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第三章 ~戦闘狂の水晶使い~
第120話 余興会議④
しおりを挟む「矢を放ったであろう地点周辺の探索」
これは、連合の言った「そちらから攻撃されない限り、危害を加えることは決してない」という言葉に背く行為だ。
連合から戦争の再開を宣言されても……いや、宣言すらされずに戦争が再開されてもおかしくない。
それどころか、前回、前々回の比ではない猛攻が降り注ぐだろう。奴らの言葉が真実であれば。
「――そして、つい先ほど、襲撃を受け、一瞬にして命を落としたと思われる」
「レイハル殿、それはやつらとの約束を……やつらの提示した延命の条件を破る行いではないか?」
ケモミミの国、ワインドの騎士団長は耳をぴくぴくさせながら、そう騎士団長に尋ねた。
怒りが漏れ出ているが……わざとだろう。
「私は怒ってます」と宣言しているのだ。
「これは攻撃ではない。それに、【六道】はともかく、隊長級が相手では、我々の勝利は揺るがない」
「その根拠は?」
「ここに、『人』の精鋭が集結しているのだ。勝てない方がおかしい。ターバが第十隊隊長を討ち取ったわけ…………そうだ、一つ言い忘れていた」
ターバが第十隊隊長を討ち取ったという話から、なにかを思い出した騎士団長は少し考える素振りを見せ、再び口を開いた。
「ターバが魔物連合第十隊隊長、人狼のバルクスを討った地点に、この紙が落ちていた。見てくれ」
騎士団長はそう言うと、机の上にその紙を置いた。
その紙はとても小さく、切手ぐらいの大きさだ。そしてそこには、小さな文字でこう書かれていた。
「「……『可能性』」」
「おそらく、これのおかげで今回の余興が用意されたものと思われる」
『人』が生き残る『可能性』か……。
まるでゲームだな。ストーリークエストのようだ。
「まあ、これはとりあえず置いておくとして……話を戻そう」
「騎士団長はどうやって派遣したパーティーの位置、消息を把握していたのですか?」
「ああ、追跡の魔法具を持たせていた」
追跡の魔法具。
所持者から離れることはないが、着けるには所持者の承諾が必要となる。
承諾の際、催眠効果や精神操作が掛かっている場合、承諾は受け付けないという、面倒くさい道具だ。
普段は犯罪者に着けられている。
これの利点は、地図と連携できるということだ。
地図の示す範囲内であれば、場所がわかるし、魔力を注ぐと魔法具が見ている映像を映し出すことができる。
「これを見てくれ」
騎士団長が地図に魔力を注ぐと、エルフの国――アグカル国内の森の一角で、赤い光が点滅を繰り返し始めた。
「着用者が生きている場合、これは淡い青色に光る。弱るにつれ、薄い黄色から濃い黄色へと変化する。そしてこの色は……死、だ」
その一言で、場は静まり帰った。
そして、最後に記録された映像がこれだ。
騎士団長が赤色の光に魔力を注ぐと、空中に映像が映し出された。
どの角度から見ても同じように映る。便利だな。
『何もない、か……』
『目的地はこの周辺のはずなんだが……もう少し、警戒しながら周囲を探索しよう』
『リーダー、霧が出てきた』
映像の奥の方から、確かに霧が出てきた。
夜ということも相まって、見えづらいはずなんが、なんでこんなにハッキリ見えるんだ? 魔法の効果か?
