら蹂躙を開始する」
「私が来たとき、魔物数体がここで怪しげな動きをしていたので、様子を見ていたら、これです」 
「この文字……」
「あまり口にしたくはないんですけど……血文字ですね」

 文字は真っ赤だった。
 どこから血を調達したのか……今はどうでもいい。

「魔物が文字を理解し、使っている……」
「どこで学んだのでしょうね……」
「どうでもいい。連合は解体する。それで解決だ」

 そんなオレを見て【魔導士】は、

「怒りに身を委ねないようにしなさいよ……? たしかに怒りは力を与えてくれますけど、思考を、理性を奪います。私たちのような、力を持つ者は怒りを――感情を制御、殺さないといけません」

 感情を殺す……か。
 
「オレのは、矛先が向いているから問題ない。理性は保つ」
「……だといいんですけどね」

 そう……連合を解体すればこの怒りも収まるはずだ。
 それに、仇討ちは果たしてある。

 つまり、この怒りはリーインだけでなく、ミル、ゴース、ノヨ、ロイズを殺された恨みの再燃でもある。
 
「さて、この付近に魔物はいないようです。今回の襲撃は、宣戦布告が目的のようですね……」
「いや、蹂躙・・と書かれている。やつらはそれほど我らをなめている。つまり、まだ切り札を持っている」
「なるほど……。たしかに、隊長との戦闘は君とエドガーさんのが最初で最後です」
「おまけに、あれは第十隊――暗殺部隊。直接戦闘の部隊ではなかった」
「でも、あの頃より格段に強くなっていますよ」
「だが、それすらも及ばない可能性だってある」

 向こうの実力がわからない以上、推測で行動するのは危険だ。

「それに、オリハルコン級冒険者である爺さんすら、興味ないと言って見逃した存在もいる」
「ハッタリだと嬉しいんですけどね……」

 ハッタリの可能性か……ないとは言えない。
 負傷状態の隊長人狼と2対がかりでも勝てないと見込んで、とか。

 可能性はかなり低いけどな。
 まず、爺さんが圧倒的強者と感じたこと。
 あの隊長人狼が救援信号を送った後に現れた存在であること。

 こんな存在が雑魚なはずがない。
 問題は、どこの地位にいるかだ。
 どこぞの隊の隊長なのか、隊長より下なのか……。

 どちらにせよ、存在自体が絶望的だと考えておく必要がある。
 さて、話を変えよう。

「さて、【魔導士】。これからどうするつもりだ?」
「さぁてね。せっかくエルフの国に来たことだし、この国をウロウロするのもいいかもしれない。ラ……君は?」
「オレは明日、リザードマンの国へ行く」
「そうか……もう少し休んでもいいのでは? 平静を装っているのかもしれないけど、憎悪と殺気が漏れてるし、口調も変わっちゃってるし……」

 殺気がオレの容量を超えてしまっているようだ。
 ただ、憎悪まで読み取るって……オレ自身、出しているつもりはないんだが……。
 殺気に混ざっているのか?

