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第10話
『え?土日も、佳乃ちゃんのところに泊まるの?』
『右手が使えないから、お風呂とか大変なのよ。月曜日に帰るわ』
『いや、でもさ、土日くらいは親御さんとかに来てもらえばいいんじゃない?加奈がいつまでも手伝うこともないんじゃないかな?こっちの家のこともあるし、仕事も行くの大変だろう?』
『問題ないわ』
『それじゃ、土日は何か手伝えるかもしれないから、俺が車を出そうか? 必要な物があれば買っていくし』
『大丈夫よ。それじゃ月曜にね。おやすみ』
『……おやすみ』
私はスマホの電源を切った。
指先が冷たくなっていることに気づき、ぎゅっと握りしめる。どこか落ち着かない。
「斗真さん、なんて言ってた?」
「土日は帰ってくるかって聞かれた。こっちの家の用事もあるだろうって。でも……家事のことかしらね?」
「ははは、家政婦じゃないんだから、自分でやればいいのにね」
私は自宅マンションには戻っているけれど、彼と顔を合わせないように時間を調整している。
そのときにボイスレコーダーも回収し、新しい物を代わりに置いてくる。
残念ながら、回収したボイスレコーダーには、何も録音されていなかった。
さすがに浮気相手を部屋に連れ込んではいないようだ。
けれど、私の部屋に仕掛けたスパイカメラには、彼が部屋に入って驚いている様子が映っていた。
さらに、引き出しを勝手に開け、中を確認している姿も記録されていた。
「すっからかんの部屋を見て、加奈が家出したって思っているんじゃない。いい気味ね」
「荷物は断捨離したって書いておいたわ。焦ってるのかな?もともとそんなに物を持ってないわよ私」
「確かに、昔からそうだったわね」
佳乃はいつも私の物の少なさに驚いていた。特に旅行へ行くときなど、通勤用の鞄で行っても問題ないくらい荷物は最小限だった。
「スナフキンが言ってたの、『物の持ち過ぎで苦しむのは、自分だぞ』ってね」
「加奈は、いつからスナフキンになったのよ」
佳乃は笑ってツッコミを入れてくれた。
夫婦として積み重なった思いや習慣が、いつしか重荷になってしまったのなら……
彼にとって私は、手放すべき荷物なのかもしれない。
***
彼のいない時間を見計らって、マンションへ戻りボイスレコーダーを回収する。
手の中の小さな機械をじっと見つめる。これの難点は、50時間しか持たないことだ。
こまめに回収するのは面倒だし、結局のところ生活音ばかりが録音されていて、ほとんど意味をなさない。
斗真さんは、さすがに部屋で独り言を喋るような奇妙な行動には出なかった。
回収したレコーダーを再生しても、聞こえてくるのはただの日常の音だけ。
テレビの音、椅子を引く音、カーテンが風に揺れる音。まるで、何事もなかったかのような、穏やかすぎる空気がそこにある。
「ボイスレコーダーは、誰かと会うときに会話を録音するものよね」
そんな当たり前のことに、今さら気がついて苦笑した。
金曜の夜、仕事帰りに佳乃と待ち合わせて食事に行った。
退勤後の街は活気に満ちていて、駅前のネオンがぼんやりと光っている。
私たちは高級焼肉店へ向かいながら、「今日は飲むぞ」と笑い合った。
佳乃のマンションに泊めてもらっているので、家賃代わりに佳乃にお金を渡した。
いらないと断られたが、それならこれで飲みに行こう、と二人でグラスを合わせる。
テーブルに並べられた分厚い肉は、見ているだけで幸せな気分になる。
「やっぱり肉よね、肉。高級店は違うわよね」
「男の人がいないから、そんなに量も食べないし、意外とリーズナブルだわ。女同士の焼き肉は最高ね」
炭火の上でじゅうじゅうと焼かれる肉の音を聞きながら、佳乃は生ビールを半分ほど飲んでから私に訊ねた。
「よその家庭のことでなんだけど、加奈はお金ってどうしてるの? 生活費は斗真さんが出してるの?」
「えっとね、うちはマンションの頭金とかローンは全部斗真さん持ち。名義も彼だし。私より収入が高いから余裕はあるはず」
「生活費は?」
「私は食費を出しているわ。月に7万もかからない。彼は昼は社食だし、会社での外食も多いからそれは彼が自分で出してる。スマホ代とか保険代とか、洋服代は各自でって感じかしら」
「ああ、じゃあ加奈は結構余裕あるわね」
「そうね。私も普通にお給料もらってるし、そんなに贅沢もしてないから貯金はある。離婚してすぐに困るような経済状況ではないわ」
グラスを傾けながら話していると、気持ちが少し軽くなる気がする。
この時間だけは、ただ楽しく過ごせばいいと思えた。
そのまま二件目はバーへ行き、夜が更けるまで楽しんだ。
心地よい酔いが回り、大学の頃に戻ったような気分になる。
「大学の頃みたいで楽しかった」
「だよね、結婚なんてしなくても十分楽しいわよ」
佳乃は恋愛や結婚には興味がないようで、子どもが欲しくなったときのために卵子凍結を検討している。
たとえば、『本当はこうしたくなかったけれど、夫のために、子どものために』そんな風に思いながら生きることは耐えられない、と彼女は言う。
相手のために自分のキャリアプランを諦めることはしたくないらしい。
『自分は、いつでも自由でいたい』彼女はそう考えている女性だった。
***
その夜、スマホの通知が静かに鳴った。
画面を開くと、斗真さんからのメッセージが並んでいる。
『加奈、さすがに顔を見たいんだけど、もう4日も会ってないだろう』
『家に帰って来ているのに、俺に会わないようにしてないか? おかしいだろう』
『何かあったのか? 加奈がいなければ帰って来ても俺一人だし、なんか静かすぎる』
未読のままスマホを伏せる。
彼はきっと怒っているだろう。
それから、メッセージは途切れた。
彼と土日を一緒に過ごすのは嫌だったので、帰りを月曜にした。
その結果、斗真さんとは6日間顔を合わせないことになる。
とはいえ、過去には彼が海外出張でひと月ほど家を空けていたこともあった。
たった一週間程度で怒るというのは、少し腑に落ちない。
私は、まだ離婚を決めていない。
とりあえずは、彼らを泳がせて浮気の証拠を掴むことにした。
けれど、万が一、浮気相手の林優香から接触があった場合は必ず録音し、そのとき、できれば彼女から証拠の画像を手に入れるという計画を立てた。
「おバカっぽいから、加奈が『浮気の証拠の画像を送ってくれたら離婚するわ』とか言ってみたらいいんじゃない?」
「そうよね。彼女のスマホの画像を入手できたら一番いいよね。なんか簡単に記念写真を撮っちゃってる斗真も、おバカに見えてきた」
「たいていの若い女は、もらったプレゼントとか、豪華なディナーをSNSに上げてるから、その子のアカウントとかが分かればいいけどね」
「最初に画像が送られてきたアカウントは、多分捨て垢だった……」
「彼女がもう一度加奈に直接接触してきたら話は早いけど、なんか怖いしね」
この先、斗真さんが彼女に二度と会わない可能性もある。
この件で彼から何らかのアクションがない場合は、当面は、いつも通り変わらない妻を演じる予定だ。
佳乃は私を裏切った斗真さんをどうしても許すことができないようで、離婚を勧めてくる。
離婚を有利に進めるには、こちらに妻として非がないようにしなければならないらしい。
どうなるかは分からない。
それでも、とにかく長期戦になる覚悟はしておく。
朝になり、出勤の準備を終えた私はスマホを開く。
指先で画面をなぞり、静かにメッセージを送った。
月曜の朝、『今日マンションに戻ります。夕飯は作っておくわね』
メッセージを書いて、送信ボタンを押してそっとスマホを伏せた。
『右手が使えないから、お風呂とか大変なのよ。月曜日に帰るわ』
『いや、でもさ、土日くらいは親御さんとかに来てもらえばいいんじゃない?加奈がいつまでも手伝うこともないんじゃないかな?こっちの家のこともあるし、仕事も行くの大変だろう?』
『問題ないわ』
『それじゃ、土日は何か手伝えるかもしれないから、俺が車を出そうか? 必要な物があれば買っていくし』
『大丈夫よ。それじゃ月曜にね。おやすみ』
『……おやすみ』
私はスマホの電源を切った。
指先が冷たくなっていることに気づき、ぎゅっと握りしめる。どこか落ち着かない。
「斗真さん、なんて言ってた?」
「土日は帰ってくるかって聞かれた。こっちの家の用事もあるだろうって。でも……家事のことかしらね?」
「ははは、家政婦じゃないんだから、自分でやればいいのにね」
私は自宅マンションには戻っているけれど、彼と顔を合わせないように時間を調整している。
そのときにボイスレコーダーも回収し、新しい物を代わりに置いてくる。
残念ながら、回収したボイスレコーダーには、何も録音されていなかった。
さすがに浮気相手を部屋に連れ込んではいないようだ。
けれど、私の部屋に仕掛けたスパイカメラには、彼が部屋に入って驚いている様子が映っていた。
さらに、引き出しを勝手に開け、中を確認している姿も記録されていた。
「すっからかんの部屋を見て、加奈が家出したって思っているんじゃない。いい気味ね」
「荷物は断捨離したって書いておいたわ。焦ってるのかな?もともとそんなに物を持ってないわよ私」
「確かに、昔からそうだったわね」
佳乃はいつも私の物の少なさに驚いていた。特に旅行へ行くときなど、通勤用の鞄で行っても問題ないくらい荷物は最小限だった。
「スナフキンが言ってたの、『物の持ち過ぎで苦しむのは、自分だぞ』ってね」
「加奈は、いつからスナフキンになったのよ」
佳乃は笑ってツッコミを入れてくれた。
夫婦として積み重なった思いや習慣が、いつしか重荷になってしまったのなら……
彼にとって私は、手放すべき荷物なのかもしれない。
***
彼のいない時間を見計らって、マンションへ戻りボイスレコーダーを回収する。
手の中の小さな機械をじっと見つめる。これの難点は、50時間しか持たないことだ。
こまめに回収するのは面倒だし、結局のところ生活音ばかりが録音されていて、ほとんど意味をなさない。
