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第五章 ラブ・カルテット
54.繋ぐその手の意味は?
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弘人が働いているファミレスで、わたしは奥の席へと案内された。わたしの後ろには七瀬がついてきていて、ただでさえ背の高い七瀬の顔がわたしのすぐ後ろにいたりして弘人は何度も首を傾げていた。
そしてわたしの隣には七瀬が座り、真向かいに座ってわたしを見ているのが弘人。その視線に何となく目を外しがちだった。
でも、弘人は正面にいるわたしを見なくて、なぜか七瀬ばかりを気にしている。
……やっぱり敵なのかな?
「綾希、何でも食えよ?」
「そうする。七瀬は水?」
「水だけだ。今回は冗談じゃなくて、マジ」
「犬だから?」
「そういうことだ」
わたしと七瀬のやり取りに割って入ってこれないのか、弘人はどんどん機嫌を損ねて表情を暗くしていた。
そこだけ見ると、何だか悪い事をしてしまったかのよう。
「弘人、ごめん。隣に座る七瀬が勝手についてきた。弘人に負担かけたくなくて。それよりは七瀬に負担かけさせたほうがいいって思った。だから、ごめんなさい」
「綾希さんが謝ることじゃないよ! 俺が誘ったし。話がしたかったのは事実だからね。週末のこととか、その先のこととか……もっと話せればいいなって思ってたんだ」
「……うん」
何度も謝りたくなるほど、弘人の表情は回復しなかった。でも、わたしとふたりだけで話をするのがそんなに楽しいのだろうか。
これといって話題も何もないのに。
「何度もごめんって言われると俺、何も言えなくなるよ。ちょっと飲み物取ってくるね。綾希さん、何か飲む? それと、七瀬が奢るのは食べる物限定だろ? 飲み物くらいなら俺が出すから」
「じゃあ、オススメをおすすめ?」
「任せて! じゃあ、ちょっと待っててね」
流石に謝りすぎたのかそれとも一度席を立ちたくなったのか、弘人はドリンクバーの所に行ってしまう。
そして今、わたしの隣には七瀬がひとりだけ。ずっと七瀬の視線を感じたくなくて、それだけでも弘人は席を立ちたくなったのかもしれない。
七瀬とふたりだけの時間。
今は学校の時みたいに少し離れた席じゃなくて真横に座ってる。
わたしの手はどこに置いておけばいいのだろう――そう思って、右手はお水の入ったコップを手にしていたけれど、左手はソファの所に置いておくしかなくて。
……あれ?
気のせいじゃない――左手に右手が乗ってきたと思ったらそのまま繋いできてる。どういう状況なんだろ。右手は隣にいる七瀬の手。
だけど、彼の顔を見ても何も言ってこない。
「なに? なんで?」
「いや、別に……お前とそうしたくなっただけ」
離して……なんて残酷な言葉がなぜか出てこなくて。弘人が戻ってくるまで無言でそうしてた。何でか知らないけれど、繋いでる時に不安を感じることがなくて。
これが慣れってことなのかもしれない。
しばらく誰かの手に触れることがなくなって、わたし自身不安を抱えるようになっていた。だけど、今はそれがすっかり消えている。
「……分かった」
七瀬は何を考えているんだろう?
そして、わたしも七瀬とどうなりたい?
間違いなく思っているのは、わたしの隣には常に七瀬にいて欲しい。いつもより口数の少ない七瀬だったけれど、気持ちがまっすぐに伝わってきた気がしたから。
そして心の中で、何度も弘人に謝っていた。
……ごめんね――と。
そしてわたしの隣には七瀬が座り、真向かいに座ってわたしを見ているのが弘人。その視線に何となく目を外しがちだった。
でも、弘人は正面にいるわたしを見なくて、なぜか七瀬ばかりを気にしている。
……やっぱり敵なのかな?
「綾希、何でも食えよ?」
「そうする。七瀬は水?」
「水だけだ。今回は冗談じゃなくて、マジ」
「犬だから?」
「そういうことだ」
わたしと七瀬のやり取りに割って入ってこれないのか、弘人はどんどん機嫌を損ねて表情を暗くしていた。
そこだけ見ると、何だか悪い事をしてしまったかのよう。
「弘人、ごめん。隣に座る七瀬が勝手についてきた。弘人に負担かけたくなくて。それよりは七瀬に負担かけさせたほうがいいって思った。だから、ごめんなさい」
「綾希さんが謝ることじゃないよ! 俺が誘ったし。話がしたかったのは事実だからね。週末のこととか、その先のこととか……もっと話せればいいなって思ってたんだ」
「……うん」
何度も謝りたくなるほど、弘人の表情は回復しなかった。でも、わたしとふたりだけで話をするのがそんなに楽しいのだろうか。
これといって話題も何もないのに。
「何度もごめんって言われると俺、何も言えなくなるよ。ちょっと飲み物取ってくるね。綾希さん、何か飲む? それと、七瀬が奢るのは食べる物限定だろ? 飲み物くらいなら俺が出すから」
「じゃあ、オススメをおすすめ?」
「任せて! じゃあ、ちょっと待っててね」
流石に謝りすぎたのかそれとも一度席を立ちたくなったのか、弘人はドリンクバーの所に行ってしまう。
そして今、わたしの隣には七瀬がひとりだけ。ずっと七瀬の視線を感じたくなくて、それだけでも弘人は席を立ちたくなったのかもしれない。
七瀬とふたりだけの時間。
今は学校の時みたいに少し離れた席じゃなくて真横に座ってる。
わたしの手はどこに置いておけばいいのだろう――そう思って、右手はお水の入ったコップを手にしていたけれど、左手はソファの所に置いておくしかなくて。
……あれ?
気のせいじゃない――左手に右手が乗ってきたと思ったらそのまま繋いできてる。どういう状況なんだろ。右手は隣にいる七瀬の手。
だけど、彼の顔を見ても何も言ってこない。
「なに? なんで?」
「いや、別に……お前とそうしたくなっただけ」
離して……なんて残酷な言葉がなぜか出てこなくて。弘人が戻ってくるまで無言でそうしてた。何でか知らないけれど、繋いでる時に不安を感じることがなくて。
これが慣れってことなのかもしれない。
しばらく誰かの手に触れることがなくなって、わたし自身不安を抱えるようになっていた。だけど、今はそれがすっかり消えている。
「……分かった」
七瀬は何を考えているんだろう?
そして、わたしも七瀬とどうなりたい?
間違いなく思っているのは、わたしの隣には常に七瀬にいて欲しい。いつもより口数の少ない七瀬だったけれど、気持ちがまっすぐに伝わってきた気がしたから。
そして心の中で、何度も弘人に謝っていた。
……ごめんね――と。
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