「そうか……なら、ゆっくりしていくとしよう」

 今は殺戮衝動が心の内にあるけど、これは消すべきだな。
 街中で過ごせば幾分かはマシになるだろう。

「うん、それがいい。じゃあ、私も今日はゆっくり休むとしよう。相棒を酷使してしまったからね」





 オレは都市に入り、宿で受付をしていた。
 フレイの労いも考え、高級な宿だ。

 朝にも関わらず、チェックインの受付ができるのは、連合の襲撃があったからだろう。

「いらっしゃいませ、宿泊ですか?」

 誰かが入ってきたようだ。

「はい」
「では、こちらの紙に必要事項を記入してください」

 なんで宿まで一緒なんだよ……。

 聞き覚えがあるな、と思ったら、声の主は【魔導士】だった。

「まさか……【放浪者】が2人もこの宿に泊まるだなて……」
「あの南門での戦いを鎮めたらしいわよ?」
「町の騎士たちが夜通し戦っていたのに!?」

 何やら裏方でひそひそと話声が聞こえる。
 気を紛らわすために聴覚強化を発動しているせいで筒抜けだ。

 あと、騎士だけじゃなくて冒険者も戦っていたからな!
 戦いを鎮めた件に関しては、【魔導士】は出遅れ。何もしていない。

「やあ、まさか同じ宿とはね」
「……どうも」

 受付を済ませ、部屋へ入る。
 フレイの世話は任せてあるし、オレはゆっくりするだけだ。

 聖火の指輪リングオブクリーンフレイムを発動し、汚れを落とす。

 コートを脱ぎ、ハンガーに掛ける。
 手袋も外し、仮面とともに机の上に置く。
 靴を脱ぎ、カーテンを閉め、ふかふかのベッドへダイブする。

 そろそろ人々の活動が始まる頃だ。騒がしくなるが、気が紛れていい。
 自分だけの世界に籠ったら、すぐにでも殺戮衝動が顔を覗かせるだろう。

 ――あれは守れなかった。

 リーインだって騎士だ。他に戦っている騎士や冒険者だっていた。
 死と隣り合わせなのは、リーインに限った話ではなかった。

 オレがリーインの側に『晶人形ゴーレム』を出しておけば守れたかもしれない。
 だが、『晶人形ゴーレム』は判断力が鈍い。
 攻撃を命令していれば、リーインは守れなかった。
 かといって防御を命令していても、あの魔物の数だ。守り漏らし、リーインが死んでいた可能性は十分にある。

 オレにはどうしようもないんだ。……どうしようも。

 ああ、まただ……。
 オレは仮にも【知】の器の所持者だ。
 知を司るオレが衝動に身を任せてどうする……。

 そのとき、ドアがコンコン、とノックされた。

「……はい」
 
 いざというときのために、即座に戦闘に入れるように起き上がっていたが、そんな心配は杞憂に終わった。

「【ま……アーグ、なぜここへ……?」

 そこには、仮面を外した【魔導士アーグ・リリス】がいた。

「うん、どうにもまだ立ち直れていないようだから、話し相手になってあげようと思ってね……どうですか?」

 オレにとっては嬉しい話だ。断る理由はない。

「……ん」

 オレはベッドに、アーグは椅子をこちらに向けて座った。
 そして、なにやら魔法を唱えた。
 オレはカーテンを軽く開けた。

「これだけは言っておこうと思いましてね。傷口を抉るかもしれないけど……。救えないものはどう足掻いても救えないよ」

 救えないものはある。覚悟は決めていた。それに、今も決まっている。

「今回は偶然、それが君の同級生だっただけで。たしかに、私たち力持つ者は他人を助けることができる。でも、自分ですら助けられないようなら、他人を助ける資格はないよ」

 ノブレス・オブリージュ。
 強き者には、弱き者を助ける義務がある的な考え方。
 この考えはこちらでは、近衛騎士や冒険者の存在意義を示す。

「問題ない……オレは自分を持っている。知り合いの死だって覚悟はしていた。この覚悟が弱かったはずがない」

 覚悟が弱かった、だなんて言わない。
 この、死の覚悟に強弱はない。

「そう! なんだ、わかっているじゃないですか!」
「それに、この先休んでいる暇はない。やつらが本格的な活動をする以上、オレも休んではいられない」
「今は休んでていいですよ。相棒のためにもね」

 とりあえず、明後日にでもへラリア王都に戻って、あの場所へ行こう。
 更なる強さが必要だ。

 この殺戮衝動は殺さない。
 これがオレの力を出してくれるのは変わらない事実だ。

 この衝動と折り合いをつけていく方法はいたってシンプルだ
 ――この力をオレの足元にひれ伏させればいいだけ。






しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。 12/23 HOT男性向け1位

ダンジョンに行くことができるようになったが、職業が強すぎた

ひまなひと
ファンタジー
主人公がダンジョンに潜り、ステータスを強化し、強くなることを目指す物語である。 今の所、170話近くあります。 (修正していないものは1600です)

男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)

大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。 この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人) そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ! この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。 前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。 顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。 どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね! そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる! 主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。 外はその限りではありません。 カクヨムでも投稿しております。

異世界帰りの少年は現実世界で冒険者になる

家高菜
ファンタジー
ある日突然、異世界に勇者として召喚された平凡な中学生の小鳥遊優人。 召喚者は優人を含めた5人の勇者に魔王討伐を依頼してきて、優人たちは魔王討伐を引き受ける。 多くの人々の助けを借り4年の月日を経て魔王討伐を成し遂げた優人たちは、なんとか元の世界に帰還を果たした。 しかし優人が帰還した世界には元々は無かったはずのダンジョンと、ダンジョンを探索するのを生業とする冒険者という職業が存在していた。 何故かダンジョンを探索する冒険者を育成する『冒険者育成学園』に入学することになった優人は、新たな仲間と共に冒険に身を投じるのであった。

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

処理中です...