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第三章 ~戦闘狂の水晶使い~
第112話 鎌鼬⑤
しおりを挟むオレが手招きをすると、『隕晶』の鎌鼬の腹ぐらいの高さから水晶が伸びてきた。
「――『晶棘』」
未だに『風舞』の効果時間内にある鎌鼬は死角だった関わらずそれを感知し、すれすれで躱す。
だが、まだまだ終わらない。終わらせない。
オレが右腕を横に振るうと、『晶棘』から垂直方向に再び『晶棘』が伸びた。
それに合わせ、『隕晶』の体積も小さくなる。
こればかりは鎌鼬が不利な体勢を取っていたのもあって、鎌鼬の脇腹に直撃した。
……いや、間一髪、両手の長い爪を交差させることで防いだようだ。
だが、勢いは消せていない。
そのまま鎌鼬は吹っ飛び、民家に激突。2階建て民家の2階の壁に大きな穴を開けた。ごめんなさい。
穴の向こうからムクリ……と体を起こす鎌鼬が見えた。
水晶をすべて『晶弾』に変化させ、3つにまとめる。これで、『晶弾・龍』が3つできた。
それらを三方向から鎌鼬《かまいたち》を包み込むように放つ。
『ぐ……おぉおおおおおおおお!!』
いくつかの『晶弾』には『重撃』を付与した。さすがに全部は無理だったが、2割ほどはできたかな?
付与されたのが『晶弾』という小さいものだから強い吹き飛ばし効果は期待できない。
が、衝撃は骨身にまで届く。それによる悲鳴だろう。
瓦礫の中から出てきた鎌鼬はかなりダメージを負っているようだ。外套のせいで見れないけど。
『ふーー……ふーー……』
風を纏うことでダメージを軽減していたようだ。ダメージも少なくないようだが。骨折は防いだのかな。
『――『鎌鼬』!!』
自身の名を冠した魔法か。だが、あの切れ味とスピードは馬鹿にできない。
なんなら、今日見た中で最も危険な魔法だ。そう、『竜巻槍』以上に。
オレは後ろに高く跳ね、壁に足を着けて再び着地する。
地面は大きく裂けていた。
チャージ型じゃないのに『竜巻槍』並の威力を持つ。
……いや、違う? そうか。『竜巻槍』は『竜巻』の派生か。
足止めを目的とする『竜巻』を、攻撃に転じさせるために範囲を極限まで絞る。
つまり、『竜巻槍』はチャージ型ではない。
そもそも、チャージ型なんてやろうと思えばいくらでもチャージ時間を短縮できる。
オレのプログラミングなんかもその手の一つだ。
戦闘中に少しずつ組み立てて……とかな。
つまり、チャージ型とかそうじゃないとか、気にする必要はまったくないということだ。
ではなぜオレは気にしたのか。
理由は1つしかないだろう? 知識欲だよ。前よりも知識欲が強くなったか?
『――『風舞・極』』
途端、すぐ目の前に爪を後ろに大きく引いた鎌鼬《かまいたち》がいた。
【思考加速】のおかげで、間一髪で避けることができたが、【思考加速】はあくまで思考だけで、肉体は動かない。
ただ、傍から見れば反応速度が上がっただろう。
感覚器官から感覚細胞、感覚神経、中枢神経を経て、脳に届く。そして脳で処理が行われ、逆の手順を経てようやく体を動かす。
反射なんかは、脳を介さずに中枢で処理されるため、反応までが早い。
つまり、何が言いたいのか。
それは【思考加速】は言ってしまえば情報処理能力の短縮、最適な答えを導き出す確率アップだけだ。
まあ、前より比較的楽にはなったか。少なくとも、咄嗟の判断を下す事は少なくなりそうではあるな。
さて、目の前のこいつに関して、避けながら分析をしようか。
こいつはこう言ったな。『風舞・“極”』と。
その名の通り、鎌鼬の動きが見違えるほどに速くなった。
だが、ならなぜ最初からこれを使わなかったのか、なぜ名前に追加で『極』と付けるのか、という疑問が浮かんだ。
オレの推測はこうだ。
・効果時間の大幅な短縮
・消費魔力量が増大
・有り余る力をコントロールできない
……三番目は使わなかった理由としては少し不適切か? 実際、今はコントロールできているっぽいし。
おっと、避けないとな。
首を倒し、鎌鼬《かまいたち》の長爪を躱す。
それと同時に、拳に――オリハルコン手甲の上に――水晶を纏い、思いっきり殴る。
鎌鼬はその衝撃で後ろに大きく飛ぶが、
『――『風舞』』
を発動することで、元居た家屋の2階に降り立った。
オレの脇腹からは血が流れている。飛ぶ直前に攻撃を食らってしまった。
そこそこ深いが、戦闘続行は可能だし、『回復』は使わないでいいだろう。
鎌鼬《かまいたち》は今、新しく『風舞』を掛け直した。『極』の効果は残っていたはずなのに、だ。
『極』の効果はまだまだ不明な点が多いな。いや、オレの想像が間違っていたと教えてくれた、と言うべきか。
……そろそろか。
右手を鎌鼬に向け、限界ギリギリまで魔力を込めた『晶拳』を生成する。
ひたすら、「その時」を待つ。
魔法が放たれるが、『晶皮』を発動するだけに留める。
いくつ攻撃を受けただろうか。【思考加速】のおかげで、時間感覚が曖昧だ。これも慣らさないとな。
まあ、思考に神経を集中させているおかげで、痛みは少ない。
そして、「その時」が来た。
そして、オレは『晶拳』を放つ。
推進力も、速度も、硬度も最大。
オレが今までに放ってきた魔法の中で最も速く、硬い魔法となった。
空気摩擦もほぼゼロに近づけてある。そして、推進力で常に加速を続ける。
おかげでかなりの魔力を持っていかれた。魔力消費量も過去最大かよ。
これを食らえばひとたまりもない。
現に、加速度を読み切れずに鎌鼬は防御が間に合わっていない。
『――『台風目』』
全方向防御魔法を使うも、まるでそよ風とでも言いたげに、一切減速することなく、『晶拳』は進み、加速し続ける。
そして――
『――『風盾……』っ!!』
魔法を唱えようとした鎌鼬の胸付近に『晶拳』がヒットする。
『がふっ……』
そして、鎌鼬の魔法は不発に終わる。こうなると、無駄に魔力を消費したことになる。
そして、『晶拳』に仕込んだプログラミングが発動する。
――バンッッッ!!
鎌鼬の胸で『晶拳』が爆発し、辺り一帯に轟音が響き渡る。
小さな水晶の欠片が鎌鼬の外套を切り裂く。が、魔法が込められているのか、少しすると修復されている。
『――『台風目』』
魔法の効果で、水晶の欠片がすべて吹き飛ばされ、消え去る。
『ふぅぅ。体も温まり、封印前と同じはずなんだが……強き者はいつの世もいるものだな。やれやれ……不快』
何かほざいている鎌鼬の周りには、まだオレの魔力が濃く、漂っている。
『さてさて……もう最低限の目的は達成したことだし……サクッと殺して帰るとしよう』
――来た!!
鎌鼬が何を言っていたのかは知らないが、時は満ちた。
鎌鼬の更に後方から、大量の槍や剣がやって来る。
だが、それに鎌鼬は気付かない。
なぜなら、鎌鼬はオレと魔法の撃ち合いをしているからだ。
もちろん、オレも本気だ。
だって、鎌鼬のやつ、空高く伸びた『竜巻』を使ってくるんだ。
攻撃用の『竜巻槍』ではなく、本来の――捕縛目的の『竜巻』のため、受けるわけにはいかない。
そして……
――シュッ
鎌鼬は自分の頭のすぐ横を何かが通ったことでようやく気が付いた。
そして、確認しようと思ったその矢先……
鎌鼬に無数の水晶でできた剣や槍が降り注ぐ。
――勝った
オレは勝利を確信した。
たとえ『台風目』や『風盾』を使われても、大半は防げない。
『風舞・極』を使われたとしても、抜け出すことは不可能と断言できる。
どこからこの水晶の剣や槍がやってきたのか。もちろん、オレが生成したわけではない。
先ほど放った『晶弾・龍』……いや、その更に前の『隕晶』の状態のときにすでにプログラミングを施していた。
一定の時間が経過したあと、剣や槍となってオレ目掛け戻ってくると。
鎌鼬の体に深く1本の剣が刺さる。
『ぐっ……』
だがそのとき――
『――『水龍剣』』
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