23 / 47
王太子の訪問
しおりを挟む
「随分職務に追われているようだな」
「……いえ」
王太子は外交執務室のソファーに腰かけて私を前に出された紅茶を一口飲んだ。
わざわざ王子自らこの部屋へやってくるのは珍しい。
いや、初めてのことかもしれない。
外務官たちが緊張して壁際に立ち、並んでいる。
「君は確か……リッツ伯爵家の者だな」
「はい。娘のキャサリンにございます」
「そうか、伯爵は変わりないか」
「はい。お気遣いありがとうございます」
返事を聞いた後、王太子は右手を振り人払いをした。
残った者は護衛の騎士数名と私、そしてキャサリンだった。
「ところで、噂に聞いたが仕事が忙しく屋敷に帰っていないようだが、忙殺されるほどの大役か?」
「私の不徳の致すところです」
王太子はコホンと咳をした。
「スノウ。昔馴染として、普通に話してよい」
「はい」
私は少し緊張を解いた。
「前に話をしたように、アイリスは私にとってとても大事な存在だ。以前は婚約者だった。今でも大事な人であることに変わりはない。彼女を任せられるのはスノウお前以外にいないと私なりに考えた。蔑ろにしろとは申していない。わかっているな」
「はい」
「恐れながら申し上げます。殿下の今でも大事な方を公爵様と結婚させられたのですか。それはいくら何でも酷でございます。自分の意思でもないのに愛していない人を妻として迎えなければならない公爵様の身になって下さい」
「キャサリン!控えろ、不敬だぞ」
とっさに私が止めに入った。
キャサリンの発言にさすがに護衛騎士も一歩前に出る。
「まぁ、よい。事情を知らない者たちがそう思うのも不思議はないな」
殿下は温和にして、しかも威容ある様子で場の張りつめた空気を緩ませる。
「申し訳ありません」
キャサリンの代わりに私が謝った。
「貴族に生れたからには個人の感情で婚姻を結ぶ事はできない。王子である私はなおさらだ。公爵夫人であるアイリスとは長年連れ添った同士のような関係だ。今も昔も愛情というものが互いにあったのかどうかは分からない。だが情はある。今、私は隣国の王女という婚約者もいて、彼女を妃にする事が決まっている。それが事実でありそれ以外の何物でもない。スノウからはアイリスとの話が出た段階で、やぶさかではないという返事をこちらは受け取った。政略結婚の意味も踏まえてだろうが、喜んで受けるという意味だ。違うか?」
「いいえ。違いません。私はハミルトン侯爵令嬢との結婚を望みました」
「彼女を幸せにするように頼んだはずだ。その為には努力を惜しまないという君の意志を感じた」
「はい。確かに」
「屋敷に帰らず、妻を放置してるような状態がそれに即した行為か」
スノウは黙し、拳を握り締めている。
「して、キャサリン嬢。そなたは外交秘書官だと聞いているがどのような仕事をしている」
王太子の質問はキャサリンへ移る。
「今は、カーレン国のムンババ大使の歓迎の意味を込めた晩餐会の準備をしています」
「そうか。大使は我が国にとっても重要な人物だ。カーレン国とも友好を深めなければならない、平和的な関係を築くことは今後両国の発展にもつながるだろう。大儀だが尽力するように」
殿下にねぎらいの言葉をかけられキャサリンは少し有頂天になってしまったのか、饒舌に話し始めた。
「はい。我が国は、経済的質や統治の素晴らしさは誇れるものがあり、武力的にもカーレン国などは足元にも及ばない強国です。全て国王陛下の恩恵によるものです。貴族たちは皆裕福で贅沢な暮らしができています。ムンババ様には豪華で華やかな夜会を満喫して頂き、我が国と友好関係を築けることがどれだけ有意義な事か理解してもらえれば良いと考えます」
「経済的質や発展は我が国の方が優れているかもしれないが、個人の自由、治安と安全、国民の健康、自然環境などはカーレンの方が先進している。豪華で華やかな事はさほど重要ではない。スノウはどう考えている?」
「ムンババ大使の好みを把握し、粗相のないように今度の晩餐会を成功させる事だけを考えています」
王太子は眉を上げた。
「外交官としての考えを訊いている」
