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第二章 クラン
第37話 キーリジアの冒険者ギルド
しおりを挟む「……ウルシュラ、本当に大丈夫?」
「そ、そうですね……大丈夫と自信もって言えないですけど、でもキーリジアを知るのは私だけですから。みんなで行ければよかったですけど、状況が状況だけに私が行くしかないです」
「……」
怪しい商人に変装していた騎士バシレオスは、俺に頼みごとをしてきた。
ソニド洞門が崩落した原因は確かに聖女が絡んでいる。しかし、聖女一人だけで出来る所業では無い。
力の強い魔術師が聖女に協力しているはずだ――ということらしく、
「それは?」
「キーリジアに行ける呪符だ。だが、ここに戻る為の呪符は持ち合わせておらぬ。よって、キーリジアに行った際には、ソニド洞門の修復をする者の手配をお願いする!」
「あなたが行けばいいのでは?」
「それは出来ぬ。われにも理由があり、キーリジアに顔は出せぬのだよ」
バシレオスはルナファシアスという国の騎士。
顔が知られている為、周辺の冒険者に見つかるわけにはいかないらしい。
そこで白羽の矢が立ったのが、キーリジアを知るウルシュラだ。
「えぇ? わ、私もですか?」
「うむ。呪符は片道二枚のみ。われは行けぬゆえ、ルカスを案内するならばそなたしかあるまい」
「で、でも、呪符を使うならイーシャさんの方が~……」
ウルシュラはすがるような目でイーシャを見た。
しかし、
「わたくしは確かに呪符使いではありますけれど、キーリジアをよく知らないのでここはウルシュラさんが行くべきかと思いますわ」
などと、あっさり断られた。
俺と一緒に行くとなるとナビナでもいいんじゃ……と思っていた。
それなのに、
「……もう一つ伝えておかねばならんのだが、わが大陸では家名を持つ者が物言う世界。その点で言えば、ルカス・アルムグレーンならば帝国で知られた名ゆえ誰も文句は言わぬし、お嬢さんならば問題無いのではないか?」
――という言い分があり、ウルシュラと一緒に行くことに。
ナビナが俺に言ってきたのは、「呪符で移動した場所を冴眼に覚えさせて」という言葉だけだった。
万能の冴眼なら一度見た場所や物、人などは全て記憶出来るからだとか。
いつまでも呪符による転移に頼るな。というナビナからの厳しい一言だった。
バシレオスによればログナド大陸の魔物は手強いらしい。
それを聞いたミルが、
「ミル、見知らぬ魔物に興味があるみゃ~! ルカスとなら余裕で倒せるみゃ」
意気込みを見せてくれたものの、それはソニド洞門が再開通してからでも出来る。
という説得もあって、結局ウルシュラと行くことになった。
「キーリジアか。意外に大きな町だね」
「そ、そうなんですよ~」
ウルシュラが緊張した面持ちになるのには理由がある。
町へ入る前、ようやく彼女から真相を告げられた。
どうやらこの町でウルシュラはパーティーを追い出されたらしい。
逃げるようにして船に乗り込み、ラトアーニ大陸に渡った――というのがウルシュラの話。
キーリジアには冒険者ギルドがあるようで、彼女はそこでパーティーを組んだのだとか。
港町キーリジア。この町はかつて、ラトアーニ大陸とを結ぶ海運の要衝として栄えた歴史がある。
ルナファシアスに認められ、自治都市として独立した。
しかしラトアーニ大陸の港町は現在帝国支配下。簡単に船を出せなくなった。
冒険者ギルドに所属する多数の冒険者は、船を利用していたが……。
今は魔物が巣食うソニド洞門を通らなくてはならず、冒険者が大陸を渡ることは少なくなった。
そのせいか、キーリジアは冒険者が行き交う町というより、漁業中心の田舎町となりつつある。
冒険者ギルドは港町にある割に建物が大きく、他の建物に比べてもかなり目立つ。
「冒険者ギルドにかつてのパーティーがいるのかを心配してる?」
「は、はい。もちろん、全員が悪い人というわけではなくて、私に優しく声をかけてくれた人もいたんです。でも……」
明るくて元気なウルシュラがここまで沈んだ表情になるなんて。
園芸師として頑張って来た彼女を追い出した冒険者が、どれほどのものなのか。
「……大丈夫。ウルシュラに何か文句を言う奴がいたら、俺が何とかするよ」
「――えっ!? ル、ルカスさん、それって……」
ウルシュラの俺を見る目がうるうると輝いている。
かなりクサいセリフを言ってしまって変な誤解をさせてしまっただろうか。
「もちろん場合によっては、痛い目を見せることになるかも……」
「ルカスさん……手加減は忘れないでくださいね?」
両手を組んで何を言うかと思えば、そっちの心配だった。
「あっ、うん」
ウルシュラに注意されつつ、俺たちは冒険者ギルドに入った。
酒場食堂を併設させた、そこそこ広いギルドだ。
入って早々、見慣れぬ俺に対し数人のいかつい冒険者が寄って来る。
「なんだぁ? どこの辺境モンが入って来やがったんだ?」
「安っぽいローブなんか着てるってことは、辺境上がりの魔術師って奴か?」
「ぶはははっ!! こんなところに魔術師とは無謀にもほどがありやがる!」
ざっと見回しても、魔術師は見当たらない。
魔物が強い大陸ということもあるのか、全体的に戦士タイプを多く見かける。
あるいは、ファルハンのような格闘士が大半といったところか。
「ここのギルドマスターに会いたい。案内してくれないか?」
絡んで来る連中を相手しても仕方が無い。
ここはバシレオスの依頼を早急に進める必要がある。建物は二階建て。
ということは、ギルドマスターがいそうなのは二階だな。
「おいおい、魔術師ふぜいがギルドマスターに用だぁ? 弱っちい奴が何をほざいて――おっ?」
ウルシュラには俺の後ろで大人しく控えさせ、替えのフード付きローブを着せていた。
だがそれでも気づかれてしまうか。
「弱っちい魔術師が後ろにも控えてやがる! おい! てめぇも何とか――」
「――女だ! この魔術師、女だぜ?」
「何っ? どんな女だ?」
――面倒な事を起こさないと気が済まないのかここの連中は。
なるべくウルシュラには不安がらせたくないし、軽く連中を吹き飛ばして……。
「何の騒ぎだ!!」
うん? この声は女性の声?
二階の階段から降りて来るということは、女性のギルドマスターだろうか。
しかも輩連中がすごすごと端の席に引っ込んで行くなんて。
「むっ! お前はウルシュラ!! ウルシュラではないのか?」
「――あっ……」
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