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マルスタンの横領
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ジョンが用意した資料は、マルスタンが公爵家資金を横領した証拠だった。
裏金の帳簿は発見できなかったようだが、彼が見つけたのは大掛かりな手形詐欺の証拠だった。
記載された金額を一定期間後に支払うことを約束した有価証券(手形)を資金繰りに困った下級貴族や商人を相手に貸付け、そのままその手形を紛失するというもの。
公爵家の有責で手形の紛失が行われ、それを取り戻すためにサルベージ専門の業者に頼み、多額の手数料を支払うという方法で公爵家の資産を二重取りする。
サルベージ側も勿論マルスタンが雇った業者だ。
加害者が執事で自ら(公爵家側として)被害者になる方法で多額の資金を着服した。
まさに手の込んだ上級詐欺師の仕事と言ってもいいだろう。
工事費の水増しや、公爵家の高価な物品購入履歴の改ざん等、細かい物まであげれば切りがないとジョンは報告する。まだまだ余罪はあるだろうと。
目の前に積まれていく証拠資料に、マルスタンはわなわなと震えだした。
メイド長は床にうずくまり泣き出してしまった。
彼らの直属の使用人たちは、自分たちは関係ないそんなものは知らないと大きな声で訴えだした。
部屋の中が修羅場と化す。
「まずは一つずつ順序だてて罪を上げていかなければなるまい。長い時間がかかるし調査も必要だ。公爵。ここまでは理解したか?」
「こんな……何故だ!マルスタン!どういう事なんだ」
スノウはマルスタンに掴みかかった。マルスタンはもはや吠えることを禁じられた犬のように無抵抗にグラグラ揺さぶられる。
その様子を見据えて、ムンババ大使がゆっくりと発言する。
「フォスター公爵。この犯罪行為はかなり昔から行われている。君がまだ幼い子供の頃からだ。よって前公爵の時代よりずっと続いていた事だろう。だが、君に責任がないとは言えない。公爵家の当主である以上犯罪が行われたことに気付かず今まで放置していたことは公爵家の最大の過ちであり汚点だ」
続けてお父様もスノウに不快さのにじむ声で告げる。
「スノウ、多大な財産、資産があるからといってその管理を全て従者に任せて監査もせずにいる事は間抜けのする事だぞ。まったくいったい何を今まで学んできたんだ。外国生活が長すぎたか?外交大臣としての職務だけに囚われて他の事全てが疎かになっている。君には二足の草鞋は履けない。全く力不足だ」
スノウは頭を抱え、申し訳ありませんと父の前で膝まづいた。
それから父が連れてきた従者たちと、ムンババ大使の護衛達で犯罪に手を染めていたと思われる者たちの拘束が始まった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
マリーが私の元へ来て、今まであった私の知らない出来事を話してくれた。
彼女は屋敷を追い出されてすぐに、その足でムンババ大使の屋敷へ行ったそうだ。
ーーーーーーーー
話を聞いたムンババ大使は王太子殿下に直接の謁見を願い出た。
公爵家で夫人が監禁されているという噂がある。この国の人間ではない自分が自ら動く事ができない。力を貸してほしいと頼んだそうだ。
そして当主であるスノウはその事実を知らないという事も伝えた。
この国の中でもフォスター公爵家は歴史ある大きな公爵家だ。
王家としては事を大ごとにはしたくない。
そもそもこの結婚は王命により決まったものだった。
そして私の元婚約者は王太子だ。
王太子の結婚が直近にまで迫っている今の時期に揉め事など起こしたくない王家は、問題を内々に処理できればと思ったようだ。
王は王太子に全権を委ねたが、直接王室の者が関わり責任問題に発展する事をきらった。
この話を知らせてきたムンババ大使と共に王太子は密かに何が起こっているのかの調査に乗り出したという。
『公爵家の中で起こっている、ありがちな嫁いびり的な問題で、監禁されているという証拠はない』という結果が出た。夫人が暴力を振るわれている様子はなく、傷害事件が発生したわけではない。医師が呼ばれた形跡もない。
精神的な虐待を犯罪として表にあげる事は難しい。
考えている間に時間が過ぎて私の身の安全が心配されたという。
王太子は王宮での他の職務に口出しをする事などなかったが、直接外交室へ向かいスノウと対峙したらしい。
ムンババ大使はマリーに実家のハミルトン侯爵に御助力願おうと説得した。
水面下でジョンが公爵家に潜入し私の様子をムンババ様に報告する。新しく使用人としてお父様が実家から数名、優秀なメイド達も公爵家に潜り込ませていたようだ。
私が屋根裏の貴族牢に閉じ込められた事が決定打となり、今回公爵家への出陣が決行された。
ーーーーーーーーーーーーー
マリーが簡潔に話してくれたが、頭の中を整理するのに時間がかかった。
そうこうしているうちに、横領の件に関わったものは憲兵に引き渡され詳しく取り調べが行われる事となった。
続いてマルスタンとメイド長が残され、キャサリンの話が始まった。
「これが王太子殿下から預かった執事のマルスタン、メイド長、リッツ伯爵とキャサリンの関係の報告書だ。太子自ら、ご自身の諜報員を動かし調べてくださった」
キャサリンの出生の証明書を見てスノウが搾り出すように言葉を口にする。
「キャサリンはマルスタンの実子……いったいどういう事なんだ……」
彼は膝から崩れ落ちた。
裏金の帳簿は発見できなかったようだが、彼が見つけたのは大掛かりな手形詐欺の証拠だった。
記載された金額を一定期間後に支払うことを約束した有価証券(手形)を資金繰りに困った下級貴族や商人を相手に貸付け、そのままその手形を紛失するというもの。
公爵家の有責で手形の紛失が行われ、それを取り戻すためにサルベージ専門の業者に頼み、多額の手数料を支払うという方法で公爵家の資産を二重取りする。
サルベージ側も勿論マルスタンが雇った業者だ。
加害者が執事で自ら(公爵家側として)被害者になる方法で多額の資金を着服した。
まさに手の込んだ上級詐欺師の仕事と言ってもいいだろう。
工事費の水増しや、公爵家の高価な物品購入履歴の改ざん等、細かい物まであげれば切りがないとジョンは報告する。まだまだ余罪はあるだろうと。
目の前に積まれていく証拠資料に、マルスタンはわなわなと震えだした。
メイド長は床にうずくまり泣き出してしまった。
彼らの直属の使用人たちは、自分たちは関係ないそんなものは知らないと大きな声で訴えだした。
部屋の中が修羅場と化す。
「まずは一つずつ順序だてて罪を上げていかなければなるまい。長い時間がかかるし調査も必要だ。公爵。ここまでは理解したか?」
「こんな……何故だ!マルスタン!どういう事なんだ」
スノウはマルスタンに掴みかかった。マルスタンはもはや吠えることを禁じられた犬のように無抵抗にグラグラ揺さぶられる。
その様子を見据えて、ムンババ大使がゆっくりと発言する。
「フォスター公爵。この犯罪行為はかなり昔から行われている。君がまだ幼い子供の頃からだ。よって前公爵の時代よりずっと続いていた事だろう。だが、君に責任がないとは言えない。公爵家の当主である以上犯罪が行われたことに気付かず今まで放置していたことは公爵家の最大の過ちであり汚点だ」
続けてお父様もスノウに不快さのにじむ声で告げる。
「スノウ、多大な財産、資産があるからといってその管理を全て従者に任せて監査もせずにいる事は間抜けのする事だぞ。まったくいったい何を今まで学んできたんだ。外国生活が長すぎたか?外交大臣としての職務だけに囚われて他の事全てが疎かになっている。君には二足の草鞋は履けない。全く力不足だ」
スノウは頭を抱え、申し訳ありませんと父の前で膝まづいた。
それから父が連れてきた従者たちと、ムンババ大使の護衛達で犯罪に手を染めていたと思われる者たちの拘束が始まった。
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マリーが私の元へ来て、今まであった私の知らない出来事を話してくれた。
彼女は屋敷を追い出されてすぐに、その足でムンババ大使の屋敷へ行ったそうだ。
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話を聞いたムンババ大使は王太子殿下に直接の謁見を願い出た。
公爵家で夫人が監禁されているという噂がある。この国の人間ではない自分が自ら動く事ができない。力を貸してほしいと頼んだそうだ。
そして当主であるスノウはその事実を知らないという事も伝えた。
この国の中でもフォスター公爵家は歴史ある大きな公爵家だ。
王家としては事を大ごとにはしたくない。
そもそもこの結婚は王命により決まったものだった。
そして私の元婚約者は王太子だ。
王太子の結婚が直近にまで迫っている今の時期に揉め事など起こしたくない王家は、問題を内々に処理できればと思ったようだ。
王は王太子に全権を委ねたが、直接王室の者が関わり責任問題に発展する事をきらった。
この話を知らせてきたムンババ大使と共に王太子は密かに何が起こっているのかの調査に乗り出したという。
『公爵家の中で起こっている、ありがちな嫁いびり的な問題で、監禁されているという証拠はない』という結果が出た。夫人が暴力を振るわれている様子はなく、傷害事件が発生したわけではない。医師が呼ばれた形跡もない。
精神的な虐待を犯罪として表にあげる事は難しい。
考えている間に時間が過ぎて私の身の安全が心配されたという。
王太子は王宮での他の職務に口出しをする事などなかったが、直接外交室へ向かいスノウと対峙したらしい。
ムンババ大使はマリーに実家のハミルトン侯爵に御助力願おうと説得した。
水面下でジョンが公爵家に潜入し私の様子をムンババ様に報告する。新しく使用人としてお父様が実家から数名、優秀なメイド達も公爵家に潜り込ませていたようだ。
私が屋根裏の貴族牢に閉じ込められた事が決定打となり、今回公爵家への出陣が決行された。
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マリーが簡潔に話してくれたが、頭の中を整理するのに時間がかかった。
そうこうしているうちに、横領の件に関わったものは憲兵に引き渡され詳しく取り調べが行われる事となった。
続いてマルスタンとメイド長が残され、キャサリンの話が始まった。
「これが王太子殿下から預かった執事のマルスタン、メイド長、リッツ伯爵とキャサリンの関係の報告書だ。太子自ら、ご自身の諜報員を動かし調べてくださった」
キャサリンの出生の証明書を見てスノウが搾り出すように言葉を口にする。
「キャサリンはマルスタンの実子……いったいどういう事なんだ……」
彼は膝から崩れ落ちた。
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