140 / 168
最終章 ~最強の更に先へ~
第124話 【水晶使い】ラインVS【六道】龍人③
しおりを挟む「がっ……ぁ……く……あ、ああ……」
『何が起きたのですか?』
龍人は苦しむオレを心配してくれたのか、動きを止めていた。
「ああ、大丈夫……だ」
オレは【理解】した。そう、【理解】だ。
目に映るすべてが情報として脳内に入ってくる。
酔いはしない。脳も正常だ。処理もできている……はずだ。
画期的だな、この力は。
大分【知】の完全解放に近づいたと見ていい。最も叡智に近いところにある能力だ。
そして、【理解】した。
あと一つ、能力を解放すれば、神器が完全に解放される。
どうやら、能力の解放は熟練度によって起こるもののようだ。オレはこれまで、敵を理解しようとしてきた。
それで熟練度が溜まっていたのだろう。
能力の中では最も(かどうかは断言できないけど)高スペックな能力だ。溜まるのに時間はかかるだろうよ。
体を動かしてみる。
……体が軽い。身体能力上昇率も他より高いようだ。
目にするものが情報として、頭に入ってくる。
これはあれか? 異世界転生・転移系おなじみのあれか? ……鑑定。
「さあ、続きをしようか!」
一通り、試したいことを試したオレは、戦闘再開を宣言した。
このやりとり、遊んでいるみたいだな、ほんと。
『いいでしょう。少し強くなったようですしね』
龍人が薙刀を構える。
龍人。
歴代の龍の中でも最上位に位置する強さ。
進化、なんて言ってたが、龍が人の形に収まっただけのようだ。
足元の地面は若干陥没し、先ほどこいつが着地した、川の向こう岸は大きなクレーターを作り、川の水がそこへ流れ、池を作っている。
あり得ない密度に圧縮された筋肉。
それが、こいつの強さの原因だ。
それを補佐する、龍特有の技術。
鎌鼬以上の厄介さ。餓者髑髏……は戦ったことないからわかんねえや。
「――『晶装・剣』」
オレは周りに水晶製の無数の剣を出現させる。
攻防一体の技だ。維持魔力はそこそこ取られるが、一日中発動させるわけではないし、問題はない。
『――『龍撃』』
龍人が地面を捲り上げ、突進してくる。
オレは棍にしたオリハルコンで受け止め、吹き飛ばし効果のある『重撃』を込めた右足で蹴り上げた。
それに合わせ、体を後ろに傾ける。
棍を回し、棍で龍人の腹を突く。
『ぐっ!』
やはり入った!
攻撃中の防御力は落ち、防御中の攻撃力は特に極端に落ちる。
そして後ろを向き、
「――『音砲』」
範囲を極限にまで絞った防御無視の『音砲』を放つ。
1発1発を短くし、連射する。
すべて、龍人の体を通過し、龍人を内部から破壊する。
『ぐっ……が……げほっがぼっ!』
龍人が大量に吐血する。
やはり、硬いのは鱗だけで、内部は普通の魔法と同じようだ。この貫通攻撃、便利だな。
まあ、完全に相手を滅することができないのがデメリットか。
『く……』
そのとき、龍人の体が膨れ上がり、そこに巨大な龍が現れた。
「それがお前の元の姿か」
『ああそうだ。やはり、慣れたこちらの姿の方がいいな』
オレの何十倍もある巨大な龍。
皮膜のある翼、大木よりも太い尾。見る者を委縮させる瞳。
そして、その体に纏うは炎。
「ああ、伝承にいたな。炎龍なんて存在が」
『ああ、そうであろうな』
炎龍。
強者のみを追い求め、切り札と呼ばれた存在を悉く滅し、それに伴う戦闘で辺りを焼き尽くし、灰燼と化したという。
そして何者かにより、討伐された、と……。
「伝説じゃ、討伐されたってなってるけどな」
『ふん! あながち間違っていないかもしれぬな。現に、私はこの世から消えた。あのままにされていたら、死と変わりない』
ふむ……たしかに、そうかもな。
永遠の封印とは死と同義……とまでは行かずとも、ニアリーイコールで結ぶことはできるだろう。
それに、口調が変わった? どうでもいいか。
考えにひと段落着いた。
両足に力を込め、思いっきり引き絞った。
相手が巨体なら、その上から直に攻撃してみるか。
水晶の剣を纏いながら、龍に迫る。
目指すは龍の心臓!
――パァン!
目の前が真っ暗になったかと思うと次の瞬間、体を衝撃が襲っていた。
しっぽで攻撃されたか、くそ。完全にノーマークだった。
地面に当たる前に、防御魔法を何個か掛けたおかげでダメージは少ない。
オレの着地地点は大きなクレーターができていた。
少し遅れて水晶の剣が降りて来た。しっぽに弾かれ、まあまあの数が破壊されたようだけど、また作ればいいか。
起き上がり、再び龍を見上げる。
『ふむ……やはり、筋肉量が大幅に増えたようだな。私はここまで大きくなかったのだが……』
「そうなのか。伝説にゃ、巨大な龍と書かれていたんだけどな」
伝承上じゃ、炎龍は「他の龍より一回りも二回りも大きい」と記されていた。
【史上最強の龍】こそが炎龍だ。
それが進化し、今、敵としてオレの目の前で、オレと戦闘中だ。
オレの人生、どうなってんだ。
普通の家庭に生まれ、中の中ぐらいの成績を維持し、中学からは運動部に入り、引退後は受験勉強を見据え始めていた。
そんな折、異世界に転生し、強さを追い求め……。――魔物を殺しまくった。
前世じゃ、動物虐待で非難されてもおかしくないな。
魔物も、前世じゃ動物認定だ。
『ふむ……他の龍と会う機会がなかったのでな。普通がわからんのだよ。にしても、『炎龍』か……水や土、風なんかもいるのか?』
「一応、いたけど……強さじゃ炎龍こそ最強だったはずだ。伝承の中の話だがな」
『そうか……なら、より強き者は歴史上に数えるほどしか存在しない、ということか……お前は、どうなんだろうな?』
「さあな。だからこうして、確かめてるんだろ?」
『ああ、そうだな。さて、続きといこうか』
炎龍が鎌首を持ち上げる。
炎に包まれた細身の体。長い首。赤い鱗。
『――『炎蜥蜴』』
炎龍の体が炎に包まれた。けど……――駿の炎には遠く及ばない! 対処は可能だ。
周りに待機させていた『晶装・剣』を炎龍の首に向かって向かわせる。
……若干溶けているか?
駿のを基準にするのは危険ってことか。なら!
手元に残っている水晶の剣に、余分に魔力を込める。密度が高くなり、溶けにくくなるだろう。
現に、今度の水晶は溶けずに炎龍の首に刺さった。
『ぐっ!』
やはり、人型時に水晶が刺さらなかったのは高密度の筋肉のせいか。
『――『炎の息吹』』
炎龍の首が赤く輝き、口から炎が放たれる。
「ちっ! ――『晶壁』 ――『晶殻』」
水晶の壁を3枚と、自身を覆う水晶の殻で身を守る。密度は最大まで高めてある。
攻撃が止んだ。
『晶殻』は必要なかった――
――ドンッ!
そのとき、『晶殻』に衝撃と共に罅が入った。
こいつ、しっぽで攻撃してやがるな! どんどん罅が入ってきてやがる。そして、ついに――
――バキン
穴から炎龍の爪が入ってきた。
オレは咄嗟に『晶殻』を解除し、後退した。
その直後、爪から炎が吹き荒れ、辺りを焦がした。
『避けたか』
「嫌な予感がしたのでな。第六感は馬鹿にできないもんだ」
『――『炎拡大爆発』』
炎龍が魔法を唱えると、オレの服に着いた火が一気に膨れ上がり、オレを包み込む。
「――『自由化』」
オレは咄嗟に魔力を解放し、火を吹き消した。
「熱いなぁ……げほっ」
服は魔力を込めれば修復できるけど。体の方は……いや、まだ使う場面じゃない。
幸い、ダメージはまだ少ない。
『ほう……判断力は高いようですね』
「ああ、頭には自信があってな」
『ふぅ……』
炎龍はため息を吐いた。
『すぅーーーー』
息を大きく吸い込んだ。
喉の奥に高密度の魔力を感じる……。
『――『殲滅の息吹』』
――カッ
炎龍は首を落とし、炎の息吹を吐きだした。
灼熱の炎はすべてを溶かさんと、オレに迫る。【思考加速】と【理解】のおかげで、脳は反応できているが、体は間に合わない。
水晶で……耐えきれるかどうか……だが、やらないと後はない!
無詠唱で、『晶壁』を3枚、『晶盾』を2枚、『晶殻』を出した。
しかし、範囲を絞ることで熱量を最大にまで上げているおかげで、少しずつ破られてきている。
『ア゛ァ!』
逃げようと考えていると、炎龍が声を上げた。それに合わせ、炎の火力が上がった。
そして『晶殻』が溶けて薄くなり、やがて赫《あか》い光が顔を出し――
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる
仙道
ファンタジー
気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。 この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。 俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。 オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。 腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。 俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。 こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。
12/23 HOT男性向け1位
ダンジョンに行くことができるようになったが、職業が強すぎた
ひまなひと
ファンタジー
主人公がダンジョンに潜り、ステータスを強化し、強くなることを目指す物語である。
今の所、170話近くあります。
(修正していないものは1600です)
男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)
大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。
この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人)
そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ!
この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。
前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。
顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。
どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね!
そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる!
主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。
外はその限りではありません。
カクヨムでも投稿しております。
異世界帰りの少年は現実世界で冒険者になる
家高菜
ファンタジー
ある日突然、異世界に勇者として召喚された平凡な中学生の小鳥遊優人。
召喚者は優人を含めた5人の勇者に魔王討伐を依頼してきて、優人たちは魔王討伐を引き受ける。
多くの人々の助けを借り4年の月日を経て魔王討伐を成し遂げた優人たちは、なんとか元の世界に帰還を果たした。
しかし優人が帰還した世界には元々は無かったはずのダンジョンと、ダンジョンを探索するのを生業とする冒険者という職業が存在していた。
何故かダンジョンを探索する冒険者を育成する『冒険者育成学園』に入学することになった優人は、新たな仲間と共に冒険に身を投じるのであった。
【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。
木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。
しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。
そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。
【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる