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最終章 ~最強の更に先へ~

第136話  神

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 は……?
 【魔導士】が……騎士団長を刺し殺した?

 その【魔導士】に餓者髑髏《がしゃどくろ》が剣を振り下ろす。が、謎の衝撃波が発生し、餓者髑髏がしゃどくろは吹き飛ばされた。

「久しぶりだな」
「お久しぶりです」
『お前ら……!』

 騎士団長は……死んだな。
 オレの周囲を覆う魔力防御から、電気が消えた。

 だが、依然としてオレの体は動かない。
 
「例のものは……?」
「ああ、覚醒途中だ。一度冷静さを失わせれば覚醒は早まると思うが……」
「なるほど。それでは……」

 そのとき、【魔導士】の体が白く輝きだし、小さく、丸くなった。
 それを盟主は……吸い込んだ。

 ――ドクンッ!

 鼓動が辺りに響く。
 一鼓動ごとに辺りに衝撃が走る。水たまりの水は波紋を立て、泥ごと吹き飛ぶ。
 オレを守る魔法防御がビシビシと音を立て……何度目かの鼓動の後、甲高い音を立てて破裂した。

 鼓動が収まると、盟主の体に変化が起きた。
 黒い髪は茶色く染まり、腰まで伸びた。
 ごつごつの体は柔らかくなり、鉄板のような胸は丸い双丘が溢れ出しそうだ。

 ――性転換。

「――『爆魂ばっこん』」

 女体化した盟主は餓者髑髏がしゃどくろに右手を向けた。
 何が起きるのかを推測した餓者髑髏がしゃどくろはその場から逃げようとするが、足が動かなかった。

『これは……』
魂の上位者・・・・・に逆らえると思わないことです。裏切者は貴方が2人目です。不快です。死んでください」

 その瞬間、餓者髑髏がしゃどくろが石のように固まった。
 微かに、パキ……パキ……と、硬い何かが割れる音がした。
 そして……

 ――バキンッベキ……

 音が大きくなり、音の発生源が明らかになった。――餓者髑髏がしゃどくろだ。
 
 あの炎龍の鱗よりも硬いはずの餓者髑髏がしゃどくろの骨の体に罅が入りだした。
 音は止まらず、罅も広がる。

 そして、最後に大きな音を立てて餓者髑髏がしゃどくろの体が粉々になって弾け飛んだ。

 そして、オレを守る魔法が消えた。雨も止んだ。辺りを陽光が優しく包む。
 まったく優しい場面じゃないんだがな。
 これで餓者髑髏がしゃどくろの死が確定した。

 オレの精神……第二の人格は安定している。
 だが、体の方は怒りで我を失いかけている。まずいな。オレも体に……怒りの渦に取り込まれそうだ。
 精神を強く保たねば……!

 体の麻痺も完全に解けた。
 魔術防御も解除されている。

 ――オレの体は自由だ。

 檻に入っていない獣は何をしでかすかわからない。自分を獣と呼ぶのは変な感じだな。 
 だが、オレでは制御ができないのも事実。所詮、今のオレは疑似人格。
 偽物は本物に敵わないというわけだ。

 少なくとも、この人格だけでも……なんでこの人格が生まれたんだ?
 
「さあ、獣は放たれました! さあ!」

 オレは盟主の姿をどこかで見たことがあった。
 だが、体の方は覚えていたようだ。怒りが爆発し、盟主に向かって駆けだした。

 まずい、冷静さを取り戻させないと!
 ……強いな、オレ。

 脳のリミッターが外れているのか。
 痛みを感じていないのか、関節が可動域いっぱいにまで動けている。
 拳を振り下ろすだけで風が起こり、地面を軽く抉る。

 餓者髑髏がしゃどくろ×騎士団長よりも強いんじゃないか?

 いや、冷静さを取り戻さないと。

 ……あ、思い出した。
 既視感のある今の盟主の姿。

 ――神

 オレを……オレたちをこの世界に送り込んだ……拉致した存在。
 この力を与えてくれたのは感謝している。感謝したことはないがな。
 しかし、向こうで天命を全うできなかった。オレは10歳半ばだった。
 
 澄川蓮は死に、ライン・ルルクスとして生まれ変わった。
 合計年齢は30半ば、か……。いい年齢だ。

 神に対し、特に感情は抱いていない。
 久しぶりに再会した同級生のような感覚だ。

 だが、神は……駿が殺したはずだ。
 なぜ……いや、元はミル・デイルという……オレの同級生だった。

「――『爆魂ばっこん』……やはり効きませんか」

 先ほど餓者髑髏がしゃどくろを殺した魔法を放つが、ノーダメージだった。

 まずい……駿の情報じゃ、神は【魂】の器の所持者。
 こいつが本物かどうかは、今考えることじゃない。が、神と判断して行動する。

 戻れ戻れ戻れ……!

「戻れ! ……あ?」

 戻っ……たぁあああああっ!
 リミッターも戻ったぁああああ……。
 だが、強くなった!

「条件を満たしましたか……なのに、覚醒はしていない? どういうことですか?」
「さあ、オレが知るか」

 ……知っている。
 今は準備期間だ。オレの器は【知】。

 叡智をインストール中というわけだ。

「……お前は、しゅ……かつて【最強】シドーが倒した神、で間違いないな?」
「ええ、あの魔王の意志と共に私を殺してくれたあの【神兵】ですね」

 ……【神兵】。オレたち転生者の別名。最も、神が勝手にそう呼んでいるだけだが。
 魔王の意志と駿が、共に神を殺したという話を出してきたということは……神本人の可能性が高い。
 
 となると、魔王同様の残存意志……ではない?
 死ぬ寸前になんらかの方法で魂だけを逃がし、今こうしてミルに宿っているというわけか?
 問題は、神が未だに【魂】の器を所持しているのかどうか。

 器があるのとないのとじゃ、身体能力も手数も大きく異なる。
 器を持っているとすれば……いや、こいつは持っていない。

 そもそも神の……盟主の目的は【魔】への復讐。
 最初は盟主が世界征服のため、より強くなろうとしてオレの神器を奪おうとしているのだと思っていた。
 しかし、盟主は神だった。

 神は異様なまでに魔王に……【魔】を殺すことに固執していたらしい。
 しかし、神は【魔】を受け継いだ駿に殺された。その復讐を考えているとすれば、これまでの言動すべてに納得がいく。
 オレの神器を……力を奪い、【魔】を滅ぼす。

 盟主が【魂】の神器を所持していたら、駿の話にあった通りの強力な軍団を作り上げていただろう。
 しかし、力を与えられていたのは【六道】と各隊長と一部の魔物のみだった。与えられた力も大したものではなかった。
 駿の話よりも全体的に規模スケールが小さい。

「貴方はやはり、シドーと接触したのですね。貴方も転生者ですか?」
「ああそうだ! お前に拉致された転生者の1人だ」
「なぜ転生者が7つあるうちの2つを……やはり、異界からの召喚は予測不能の事態を引き起こす……残りの転生者も順次始末するとしましょう」

 神は手の中に炎を生み出した。

 そうだ、こいつは今、【緻密な魔力操作】の加護を持っているんだ。
 器の所持者が別の器の加護を持つなんてことはあり得ない。つまり、神は器を持っていない。

「お前はさっき、【魔導士】を取り込んだよな?」
「ええ、あれはもう1人の私です。魔物連合盟主と【魔導士】の力が1:1になるように分配していました。再び1つに纏まっただけです」

 そうか……。【魔導士】は裏切ったわけではなく、初めから魔物連合側の存在だったんだな。
 たしかに、こいつの喋り方と【魔導士】の喋り方は一緒だ。
 となると、【魔導士】の【全属性理解】の正体は盟主の【緻密な魔力操作】だったというわけだ。
 
 【魔導士】にできた魔法はすべて使えるとみていい。使えない道理がないか。

「では、戦闘を再開しましょう。――『煉獄領域展開』」

 神の右手の炎が弾け、オレたちを覆うように炎の壁が出現した。
 水晶も溶かされそうだ。長時間、あの炎の中に入れておけば、だが。

「――『火炎魔人イフリート』」
「――『晶弾・龍』」

 水晶と炎が激突し、相殺される。
 やはり、駿の下位互換。所詮は借り物。

 水晶1つ1つが、依然とは比べ物にならない威力を持っている。
 これ1発で人間1人殺せる。魔物連合の隊長でも一撃で殺せそうだ。

「なかなか楽しめそうですね」
「……なあ、お前は結局なんなんだ?」
「それを知る必要はありません。死んで、私に器をよこしなさい」

 


 
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