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第三章 ~戦闘狂の水晶使い~

第113話  鎌鼬⑥

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 鎌鼬かまいたちに無数の水晶の剣や槍が降り注ぐ。
 それを見て勝利を確信したオレだった。が……

『――『水龍剣リヴァイア』』

 突如、横槍が入った。
 水晶の剣や槍は横手からやってきた大量の水に押し流された。
 もはや意味はない。水晶はすべて消した。

 鎌鼬かまいたちも同様に流されるが、その先にはもう1人、外套を纏った者が立っていた。
 そいつが鎌鼬かまいたちを受け止め、それと同時に水は消えた。
 鎌鼬かまいたちは気を失っているようだ。

 オレは、その新たに現れた謎の存在に既視感を覚えた。
 そしてすぐに答えに辿り着いた。それと同時に向こうから声を掛けられた。

『……【水晶使い】ライン・ルルクス。久しぶりだな。いつ以来だ? 最後に会ったのは……』

 オレは覚えている。
 半年以上前、リザードマンの国――ジュイラス国でだ。
 あのときは戦闘には入らなかった。

『もう半年ほど前か。強くなったようだが……まだまだだな』

 前回もそう言って見逃された。かなり強くなったと思ったんだがな。

 【加護】は、持つだけでその宿主を強くする、ステータスX%アップみたいな効果がある。
 もちろん、この研究結果だって本当に正しいのかわからない。なぜなら、後天的に【加護】を獲得したという実例がないためだ。 
 単純に、【加護】を持つ存在は例外なく覚醒し、その中でも上位の強さを持つからだ。

 オレや駿のように、【加護】の親玉とも言うべき神器を所持する場合、それ以上の強さを得ることができるのだろうと推測できる。
 現に、オレは【知】の【思考加速】を獲得し、強くなることに成功した。

 しかし、こいつはそれでも「まだまだ」だと言う。

「まだまだ、だと……? どういうことだ?」
『言葉通りの意味だ。今のお前であれば、この私や鎌鼬かまいたちに勝つ可能性は賭けに出てもいいぐらいにはある』

 ……? つまり、それよりも強い存在が控えている、と見ていいのか?

『……だが、我らが盟主には勝てない。幸い、お前……お前の持つ神器が覚醒するまではお前は殺させない。それが我らの意向だ』
「へぇ……」

 なぜこいつは神器の存在を知っている!? 誰かに話した記憶はないし、なにか特徴がある……。
 まさか……紋様か? 

 あの部屋に行ったとき、オレの顔の痣は変化した。
 もともとあった痣は形が若干変化し、その上から新たに痣が出現した。
 
 だが、これは誰にも見られていな……いや、クラーク村では見られたかもな。
 だが、それでも見られた「かも」だ。見られていない可能性もある。と、言うか見られていない確率の方が高い。

 いや、そもそもそれ以前に知っていた? 
 前回、神器のことすら知らなかったにも関わらず「まだまだ」と言った。
 つまり、オレが自分が神器の所持者であることを知るよりも前に知っていた……?

 いや、それよりも……

「オレを殺させない? なぜだ? オレはお前ら連合の仲間を大量に殺しているんだぞ……?」
『我らが盟主の判断だ。それに従うのが我らだ。それこそ、我らが盟主の軍門に下る際に交わした盟約』

 忠誠心の篤いことで……。
 オレを殺さないと言った。今ここで話をしても問題ないだろう。

「そうか、なら次だ」
『……』
「そいつは本気でオレを殺そうとしてきた。なぜ?」
『こちらの監督不行き届きだな。だが、こうして我が現れたではないか』

 ……大丈夫かこの組織? 監督不行き届きって、会社だけじゃない。部活でも、学校でもめちゃくちゃ怒られるやつだぞ。
 オレは受け身だから怒られはしないんだけど。怒られるのは先生や上司だ。
 
『…………』
「…………」

 暫し睨み合う。
 オレはこいつが何かを仕掛けて来ないかの警戒。
 こいつはオレの質問待ち。

『これ以上ないようなら、もう行くぞ』
『う……うぅ…………はっ!』

 抱えられていた鎌鼬かまいたちが目を覚ました。

『ちょうどいい。――『回復ヒール』』

 謎の外套魔物は懐から緑色の石を取り出すと、その石に込められた力を解放した。
 込められていた魔法は回復魔法、『回復ヒール』。対象の体力と引き換えに傷を癒す魔法だ。

「なぜそれを……!」
『魔物が持っていたらおかしいか? 魔物だって回復術師はいる。数は少ないから後方支援だがな』

 そうだ……こいつが腰に差している剣も、見た感じオリハルコン製なんだ。
 こいつらはミスリル鉱山を保有し、それと同時に腕利きの鍛冶師もいるのだろう。
 オリハルコンを加工する専用の道具はどうしているのか……。そこは微小な問題だから放っておいていいか。

『さあ、どうする? 今の魔法は我の体力を対価としたが、十分に戦えるし、何より鎌鼬かまいたちも復活した。それでも尚、戦いを挑むか?』
「…………その前に、質問だ」
『なんだ?』

 ちっ! こいつの余裕な態度。気に入らない。

「お前らは魔物連合でどの立場だ? どの隊の隊長だ?」

 この情報だけは持ち帰らないといけない。今は――普段は愚かだと一蹴する案だが――相手に馬鹿正直に聞くしかない。

『我らは隊長に非ず。盟主直属の精鋭部隊――【六道】。隊長共と同列に考えられては困る』
「ふっ……はははははは!!」

 そうか……魔物連合の隊長はこいつらよりも弱いのか! へぇ~~……。 

『……まあいい。さて、今度は我の番だ。我らが盟主のお言葉をお前たちに伝える』

 盟主直々のお言葉? ろくでもないことだろ、どうせ。
 降伏勧告か? 今すぐ降伏するなら命だけは助けてやる的な。

『……我ら魔物連合の兵たちによる一切の攻撃、襲撃は朝日が順次、中止する。もちろん、正当防衛は別だが』

 攻撃の手を緩めるのではなく、攻撃をやめる? なんだ? 意図がまったく読めない。
 【思考加速】でいろんな可能性を考えているが、どれも違う気がする。

『お前たちに最後のチャンスを与えよう。約三か月後の8月の1日』

 8月1日……大分先だな。互いの準備期間というわけか?
 いや、こちらの準備期間なのかもしれないな。

『我らの選り抜きたちを指定の場所へ配置する。そいつらを倒すことができたのなら、暫しの猶予を与える。……以上だ。受け取れ』

 そう言って投げてきたのは、音声を記録する魔法具だった。

『これはお前当てだ。それじゃ』
「待て! お前たち――【六道】とやらはどうなる? 選り抜きに含まれるのか?」
『さあな。それは盟主様がお決めになることだ。……ああ、我の姿、名前を覚えておけ』

 そう言うと、謎の外套魔物は頭を覆っているフードを外した。

『我は【六道】が1つ、餓者髑髏がしゃどくろ

 そこにあったのは、角の生えた骸骨の顔だった。
 連合の魔物である証として、右目辺りに赤黒い痣がある。

「で、そいつは【六道】の鎌鼬《かまいたち》か……」
『そういうことだ。ちなみに【六道】は封印されていた魔物で構成されている』

 全員が封印されていた魔物だと!? そんなやつが最低でも6体……!

「封印を解除できるのか!」
『できた、と言うべきだな。解呪師は少し前、魔狼フェンリルに不意を突かれてお亡くなりになられたからな』

 魔狼フェンリルの封印を解いたのもこいつらかよ。
 こいつらはオレたちが知らないこと――失われた知識を持っているんだな。
 非常に不味い状況だ。このままだと後手後手に回り、敗北する。

『ああ、お前にいい事を教えてやろう。お前の旧友――ミルとか言ったか? そいつらを殺したのは私だ』
「!!?」

 怒りが再燃してきた。

『そうだ。その怒りを忘れぬように……。行くぞ。――『ミスト』』

 辺りに霧が立ち込める。オレは追撃を仕掛けるつもりは理性の面でも、感情の面でもなかった。

 そうか……。あいつらをあんな姿に変えたのはあいつ――【六道】餓者髑髏がしゃどくろだったか……。
 怒りの矛先を得ることができた。

「必ずオレの手で殺して……この世から消し去ってやる!!」





 そして翌日
 3つの重大ニュースが国家間を飛び回った。

『魔物連合が攻撃を中止!!』
『新たに遺跡発見! 封印は解除済み』

 そして3つ目は……



『【双剣士】ターバ・カイシが魔物連合第十隊隊長、バルクスを撃破!!』


 

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