113 / 168
第三章 ~戦闘狂の水晶使い~
第107話 人斬り
しおりを挟む宣戦布告から1か月が経過した。
残念なことに、この1か月の間に1つの都市が陥落した。
エルフの都市の1つだ。その都市の名はライサン。
なんでも、連合の隊長が3体同時に攻めてきたらしい。
【放浪者】や腕利きの騎士や冒険者も数人いたが、隊長3体の前には歯が立たず。
都市の人間は皆殺しだそう。
ライサンは魔物の巣窟と成り果てたそうだ。
ライサンを滅ぼした連合の隊長はどの隊なのか、なんの種族なのか。情報は一切不明。
まあ、皆殺しだったわけだからな。
依然不明と言えば、連合の盟主だ。
不可解な配下の魔物の言葉。
雑兵はおろか、隊長ですらその素顔も見たことはないらしい。
魔物の言葉を信じるなら、盟主は生まれて1年も経過していない。
だが、連合はそれよりも先に活動を開始していたという。
未だに連合の隊長は討伐されていない。
先が思いやられる話だ。おまけに、降伏を口にする者まで現れだす始末。
あいつら連合の目的はみんな知っているはずなんだがな……。
連合は全部で10の隊からなる。
3は、魔術部隊。
9は、隠密部隊。
10は、暗殺部隊。
その他の1,2,4,5,6,7,8は不明。
魔物の数を考えるに、その隊に所属する魔物も参戦している。
今となっちゃ、隊ごとに攻めてきているわけではないから関係ないか。
隊の特徴、役割を知って得ることができるのは、その隊の隊長の攻撃方法の予測ぐらい。
で、オレが今、何をしているのかと言うと、「どうせ戦闘中だろう」と言われるだろう。
だが、今回ばかりは違う。
外に出ると星空。
そう。オレは宿で寝ているのだ。
ここはへラリアのシヴィル領にある都市の1つ、デュレース。
正直、休んでいる時間すら惜しい。だが、これは生命として必要な行為であり……。
実を言うと、この都市は絶賛侵攻されている最中なのだ。
だが、その侵攻は武力による侵攻ではない。
毎夜毎夜、人斬りが発生するのだ。
先日は領主の次男が斬られたらしい。
斬られるのはこの都市の中枢に根を張る人物ばかり。
被害者から、魔物連合によるものだろうという結論に至っている。
そう、この都市はじわりじわりと侵攻されているのだ。めちゃくちゃ地味に。
こんなだから、勘のいい数人は逃げ出したが、全員、森の中で殺されているのを発見された。
全員まとめて。
そして、これが人斬りが魔物であるという説の確信を高めたのだ。
憶測だが、今日で侵攻10日目。
幻術を見破るには『透視』が必要なのだが、『透視』が付与されている仮面は少ない。
ほんの数人にしか与えられていない、超レアもの。
オレがちょうど王都上空を飛んでいたら騎士団長に見つかり、派遣されたというわけだ。
おまけに、この都市には最強決定祭で因縁をつけてきたアライバルがいる。
覚醒していないため冒険者だが、あの祭に参加しただけあって、冒険者の中ではそこそこの上位者……だろうなぁ。
詳しいことはまったく知らね。
で、人斬りが発生する夜に寝ていていいのか、と。
いいのだ。
だって、今日は満月で月明りで道がよく見える。
今日はひとまず、都市在住の騎士と魔鉱級の冒険者が見回りだ。
念の為、オレも狙われる可能性は十分にあるため、自動迎撃の魔法具をセットし、『晶人形』も忍ばせる。
誰かがこの部屋に入ってきたら魔法具が反応し、攻撃。
それと同時に『晶人形』がオレを守りつつ、オレを起こす。
翌朝。
異常はなし。部屋に誰かが侵入した形跡もなし。
魔法具も未発動、『晶人形』も変わらず。
見回りはどうだったのだろうか?
騎士団駐屯地に聞いてみようか。
『はい、こちらデュレース騎士団駐屯地……【水晶使い】様、いかがされましたか?』
『昨晩、人斬りは出たか?』
『……偵察部隊が1つ、殺られました』
『!?』
腕利きを集めた偵察部隊のはずだろう!? それがあっさりと?
せめて抵抗し、増援を呼ぶことも……オレを呼ぶこともできたはずだ。寝てたけど。
『犯人はやはり……同一犯のようです。それも、かなり腕利きのようです』
『覚醒して見回らせていたのか?』
『ええ、万全の体勢で回るように指示が出されておりました』
たしか、最低でも3人で編成されていたはずだ。
複数のパーティーで見回りをさせていたから、殺されたのが1パーティーなら、他のパーティーは無事か。
『……今晩は私が出ようか……』
『お待ちください! 貴方は『人』の希望! そんな危険地帯に送り出すわけにはいきません!! 何卒、情報が集まるまでお待ちを!!』
こいつ……オレがここに来た意味を理解していないな。
『オレはこの都市を救うように、と派遣されたんだが……? 今も連合に襲われている都市はいくつもあるんだが……?』
『…………』
『……強情だな。わかった。今晩は出ない』
こいつの意見も理解できるし、聞かないわけにはいかない。意見の尊重だ。
『ありがとうございます!』
『だが、明日は出るぞ?』
『は!』
話がひと段落したところで、『通話』を切る。
今晩は出ない。
なんなら、この宿からも出ない方がいいかもしれないな。
敵に見つかって襲われたら、他の客に迷惑がかかる。もう見つかっている可能性もあるか。
人斬りは重要人物しか狙わないらしい。
昨日のは……戦力にはなるよな。大損失だ。
減り続けるこちらの戦力。底の見えない敵方の戦力。
魔物も生き物だから、限界は必ずあるはずなんだが……。まるで終わりが見えない。
もう、討伐数は万を超えたんじゃないか? 森の面積の方が『人』の生活圏より圧倒的に広いとは言ってもな……。
多すぎる。隊長も戦場に出てこないし。こっちの騎士団隊長は休みなく出ているのによ。
騎士団はブラック企業だな。休みがない。
休暇制度は残っているままなんだけど、この状況で休めるはずがない。
仲間と、家族と、友が後ろに立っているわけだ。
数年前、村にスライムが攻めてきたことを思い出すな。
父さんたち村の男衆が命懸けで戦いに行ってたっけな……。その瞬間、寝てたから見てないけど。
さて、そうと決まれば、さっそく朝飯!
フレイにはこの都市にいる間、休ませるから連絡は不要だが……適度な運動は必要なんだよな。動物だから。
謝っておくか。自体が解決されるまで、オレがここにいることを知られることを防ぐために動けませんよ、と。
フレイは渋々ながらも快諾してくれた。
だがオレは知っている。
この宿の餌が、高級宿に匹敵する質であるということを。
だからこそ、ここを選んだわけだが。
この宿屋は、アヌースやヒューギーに乗る人からすれば有名だ。
ただ、ヒューギーを主に扱うのは十字架部隊だ。やつらは、冒険者組合の部隊だから、ヒューギーは組合が預かる。
ここを使うのは、成功している商人や、大手の商社に所属する人、上位冒険者、【放浪者】に限られる。
大抵の場合は商人だが。
そんなわけで基本、一部屋は空いている。
使う人が限られているせいでな。
さて、と。
朝飯を食べに行こうか。
敵の目がどこにあるかわからない以上、【水晶使い】の恰好はすべきではないな。
と、いうわけで、コートは脱いだままで、仮面も着けない。
これなら誰もオレを――魔法を使わない限りは――【水晶使い】と認識できまい。
そのまま、オレはそのラフな格好で過ごした。
念を入れ、三度の飯のとき以外は部屋から出なかった。
引きこもりの生活はこんな感じなのかな……。
そして夜。
少しでも情報を持ち帰らせるため、パーティーを1つにまとめ、大規模にしたようだ。
これなら、誰かは生き残るなり、情報を伝えることができるだろう。
お偉いさんの警護ももちろん、抜かりはない。
警護に当てられていない、かつ優秀なメンバー構成だそうだ。
人数は12人。いずれも覚醒者。
おそらく今夜、この都市で暇な覚醒者はオレだけだろう。
問題は、敵がこのパーティーを襲うのか、という点だが……。殺気でも撒き散らせておけば寄ってくるかもしれない。
ま、それは運次第といったところか。
だが、オレは謎の確信を持っていた。
人斬りは現れるだろう、と。
0
あなたにおすすめの小説
《カクヨム様で15000PV達成‼️》悪魔とやり直す最弱シーカー。十五歳に戻った俺は悪魔の力で人間の頂点を狙う
なべぞう
ファンタジー
ダンジョンが生まれて百年。
スキルを持つ人々がダンジョンに挑む世界で、
ソラは非戦闘系スキル《アイテムボックス》しか持たない三流シーカーだった。
弱さゆえに仲間から切り捨てられ、三十五歳となった今では、
満身創痍で生きるだけで精一杯の日々を送っていた。
そんなソラをただ一匹だけ慕ってくれたのは――
拾ってきた野良の黒猫“クロ”。
だが命の灯が消えかけた夜、
その黒猫は正体を現す。
クロは世界に十人しか存在しない“祝福”を与える存在――
しかも九つの祝福を生んだ天使と悪魔を封印した“第十の祝福者”だった。
力を失われ、語ることすら封じられたクロは、
復讐を果たすための契約者を探していた。
クロは瀕死のソラと契約し、
彼の魂を二十年前――十五歳の過去へと送り返す。
唯一のスキル《アイテムボックス》。
そして契約により初めて“成長”する力を与えられたソラは、
弱き自分を変えるため、再びダンジョンと向き合う。
だがその裏で、
クロは封印した九人の祝福者たちを狩り尽くすための、
復讐の道を静かに歩み始めていた。
これは――
“最弱”と“最凶”が手を取り合い、
未来をやり直す物語
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~
空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。
もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。
【お知らせ】6/22 完結しました!
最強賢者の最強メイド~主人もメイドもこの世界に敵がいないようです~
津ヶ谷
ファンタジー
綾瀬樹、都内の私立高校に通う高校二年生だった。
ある日、樹は交通事故で命を落としてしまう。
目覚めた樹の前に現れたのは神を名乗る人物だった。
その神により、チートな力を与えられた樹は異世界へと転生することになる。
その世界での樹の功績は認められ、ほんの数ヶ月で最強賢者として名前が広がりつつあった。
そこで、褒美として、王都に拠点となる屋敷をもらい、執事とメイドを派遣してもらうことになるのだが、このメイドも実は元世界最強だったのだ。
これは、世界最強賢者の樹と世界最強メイドのアリアの異世界英雄譚。
SSSレア・スライムに転生した魚屋さん ~戦うつもりはないけど、どんどん強くなる~
草笛あたる(乱暴)
ファンタジー
転生したらスライムの突然変異だった。
レアらしくて、成長が異常に早いよ。
せっかくだから、自分の特技を活かして、日本の魚屋技術を異世界に広めたいな。
出刃包丁がない世界だったので、スライムの体内で作ったら、名刀に仕上がっちゃった。
最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。
【完結】うさぎ転生 〜女子高生の私、交通事故で死んだと思ったら、気づけば現代ダンジョンの最弱モンスターに!?最強目指して生き延びる〜
旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
女子高生の篠崎カレンは、交通事故に遭って命を落とした……はずが、目覚めるとそこはモンスターあふれる現代ダンジョン。しかも身体はウサギになっていた!
HPはわずか5、攻撃力もゼロに等しい「最弱モンスター」扱いの白うさぎ。それでもスライムやコボルトにおびえながら、なんとか生き延びる日々。唯一の救いは、ダンジョン特有の“スキル”を磨けば強くなれるということ。
跳躍蹴りでスライムを倒し、小動物の悲鳴でコボルトを怯ませ、少しずつ経験値を積んでいくうちに、カレンは手応えを感じ始める。
「このままじゃ終わらない。私、もっと強くなっていつか……」
最弱からの“首刈りウサギ”進化を目指して、ウサギの身体で奮闘するカレン。彼女はこの危険だらけのダンジョンで、生き延びるだけでなく“人間へ戻る術(すべ)”を探し当てられるのか? それとも新たなモンスターとしての道を歩むのか?最弱うさぎの成り上がりサバイバルが、いま幕を開ける!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる