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第三章 ~戦闘狂の水晶使い~
第118話 余興会議②
しおりを挟む「本題に入ろう。あの言葉から、何を推測した? 自由に意見を述べてくれ」
最初に手を挙げたのはフェンゼルの騎士団長、ゲラード・ヴェールだった。
「こちらは敵を1体倒すことで、生きる権利を得られるということですよね?」
オレたちは首を縦に振った。
オレも同じ認識だ。
「つまり、余裕で勝てるが、余興のためにこうする、という意志ですよね? その選り抜きとやら。……そこに盟主が含まれているのではないですか?」
「つまり、貴方が言いたいことは?」
「盟主は隊長の何倍も強いのでは、という予想です。実際に戦い、勝利した【双剣士】殿、戦った感想をお聞かせ願う」
ああ、ターバに話が振られたか。
「私が戦った相手は、暗殺部隊の隊長でした。私は加護の力で意表を突き、勝ちました。正直なところ、強さのほどはわかりません」
そして、ターバは続ける。
「ですが、数回剣をぶつけた感想では、ここにいる私たちと同程度か、それより弱いかと思います」
「……ラインも昔戦ったな。どうだった?」
ここでオレかよ。
「当時は、私1人ではありませんでしたが、当時の私でも1対1の状況であれば、勝率は五分五分だったかと思います」
「そうか……隊長と言えど、ピンキリなのかもしれないな。警戒するにこしたことはない、か」
ここで言ってしまおうか。
すると、騎士団長が先に口を開いた。
「――更に悪い知らせがある。隊長を超える存在が確認された。盟主直轄部隊【六道】というらしい」
「名前からして、6体という少人数で構成されていると見ても?」
「この話は実際に戦ったラインに聞こう」
「私が遭遇したのは、鎌鼬、餓者髑髏の2体。どちらも、かなりの強さでした。構成数は不明です」
6体という少数に、こいつらは余裕そうな顔を浮かべている。
ごめんな、更に悪い情報、どんどんぶっこむぞ。
「【六道】は封印されていた魔物たちで構成されているとのことです」
「「!?」」
「封印となると、伝承にある魔物も含まれている可能性も……」
伝説の魔物は大半が死んだと描かれているが、封印されていたという可能性も十分にあり得る。
ほとんどの死体は不明のままなのだから。
「そして強さですが、仮に6体で構成されているとし、仮に全員同じ強さであったとしましょう。すると冗談抜きで、ここにいる全員を殺し尽くすことができるかと……」
鎌鼬よりも餓者髑髏のが強いように感じたため、足して2で割った。
鎌鼬を標準値にしても、勝つのは難しいだろうな……。
「嘘を申すな……そんなことがあり得るものか!」
エルフの初老の男性が声を荒げ、そう言ってきた。
「残念ながら、あり得ることです」
「それはお主が――」
「――なんなら、このあと勝負するか? 実戦形式でさ……?」
若干殺気を放ちながら、威圧する。
勝負しても勝てそうだ。
「――そこまでにしてくれ。ラインが嘘を言うはずがないし、ここで嘘を吐く利点はラインにない」
騎士団長の一言で男は言を引っ込め、座り込む。だが、目つきは依然として鋭く、静かにこっちを見ていた。
「さて、他に……ライン、何かないか?」
おい! なんでオレなんだヨ! 他にたくさんいるだろうがよ!
「……やはり、向こうは何かしら隠し玉を得ているでしょう。おそらく、盟主、もしくはその周囲の魔物の目的は別にあるのでは?」
「そう思った理由は?」
「こちらに生き残るチャンスを与えている点、戦力の乏しい村を襲ってこなかった点です。こちらを根絶やしにすると言っておきながら、それに沿った行動を取っていません」
生き残る権利? かなり上からの目線だが、そんなの用意せずに殺し尽くせばいい。
こちらが勝つ可能性だって、0じゃない。【六道】が出て来たら、一桁にはなるだろうけどさ。
でも、0にはならない。
「兎にも角にも! このチャンスを生かさない手はないのでは?」
エルフの騎士団長がそう言うと、みんなが頷いた。
いや、そもそも利用するかしないか、の話じゃなかっただろ。
「まずは何より、少しでも強くなることが先決! 加護持ちは残り、他の者は自由に!」
「「はい!!」」
加護持ち……まあ、オレもそうだよな?
コラヤン兄が退室時、こちらに寄ってきて、耳元で
「後で模擬戦だ。今夜、訓練場で待つ」
とだけ言い残し、去って行った。
「なんだ、あいつ?」
「まだラインに嫉妬してるんじゃないのか?」
「嫉妬ねぇ……」
ヤマルがオレを師匠って呼ぶせいか……。
面倒くさい兄だな……オレの兄さんを見習え。
「さて、残ったな」
残ったのはオレ、ターバ、第三隊隊長、【魔導士】、副騎士団長、騎士団長、エルフの副騎士団長だ。
騎士団長は加護は持っていないが、聖物を持っている。
「さて、ここに残った我々は、今回の戦いにおいて重要な立ち位置に置かれることは確実だ。ただし、加護の情報交換は行わない」
「……じゃあ、なんのために?」
「簡単だ。他の【放浪者】の訓練相手になってほしい」
そんだけ?
「それじゃ、あとは自由にしてくれ」
夜の8時、オレは訓練場に来ていた。
「来たか」
「来ましたよ」
……定番の流れ、絶対に定番じゃない観客連中。
「こいつらは?」
「……」
「おい、何か言いやがれ」
「……俺にもわからん」
偶然か? まあ、いいか。
【戦闘狂】と【前鬼】の戦いだ、とか【水晶使い】と【前鬼】の戦いだ、とか言って騒いでいる。
【戦闘狂】ね……助けてやってんのに、ひどい言い草だ。
「【戦闘狂】ね……」
「お前が各地で魔物を殺しまわっているせいでついた名前だそうだ。各地で脳天を貫かれた魔物の死体が見つかって、その犯人がお前しかいないからそうなったらしい」
ああ、飛びながら撃って、撃って、撃ちまくったからな。
脳天を小さな穴が貫いているって、そんな芸当できるのは、確かにオレぐらいのもんだろうな。
「そうか。だが、今は仮にも戦争中だ。敵を殺して何が悪い? 戦争が終わっても、魔物に人権が認められない限り、オレは罪に問われることはない」
「そこはみんな、承知の上だ。面白がってんのさ」
「……そこに尊敬の念は?」
「あるんじゃないか? 少なくとも俺は抱いていないし、妹の手前、【戦闘狂】と呼べないし、呼ぶ気もない」
……少しは信頼してくれていると受け取ってもいいのか?
ヤマルに感謝だな。こいつがシスコンでよかった。
「さて、始めるか」
「――待て!!」
見ると、息を切らした騎士団長と、余裕の表情をしている副騎士団長が立っていた。
いや、副騎士団長は精神的疲労が濃いそうだ。騎士団長もそうだけど。
副騎士団長はあまり表に出さないのようだな。
「審判は私、へラリア副騎士団長、ミュイ・ライトリクスが執り行う」
突然の、一国の騎士団長と副騎士団長の登場に驚き、観客席はざわめいている。
「騎士団長は何をしに?」
「名を馳せる2人の【放浪者】の決闘を、騎士団長である私が見なくてどうする?」
「私たちも来たよ」
すると上空から2人の影が、片方はゆっくりと、片方は自由落下してきた。
「【双剣士】!? 【魔導士】!?」
ターバと【魔導士】だ。
「どうやってここへ?」
「ああ、【魔導士】に抱えてもらった」
「つい先ほど、騎士団長から『通話』で教えてもらってね。文字通り、飛んできたというわけさ」
なるほど……。
ってことは……。
「会議にいた全員がここに集まっているわけか」
「おまけに、ここの騎士や冒険者も若干名な……」
ここで下手な試合をしようものなら、評価はダダ下がり。
かといって、仮にも圧勝してしまえばコラヤン兄の名誉が泥を被ることになる。
そんな余裕を持って勝てるわけではないけども。
「それでは!!」
副騎士団長のその一言で、会場は一瞬にして静まりかえった。
魔法を使用せずにあの声量か。魔法なり魔法具なり使いなさいよ……。
「【水晶使い】ライン・ルルクスと、【前鬼】ヨウファン・コラヤンの模擬戦を行う!! 両者用意…………始め!!!」
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