斗真さんは、さすがに部屋で独り言を喋るような奇妙な行動には出なかった。
回収したレコーダーを再生しても、聞こえてくるのはただの日常の音だけ。
テレビの音、椅子を引く音、カーテンが風に揺れる音。まるで、何事もなかったかのような、穏やかすぎる空気がそこにある。
「ボイスレコーダーは、誰かと会うときに会話を録音するものよね」
そんな当たり前のことに、今さら気がついて苦笑した。
金曜の夜、仕事帰りに佳乃と待ち合わせて食事に行った。
退勤後の街は活気に満ちていて、駅前のネオンがぼんやりと光っている。
私たちは高級焼肉店へ向かいながら、「今日は飲むぞ」と笑い合った。
佳乃のマンションに泊めてもらっているので、家賃代わりに佳乃にお金を渡した。
いらないと断られたが、それならこれで飲みに行こう、と二人でグラスを合わせる。
テーブルに並べられた分厚い肉は、見ているだけで幸せな気分になる。
「やっぱり肉よね、肉。高級店は違うわよね」
「男の人がいないから、そんなに量も食べないし、意外とリーズナブルだわ。女同士の焼き肉は最高ね」
炭火の上でじゅうじゅうと焼かれる肉の音を聞きながら、佳乃は生ビールを半分ほど飲んでから私に訊ねた。
「よその家庭のことでなんだけど、加奈はお金ってどうしてるの? 生活費は斗真さんが出してるの?」
「えっとね、うちはマンションの頭金とかローンは全部斗真さん持ち。名義も彼だし。私より収入が高いから余裕はあるはず」
「生活費は?」
「私は食費を出しているわ。月に7万もかからない。彼は昼は社食だし、会社での外食も多いからそれは彼が自分で出してる。スマホ代とか保険代とか、洋服代は各自でって感じかしら」
「ああ、じゃあ加奈は結構余裕あるわね」
「そうね。私も普通にお給料もらってるし、そんなに贅沢もしてないから貯金はある。離婚してすぐに困るような経済状況ではないわ」
グラスを傾けながら話していると、気持ちが少し軽くなる気がする。
この時間だけは、ただ楽しく過ごせばいいと思えた。
そのまま二件目はバーへ行き、夜が更けるまで楽しんだ。
心地よい酔いが回り、大学の頃に戻ったような気分になる。
「大学の頃みたいで楽しかった」
「だよね、結婚なんてしなくても十分楽しいわよ」
佳乃は恋愛や結婚には興味がないようで、子どもが欲しくなったときのために卵子凍結を検討している。
たとえば、『本当はこうしたくなかったけれど、夫のために、子どものために』そんな風に思いながら生きることは耐えられない、と彼女は言う。
相手のために自分のキャリアプランを諦めることはしたくないらしい。
『自分は、いつでも自由でいたい』彼女はそう考えている女性だった。
***
その夜、スマホの通知が静かに鳴った。
画面を開くと、斗真さんからのメッセージが並んでいる。
『加奈、さすがに顔を見たいんだけど、もう4日も会ってないだろう』
『家に帰って来ているのに、俺に会わないようにしてないか? おかしいだろう』
『何かあったのか? 加奈がいなければ帰って来ても俺一人だし、なんか静かすぎる』
未読のままスマホを伏せる。
彼はきっと怒っているだろう。
それから、メッセージは途切れた。
彼と土日を一緒に過ごすのは嫌だったので、帰りを月曜にした。
その結果、斗真さんとは6日間顔を合わせないことになる。
とはいえ、過去には彼が海外出張でひと月ほど家を空けていたこともあった。
たった一週間程度で怒るというのは、少し腑に落ちない。
私は、まだ離婚を決めていない。
とりあえずは、彼らを泳がせて浮気の証拠を掴むことにした。
けれど、万が一、浮気相手の林優香から接触があった場合は必ず録音し、そのとき、できれば彼女から証拠の画像を手に入れるという計画を立てた。
「おバカっぽいから、加奈が『浮気の証拠の画像を送ってくれたら離婚するわ』とか言ってみたらいいんじゃない?」
「そうよね。彼女のスマホの画像を入手できたら一番いいよね。なんか簡単に記念写真を撮っちゃってる斗真も、おバカに見えてきた」
「たいていの若い女は、もらったプレゼントとか、豪華なディナーをSNSに上げてるから、その子のアカウントとかが分かればいいけどね」
「最初に画像が送られてきたアカウントは、多分捨て垢だった……」
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この先、斗真さんが彼女に二度と会わない可能性もある。
この件で彼から何らかのアクションがない場合は、当面は、いつも通り変わらない妻を演じる予定だ。
佳乃は私を裏切った斗真さんをどうしても許すことができないようで、離婚を勧めてくる。
離婚を有利に進めるには、こちらに妻として非がないようにしなければならないらしい。
どうなるかは分からない。
それでも、とにかく長期戦になる覚悟はしておく。
朝になり、出勤の準備を終えた私はスマホを開く。
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