12 / 18
11
しおりを挟む
神様は電話番号を教えてくれなかった。
翌日、私の余命は残り二十九日。
仕方ないなと思い、私は直接彼女のアパートを訪ねることにした。
遅くなることを想定して、大学の友人に会うから、帰りが夜中になるかもしれないと拓也に言った。
帰りはタクシーを使うから大丈夫だと告げた。
夜の八時まで彼女は帰ってこなかった。
流石に夜中のピンポンは非常識よねと考えていると、彼女の部屋に男性のお客さんが訪ねてきた。
「もしかして、新しい彼かしら……」
訊きたいのに、こういう時に神様は出てこない。
新しい恋人ができたなら、彼女に拓也のことを頼めるはずもない。
しばらくすると、二人は手を繋ぎながら部屋から出てきた。
「腹減ったからって、わざわざ呼び出すなよ」
「だって、家近いじゃん」
二人は近所のファミリーレストランへ向かっている。
私は後をつけた。
数メートルほど離れて彼女たちについて行く。
「最近は、あの神主に御馳走してもらわないんだ」
「奥さんにバレたんだって」
「へぇー、それじゃ終わりか?」
見つからないように会話が聞こえる席に背中合わせに座った。
……まさか拓也がパパ活?
ありえない。
「奥さんに言いたいなら言えって逆ギレ。ウザイし切ったわ」
「旅行まで連れてってもらってたじゃん」
「だね。京都マジで行きたかったし。でもさ、体の関係求めないんだよ?意味わかんない。マジ神主って感じ」
「だって脅してたんじゃん。二年前のことをネタにして、腹減ったら呼び出してたし、旅行もお前が行きたかったんだろ京都」
悪びれる様子もなく笑っている。
京都旅行に彼女と行ったのは、脅されていたからなの?
その後も彼女たちは拓也さんのことを馬鹿にした発言を繰り返す。
いったいどういうことなの。
握りしめた拳がわなわなと震えた。
もう、黙っていられない。いい加減、限界だ。
私はすっと立ち上がって、彼女たちの席に行った。
「優香さん。それ、どういうこと?」
「なに、おばさん?」
二人は私の顔をジロジロ見る。
優香さんが、ハッと思いだしたように表情を曇らせた。
彼女は私の顔を覚えていた。
「びっくりしたぁ」
彼女は隣の男性に私が拓也の妻だと説明していた。
「優香さん、わかるように説明して」
もう開き直ったほうがよさそうだと思ったのか、彼女は話し出した。
「別になんもないし、ただ、ご飯食べに連れてってもらってただけ」
「場合によっては、貴方に慰謝料請求しますから。職場にも報告させてもらうわね、商社だっけ?ご実家のほうにも電話するわね」
「あんたの旦那が悪いんじゃん!酔った勢いで奥さんと間違えたんだから。バカなのは旦那のほうよ」
「おい!優香やめろ。嫁さんのほうが立場は上だぞ、慰謝料払うのお前だぞ」
連れの男が優香さんを宥めた。
まだ男性のほうが話は通じそうだ。
「どういうことかしっかり話してくれる?」
非常識な話だった。
二年前の三が日、拓也さんは氏子の人たちにお神酒を飲まされていた。
ああいう場ではどんどんお酒が振る舞われる。
慣れないことで拓也さんは断れず、酔って社務所の控室で休んでいた。
巫女のアルバイトに来ていた優香さんが、社務所に行った時、寝ている拓也さんを見つけたらしい。
「だって、いい男じゃん、あんたの旦那。神主って衣装もかっこいいしさ」
