きみのその手に触れたくて"

遥風 かずら

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第五章 ラブ・カルテット

52.それでも彼とわたしは

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 ふたりで握手……それとも手繋ぎ? 

 遠目ではっきり見えなかった、にしてわたしは気にすることなくふたりに近付く。

「雪乃と七瀬……手を繋いでた?」
「あやきち!?」
「あ、綾希……どうしてここに?」

 あれ、何の焦りなの?

 目に見えないだけで、もしかしなくてもふたりはそういう仲に? 

 そうすると七瀬の元カノさんの立場は……て思ってしまったけど、気づいたらふたり手は離れていた。

「あやきちって、屋上に行ってたんじゃなかったっけ?」
「行ってた。そこで弘人といた」
「弘人……か。で、綾希はあいつを置いて何でここに?」
「誘いにきたから。週末に弘人が展望台に行くって言ってた。だから、ふたりも誘おうと思ってここに」

 さっきのふたりは少し怪しい気配があったけれど、気のせいかなって思うくらいいつものふたりに戻っている。

「週末って今度の? 私は無理だなぁ……シフト入っちゃってる」
「俺は行く。弘人……林崎は、お前とふたりでって誘ってきたんだろ?」
「言ってた」
「それなら俺は意地でも行く! 泉さんは行けないだろうけど、俺は行くよ。綾希は文句ないんだよな?」

 あれ、綾希呼びに戻ってる。

「伝えとく。じゃあ、先に教室に戻って伝えに――」

 多分だけど、弘人は先に教室に戻っているはず。その意味で、体を教室方面に向けて歩こうとすると、七瀬に腕を掴まれていた。

「……? 何か用事?」
「綾希、話すから。俺……お前にきちんと全部話すから! だから――」
「――週末でもよければ」
「ああ、それでもいい」
「じゃあ、わたしは行く」

 今さらわたしに何を話そうというのかな。それに、もし仮に七瀬に本当の気持ちを言われたとしてももう駄目なんじゃ?

 いい加減わたしも泣くのに疲れちゃってるし、変に期待しても落ち込むことになりそうだし、それならありのままを全部聞いて終わらせたい。

 教室に戻ったと同時くらいに予鈴が鳴ってしまったので放課後……というか、どうせ弘人のバイト先に行くことにしていたからその時に話すことに決めた。

「あれ? あやきち、帰んないの?」
「帰るけど、行くとこがあるからここで待機してる」
「綾希さん。とりあえず家に帰ってていいよ。学校にいても退屈だろうし、時間もかかるからさ」
「分かった。帰る」

 そんなに時間がかかるのかな、なんて首を傾げながら素直に帰ることにした。

「え……、ちょっとひろくん? もしかしてあやきちを呼んだ?」
「うん。今日早上がりだし。俺は行くよ。またね、泉さん」
「……あ、うん。また」

 雪乃は元々、弘人のシフトに合わせてバイトに入っていた。けれど、流石に休みのところに無理やり入れなかったうえ、都合よく交代してくれる人も見つからずで雪乃だけ休みになったらしい。

「あれ? あいつと綾希は?」
「な、七瀬くん! とりあえず、これ! 私のコードだから登録して! んで、今すぐ外に行って! 詳細分かったら教えるから。だから、早く!」
「へ? あ、あぁ、じゃあ……」

 弘人から連絡がくるまでとりあえず家に帰ることになったわたしは、弘人のバイト先のファミレスから近い位置に自宅があることもあって、時間に余裕があった。

 規則では学校のエリア内でバイトする決まり。わたしの家からも近いって分かってしまったので、そういう意味で凄く行きやすい場所かも。

 週末の展望台の誘いに行けない雪乃はシフト通りにアルバイト。

 そんな雪乃と違い、七瀬はきっと来てくれる。彼はもうそういう関係じゃないのに、何となく安心感があった。

 弘人とふたりきりだと感じられなくて、でも七瀬が近くにいてくれたらそれだけで芽生える安心感。

 本当に、ただそれだけ。
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