『濃いいな。とはいえ、ここらで休息を取るには危険か。よし、一時撤退! 明朝、再び探索を開始しよう!』
そういう頃には、すでに濃霧に覆われていた。
『みんな、ついてこい!』
パーティーメンバーは腰袋から何か棒を取り出した。
次の瞬間、その棒は薄青く発光した。
「霧の中でも、砂煙の中でも仲間に光を届ける魔法具だ。光は仲間にしか見えない。……そこそこ高級な魔法具だ」
【魔導士】が魔法具に関しての解説を入れてくれた。
「私の力をもってしても、痛い出費だったが、彼らを失うわけにはいかなかった」
映像はまだ続いていた。が、完全に白一色に染まっていた。
魔法具の効果で、若干視界が良くなっているのだろうが、それすら意に返さない。
「これは……魔法による霧?」
先ほど取り出した棒の光が薄まり、かろうじて見えるレベルとなっていた。
魔法の光を遮る光。つまり、この霧も魔力を帯びている。
「そうだ」
そんなオレの疑問に対し、騎士団長は肯定で返した。
そして次の瞬間、何の前触れもなく映像が途切れた。
「映像はこれで終わりだ」
「映像が途切れた原因は?」
「この魔法具は、着用者が死亡した場合でも動き続ける。それが今の状態になるとすれば、魔法具が破壊された、もしくは干渉されたか……」
ほぼ間違いなく前者だろうな。
「この魔法具は全部で4つあったのだが、その1つが興味深い映像を捉えていた。見てくれ」
騎士団長が再び魔力を注ぐと、新たにもう一つ、空中に映像が映し出された。
「途中は省くぞ。…………ここら辺か」
映像は、周囲が霧で覆われたところから始まった。
『くそ……霧が深すぎるな……――ぐっ!!』
映像が左に動いた次の瞬間、映像の右端から突如、白い棒が現れた。棒は先端に血を付着させている。
着用者の体を貫いたのだろう。
着用者は方向転換をしたことで、致命傷を避けることができたのだろう
しかし次の瞬間、画面いっぱいに、幾筋もの水色の線が現れた。
そして、映像は途切れた。
「「…………」」
「おそらく、ここで魔法具が破壊されたものと考えられる」
水の攻撃……かなりの腕前。それに加え、先ほどの白い棒……骨と言われたら骨に見える。
「犯人は【六道】の餓者髑髏の可能性が高いと判断している。つまり……ここら辺にやつらのアジトがある可能性が高いということだ!」
なるほど……それは大きな収穫だが……。
「向こうが約束を守っている以上、襲撃を仕掛けるのは避けた方がいいかと。向こうには向こうの最大戦力が集結しているわけですし……」
「もちろん、こちらだって襲撃を仕掛けるつもりは毛頭ない。ただ、何が起きるかわからないからな。万が一のための保険だ」
オレたちが敗れた場合の保険か。
「ミュイ、行けるか?」
「はい、問題ありません」
ん? 急になんの会話だ?
「ああ、ターバとラインには話してなかったな。私の加護は【瞬間移動】。効果は――」
【瞬間移動】の効果は、文字通り瞬間移動。
距離無制限。クールタイムあり。
条件は、移動先に魔力で印をつけてあること。
副騎士団長は監視の魔法具に魔力を同行させていた。映像が途切れた地点で、そこを転移先に指定したらしい。
「つまり、いつでも転移が可能ということだ」
「自身――副騎士団長以外の同行は?」
「現段階では不可能だ。だが、この先の修練によっては可能となるかもしれない」
オレの問いに副騎士団長が答える。
現段階…………加護も成長の余地が残っているということか。
ターバがいい例かもな。
冒険者学校時代、【不死】の片鱗はまるで感じなかった。まあ、そんなに大きな怪我を負うことがなかったのも災いしていたのだろうけど。
ターバ、お前……成長した……し過ぎたな。
そんなことを考えていると、騎士団長がパンッと手を鳴らし、
「いい機会だ。ここで自身の加護について話し合ってもらおうか!」
と提案した。
「聞いての通り、へラリア副騎士団長ミュイ・ライトリクスの加護は【瞬間移動】だ」
そして、全員、自分の加護について暴露した。
オレは器のことは話さず、あくまで【理解】を話した。現在習得しているのは【思考加速】だが、もう【理解】だと言ってしまったからな……。
みんなの加護をまとめると、こうだ。
へラリア副騎士団長ミュイ・ライトリクス【瞬間移動】。
アグカル副騎士団長メティ・ジュケ【感覚強化】。
へラリア近衛騎士第三隊隊長ペテル・ヴァシクス【不労】。
ターバ・カイシ【不死】。
アーグ・リリス【全属性理解】。これは駿の管轄だな。
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