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第三章 ~戦闘狂の水晶使い~
第121話 余興会議⑤
しおりを挟むこの場にいる加護持ちの加護は以下の通りだ。
まず、へラリア副騎士団長ミュイ・ライトリクス。加護は【瞬間移動】。
魔力で印をつけた地点に自身を転移させる。距離は無制限。
印は間接的でも問題ない。敵に魔力をつけ、アジトに着いたところでアジトに印を設置し、飛ぶこともできる。
持久戦にはもってこいの能力だ。
アグカル副騎士団長メティ・ジュケ。加護は【感覚強化】。
これはシンプルに、感覚――味覚、触覚、嗅覚、聴覚、視覚を強化する。覚醒時の比ではないレベルにまで強化できるらしいが、使いどころを誤れば一大事だ。
へラリア副騎士団長の加護と対照的に、使い勝手の悪い加護だ。
直接的な効果はなさそうだ。
へラリア近衛騎士第三隊隊長ペテル・ヴァシクス。加護は【不労】。
こちらもシンプルで、疲れない。
昔は疲れにくいとか、体力の増強だったらしい。
シンプルかつ強力だが、短期決戦ではあまり意味を成さない。が、これからの戦いにおいて、必ず役に立つ加護だ。
ターバ・カイシ。加護は【不死】。
チートだろ、これ。
今じゃ、再生スピードはかなり速い。ゾンビ映画かって思うぐらい。
ただ、やっぱり再生に時間は必要とするから、無力化はできそうだ。
アーグ・リリス【全属性理解】。
四大元素に加え、分岐した属性を扱えるが、認知できないと発現しない。逆に、その属性を認知できれば使えるらしい。チートだな、これも。
付け加えるとすれば、へラリア騎士団長の聖物か。
電気――みんなは雷と呼ぶ――を纏う武器で、所持者は言うなれば、雷の属性特化型となる。
魔力補正も付くらしい。
ゲームだと超激レアアイテムだろうな。それも、イベントボスが低確率でドロップする。
まあ、伝説の武器扱いだもんな、これ。
しかも、四大元素から外れた電気だ。
何種類あるんだろうな、一体。
それより、どこの騎士団長も加護を持っていない件について。
「よし、これで隠し事は粗方なくなったか? 加護持ちの諸君、くれぐれも油断しないように。加護と言っても、ピンキリだし、あくまで技の一つにしか過ぎないからな」
なるほど、それは確かに一理ある。
オレの【思考加速】やメティの【感覚強化】は直接的な効果はない。補助だ。どれだけ思考を加速させても、体は動かない。
怪我しているときに感覚を強化してみろ。痛みが数倍にもなるぞ。
副騎士団長が敵の背後に【瞬間移動】したところで、それすら見透かされて対策をされているかもしれない。
ターバがどれだけ攻撃されても再生すると言っても、炎や酸の中に入れてしまえば、破壊と再生を繰り返す羽目になるだろう。
すべての属性を理解していようと、使い分けられないと豚に小判…………豚に真珠だ。避けられてもおしまいだ。
それに、どこまでを属性として捉えるかも問題だ。毒を属性と捉えれば魔法として使えるが、捉えなければ使えない。
加護にも弱点はある。
いや、対策方法はたくさん用意されている。
それすら突破するには、加護を鍛えるしかない。
自分以外を転移できるように。
より速く再生できるように。
もちろん、自分自身を変えないといけないものもある。
感覚の取捨選択ができるように。
属性として捉え、そこから派生する属性を考えられるように。
そのとき――
「さてさてっと……それじゃあ今日は…………」
――ドズン!!!
