さよならまでの六ヶ月

おてんば松尾

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神様は電話番号を教えてくれなかった。

翌日、私の余命は残り二十九日。

仕方ないなと思い、私は直接彼女のアパートを訪ねることにした。
遅くなることを想定して、大学の友人に会うから、帰りが夜中になるかもしれないと拓也に言った。

帰りはタクシーを使うから大丈夫だと告げた。

夜の八時まで彼女は帰ってこなかった。

流石に夜中のピンポンは非常識よねと考えていると、彼女の部屋に男性のお客さんが訪ねてきた。

「もしかして、新しい彼かしら……」

訊きたいのに、こういう時に神様は出てこない。
新しい恋人ができたなら、彼女に拓也のことを頼めるはずもない。


しばらくすると、二人は手を繋ぎながら部屋から出てきた。

「腹減ったからって、わざわざ呼び出すなよ」

「だって、家近いじゃん」

二人は近所のファミリーレストランへ向かっている。

私は後をつけた。
数メートルほど離れて彼女たちについて行く。


「最近は、あの神主に御馳走してもらわないんだ」

「奥さんにバレたんだって」

「へぇー、それじゃ終わりか?」

見つからないように会話が聞こえる席に背中合わせに座った。

……まさか拓也がパパ活?
ありえない。

「奥さんに言いたいなら言えって逆ギレ。ウザイし切ったわ」

「旅行まで連れてってもらってたじゃん」

「だね。京都マジで行きたかったし。でもさ、体の関係求めないんだよ?意味わかんない。マジ神主って感じ」

「だって脅してたんじゃん。二年前のことをネタにして、腹減ったら呼び出してたし、旅行もお前が行きたかったんだろ京都」

悪びれる様子もなく笑っている。
京都旅行に彼女と行ったのは、脅されていたからなの?

その後も彼女たちは拓也さんのことを馬鹿にした発言を繰り返す。

いったいどういうことなの。
握りしめた拳がわなわなと震えた。
もう、黙っていられない。いい加減、限界だ。


私はすっと立ち上がって、彼女たちの席に行った。

「優香さん。それ、どういうこと?」

「なに、おばさん?」

二人は私の顔をジロジロ見る。
優香さんが、ハッと思いだしたように表情を曇らせた。
彼女は私の顔を覚えていた。

「びっくりしたぁ」

彼女は隣の男性に私が拓也の妻だと説明していた。

「優香さん、わかるように説明して」

もう開き直ったほうがよさそうだと思ったのか、彼女は話し出した。

「別になんもないし、ただ、ご飯食べに連れてってもらってただけ」

「場合によっては、貴方に慰謝料請求しますから。職場にも報告させてもらうわね、商社だっけ?ご実家のほうにも電話するわね」

「あんたの旦那が悪いんじゃん!酔った勢いで奥さんと間違えたんだから。バカなのは旦那のほうよ」

「おい!優香やめろ。嫁さんのほうが立場は上だぞ、慰謝料払うのお前だぞ」

連れの男が優香さんを宥めた。
まだ男性のほうが話は通じそうだ。

「どういうことかしっかり話してくれる?」



非常識な話だった。

二年前の三が日、拓也さんは氏子の人たちにお神酒を飲まされていた。
ああいう場ではどんどんお酒が振る舞われる。

慣れないことで拓也さんは断れず、酔って社務所の控室で休んでいた。
巫女のアルバイトに来ていた優香さんが、社務所に行った時、寝ている拓也さんを見つけたらしい。

「だって、いい男じゃん、あんたの旦那。神主って衣装もかっこいいしさ」

拓也さんは、優香さんを私だと思い間違えが起こったらしい。

彼は妻だと勘違いしたと言っていたという。

「何度も謝ってさ、笑っちゃう」

話を聞いていると、腹わたが煮えくり返る。
この子、自分で誘ったようなものじゃない。

その後は音信不通になって何もなかったらしいけど、二年後、たまたまジムで彼と会った。その時のことをネタに彼女は食事を奢ってもらうようになった。

食事だけのパパとして彼を利用していたという。
彼は仕方なく、妻には黙っていて欲しいと願い、彼女に従っていたらしい。

後は、最後にするからと京都旅行を強請ったという話だった。


「バカな神主だった」

「おい!優香」

「あなたどういうつもりなの?それって脅しよね?脅迫したのよね」

「え?何言ってんの?本人が悪いんじゃん。断ればよかったし、嫁にバレるのビビッて言いなりになってたの神主だし。キレるんだったら、旦那にキレなよ」


話にならないと思った。

「お姉さん、別に慰謝料とか請求してもいいけど、大事にしちゃったら変な噂が立つよ?神社でしょ?」

連れの男性が優香に味方する。
ファミレスでする話じゃないのに、周りのお客さんが何事かと視線を向ける。

「旦那さん、よっぽどあんたにバレるのが嫌だったみたいよ」

「いいじゃん。愛されてんだから」

バカバカしくなった。

くだらない。
こんなガキの言いなりになっていた拓也さんにも腹が立った。
これ以上話しをするのも無駄。

わたしはそのままファミレスを出た。
悔しくて腹が立って、どうしようもなかった。

「無駄な時間を過ごしてしまった。残りの時間はもう一ヶ月を切っているのに」

何も声が聞こえなかった。

「神様!いるんでしょ!こんな時だけ消えるとか、どうなのそれ?」


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