戦闘狂の水晶使い、最強の更に先へ

真輪月

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番外編  【最強】の過去

番外編  【最強】の過去

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 駿は昔――現在ラインたちが過ごしている世界にいた頃、【最強】と呼ばれていた。
 素顔は極力見せず、そして敵は一瞬で片を付ける。しかし、戦いを楽しむ素振りはまるで見せない。
 なおかつ、数少ない覚醒者の1人。しかし、他の覚醒者とは一線を企していた。

 とにかく、謎の多い人物だった。

 ゆえに、人々は敬意と畏怖を込め、【最強】と呼び始めた。
 そして、【最強】に近づく人間の目的は限られていった。

 まず、友好関係。
 三賢者がいい例だ。なぜか彼らは初めから臆することなく話しかけていた。
 【最強】も心を開いているようだった。
 だが、これは三賢者しか確認されていない。

 次に、利用。
 【最強】は二つ名通り、唯一無二の強さを持っていた。そして、誰もその強さの底を知らなかった。
 その力を我が物にしようと画策するのはむしろ、自然な流れと言える。
 他国への牽制、専属傭兵など、用途は様々だった。
 三賢者とも懇意の関係にある人物を取り込めば、世界の改革に関われる。
 【最強】の存在そのものが、利用価値の高いものになっていた。

 そして、敵意。
 荒れた時代、犯罪は日常だった。
 【最強】は自分から首を突っ込むことはなかったが、向かってくる輩にはまるで容赦がなかった。
 【最強】によって解体された、壊滅に追いやられた組織は数多だ。
 恨みを持つ者は多かった。だが、それらの大半は恨みを飲み込んだ。
 それほどまでに、【最強】は強すぎた。

 まあ、そこまで頭が回らない、一矢報いようとする意志の方が強い人が勝負を挑んだ。
 例に漏れず、一太刀も……ため息1つも浴びせられないまま、命を落とした。
 中には命だけは助けられた者もいるが、五体満足とまではいかなかった。




 【最強】シドー・ハンダイランの過去は、現在でも謎が多い。
 彼に関する記述は、文献と呼べるほど厚くない。読み終わるのに1時間を有するか有さないか、といった薄さだ。
 三賢者の活躍の場を表だとすれば、【最強】の場は裏。
 ゆえに、人目に当たることは少なかった。

 だが、認知度はかなり高かった。

 彼に関する謎。
 出生すら不明だ。
 彼に関する最初の記述ではすでに、【最強】は大人で、現在にも伝わる、仮面に黒ずくめの恰好だった。
 得意武器は爪らしいが、後に三賢者がオリハルコンを公開したことにより、その爪はオリハルコン製だったのでは、という意見が生まれた。
 だが、剣も常備していた。
 
 【最強】の戦闘スタイルは近接型だったが、魔法も使えた。
 記述には火の魔法しか載っていない。が、そもそも【最強】は魔法を使うことが少なかった。
 いやそれどころか、【最強】の戦闘を間近で見物する機会が少なかったらしい。

 それほどまで、人との関わりが少なかった。
 荷物も最小限。サバイバル知識も高い。



 これは、そんな彼の記述にない物語――

 彼は、人間の国の辺境の村で生まれた。
 10歳までは普通の暮らしをしていた。しかし、その強さ・・はすでに片鱗を覗かせていた。
 
 前世の記憶が目覚めてから、火の魔法に目覚め、その強さ・・は開花した。
 そこに更に、持ち前の修行馬鹿が拍車をかけた。
 
 前世――寺島駿は筋トレを欠かさなかった。
 だが、この世界において、筋肉はもちろん重要だが、何に使う筋肉かが問題だった。

 剣と魔法あり、魔物という明確な敵も存在するこの世界。
 筋肉のベクトルは純戦闘向きにするという結論はすでに、4歳の頃に出ていた。
 
 だからこそ、彼は大人について狩りを始めた。
 最初は反対されていたが、その場で大人たちを無傷で・・・倒したことにより、許可が下りた。
 大人たちは農筋で、戦闘向けの筋肉ではなかったとはいえ、パワーだけで言えばかなりのものだった。
 それこそ、子供1人、片手で投げることができるぐらいには……。

 彼は当時、10歳になりたてだった。

 
 ――だが、そんな彼の平和な日常は突如、兆候も見せずに終わりを告げる。


 
 当時の世界情勢は一見、普通だった。
 改革の時代だ。

 しかしその裏――誰も知らない裏では、かなり深刻だった。 
 駿が生まれる数百年前。強大な力を有する2人が争いを始めたのだ。

 それこそ、【魂】を司る神器の保持者と、【魔】を司る神器の保持者だった。
 その戦いの戦場となった国は滅亡した。
 それほどまでに、2人は強大な力を有していた。



 【魂】の神器の保持者は、自ら神を名乗り、器の力で以て宗教を設立した。
 一方【魔】の神器の保持者は、影でこそこそと慎ましく過ごしていた。

 そんなとき、【魂】の神器の保持者は、【魔】の神器の保持者を邪魔に思うようになった。
 自分を崇拝させるためには、自分が特殊・・でないとならない。
 しかし、【魔】――魔力を司る【魔】の器の保持者の方が、目に見えて特殊なモノを持っていた。
 
 だからこそ、【魂】の器の保持者は【魔】の器の保持者を抹殺しようとした。
 彼女は勝利を確実にするため、信者を鍛えようとしたが、彼女の名声を高めるための、もっといい案を思いついた……否、思いついてしまった。

 ――異世界転生。

 異世界から記憶を保ったまま転生させ、自分への忠誠心を植え付ける。
 転生者たちを『神兵』とでも呼び、【魔】の器の保持者を殺せば、信者はうなぎ上り。
 そう考えた。

 だから、神は世界を越えた。
 これは本来、器の権限を外れた行為だが、他世界と波長が合うのを長い時間待ち続けた。
 そして、権限をギリギリ外れない範囲で、異世界者の魂を呼び寄せることに成功した。

 繋がった先が駿や蓮の通っていた学校のとあるクラスを覆う空間だった。
 神はそこに干渉し、空間内の魂をさらった。

 
 駿シドーラインの前世での体は、魂が抜けたことで消滅した。
 先生が狙われなかったのは、ぎりぎり波長の合う空間に入っていなかったためである。

 他世界からの干渉により、空間の位相がずれた。
 そして、一時的だが、並行世界が誕生した。

 しかし世界の理により、並行世界はすぐに消去された。

 それにより、過去が変化してしまった。
 神の言葉通り、蓮たちの存在はなかったこと・・・・・・にされた。

 だが、神はそこまで考えていたわけではない。
 さらってしまえばこちらのもの。そんな考えだったからだ。
 転生者たちが前世の様子を知ることは不可能だ。そう思っていた。



 
 ――だがついに、神は魔王を見つけてしまった。

 しかし魔王は、神に狙われていることを知っていた。
 魔王とは、「魔法の王」だ。


 魔王は親の顔を知らない。
 孤独に……いや、魔物に育てられた。
 なんやかんやあって、人間の世界に入り、人間を学んだ。

 魔王は一度、神の傀儡と化した転生者に襲撃を受けたが、返り討ちにした。
 それにより神の存在を知り、姿をくらました。

 しかし器の効果により、死ねない…………寿命が存在しなくなるのだ。だからこそ、長い長い……とても長い間、彷徨い続けた。
 人目に付かず、ひっそりと。

 幸い、食料には困らなかった。強すぎたためだ。
 比喩でもなんでもなく、指一本動かすだけで狩りができた。 



 話が脱線したわけではない。
 この2人の動きが、後に誕生したばかりの駿……シドーの運命を変えることになる。

 この2人の動きは、直接的に世界に影響を及ぼすことはなかったものの、間接的に大きな影響を及ぼしてしまった。

 神の手先のものと魔王との衝突。
 神はその手先に、ついに魔物を加え始めた。魔物に力と知恵を与え、忠誠心を植え付ける。

 だが、その全員が従順だったわけではなかった。
 その力でもって、『人』を滅ぼそうとする存在が現れ始めた。

 が、神はそれらを放置した。
 神の目的は魔王の消滅。ただそれだけ。

 
 そして、平穏な日々を送るシドーの村へ、不穏な影が忍び寄る…………。
 
 


 
 

 
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