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第三章 ~戦闘狂の水晶使い~

第106話  蹂躙開始

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 魔物連合の戦争宣言より一週間後。
 朝日の到来とともに本格的に侵攻が始まった。

 各国各都市に連合の部隊が攻撃を仕掛けたり、睨み合いをしたり。
 前者は単純だが、後者は消耗戦狙いだ。

 不思議なことに、村々は襲われない。あと、冒険者学校も。
 輸送便も襲われない。
 連合が襲うのは都市のみ。不思議な連中だ。

 とはいえ、都市が陥落させられても困る。
 二次産業、三次産業が集中するのが都市だ。
 一応、村だけでも生きてはいける。

 ああ、移住しようとしている人は襲われるらしいな。
 すでに数件、報告が来ている。
 どこでどう判断しているのか……。
 輸送便に偽装しても襲われるらしい。
 そのため国は、都市の住人に疎開を禁止させている。
 


 そこで、オレたち【放浪者】の活躍が大いに期待されている。重圧。

 その件で、ヤマルも【放浪者】に着いたらしい。二つ名は【後鬼】。
 ちなみに、コラヤン兄は【前鬼】らしい。兄妹のコンビネーションもあってのことだろう。

 近距離武器で、超重量級の大剣を持つコラヤン兄――ヨウファン。
 中距離武器の双頭の槍を扱うコラヤン妹――ヤマル。こいつはオレのことを師匠と呼ぶ。

 リーインの死は届いているはずだ。同性で、同学年で、2人は6年間机を並べた仲だ。
 オレ以上に心が抉られたかもな。
 ターバ? 大丈夫だろ。悲しみつつも仕事はやる人間だし。



 そこでオレは何をしているのかと言うと、リザードマンの国に来ている。
 リザードマンの【放浪者】もいるが、人手不足らしい。

 連合はもう、部隊とかの垣根を越えて一つの軍を作っている。
 それが襲ってくるわけなんだが、リザードマンの国を襲う部隊はなぜか魔術師が多い。
 もともとリザードマンの国には魔物連合第三隊がいたせいかもな。

 それと、宣戦布告以前、リザードマンたちは籠城戦を取っていた。
 最小の攻撃と最大の防御。
 被害は各国間で一番少なかったが、財政も悪化し、討伐数も少なかったらしい。

 それでなめられているのかもしれない。
 他の国より魔物の数が多い。



 オレが目指しているのはその中でも特に侵攻の激しい都市。今にも陥落寸前らしい。
 その理由は、連合側も長期戦を取っているからだそうだ。おまけに、連合に全方位囲まれていると。
 侵攻の開始から3日しか経っていないのに……。

 正直、勝てるのかどうか怪しく思えてきた。
 オレたち【放浪者】がいろんな都市を訪れ、連合を倒してもまたすぐに現れる。
 それほど数が多い。

 幸いにも、エルフの都市メギオンのように中枢は落とされていない。
 まあ、だからこそこうしてオレが向かっているわけだが。

 なんて考えていたら、目的の都市が見えてきた。
 都市内部の、外壁近くの民家から火の手が上がっている。
 外から火の魔法でも打ち込まれたか。

「さーてと、フレイ、行くぞ!」
「ぶるるっ!」
 
 フレイだって戦える。ミスリル級の実力は持っていると思う。
 オレは防具だけを着用する。武器はまだ出さない。

 着地と同時に、フレイが『激震インパクト』を地面に放つ。
 衝撃で、辺りの魔物バランスを崩して転ぶ。
 辺りに味方がいない場所を選んであるため、味方への損害はない。

 今ので、魔物たちの注意がこちらに向けられた。『激震インパクト』は地面に向けると轟音がするからな。
 知能指数の低い魔物でもこちらに気づく。

 周囲の魔物が起き上がり、オレたちに襲い掛かるが、これもフレイ案件だ。
 フレイが『雷翔サンダーミサイル』を360度に放つ。
 その直線状にいる魔物は帯電し、事切れる。
 その近くに立っていた魔物も、電気を貰い、倒れる。

 なんて便利な電気属性!
 難点は直線状の動きしかできないこと、発射地点が限られることか。

 一瞬で、数十もの魔物が地に倒れた。
 これすべて、フレイの功績だ。
 フレイは範囲魔法に長けているからな。こういった場所は得意としている。

 そんなオレたち……フレイを危険と判断したのか、進化型オーガが2体、魔物たちをかき分けて現れた。
 オーガの1体は『爆炎ボム』を。もう1体は、『人』の背丈ほどもある棍棒を握りしめ、突進してくる。
 
「ここはオレの出番だな。――『晶壁』」

 突進するオーガの目の前に『晶壁』を展開し、進路を妨害する。
 そして、一拍遅れてやってきた『爆炎ボム』が『晶壁』にぶつかって、隣のオーガを巻き込んで爆発。
 ちなみに『晶壁』は傷一つついていない。

『グ……』

 爆発の衝撃で『晶壁』の横に飛び出してきたオーガは苦し気な呻き声を上げながらも立ち上がる。
 よかったな。あとはオレたちまで一直線だぞ?

 オレはフレイから降り、フレイには辺りの雑兵の殲滅を頼んだ。

「来いよ。そんなものか?」
『グオォォオオ!!』

 挑発してやると、簡単に激高して再び突進してきた。

「……薄ノロが」

 そう、オレはオーガの耳元・・で囁き、オーガの顔面に膝蹴りを食らわせた。
 そして、オーガの巨体を引っ張り、後ろのオーガの放った『炎球ブレイズボール』を防ぐ。 

『ガ……』

 今ので、オーガは死んだ。 

「盾としては十分な素質があるようだな。使い切りなのは、費用対効果が悪いが」

 オレは感謝の念を若干抱きつつも、オーガの亡骸を無造作に放り投げる。

『グ……グオオオ!』

 仲間を殺された魔術型のオーガは激高し、捨て身で迫ってくる。
 魔術型……遠距離型だろ、お前。

 走りながらあらゆる魔法を放ってきた。
 もう、自棄やけだわ、こいつ。
 オレに当たる数は少ない。もう、手当たり次第だな。

 範囲型の魔法は仲間まで巻き込んでいる。 
 知能指数の大幅な低下が見られる。

「ふぅ……仲間を巻き込むのはいただけないな。――『晶弾・龍』」

 まだ雑兵が残っていることだしな。広範囲殲滅型で一気に……!
 魔術型のオーガをハチの巣にし、そのまま辺りの魔物も貫く。

「南門は粗方終了だな。あと3か所か……」

 西門、東門、北門か。

「現在戦闘に参加していなくて、戦闘に参加できる人員をすべて西門に向けてくれ」
「「了解!」」

 オレは【放浪者】。戦闘のスペシャリスト……専門家という扱いだ。
 だから、騎士や冒険者に命令できるし、尊敬される。
 
 戦っていた騎士と冒険者の中で比較的軽傷な人員はそのまま西門へむかった。
 魔力、体力が限界に差し掛かっている騎士、冒険者は治療、休養のため都市内に帰って行った。

「ふむ……三分の一は向かったか。この都市は交代が早い。消耗も早いはずだ」

 門が開いたとき、中に何人も待機しているのが見えた。
 今日で侵攻3日目だ。あれだけ待機しているのはおかしい。
 疲労が回復しかけのときにまた疲れるのがしんどい。

「やれやれ……戦闘方法も教える必要があるな、これは……」

 効率を度外視してどうするんだ、ったく……。



 その後、オレは東門、北門の魔物を殲滅した。
 その度、戦闘続行が可能な人員を西門に向かわせ、時間を稼いだ。
 これで少しは学習してくれるかな。

 今回のような場合、効率的な防衛戦はこうだ。
 シフト制だ。4時間交代がいいところだろう。
 4時間戦って、8時間休憩。……人数不足が深刻なら4時間休憩か。
 それを4か所それぞれで行えばいい。

 戦闘も、3か所は遅延戦闘でいい。
 どこか1か所を本気で殲滅すればいい。4時間交代で。

 これなら隊長級が出てこない限りは大丈夫……いや、隊長が出て来たらそこに集中すればいいだけか。
 リザードマンにも【放浪者】はいるし、騎士隊長もいる。

 リザードマンの騎士団長、副騎士団長、各隊長7人。それに【放浪者】がプラスα。

 

 殲滅後、騎士団本部に寄り、戦闘方法を叩き込んだ。
 昨日は騎士団隊長もいたらしいが、この戦い方について何も指摘しなかったのか?

 ま、この都市に限った話だ。他の都市はちゃんと戦えているらしい。

 オレは他の都市を訪れ、魔物を殲滅してまわった。  
  


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