玄関前に何かがもの凄い速度で何かが落ちてきた。
「なんだ!?」
全員で出ようとしたとき、副騎士団長が手をかざして静止させた。
「何があるともわかりません。ここは私とターバが出ましょう」
ターバは何も言わず、命令に従って副騎士団長と共に出て行った。
転移ができる副騎士団長と、死なないターバか。偵察には最適だな。
そしてすぐに、2人は戻ってきた。そして、オレたちは外へ出た。
するとそこには……
「…………矢、か」
その矢は、夜で暗い中でもわかるぐらいの薄い光を帯びていた。
「魔物連合からの伝言か……」
伝言が来る原因に心当たりのあるオレたちは黙って待つしかできなかった。
『揃ったか。さて、そちらの我らの腹の中を探ろうとしていた者たちは殺させてもらった。まあ、因果応報とでも思ってくれ』
因果応報…………。
『警告だ。次はない。今回は見逃してやる。肝に銘じておけ。我は1人でお前たちを灰燼にすることすらできるのだということを』
そう言い残すと、矢は爆発した。
幸い、爆発の威力は大したことはなかったため、傷一つなかった。
「…………」
「幸運でしたね」
ワインド国騎士団長はそう言い残すと帰って行った。追いかけるように、ワインド国副騎士団長も一礼の後、去って行った。
「今後は、大人しく約束を守りましょう」
「では、失礼いたします」
残りのアグカルとフェンゼル、そして今回、口をあまり開くことのなかったジュイラスの騎士団長らも帰って行った。
「騎士団長……」
副騎士団長がそう、騎士団長に声をかけたが、騎士団長は何も言わず、うつむいていた。
「なるほどな…………これは……まずいな」
「?」
「どういうことですか?」
ターバが代表して、そう問いかける。
「ああ、想定以上の戦力を有しているようだ。総力戦の可能性が見えてきた」
「どこからそのような根拠が?」
一体どこからそんな根拠が出てきたんだ?
「たった今、『通話』が入ってきた。遺跡調査隊からだ」
「それで、なんと?」
「ああ、やつらの元にも連合の手が向かったらしい。そして、次はない、と我々と同じように警告されたようだ」
それとどう結びつくんだ?
話すの下手か!
「重要なのは、その手だ。やつらはこう名乗ったらしい。……【六道】と……」
……【六道】。
魔物連合の最大戦力。
現在確認されているのは、鎌鼬と餓者髑髏のみ。
「――それも、5体」
騎士団長の密偵を殺したのが餓者髑髏だとすると、鎌鼬に加え、あと4体…………。
「訓練を最大限、厳しくした方がよさそうだな」
「どうするおつもりで?」
副騎士団長の問いに、騎士団長はさして考えるわけでもなく、こう言った。
「――実戦訓練だ」
たしかに、実戦訓練は得られる経験値が多い。
その分、危険も高い。
それは、怪我をしやすいことだ。
回復術師に待機してもらう必要が出てくる。まあ、そこら辺はどうにかなるだろう。
今は戦争中じゃないんだ。
そのとき、頭の中に声が響いた。
『ライン』
『駿か、どうした?』
『ああ、ちょっと渡しておきたいものがあってな。あとで教会に来てくれ。柱にそれを掛けておく』
『ああ、わかった』
珍しいな、駿が干渉してくるなんて。
まさか……駿が――【魔】の柱の保持者が出なければいけないほど、不測の事態が起ころうとしているとでも言うのか……?
そしてオレは、1人で教会に来ていた。
よく考えたら、まだ夜の9時前なんだよな。教会はまだ開いていた。
そして、『名無しの部屋』に着くと、7本ある柱の1本に、ペンダントが掛けられていた。
金色で、炎をあしらった装飾は見ていて飽きなかった。
「これが駿の渡したかったものか……」
どことなく、神器と似た感じがしたそれを、オレは首に掛けた。
効果はまったくなかった。
どんな効果があるのかはまったく謎だが、このタイミングで意味のないものは渡さないだろう。
それか、実感できない効果が発動しているのかもしれない。
そうしてオレは、ペンダントを肌身離さず持ち歩くことを誓いながら帰路に着いた。
その頃
「許してくれライン、俺の失態だ」
【最強】の名を冠する駿――シドーは椅子に座り、魔物連合盟主の姿を見ていた。
「俺が直々に手を出したいが、クソ!」
駿の見た魔物連合盟主の顔は笑顔だった。
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