拓也さんは、優香さんを私だと思い間違えが起こったらしい。
彼は妻だと勘違いしたと言っていたという。
「何度も謝ってさ、笑っちゃう」
話を聞いていると、腹わたが煮えくり返る。
この子、自分で誘ったようなものじゃない。
その後は音信不通になって何もなかったらしいけど、二年後、たまたまジムで彼と会った。その時のことをネタに彼女は食事を奢ってもらうようになった。
食事だけのパパとして彼を利用していたという。
彼は仕方なく、妻には黙っていて欲しいと願い、彼女に従っていたらしい。
後は、最後にするからと京都旅行を強請ったという話だった。
「バカな神主だった」
「おい!優香」
「あなたどういうつもりなの?それって脅しよね?脅迫したのよね」
「え?何言ってんの?本人が悪いんじゃん。断ればよかったし、嫁にバレるのビビッて言いなりになってたの神主だし。キレるんだったら、旦那にキレなよ」
話にならないと思った。
「お姉さん、別に慰謝料とか請求してもいいけど、大事にしちゃったら変な噂が立つよ?神社でしょ?」
連れの男性が優香に味方する。
ファミレスでする話じゃないのに、周りのお客さんが何事かと視線を向ける。
「旦那さん、よっぽどあんたにバレるのが嫌だったみたいよ」
「いいじゃん。愛されてんだから」
バカバカしくなった。
くだらない。
こんなガキの言いなりになっていた拓也さんにも腹が立った。
これ以上話しをするのも無駄。
わたしはそのままファミレスを出た。
悔しくて腹が立って、どうしようもなかった。
「無駄な時間を過ごしてしまった。残りの時間はもう一ヶ月を切っているのに」
何も声が聞こえなかった。
「神様!いるんでしょ!こんな時だけ消えるとか、どうなのそれ?」
翌日、私の余命は残り二十九日。
仕方ないなと思い、私は直接彼女のアパートを訪ねることにした。
遅くなることを想定して、大学の友人に会うから、帰りが夜中になるかもしれないと拓也に言った。
帰りはタクシーを使うから大丈夫だと告げた。
夜の八時まで彼女は帰ってこなかった。
流石に夜中のピンポンは非常識よねと考えていると、彼女の部屋に男性のお客さんが訪ねてきた。
「もしかして、新しい彼かしら……」
訊きたいのに、こういう時に神様は出てこない。
新しい恋人ができたなら、彼女に拓也のことを頼めるはずもない。
しばらくすると、二人は手を繋ぎながら部屋から出てきた。
「腹減ったからって、わざわざ呼び出すなよ」
「だって、家近いじゃん」
二人は近所のファミリーレストランへ向かっている。
私は後をつけた。
数メートルほど離れて彼女たちについて行く。
「最近は、あの神主に御馳走してもらわないんだ」
「奥さんにバレたんだって」
「へぇー、それじゃ終わりか?」
見つからないように会話が聞こえる席に背中合わせに座った。
……まさか拓也がパパ活?
ありえない。
「奥さんに言いたいなら言えって逆ギレ。ウザイし切ったわ」
「旅行まで連れてってもらってたじゃん」
「だね。京都マジで行きたかったし。でもさ、体の関係求めないんだよ?意味わかんない。マジ神主って感じ」
「だって脅してたんじゃん。二年前のことをネタにして、腹減ったら呼び出してたし、旅行もお前が行きたかったんだろ京都」
悪びれる様子もなく笑っている。
京都旅行に彼女と行ったのは、脅されていたからなの?
その後も彼女たちは拓也さんのことを馬鹿にした発言を繰り返す。
いったいどういうことなの。
握りしめた拳がわなわなと震えた。
もう、黙っていられない。いい加減、限界だ。
私はすっと立ち上がって、彼女たちの席に行った。
「優香さん。それ、どういうこと?」
「なに、おばさん?」
二人は私の顔をジロジロ見る。
優香さんが、ハッと思いだしたように表情を曇らせた。
彼女は私の顔を覚えていた。
「びっくりしたぁ」
彼女は隣の男性に私が拓也の妻だと説明していた。
「優香さん、わかるように説明して」
もう開き直ったほうがよさそうだと思ったのか、彼女は話し出した。
「別になんもないし、ただ、ご飯食べに連れてってもらってただけ」
「場合によっては、貴方に慰謝料請求しますから。職場にも報告させてもらうわね、商社だっけ?ご実家のほうにも電話するわね」
「あんたの旦那が悪いんじゃん!酔った勢いで奥さんと間違えたんだから。バカなのは旦那のほうよ」
「おい!優香やめろ。嫁さんのほうが立場は上だぞ、慰謝料払うのお前だぞ」
連れの男が優香さんを宥めた。
まだ男性のほうが話は通じそうだ。
「どういうことかしっかり話してくれる?」
非常識な話だった。
二年前の三が日、拓也さんは氏子の人たちにお神酒を飲まされていた。
ああいう場ではどんどんお酒が振る舞われる。
慣れないことで拓也さんは断れず、酔って社務所の控室で休んでいた。
巫女のアルバイトに来ていた優香さんが、社務所に行った時、寝ている拓也さんを見つけたらしい。
「だって、いい男じゃん、あんたの旦那。神主って衣装もかっこいいしさ」
拓也さんは、優香さんを私だと思い間違えが起こったらしい。
彼は妻だと勘違いしたと言っていたという。
「何度も謝ってさ、笑っちゃう」
話を聞いていると、腹わたが煮えくり返る。
この子、自分で誘ったようなものじゃない。
その後は音信不通になって何もなかったらしいけど、二年後、たまたまジムで彼と会った。その時のことをネタに彼女は食事を奢ってもらうようになった。
食事だけのパパとして彼を利用していたという。
彼は仕方なく、妻には黙っていて欲しいと願い、彼女に従っていたらしい。
後は、最後にするからと京都旅行を強請ったという話だった。
「バカな神主だった」
「おい!優香」
「あなたどういうつもりなの?それって脅しよね?脅迫したのよね」
「え?何言ってんの?本人が悪いんじゃん。断ればよかったし、嫁にバレるのビビッて言いなりになってたの神主だし。キレるんだったら、旦那にキレなよ」
話にならないと思った。
「お姉さん、別に慰謝料とか請求してもいいけど、大事にしちゃったら変な噂が立つよ?神社でしょ?」
連れの男性が優香に味方する。
ファミレスでする話じゃないのに、周りのお客さんが何事かと視線を向ける。
「旦那さん、よっぽどあんたにバレるのが嫌だったみたいよ」
「いいじゃん。愛されてんだから」
バカバカしくなった。
くだらない。
こんなガキの言いなりになっていた拓也さんにも腹が立った。
これ以上話しをするのも無駄。
わたしはそのままファミレスを出た。
悔しくて腹が立って、どうしようもなかった。
「無駄な時間を過ごしてしまった。残りの時間はもう一ヶ月を切っているのに」
何も声が聞こえなかった。
「神様!いるんでしょ!こんな時だけ消えるとか、どうなのそれ?」
791
あなたにおすすめの小説
壊れていく音を聞きながら
夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。
妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪
何気ない日常のひと幕が、
思いもよらない“ひび”を生んでいく。
母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。
誰も気づきがないまま、
家族のかたちが静かに崩れていく――。
壊れていく音を聞きながら、
それでも誰かを思うことはできるのか。
愛する貴方の心から消えた私は…
矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。
周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。
…彼は絶対に生きている。
そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。
だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。
「すまない、君を愛せない」
そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。
*設定はゆるいです。
【完】まさかの婚約破棄はあなたの心の声が聞こえたから
えとう蜜夏
恋愛
伯爵令嬢のマーシャはある日不思議なネックレスを手に入れた。それは相手の心が聞こえるという品で、そんなことを信じるつもりは無かった。それに相手とは家同士の婚約だけどお互いに仲も良く、上手くいっていると思っていたつもりだったのに……。よくある婚約破棄のお話です。
※他サイトに自立も掲載しております
21.5.25ホットランキング入りありがとうございました( ´ ▽ ` )ノ
Unauthorized duplication is a violation of applicable laws.
ⓒえとう蜜夏(無断転載等はご遠慮ください)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる