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屋敷の状況 スノウside
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「アイリスはどこだ!」
「だ、旦那様!な、なぜお戻りに?」
焦るマルスタンたちを尻目に急いでアイリスの部屋へと向かった。
走って私の後をついてくる家令たちを無視してどんどん進む。
「旦那様、お待ち下さい。今、奥様は部屋には……」
「カーレン国の大使がやってくる。妻に会いに来る。急いで客を迎える準備を」
そう言うとアイリスの部屋のドアをノックした。
気が焦り、返事が返ってくる前に扉を開いた。
部屋の中は静まりかえり誰もいない。
ベッドも整えられたまま使った形跡がなかった。
「おく、奥様は最近ずっと夫婦の寝室でお休みになっていまして……」
ふっとバルコニーの扉を見ると、取っ手に巻かれた鎖と錠に気が付いた。
「これは……なんだ!」
「はぁ……旦那様の命令で奥様が外へ出ないように……」
外へ?なぜバルコニーから外へ出ては駄目なんだ。屋敷からの外出を管理するように言ったが、バルコニーのドアに鎖を付けろとは言っていない。
アイリスは、バルコニーからまさか飛び降りようとでもしたのか?
「いったいどういう事なんだ!夫婦の寝室にアイリスはいるのか!マルスタン答えろ!」
胸ぐらをつかむ勢いでマルスタンに詰め寄った。
「旦那様。奥様は屋根裏の貴族牢へいらっしゃいます。監視しても奥様は部屋から出てしまわれて、私共では行動を制御できずにおりました。致し方なく鍵のかかる部屋へ移動していただきました」
「なんだと!」
握った拳がマルスタンの頬を打った。
「きゃぁぁぁ!」
メイドが叫び声を上げた。
「だ、旦那様!おやめください!」
使用人たちはブルブル震えて床に座り込んだ。
「いったい誰が、アイリスを牢へ入れろなどと言った!彼女は公爵家の夫人だぞ!俺の妻だ」
「しかしながら旦那様が、奥様を外へ出すなとおっしゃいましたので」
血相を変えて使用人たちは次々と言いわけを並べた。
「そんな事は言っていない!アイリスは……アイリスの所へ行く」
やり場のない怒りが激しい波のように全身に広がる。
「マルスタン!私はお前を信用して妻を任せた。メイド長、アイリスの世話を頼んだだろう。彼女に不自由がないよう言ったはずだ!」
「奥様が、奥様が言うことをお聞きにならず……」
「なぜ、お前たちのいう事をアイリスが聞かねばならぬ!お前たちは、自分が彼女より立場が上だとでも思ったのか?ふざけるなっ!」
「けれど、奥様は旦那様の、その……旦那様は奥様を嫌ってらっしゃるのだと」
「そんな訳があるはずないだろう!夫婦として神の前で誓い合ったのだ。彼女が何不自由なく生活できるように全て与えろと言っておいたはずだ」
「けれど、旦那様は屋敷にお戻りではなく、奥様の事を顧みなかったので」
「何を根拠にそう言っている?私は仕事で王宮に詰めていた。その間、ここを任せていただろう。問題ないと言っていたではないか、マルスタン!」
涙をこぼし癇癪を起こし謝るメイド達を睨みつけ、荒々しい足取りでアイリスがいるだろう屋根裏の貴族牢へ向かった。
従者に鍵を開けさせ埃っぽく薄暗い室内を見る。
確かにアイリスはそこにいた。
もはや貴族とは思えない服装で、髪も汚れている。青白い顔は食事をしっかりとっているようには見えなかった。
彼女の姿に息が詰まるほど驚いた。
あの目が覚めるように美しい、元王太子妃候補だった高貴な女性になんてことを。
わあっと狂人のように叫びたくなってくる。
「……旦那様」
みすぼらしいベッドに腰掛けていた彼女は、目の前の光景に心底驚いたようにはっとして立ち上がった。
「アイリス……すまない。私は……君がこんな状態だったとは知らなかった」
なんとか自分を保ち、震える怒りに満ちた感情を押しとどめる。
「今すぐ彼女をここから出し、元の部屋に戻せ。美しく磨き上げ栄養のある食事を。分かっているだろうが彼女に不快な思いは一切させるな。粗相があればその場で全員っ不敬罪で捕らえる」
自分の胃が握りつぶされたかのように、ギュッと痛んだ。
「旦那様、お話ししたいことがございます」
アイリスは顔を上げてしっかりと私を見据える。
「今は、時間がない。すまないが言うとおりにしてくれ」
俺はそれを手で制し瞼を閉じた。
憤懣やるかたない。
しかし時間がないムンババ大使が我が屋敷に来てしまう。
後でいくらでも恨み事は聞くつもりだ。
だから……
「いいえ。旦那様」
彼女の声からはそこにある緊張の響きが十分感じとれた。
息を整えゆっくりと吐き出すと、私にこう告げた。
「旦那様、政略結婚ですので離婚しましょう」
「だ、旦那様!な、なぜお戻りに?」
焦るマルスタンたちを尻目に急いでアイリスの部屋へと向かった。
走って私の後をついてくる家令たちを無視してどんどん進む。
「旦那様、お待ち下さい。今、奥様は部屋には……」
「カーレン国の大使がやってくる。妻に会いに来る。急いで客を迎える準備を」
そう言うとアイリスの部屋のドアをノックした。
気が焦り、返事が返ってくる前に扉を開いた。
部屋の中は静まりかえり誰もいない。
ベッドも整えられたまま使った形跡がなかった。
「おく、奥様は最近ずっと夫婦の寝室でお休みになっていまして……」
ふっとバルコニーの扉を見ると、取っ手に巻かれた鎖と錠に気が付いた。
「これは……なんだ!」
「はぁ……旦那様の命令で奥様が外へ出ないように……」
外へ?なぜバルコニーから外へ出ては駄目なんだ。屋敷からの外出を管理するように言ったが、バルコニーのドアに鎖を付けろとは言っていない。
アイリスは、バルコニーからまさか飛び降りようとでもしたのか?
「いったいどういう事なんだ!夫婦の寝室にアイリスはいるのか!マルスタン答えろ!」
胸ぐらをつかむ勢いでマルスタンに詰め寄った。
「旦那様。奥様は屋根裏の貴族牢へいらっしゃいます。監視しても奥様は部屋から出てしまわれて、私共では行動を制御できずにおりました。致し方なく鍵のかかる部屋へ移動していただきました」
「なんだと!」
握った拳がマルスタンの頬を打った。
「きゃぁぁぁ!」
メイドが叫び声を上げた。
「だ、旦那様!おやめください!」
使用人たちはブルブル震えて床に座り込んだ。
「いったい誰が、アイリスを牢へ入れろなどと言った!彼女は公爵家の夫人だぞ!俺の妻だ」
「しかしながら旦那様が、奥様を外へ出すなとおっしゃいましたので」
血相を変えて使用人たちは次々と言いわけを並べた。
「そんな事は言っていない!アイリスは……アイリスの所へ行く」
やり場のない怒りが激しい波のように全身に広がる。
「マルスタン!私はお前を信用して妻を任せた。メイド長、アイリスの世話を頼んだだろう。彼女に不自由がないよう言ったはずだ!」
「奥様が、奥様が言うことをお聞きにならず……」
「なぜ、お前たちのいう事をアイリスが聞かねばならぬ!お前たちは、自分が彼女より立場が上だとでも思ったのか?ふざけるなっ!」
「けれど、奥様は旦那様の、その……旦那様は奥様を嫌ってらっしゃるのだと」
「そんな訳があるはずないだろう!夫婦として神の前で誓い合ったのだ。彼女が何不自由なく生活できるように全て与えろと言っておいたはずだ」
「けれど、旦那様は屋敷にお戻りではなく、奥様の事を顧みなかったので」
「何を根拠にそう言っている?私は仕事で王宮に詰めていた。その間、ここを任せていただろう。問題ないと言っていたではないか、マルスタン!」
涙をこぼし癇癪を起こし謝るメイド達を睨みつけ、荒々しい足取りでアイリスがいるだろう屋根裏の貴族牢へ向かった。
従者に鍵を開けさせ埃っぽく薄暗い室内を見る。
確かにアイリスはそこにいた。
もはや貴族とは思えない服装で、髪も汚れている。青白い顔は食事をしっかりとっているようには見えなかった。
彼女の姿に息が詰まるほど驚いた。
あの目が覚めるように美しい、元王太子妃候補だった高貴な女性になんてことを。
わあっと狂人のように叫びたくなってくる。
「……旦那様」
みすぼらしいベッドに腰掛けていた彼女は、目の前の光景に心底驚いたようにはっとして立ち上がった。
「アイリス……すまない。私は……君がこんな状態だったとは知らなかった」
なんとか自分を保ち、震える怒りに満ちた感情を押しとどめる。
「今すぐ彼女をここから出し、元の部屋に戻せ。美しく磨き上げ栄養のある食事を。分かっているだろうが彼女に不快な思いは一切させるな。粗相があればその場で全員っ不敬罪で捕らえる」
自分の胃が握りつぶされたかのように、ギュッと痛んだ。
「旦那様、お話ししたいことがございます」
アイリスは顔を上げてしっかりと私を見据える。
「今は、時間がない。すまないが言うとおりにしてくれ」
俺はそれを手で制し瞼を閉じた。
憤懣やるかたない。
しかし時間がないムンババ大使が我が屋敷に来てしまう。
後でいくらでも恨み事は聞くつもりだ。
だから……
「いいえ。旦那様」
彼女の声からはそこにある緊張の響きが十分感じとれた。
息を整えゆっくりと吐き出すと、私にこう告げた。
「旦那様、政略結婚ですので離婚しましょう」
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