戦闘狂の水晶使い、最強の更に先へ

真輪月

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番外編  【最強】の過去

番外編  【最強】の過去2

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 その日駿は、一人で森に入っていた。
 目的は狩りと言ってはいるものの、その実は魔法の訓練。

 魔法が一般化していなかった時代に生まれた、火の魔法に特化した少年。
 火はまだ人々に恐れられていた。
 
 まあ、周りに人がいた場合、派手な技を編み出せないというのが本当の理由だが。


 冬も明けたばかりで、まだ肌寒い季節。中でも、気温の低下する森の中に、一つの影。

「――『火球ファイアーボール』 ……『爆炎ボム』」

 その手から放たれた火の塊は、木に当たる直前で弾けた。
 その熱量は凄まじく、木は炭化し、真ん中から倒れた。

「……!!」

 覚醒し、再び同じことを行う。
 
 今度は、弾けるのと同時に木が吹き飛んだ。
 地面にも浅いクレーターができ、植物は燃え尽きていた。

「炎か……」

 駿は、前世で読んだ漫画の内容を思い返していた。

「片っ端から試してみるか」

 炎を体に纏う。服にも魔力を通さないと、服が燃えた。
 炎を動物の形にして、操る。意思は存在せず、自分で操るしかなかった。足を操るのが面倒だった。
 
 ただし、火に安定して形を持たせることはできた。
 火の剣や盾も作れた。

 火に明確な形はないにも関わらず、火で防御することもできた。
 引火も制御できた。

「魔王……」

 魔王を倒すためにこの世界に呼ばれたと、神は言っていた。
 だが、駿はその使命を放棄しようとしていた。
 その理由はラインと同様、「強制力はない」「実害がない」からだ。
 
 物語のように、魔王が世界征服を企て、自分やその周りが被害にあう可能性があるなら、魔王を倒そうと行動しただろう。
 だが、魔王は存在を神と転生者、と一握りの数えられる数にしか知られていない。
 現在は行方不明。もはや、伝承の中の存在と化していた。

 
 そのとき、不意に駿の心に悪寒が走った。

 魔王と神の喧嘩。
 神の、上司としての怠慢。
 魔王の行方不明。

 ――これらが、駿のもとで交差する。


 駿が村の方を見ると、幾筋もの煙が立っていた。

「!!」

 家事による煙ではない。
 そう断言できるほどに、大量に、太い煙が立っていた。


 村に戻った駿が目にしたのは、燃え続ける家屋、無残に殺された村人。
 辺境の小さな村の住人にとって、みんなが家族だった。
 それは駿……シドーにとっても例外ではなかった。

「……オプノヒスさん……」

 息子が家出し、魔物に妻を殺され、独り身だった彼。体を両断され、死亡。

「レイゼル……」

 駿と同年代の友人。男勝りな性格で、農作業が大好きだった少女。首から下が見当たらない。

「ディンさんまで……」

 村一番の怪力を誇る青年。弓は下手だったが、槍を使った狩りが得意だった。焼死。彼の腕には、結婚指輪ならぬ、結婚腕輪が嵌っていた。
 金色のそれは、炎の中で悲しそうに輝いていた。

 腕の中に何かを抱えていた。先日この夫婦の間に生まれた赤子だろう。


 シドーは茫然としながら村の中を進んでいた。自分の家を目指して。

「が……ぁ……あぇ」

 微かに、そう声が聞こえた。
 おそらく、声の主はシドーの母、クリミア・ハンダイラン。

 シドーは急いで声のもとへ駆け寄った。
 少しでも早く到着するために、切り札である覚醒を使って。
 そこに広がっていた光景は、一瞬でシドーの瞳から一切の光を奪った。

 燃え盛る生まれ育った家。
 倒れ、ピクリとも動かない父。半身が炎に覆われている。

 そして――

「――『炎槍ブレイズランス』!!」

 抵抗する母の首を掴む謎の影。
 その手は炎に覆われており、母の顔が焼かれていた。

 駿はそれを見た瞬間、反射的に魔法を放った。
 記憶の中の2人目の父と母。2人目も1人目も、変わらない。母は母、父は父。
 それを殺された怒りが爆発するのに、時間は必要なかった。

 魔物はシドーの放った魔法を避けようとするが、紙一重で間に合わず、脇腹に食らってしまった。

『ぐ…………』

 そのとき、手の炎が威力を増した。それだけで、母の手足がぶらーーん……と垂れ下がった。
 それをまるで、ごみを投げるかのように燃え盛る家へ放り投げた。

 それだけで、燃えて脆くなっている家は完全に倒壊した。

『生き残りがいたか…………まだ遊べそうだな』

 火の光と感情のフィルターで、シドーの目にはその魔物の姿が真っ黒に映っていた。

 怒りのあまり、体中から火が噴き出ていた。
 魔力の制御が乱れている証拠だ。それほどまでに――激怒していた。そして――








「これはひどい…………」

 傭兵の一団が、森の奥から立ち上る煙を見つけ、やってきたのだ。

「ここは村だったのか」
「壊滅…………魔物がいるかも」
「噂話で聞いたことがありますね。『人』に対して好戦的な魔物がいると。そのどれも、共通して赤い痣を持っているようですが」

 会話をしながらも、緊張の糸はしっかりと張られている。
 さすがは国内でもトップクラスの実力を持つ傭兵集団と言ったところだ。
 戦場に出れば、一区画は圧勝へ導くと言われる。


 村のあちこちから煙が昇っているが、どれも燃やすものがなくなりつつあるあめ、消えかけている。

「魔物がいない……?」
「襲うだけ襲って逃げた?」
「あそこだけ異様に煙が多く、太いですね。何か手がかりがあるかもしれません」

 傭兵集団がその場へ向かうと、地面には黒焦げの何かが転がっていた。
 その向こうには焼失した家屋があり、その前に少年が花を添えていた。どう見ても、異様な光景だった。

「君は……?」

 少年が言葉に反応し、重たい腰を上げてこちらを向いた。
 その目にはまるで生気が宿っていなかった。

 だが、傭兵集団は警戒を解かなかった。人に擬態する魔物がいないとも言い切れない。

 しかし、傭兵集団のリーダーの目は地面に転がっている黒焦げの物体に引き寄せられた。
 よく見ると、人型だが、額と思われる場所から2本の突起物があった。
 そして更によく見ると、胸の辺りに1本の赤い線が走っているようにも見えた。

 暫し考えた末に、仲間に武器を下ろさせる。

「…………生き残りか。とんでもない原石だ」
「どういうこと?」
 
 これはリーダーの言葉と、武器を下ろさせるという行為。この2つに向けられたものだろう。

「あの物体はおそらく、【赤痣】だ」

 【赤痣】。先ほど話に出てきた、『人』に対して好戦的で、体に赤い痣を持つ魔物の総称だ。

「君がこの魔物を殺したとみていいかな? 君の名前は?」
「……ど……」
「「??」」
「シドー……ハンダイラン……」
「シドーか。ここで起きたことを話してもらっても?」
「おい!! 状況を考えろ!」

 全滅した村の生き残り。しかも、子供。
 トラウマ級に残酷な思い出を語らせるなど、酷。そう思っていた。

 が、シドーは頷き、ぽつりぽつりと語りだした。
 この村で何が起こったのか、シドー目線で。




「「…………」」

 すべてを語り終えたとき、その場には沈黙しか残らなかった。

(こいつは【赤痣】を一人で倒した? まだほんの10歳の子供ガキが? 特別弱い変異種だった? その可能性であってほしいな)

 リーダーはシドーに対する警戒度を最大にまで上げた。
 この傭兵集団も【赤痣】と戦闘を行ったことはある。一度ならず、二度や三度も。

(お頭に報告すべきか。…………まだ若い。こちらに引き込むか?)

 そう自身の中で結論を出したリーダーはシドーを見つめ、

「な――」
「――シドー、私たちのもとへおいで」

 仲間の魔術師がそう声をかけた。

(ちっ)

 舌打ちしたい気持ちを抑え、持ち前のポーカーフェイスでリーダーは表情を崩さない。

「ああ、そうだな。それがいい」

 他のメンバーも頷き、それを確認するとリーダーは

「ああ、そうだな。よし、そうと決まれば、すぐにでも出発しよう」
「「おう!」」

 こうして傭兵集団は大して休むことなく、再び歩き出した。
 シドーを少しでも安心させるため、女戦士はシドーに優しく声をかけた。

「安心して、私たちは組織で動いているから」

 この集団が所属する、傭兵集団は世界トップクラスの規模と戦力を保有する。そして、国境を持たない。
 エルフも、ケモミミ族も、鬼も、リザードマンも、人も所属する。
 とはいえ、活動範囲は自国内だが。さすがに、国境移動は国が許さない。

 経歴不詳な者など、この傭兵集団では珍しくない。
 シドーと同じ、故郷を追われた者も多い。リーダーも、その類だった。



 
 

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