上 下
30 / 47

マルスタンの横領

しおりを挟む
ジョンが用意した資料は、マルスタンが公爵家資金を横領した証拠だった。

裏金の帳簿は発見できなかったようだが、彼が見つけたのは大掛かりな手形詐欺の証拠だった。

記載された金額を一定期間後に支払うことを約束した有価証券(手形)を資金繰りに困った下級貴族や商人を相手に貸付け、そのままその手形を紛失するというもの。
公爵家の有責で手形の紛失が行われ、それを取り戻すためにサルベージ専門の業者に頼み、多額の手数料を支払うという方法で公爵家の資産を二重取りする。
サルベージ側も勿論マルスタンが雇った業者だ。

加害者が執事で自ら(公爵家側として)被害者になる方法で多額の資金を着服した。
まさに手の込んだ上級詐欺師の仕事と言ってもいいだろう。

工事費の水増しや、公爵家の高価な物品購入履歴の改ざん等、細かい物まであげれば切りがないとジョンは報告する。まだまだ余罪はあるだろうと。



目の前に積まれていく証拠資料に、マルスタンはわなわなと震えだした。
メイド長は床にうずくまり泣き出してしまった。

彼らの直属の使用人たちは、自分たちは関係ないそんなものは知らないと大きな声で訴えだした。

部屋の中が修羅場と化す。


「まずは一つずつ順序だてて罪を上げていかなければなるまい。長い時間がかかるし調査も必要だ。公爵。ここまでは理解したか?」

「こんな……何故だ!マルスタン!どういう事なんだ」

スノウはマルスタンに掴みかかった。マルスタンはもはや吠えることを禁じられた犬のように無抵抗にグラグラ揺さぶられる。

その様子を見据えて、ムンババ大使がゆっくりと発言する。

「フォスター公爵。この犯罪行為はかなり昔から行われている。君がまだ幼い子供の頃からだ。よって前公爵の時代よりずっと続いていた事だろう。だが、君に責任がないとは言えない。公爵家の当主である以上犯罪が行われたことに気付かず今まで放置していたことは公爵家の最大の過ちであり汚点だ」

続けてお父様もスノウに不快さのにじむ声で告げる。

「スノウ、多大な財産、資産があるからといってその管理を全て従者に任せて監査もせずにいる事は間抜けのする事だぞ。まったくいったい何を今まで学んできたんだ。外国生活が長すぎたか?外交大臣としての職務だけに囚われて他の事全てが疎かになっている。君には二足の草鞋は履けない。全く力不足だ」


スノウは頭を抱え、申し訳ありませんと父の前で膝まづいた。


それから父が連れてきた従者たちと、ムンババ大使の護衛達で犯罪に手を染めていたと思われる者たちの拘束が始まった。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



マリーが私の元へ来て、今まであった私の知らない出来事を話してくれた。

彼女は屋敷を追い出されてすぐに、その足でムンババ大使の屋敷へ行ったそうだ。

ーーーーーーーー

話を聞いたムンババ大使は王太子殿下に直接の謁見を願い出た。
公爵家で夫人が監禁されているという噂がある。この国の人間ではない自分が自ら動く事ができない。力を貸してほしいと頼んだそうだ。

そして当主であるスノウはその事実を知らないという事も伝えた。

この国の中でもフォスター公爵家は歴史ある大きな公爵家だ。
王家としては事を大ごとにはしたくない。


そもそもこの結婚は王命により決まったものだった。
そして私の元婚約者は王太子だ。

王太子の結婚が直近にまで迫っている今の時期に揉め事など起こしたくない王家は、問題を内々に処理できればと思ったようだ。

王は王太子に全権を委ねたが、直接王室の者が関わり責任問題に発展する事をきらった。

この話を知らせてきたムンババ大使と共に王太子は密かに何が起こっているのかの調査に乗り出したという。

『公爵家の中で起こっている、ありがちな嫁いびり的な問題で、監禁されているという証拠はない』という結果が出た。夫人が暴力を振るわれている様子はなく、傷害事件が発生したわけではない。医師が呼ばれた形跡もない。

精神的な虐待を犯罪として表にあげる事は難しい。

考えている間に時間が過ぎて私の身の安全が心配されたという。


王太子は王宮での他の職務に口出しをする事などなかったが、直接外交室へ向かいスノウと対峙したらしい。

ムンババ大使はマリーに実家のハミルトン侯爵に御助力願おうと説得した。

水面下でジョンが公爵家に潜入し私の様子をムンババ様に報告する。新しく使用人としてお父様が実家から数名、優秀なメイド達も公爵家に潜り込ませていたようだ。

私が屋根裏の貴族牢に閉じ込められた事が決定打となり、今回公爵家への出陣が決行された。
 

ーーーーーーーーーーーーー


マリーが簡潔に話してくれたが、頭の中を整理するのに時間がかかった。

そうこうしているうちに、横領の件に関わったものは憲兵に引き渡され詳しく取り調べが行われる事となった。

続いてマルスタンとメイド長が残され、キャサリンの話が始まった。


「これが王太子殿下から預かった執事のマルスタン、メイド長、リッツ伯爵とキャサリンの関係の報告書だ。太子自ら、ご自身の諜報員を動かし調べてくださった」

キャサリンの出生の証明書を見てスノウが搾り出すように言葉を口にする。

「キャサリンはマルスタンの実子……いったいどういう事なんだ……」

彼は膝から崩れ落ちた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。

天織 みお
恋愛
「おめでとうございます。奥様はご懐妊されています」 目が覚めたらいきなり知らない老人に言われた私。どうやら私、妊娠していたらしい。 「だが!彼女と子供が出来るような心当たりは一度しかないんだぞ!!」 そして、子供を作ったイケメン王太子様との仲はあまり良くないようで――? そこに私の元婚約者らしい隣国の王太子様とそのお妃様まで新婚旅行でやって来た! っていうか、私ただの女子高生なんですけど、いつの間に結婚していたの?!ファーストキスすらまだなんだけど!! っていうか、ここどこ?! ※完結まで毎日2話更新予定でしたが、3話に変更しました ※他サイトにも掲載中

BLゲームに転生した俺、クリアすれば転生し直せると言われたので、バッドエンドを目指します! 〜女神の嗜好でBLルートなんてまっぴらだ〜

とかげになりたい僕
ファンタジー
 不慮の事故で死んだ俺は、女神の力によって転生することになった。 「どんな感じで転生しますか?」 「モテモテな人生を送りたい! あとイケメンになりたい!」  そうして俺が転生したのは――  え、ここBLゲームの世界やん!?  タチがタチじゃなくてネコはネコじゃない!? オネェ担任にヤンキー保健医、双子の兄弟と巨人後輩。俺は男にモテたくない!  女神から「クリアすればもう一度転生出来ますよ」という暴言にも近い助言を信じ、俺は誰とも結ばれないバッドエンドをクリアしてみせる! 俺の操は誰にも奪わせはしない!  このお話は小説家になろう、カクヨムでも掲載しています。

婚約者が私以外の人と勝手に結婚したので黙って逃げてやりました〜某国の王子と珍獣ミミルキーを愛でます〜

平川
恋愛
侯爵家の莫大な借金を黒字に塗り替え事業を成功させ続ける才女コリーン。 だが愛する婚約者の為にと寝る間を惜しむほど侯爵家を支えてきたのにも関わらず知らぬ間に裏切られた彼女は一人、誰にも何も告げずに屋敷を飛び出した。 流れ流れて辿り着いたのは獣人が治めるバムダ王国。珍獣ミミルキーが生息するマサラヤマン島でこの国の第一王子ウィンダムに偶然出会い、強引に王宮に連れ去られミミルキーの生態調査に参加する事に!? 魔法使いのウィンロードである王子に溺愛され珍獣に癒されたコリーンは少しずつ自分を取り戻していく。 そして追い掛けて来た元婚約者に対して少女であった彼女が最後に出した答えとは…? 完結済全6話

【完結】“便利な女”と嘲笑われていた平凡令嬢、婚約解消したら幸せになりました ~後悔? しても遅いです~

Rohdea
恋愛
侯爵令嬢のフィオナは、取り立てて目立つところの無い平凡令嬢。 仲の良い家族を見て育った事もあり、昔から素敵な恋に憧れていた。 そんなフィオナの元にある日舞い込んだのは、公爵令息ダーヴィットとの縁談話。 平凡令嬢の自分に一目惚れしたなどと彼は言っているけれど──…… (ちょっと胡散臭い気がするけど、もしかしたら、これが素敵な恋になるかもしれない) そう思って婚約することにしたフィオナ。 けれど、そんなある日、ダーヴィットが自分のことを『便利な女』だと仲間内で嘲笑っている所を聞いてしまう。 (違う! 私の素敵な恋の相手はこの人じゃない!) 色々と我慢出来なくなったフィオナは婚約解消を願い出ることにした。 しかし───…… ✿“つまらない女”と棄てられた地味令嬢、拾われた先で大切にされています ~後悔? するならご勝手に~ ──こちらの主人公の娘の話です。 ✿“可愛げがない女”と蔑まれ続けた能面令嬢、逃げ出した先で幸せを見つけます ~今更、後悔ですか?~ ──こちらの主人公の孫の話です。 ※過去二作は読まなくても、特別問題はありませんが、一読して頂けると、 この家系の血筋による最初の男運の悪さがよく分かります。

不遇な公爵令嬢は無愛想辺境伯と天使な息子に溺愛される

Yapa
ファンタジー
初夜。 「私は、あなたを抱くつもりはありません」 「わたしは抱くにも値しないということでしょうか?」 「抱かれたくもない女性を抱くことほど、非道なことはありません」 継母から不遇な扱いを受けていた公爵令嬢のローザは、評判の悪いブラッドリー辺境伯と政略結婚させられる。 しかし、ブラッドリーは初夜に意外な誠実さを見せる。 翌日、ブラッドリーの息子であるアーサーが、意地悪な侍女に虐められているのをローザは目撃しーーー。 政略結婚から始まる夫と息子による溺愛ストーリー!

安息を求めた婚約破棄

あみにあ
恋愛
とある同窓の晴れ舞台の場で、突然に王子から婚約破棄を言い渡された。 そして新たな婚約者は私の妹。 衝撃的な事実に周りがざわめく中、二人が寄り添う姿を眺めながらに、私は一人小さくほくそ笑んだのだった。 そう全ては計画通り。 これで全てから解放される。 ……けれども事はそう上手くいかなくて。 そんな令嬢のとあるお話です。 ※なろうでも投稿しております。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

今日で都合の良い嫁は辞めます!後は家族で仲良くしてください!

ユウ
恋愛
三年前、夫の願いにより義両親との同居を求められた私はは悩みながらも同意した。 苦労すると周りから止められながらも受け入れたけれど、待っていたのは我慢を強いられる日々だった。 それでもなんとななれ始めたのだが、 目下の悩みは子供がなかなか授からない事だった。 そんなある日、義姉が里帰りをするようになり、生活は一変した。 義姉は子供を私に預け、育児を丸投げをするようになった。 仕事と家事と育児すべてをこなすのが困難になった夫に助けを求めるも。 「子供一人ぐらい楽勝だろ」 夫はリサに残酷な事を言葉を投げ。 「家族なんだから助けてあげないと」 「家族なんだから助けあうべきだ」 夫のみならず、義両親までもリサの味方をすることなく行動はエスカレートする。 「仕事を少し休んでくれる?娘が旅行にいきたいそうだから」 「あの子は大変なんだ」 「母親ならできて当然よ」 シンパシー家は私が黙っていることをいいことに育児をすべて丸投げさせ、義姉を大事にするあまり家族の団欒から外され、我慢できなくなり夫と口論となる。 その末に。 「母性がなさすぎるよ!家族なんだから協力すべきだろ」 この言葉でもう無理だと思った私は決断をした。

処理中です...