戦闘狂の水晶使い、最強の更に先へ

真輪月

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最終章 ~最強の更に先へ~

第133話  聖物の意志

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 居合……抜刀した。

 その鏡の映像が本物なのかどうかはわからない。盟主の作り出した虚偽の映像かもしれない。
 でも、関係ない。
 オレの脳裏には、村での思い出が刻まれている。それだけは本物だ。

 居合斬りで『飛撃』を放ち、その陰に隠れて距離を詰める。

「愚かな……。『魔法防……いや、くくく……! ――『転移テレポーテーション』」

 ――その瞬間、景色がガラリと変化した。

 しかし、オレの動きは止まらない。
 刀の切っ先が、盟主の胸を切り裂いた。

 盟主は後ろに身を引くことで、傷を浅くしたようだ。

 オレは一度落ち着いて、周りを軽く見渡し……

「……は?」

 見慣れた景色。
 見慣れた顔。
 
「な……んで……」

 オレがいたのはワインド国。しかしここは……

 ――オレの故郷だ。

 オレのいた場所から故郷《ここ》まで、フレイの『流星駆スターダスト』でも1日はかかる。
 それを一瞬で? それはまるで――【瞬間移動】じゃないか。

「あぁ……さすがに疲れるなぁ……。必要最低限のエネルギーしか使用していないはずなんだがな。所詮は借り物の借り物か」
「なぜお前が副騎士団長の能力を使っているんだ!?」

 加護は1人にしか宿らない。
 【瞬間移動】は副騎士団長、ミュイ・ライトリクスの加護だ。

「ちッ……予想以上に消耗が激しい」

 【瞬間移動】を魔法で再現した?
 そんなことが可能なのか? 器の持ち主である駿でも再現不可能・・・・・だったのに?
 駿が瞬間移動を体得するルートを見つけられていないなんてことはあり得ない。絶対に。

「それは加護の能力のはずだ。なぜ、お前がそれを使用できる? それは再現不可能のはずだ」
「再現できてしまうのだよ……お前が知る方法はないがな」
「そうかい」
「……ライン?」

 そのとき、後方から声を掛けられた。

「……っ!」

 そこにいたのは……母さんと父さんと村長だった。
 オレは今、仮面を着けていない。単なる砂煙ならともかく、魔力が混じっていると大して視界に変化がない。

「ふむ……ああ、あったあった」

 オレが家族に目を奪われている隙に、盟主は畑の中をうろうろしていた。
 何かを探し、見つけたようだ。
 
「――『炎獄降臨ヘルフレイムフィールド』」

 そのとき、足元の地面が赤く輝き――



 このとき、盟主を中心にして直径5キロが消滅・・した。
 草木は燃え尽き、近くの木に引火し、山火事を引き起こした。



 何が起きた?
 
「がほっぺっ」

 魔力を多く含んだ砂煙で視界は最悪だ。砂も口の中に入ったし。
 だが、足元の地面は無事だ。
 となると……。

 この状況下で奇襲を仕掛けてくるつもりか? 『晶弾』と『晶装・剣』を
周囲に大量に待機させる。
 これで大抵の攻撃は防げるはずだ。

 だが、予想を裏切って攻撃は一切なかった。
 砂煙自体がデバフ効果を持つ攻撃だった? 何も感じない。遅効制か?

 徐々に砂煙が晴れて……

「どうだ? 冷静さが欠けていたのではないか?」

 信じたくない。

 信じられない。

 夢なら覚めてほしい。

 だが残酷なことに頭に情報が入ってくる。

 信じたくない情報が。

 夢だと思いたい情報が。

「――――――――――――ッッ!!!!」

 オレは再び自我を失った。
 感情の赴くままに、破壊の限りを尽くしたと思う。





 雨が降り出した。
 オレは時間が経過するにつれ、自我が戻り始めていた。理由はあとでわかることになる。 
 
「くっ……加減をしていたのはお前もか。それとも、それが本来の強さなのか? ぐあっ! 先ほどの魔法も効いていなかったようだし……」

 盟主はラインについて理解しようとしていた。が、加護は習得できない。
 そして吹き飛ばされ、地面を転がった。泥が服に付く。

「このままだとまずい……――『火炎蝶かえんちょう』」

 盟主の周囲に炎が出現し、それらが蝶の形をとる。羽ばたきながらオレの方へ向かってくる。
 が、体の自由はまだ戻っていない。

 ああ、まずいな……。

 蝶が羽ばたくと、灼熱の鱗粉が舞う。
 そんな蝶が、上空を飛び回っているんだ。辺りの空気まで炎のようだ。

「――『炎渦えんか』」

 ラインを中心に、炎の渦が生まれる。
 炎の渦の中に捕らわれた生物は肺から焼ける、盟主の必殺魔法の1つだ。

 いくらラインとはいえ、無事ではすまない。死の危険すらある。
 だが、体が怒りに……憤怒に包まれている状態では、まともに動かない。こうして持てている若干の意識は、全体の一割にも満たない。

 防御はもう間に合わない。
 空気中に鱗粉が溢れている。防御魔法を展開しても、手遅れだろう。

 雨はすべて、炎の渦が防いでいる。
 
 ――絶体絶命。しかしそのとき、

『――『水龍剣リヴァイア』』

 上空から大量の水が降ってきて、炎を掻き消した。
 水が掛かったおかげで、若干冷静さを……意識を取り戻せた。

「ライン、少し冷静になれ。――『麻痺パラライズ』」

 騎士団長の魔法でオレの体の自由は完全に失われた。

「な……なぜ」
「喋るな、ライン。あとは私たち・・に任せろ」

 そう言うと、騎士団長と――餓者髑髏がしゃどくろがオレを庇うように立った。
 徐々に冷静さが戻ってきた。

 ――カチリッ

 何かが嵌った。
 今までの、ガチンッという感じじゃなかった。
 そう。

 ――すべてのピースが揃った感覚。

 そのとき、脳がスパークした。
 すーー……と、頭痛が脳内に浸透していく感じ。

 すべての目に映るものすべてが情報。
 深淵ってこんな感じなんかな?

 脳内にたくさんの顔がちらつく。知らない顔ばかりだが。

餓者髑髏がしゃどくろ……? 死んだはずじゃ?」
『お前が我らに植え付けた魂の欠片を引き剥がしただけだ。死んだら剥がれるんだろ?』
「なぜお前程度が……?」
『教えん』

 餓者髑髏がしゃどくろと騎士団長。2人が持っているのは……聖物か。
 聖物……世の秩序を保つ、意志ある物。だったか。

 知らない情報だが、知っている。

 それより、餓者髑髏がしゃどくろが気になることを言っていたな。
 魂の欠片? 神の神器の効果も【魂】だったはずだが……。

『行くぞ』
「おう!」

 餓者髑髏がしゃどくろと騎士団長が剣を構え、盟主と激突する。
 動けないオレの周りには、電気と水の二重の防御が張られている。
 
『――『流水縛アクアバインド』』
「――『雷槍サンダースピア』」

 餓者髑髏がしゃどくろが盟主を水で拘束し、騎士団長が盟主の胸目掛け、雷を放つ。

「――『鉄塔アイアンタワー』」

 盟主の周囲に鉄の棒が現れ、雷を吸収し、地面に逃がす。その後、鉄の棒は砕け散った。
 
「まずいな……」
『――『水円斬アクアチャクラム』』

 餓者髑髏がしゃどくろの剣から水が発生し、チャクラムの形を取り、盟主に迫る。

「――『火炎魔人イフリート』……これでも!」

 盟主が体に炎を纏うが、盟主を縛る『流水縛アクアバインド』は蒸発しなかった。
 しかし『水円斬アクアチャクラム』は蒸発した。
 
『レイハル、畳みかけるぞ』
「結局はこうなるのか……よし、わかった」

 雨が降っている。空は黒い雲が広がっている。
 ここら一帯上空にしか広がっておらず、2人の出現とほぼ同時だった。つまり、2人のうちどちらかの魔法だ。
 つまり、餓者髑髏がしゃどくろと騎士団長にとって良環境。

 盟主が炎を纏っていることに対抗したのか、

『――『水龍鱗リヴァイアスケル』』
「――『雷神』」

 餓者髑髏がしゃどくろは水を、騎士団長は雷を纏った。
 騎士団長は盟主の『火炎魔人イフリート』の電気版みたいな見た目だ。

「――『天雷サンダー』」
『――『雨弾スコールバレッツ』』

 雨雲から雷が落ち、雨が弾丸へ変わり、盟主に降り注ぐ。
 
「――『鉄塔アイアンタワー』」

 盟主は鉄の棒を目の前に出し、雷と雨の弾丸を防いだ。
 しかし、雷は一瞬、雨は数秒。

 雷を受け流し、ボロボロになった鉄の棒を突き破り、雨の弾丸が盟主に直撃する。

 この2人、もともと繋がっていたんじゃないか?
 そうでないと、この連携は納得がいかない。

「くっ……」

 盟主が押され気味だ。

「なぜそこまで息が合っている? 餓者髑髏がしゃどくろ……お前を封印から解き放ったのは誰だと思ってる?」
『解術師を殺したのは誰だ? お前が、あの封印に魔狼フェンリルが入っているとしりながら封印を解かせに行ったのはお前だろう?』
「そうだ。しかし我は魔狼フェンリルの脳がいかれていることなど――」
『――嘘を吐くな。お前は知っていたはずだ』
「その証拠はどこに……」
『あの日、我とお前の分のアヌースしか用意されていなかった。お前はあいつを見捨てたんだ』

 どうやら、餓者髑髏《がしゃどくろ》は個人的に盟主に忠誠心皆無だったようだ。
 恩人……恩魔物を殺された恨みなのか? 
 
『解術師である【架け橋】ロックワード殿を殺したお前を我……いや、私は許さない!』

 

 
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