城伯末女だけど、案外したたかに生きてます

遥風 かずら

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第一章 お城と巡りあい

第5話 壁越しの出会い 

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「なぁ、誰か! ……いないのか?」

(います、いますけど、返事をしていいものなの? 見えない相手だし敵か味方かも分からない状態で返事をしてしまったら、お母様になんて言われるか)
 
 ルーシャとしていたずらに歩き回っていただけで、知らない誰かに遭遇することは全く想定していなかった。

 だけど、声色だけで判断すれば切羽詰まったような感じを受ける。

 石壁で阻まれているから危ない目に遭う可能性もないと思われるけど、城伯の娘としてどういう行動を取るのが正解なのだろうか。

「い、います!」
「……うん? いる――のか? 悪いがもう少し声を張り上げてくれないか?」

 相手は外にいるせいもあって、かなり声を張り上げて訴えている。それに対し、ルーシャは城の中、それも側塔付近の部屋にいて相手にはほとんど声が届いていない。

 ルーシャが不安に思っているのは、ミラーやアロナに要らない心配をかけてしまうこと。それと、敵国の人間だった場合に対処をどうすればいいのか、など。

 それだけに声を張り上げて話をするのがいいのか悪いのか、相手が向こう側にいるにもかかわらず、躊躇するしか出来ないでいる。

「もしかして、怯えているのか? 微かに聞こえてくるその声、君は女の子……いや、お城で働く使用人の少女か? そうだとしたら俺も同じだ! 使用人のようなものだからな。だから、怯えずに勇気を出して声を出してくれ!」

 使用人のようなもの、つまり敵国の人間だったとしてもそこまで脅威じゃない、そういうことだろうか。

(それでも用心には用心を重ねないとだよね)

 声を出すのはそう難しいことじゃない。だけど、周囲に誰もいないとしてもここは城の中であることに変わりなく、大きな声を上げ続ければいずれ誰かに気づかれる。

 そうなるといち早く駆けつける可能性があるのは、間違いなくアロナ。そう考えると、壁向こうの男性とのやり取りにあまり時間は残されていない。 

 そこでルーシャが思いついたのは。

「あのっ!! 声を張り上げるととても目立つと思うんです。だから、目の前の壁に顔を近づけて話してほしいです。駄目……ですか?」
「壁に? あぁ、壁越しならいいかもしれないな! 分かった、それで頼む!」

 恐らく向こう側の男性も壁に顔を近づけていると思いながら壁に寄り掛かると、見えないながらも壁に背中を当てているような音が聞こえた。

 少しして、石壁を叩く音が軽く聞こえてくる。

「壁越しの君、叩いてるのが聞こえるか?」

 ルーシャも返事のつもりで、握りこぶしを作って壁を二回ほど叩いた。

「……よし、伝わってるな。俺はヴァレリー。年は十七! 君は?」

 壁越しだとさっきまではっきり聞こえてこなかった声がはっきりと聞き取れる。姿が見えなくてもここまで聞こえるなら、少しは警戒を解いてもいいかも。

(だけど相手もその名前が本当の名前か分からないし、私も変えた方がいい気がする)

「ヴァレリー。はい、聞こえました。私、私の名前はホワイト、年は十三……です」

 ホワイトは城ゲーの時の家名であって、今のルーシャの名前じゃない。これならもし外で遭遇したとしても、素性は分からないはず。

「ホワイト嬢か。やっぱり年下だったな。分かった。壁越しで悪いけど、よろしくな!」

(四つしか違わないし、似たようなもんでしょ)

「はい、よろしくお願いします」
「……その言葉遣い、嫌いじゃないがもっとくだけて話せないか? 使用人だから厳しくさせられてるのは分かるけど、年とか関係なく話したいんだ」

 十七歳と言っていたヴァレリーの声は、少し幼さを残しつつも外の人間のせいか言動は大人びている。本人が使用人のようなものと言いつつ、もしかすれば敵国の兵士の可能性もあるだけになかなかくだけて話すのは難しい。

「ごめんなさい、私はまだ慣れてないんです。だから……」

(こっちの世界に来て日も経ってないし、そのうえ次期将軍候補とか言われてるしどうするのが正解なのか全然答えなんか出せるわけない)

「慣れてない? あぁ、使用人として日が浅いのか。そっか、それなら仕方ないか」
「……ヴァレリー……は、どうして誰かを探しているん……ですか?」

 それが一番の謎。しかもまるでここがお城の中で隙が出来ているのを知っているかのように、ここで誰かに呼び掛けていた。

 修繕中の側塔はここしかなく、石壁の隙間が空いているのはここしかない。

 もし敵国の人間なら城の防衛を高める必要があるし、そうでなかったとしても隙を見つけられてしまっているのは結構問題なのでは。

「ホワイト嬢に話しても分からないかもしれないけど、俺はどうしても見つけたいものがあるんだ。このお城、いやコヴァル領にはかつてあったとされる鐘。それを見つけて、いつか俺は鳴らしてみたいんだ!」
「……鐘? 何かの楽器?」
「そう、鐘だよ! それを鳴らせば幸せを呼ぶって話、知らないか?」

 結婚式とかに鳴らす鐘とかそういうものだろうか。

 そうだとしたら側塔ではなくて教会の塔にあるべきものだと思うけど、ブルグ城の教会塔は確か、裏側に位置していた気がする。

 少なくともここじゃないと思うけど、そうだとしても教会の位置を教えるのも危険だしどう言えばいいんだろう。

「ごめんなさい、分からない……です」
「そ、そうか。まだ城の全体構造なんか分からないよな。ごめん、謝らせるつもりはなかったんだ」
「う、ううん……私も、何も答えられなくてごめんなさい」

 お互い壁越しで謝っているなんて、何だかおかしな感じ。

 時間がどれくらい経っているのか分からないけど、姿が見えない相手なのに嫌な感じがしない。

 それもあって、ヴァレリーの話をもっと訊いてみたいと思って声を張り上げようとした、その時――

「――むっ? そこに誰かいるのか?」

 この声はアロナの声?

 声が扉付近から聞こえてきたので、ルーシャは壁に向かって三回ほど叩いた。すると壁越しのヴァレリーからは大きな音が一回だけ聞こえ、急いで走り去る音が響いた。

 そのすぐ後、大きな音をさせて扉を開けてきたアロナが焦りながらルーシャを抱き寄せた。

「……良かった、ルーシャ! 心配しましたよ、ルーシャ!!」
「ごめんなさい、アロナお姉様」

(壁越しだから見つからずに逃げたのかな)

「いいんです、ルーシャが無事なら! この城は目が届く範囲は確かに安全。ですけれど、この側塔のように先の戦闘で修繕中の場所は人の目が行き届かない状態になっています。側塔の上部は修繕の最中ですけど、ここは扉が傾いて使われていない部屋でしたから、まさかと思いましたが……わたくしの落ち度でした」

 傾いていた扉に入ってしまったんだ。それは流石に反省しなければ駄目かも。

「あの、お母様には?」
「母上も探していましたよ。ですから、無事を知らせる為に一緒に行きましょう」

 きっと恐ろしく怒られてしまうんだろうな、なんて思いながらルーシャは壁越しで出会ったヴァレリーの無事を密かに願った。
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