王太子殿下は頭の切れる人だ。物事の先を読む事に長けている。未来の出来事を予測し、適切な判断を下す能力は王族であれば当たり前に鍛えられたもの。
その殿下が、しっかり答えろと鋭い視線を向けた。
「勿論、カーレンの発展のためにも我が国から学ぶことは多いと思います。けれど、我が国がカーレンから学ぶことも多い。それをちゃんと理解して接待しているかどうかは相手にも伝わるから気をつけなければならないと考えます。外交で最も重要な点は、他国の歴史や文化も認め、良い所は見習う事。大事なのは、相手の国やそこで暮らす人々を尊重する事。それを怠ってはいけないと」
キャサリンは顔をしかめる。彼女にとっては他所の国の民がどういう暮らしであろうが関係ない事なのだろう。
外交に対する認識が自分の部下たちは未熟なのだ。それを教育できていない事が殿下の前に晒された。
額から脂汗が流れ出る。
「多様性という言葉があるよう、あらゆる文化に柔軟に対応する力は必要だ。自国の財力の上にあぐらをかき閉鎖的な考えしか持たない国の国力は衰える。スノウ、今一度外交とは何かを外交官たちに再認識させろ」
殿下は音を立てて席を立った。
「御意のとおりにいたします」
スノウは頭を下げた。
出口に向かう道すがら殿下はキャサリンに問う。
「リッツ伯爵は高齢だ。ずっと子供ができなかったと聞いている。秘書官は養子か?」
「え……」
キャサリンが硬直したように動きを止めた。
「わ、わたくしは幼かったので詳しく……」
流石にこの場で養子かどうかなどの質問は殿下であったとしても失礼だ。
「キャサリン秘書官は、公爵家のメイド長の遠戚です」
スノウはキャサリンに助け舟を出した。
「ならばメイド長とやらがリッツ伯爵の親戚だという事か」
「それは……そう、です」
どういうつながりだったか定かではない。多分聞いたであろうがスノウは詳しくは覚えていなかった。
「公爵家に長年勤めているメイド長とは遠戚に当たります」
キャサリンは殿下にそう説明した。すかさずスノウも後に続ける。
「それにキャサリン秘書官は勉強家で、学園の成績も良かった優秀な人材です」
「学園とは、王都学園か?王室の者は毎年卒業式後のパーティーに来賓として参加するが、私は君の名を優秀生徒として目にしたことはない」
殿下は『ここは王宮だ、外交執務室に勤務する者の身元くらいちゃんと確認しろ』とスノウに言い捨て、執務室を後にした。
「……いえ」
王太子は外交執務室のソファーに腰かけて私を前に出された紅茶を一口飲んだ。
わざわざ王子自らこの部屋へやってくるのは珍しい。
いや、初めてのことかもしれない。
外務官たちが緊張して壁際に立ち、並んでいる。
「君は確か……リッツ伯爵家の者だな」
「はい。娘のキャサリンにございます」
「そうか、伯爵は変わりないか」
「はい。お気遣いありがとうございます」
返事を聞いた後、王太子は右手を振り人払いをした。
残った者は護衛の騎士数名と私、そしてキャサリンだった。
「ところで、噂に聞いたが仕事が忙しく屋敷に帰っていないようだが、忙殺されるほどの大役か?」
「私の不徳の致すところです」
王太子はコホンと咳をした。
「スノウ。昔馴染として、普通に話してよい」
「はい」
私は少し緊張を解いた。
「前に話をしたように、アイリスは私にとってとても大事な存在だ。以前は婚約者だった。今でも大事な人であることに変わりはない。彼女を任せられるのはスノウお前以外にいないと私なりに考えた。蔑ろにしろとは申していない。わかっているな」
「はい」
「恐れながら申し上げます。殿下の今でも大事な方を公爵様と結婚させられたのですか。それはいくら何でも酷でございます。自分の意思でもないのに愛していない人を妻として迎えなければならない公爵様の身になって下さい」
「キャサリン!控えろ、不敬だぞ」
とっさに私が止めに入った。
キャサリンの発言にさすがに護衛騎士も一歩前に出る。
「まぁ、よい。事情を知らない者たちがそう思うのも不思議はないな」
殿下は温和にして、しかも威容ある様子で場の張りつめた空気を緩ませる。
「申し訳ありません」
キャサリンの代わりに私が謝った。
「貴族に生れたからには個人の感情で婚姻を結ぶ事はできない。王子である私はなおさらだ。公爵夫人であるアイリスとは長年連れ添った同士のような関係だ。今も昔も愛情というものが互いにあったのかどうかは分からない。だが情はある。今、私は隣国の王女という婚約者もいて、彼女を妃にする事が決まっている。それが事実でありそれ以外の何物でもない。スノウからはアイリスとの話が出た段階で、やぶさかではないという返事をこちらは受け取った。政略結婚の意味も踏まえてだろうが、喜んで受けるという意味だ。違うか?」
「いいえ。違いません。私はハミルトン侯爵令嬢との結婚を望みました」
「彼女を幸せにするように頼んだはずだ。その為には努力を惜しまないという君の意志を感じた」
「はい。確かに」
「屋敷に帰らず、妻を放置してるような状態がそれに即した行為か」
スノウは黙し、拳を握り締めている。
「して、キャサリン嬢。そなたは外交秘書官だと聞いているがどのような仕事をしている」
王太子の質問はキャサリンへ移る。
「今は、カーレン国のムンババ大使の歓迎の意味を込めた晩餐会の準備をしています」
「そうか。大使は我が国にとっても重要な人物だ。カーレン国とも友好を深めなければならない、平和的な関係を築くことは今後両国の発展にもつながるだろう。大儀だが尽力するように」
殿下にねぎらいの言葉をかけられキャサリンは少し有頂天になってしまったのか、饒舌に話し始めた。
「はい。我が国は、経済的質や統治の素晴らしさは誇れるものがあり、武力的にもカーレン国などは足元にも及ばない強国です。全て国王陛下の恩恵によるものです。貴族たちは皆裕福で贅沢な暮らしができています。ムンババ様には豪華で華やかな夜会を満喫して頂き、我が国と友好関係を築けることがどれだけ有意義な事か理解してもらえれば良いと考えます」
「経済的質や発展は我が国の方が優れているかもしれないが、個人の自由、治安と安全、国民の健康、自然環境などはカーレンの方が先進している。豪華で華やかな事はさほど重要ではない。スノウはどう考えている?」
「ムンババ大使の好みを把握し、粗相のないように今度の晩餐会を成功させる事だけを考えています」
王太子は眉を上げた。
「外交官としての考えを訊いている」
王太子殿下は頭の切れる人だ。物事の先を読む事に長けている。未来の出来事を予測し、適切な判断を下す能力は王族であれば当たり前に鍛えられたもの。
その殿下が、しっかり答えろと鋭い視線を向けた。
「勿論、カーレンの発展のためにも我が国から学ぶことは多いと思います。けれど、我が国がカーレンから学ぶことも多い。それをちゃんと理解して接待しているかどうかは相手にも伝わるから気をつけなければならないと考えます。外交で最も重要な点は、他国の歴史や文化も認め、良い所は見習う事。大事なのは、相手の国やそこで暮らす人々を尊重する事。それを怠ってはいけないと」
キャサリンは顔をしかめる。彼女にとっては他所の国の民がどういう暮らしであろうが関係ない事なのだろう。
外交に対する認識が自分の部下たちは未熟なのだ。それを教育できていない事が殿下の前に晒された。
額から脂汗が流れ出る。
「多様性という言葉があるよう、あらゆる文化に柔軟に対応する力は必要だ。自国の財力の上にあぐらをかき閉鎖的な考えしか持たない国の国力は衰える。スノウ、今一度外交とは何かを外交官たちに再認識させろ」
殿下は音を立てて席を立った。
「御意のとおりにいたします」
スノウは頭を下げた。
出口に向かう道すがら殿下はキャサリンに問う。
「リッツ伯爵は高齢だ。ずっと子供ができなかったと聞いている。秘書官は養子か?」
「え……」
キャサリンが硬直したように動きを止めた。
「わ、わたくしは幼かったので詳しく……」
流石にこの場で養子かどうかなどの質問は殿下であったとしても失礼だ。
「キャサリン秘書官は、公爵家のメイド長の遠戚です」
スノウはキャサリンに助け舟を出した。
「ならばメイド長とやらがリッツ伯爵の親戚だという事か」
「それは……そう、です」
どういうつながりだったか定かではない。多分聞いたであろうがスノウは詳しくは覚えていなかった。
「公爵家に長年勤めているメイド長とは遠戚に当たります」
キャサリンは殿下にそう説明した。すかさずスノウも後に続ける。
「それにキャサリン秘書官は勉強家で、学園の成績も良かった優秀な人材です」
「学園とは、王都学園か?王室の者は毎年卒業式後のパーティーに来賓として参加するが、私は君の名を優秀生徒として目にしたことはない」
殿下は『ここは王宮だ、外交執務室に勤務する者の身元くらいちゃんと確認しろ』とスノウに言い捨て、執務室を後にした。
775
あなたにおすすめの小説
月夜に散る白百合は、君を想う
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢であるアメリアは、王太子殿下の護衛騎士を務める若き公爵、レオンハルトとの政略結婚により、幸せな結婚生活を送っていた。
彼は無口で家を空けることも多かったが、共に過ごす時間はアメリアにとってかけがえのないものだった。
しかし、ある日突然、夫に愛人がいるという噂が彼女の耳に入る。偶然街で目にした、夫と親しげに寄り添う女性の姿に、アメリアは絶望する。信じていた愛が偽りだったと思い込み、彼女は家を飛び出すことを決意する。
一方、レオンハルトには、アメリアに言えない秘密があった。彼の不自然な行動には、王国の未来を左右する重大な使命が関わっていたのだ。妻を守るため、愛する者を危険に晒さないため、彼は自らの心を偽り、冷徹な仮面を被り続けていた。
家出したアメリアは、身分を隠してとある街の孤児院で働き始める。そこでの新たな出会いと生活は、彼女の心を少しずつ癒していく。
しかし、運命は二人を再び引き合わせる。アメリアを探し、奔走するレオンハルト。誤解とすれ違いの中で、二人の愛の真実が試される。
偽りの愛人、王宮の陰謀、そして明かされる公爵の秘密。果たして二人は再び心を通わせ、真実の愛を取り戻すことができるのだろうか。
狂おしいほど愛しています、なのでよそへと嫁ぐことに致します
ちより
恋愛
侯爵令嬢のカレンは分別のあるレディだ。頭の中では初恋のエル様のことでいっぱいになりながらも、一切そんな素振りは見せない徹底ぶりだ。
愛するエル様、神々しくも真面目で思いやりあふれるエル様、その残り香だけで胸いっぱいですわ。
頭の中は常にエル様一筋のカレンだが、家同士が決めた結婚で、公爵家に嫁ぐことになる。愛のない形だけの結婚と思っているのは自分だけで、実は誰よりも公爵様から愛されていることに気づかない。
公爵様からの溺愛に、不器用な恋心が反応したら大変で……両思いに慣れません。
心配するな、俺の本命は別にいる——冷酷王太子と籠の花嫁
柴田はつみ
恋愛
王国の公爵令嬢セレーネは、家を守るために王太子レオニスとの政略結婚を命じられる。
婚約の儀の日、彼が告げた冷酷な一言——「心配するな。俺の好きな人は別にいる」。
その言葉はセレーネの心を深く傷つけ、王宮での新たな生活は噂と誤解に満ちていく。
好きな人が別にいるはずの彼が、なぜか自分にだけ独占欲を見せる。
嫉妬、疑念、陰謀が渦巻くなかで明らかになる「真実」。
契約から始まった婚約は、やがて運命を変える愛の物語へと変わっていく——。
『影の夫人とガラスの花嫁』
柴田はつみ
恋愛
公爵カルロスの後妻として嫁いだシャルロットは、
結婚初日から気づいていた。
夫は優しい。
礼儀正しく、決して冷たくはない。
けれど──どこか遠い。
夜会で向けられる微笑みの奥には、
亡き前妻エリザベラの影が静かに揺れていた。
社交界は囁く。
「公爵さまは、今も前妻を想っているのだわ」
「後妻は所詮、影の夫人よ」
その言葉に胸が痛む。
けれどシャルロットは自分に言い聞かせた。
──これは政略婚。
愛を求めてはいけない、と。
そんなある日、彼女はカルロスの書斎で
“あり得ない手紙”を見つけてしまう。
『愛しいカルロスへ。
私は必ずあなたのもとへ戻るわ。
エリザベラ』
……前妻は、本当に死んだのだろうか?
噂、沈黙、誤解、そして夫の隠す真実。
揺れ動く心のまま、シャルロットは
“ガラスの花嫁”のように繊細にひび割れていく。
しかし、前妻の影が完全に姿を現したとき、
カルロスの静かな愛がようやく溢れ出す。
「影なんて、最初からいない。
見ていたのは……ずっと君だけだった」
消えた指輪、隠された手紙、閉ざされた書庫──
すべての謎が解けたとき、
影に怯えていた花嫁は光を手に入れる。
切なく、美しく、そして必ず幸せになる後妻ロマンス。
愛に触れたとき、ガラスは光へと変わる
私の容姿は中の下だと、婚約者が話していたのを小耳に挟んでしまいました
山田ランチ
恋愛
想い合う二人のすれ違いラブストーリー。
※以前掲載しておりましたものを、加筆の為再投稿致しました。お読み下さっていた方は重複しますので、ご注意下さいませ。
コレット・ロシニョール 侯爵家令嬢。ジャンの双子の姉。
ジャン・ロシニョール 侯爵家嫡男。コレットの双子の弟。
トリスタン・デュボワ 公爵家嫡男。コレットの婚約者。
クレマン・ルゥセーブル・ジハァーウ、王太子。
シモン・グレンツェ 辺境伯家嫡男。コレットの従兄。
ルネ ロシニョール家の侍女でコレット付き。
シルヴィー・ペレス 子爵令嬢。
〈あらすじ〉
コレットは愛しの婚約者が自分の容姿について話しているのを聞いてしまう。このまま大好きな婚約者のそばにいれば疎まれてしまうと思ったコレットは、親類の領地へ向かう事に。そこで新しい商売を始めたコレットは、知らない間に国の重要人物になってしまう。そしてトリスタンにも女性の影が見え隠れして……。
ジレジレ、すれ違いラブストーリー
これ以上私の心をかき乱さないで下さい
Karamimi
恋愛
伯爵令嬢のユーリは、幼馴染のアレックスの事が、子供の頃から大好きだった。アレックスに振り向いてもらえるよう、日々努力を重ねているが、中々うまく行かない。
そんな中、アレックスが伯爵令嬢のセレナと、楽しそうにお茶をしている姿を目撃したユーリ。既に5度も婚約の申し込みを断られているユーリは、もう一度真剣にアレックスに気持ちを伝え、断られたら諦めよう。
そう決意し、アレックスに気持ちを伝えるが、いつも通りはぐらかされてしまった。それでも諦めきれないユーリは、アレックスに詰め寄るが
“君を令嬢として受け入れられない、この気持ちは一生変わらない”
そうはっきりと言われてしまう。アレックスの本心を聞き、酷く傷ついたユーリは、半期休みを利用し、兄夫婦が暮らす領地に向かう事にしたのだが。
そこでユーリを待っていたのは…
真実の愛のお相手様と仲睦まじくお過ごしください
LIN
恋愛
「私には真実に愛する人がいる。私から愛されるなんて事は期待しないでほしい」冷たい声で男は言った。
伯爵家の嫡男ジェラルドと同格の伯爵家の長女マーガレットが、互いの家の共同事業のために結ばれた婚約期間を経て、晴れて行われた結婚式の夜の出来事だった。
真実の愛が尊ばれる国で、マーガレットが周囲の人を巻き込んで起こす色んな出来事。
(他サイトで載せていたものです。今はここでしか載せていません。今まで読んでくれた方で、見つけてくれた方がいましたら…ありがとうございます…)
(1月14日完結です。設定変えてなかったらすみません…)
理想の妻とやらと結婚できるといいですね。
ふまさ
恋愛
※以前短編で投稿したものを、長編に書き直したものです。
それは、突然のことだった。少なくともエミリアには、そう思えた。
「手、随分と荒れてるね。ちゃんとケアしてる?」
ある夕食の日。夫のアンガスが、エミリアの手をじっと見ていたかと思うと、そんなことを口にした。心配そうな声音ではなく、不快そうに眉を歪めていたので、エミリアは数秒、固まってしまった。
「えと……そう、ね。家事は水仕事も多いし、どうしたって荒れてしまうから。気をつけないといけないわね」
「なんだいそれ、言い訳? 女としての自覚、少し足りないんじゃない?」
エミリアは目を見張った。こんな嫌味なことを面と向かってアンガスに言われたのははじめてだったから。
どうしたらいいのかわからず、ただ哀しくて、エミリアは、ごめんなさいと謝ることしかできなかった。
それがいけなかったのか。アンガスの嫌味や小言は、日を追うごとに増していった。
「化粧してるの? いくらここが家だからって、ぼくがいること忘れてない?」
「お弁当、手抜きすぎじゃない? あまりに貧相で、みんなの前で食べられなかったよ」
「髪も肌も艶がないし、きみ、いくつ? まだ二十歳前だよね?」
などなど。
あまりに哀しく、腹が立ったので「わたしなりに頑張っているのに、どうしてそんな酷いこと言うの?」と、反論したエミリアに、アンガスは。
「ぼくを愛しているなら、もっと頑張れるはずだろ?」
と、呆れたように言い捨てた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる