きみのその手に触れたくて"

遥風 かずら

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第五章 ラブ・カルテット

55.見える心、見えない気持ち。

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「綾希さん、お待たせ。オレンジジュースとかで良かったかな?」
「それで合ってた」

 弘人がわたしのためにジュースを持ってきてくれた。一瞬だけ七瀬の手が離れたけれど、彼が席に着いたらまた手を繋いでくる。

 どういう意味? 

 単に寂しがり屋?

「それでさ、週末のことだけど泉さんは来られないんだっけ?」
「うん、残念」
「シフト入ってたみたいなんだよね。残念だけど、三人で行くしかないかな」
「おい、林崎。本当に残念って思ってんの? 思ってんなら、誰かに頼んで泉さんも行けるようにしろよ。それくらい出来んだろ?」
「は? 誰かのシフトを何で俺が変えられるっていうんだよ! ってか、残念に決まってるだろ」

 もし可能なら、やっぱり雪乃にも来て欲しい。

 そうじゃないと、弘人はきっとまた気を悪くしそうな気がするから。それに展望台に登ったら七瀬はわたしに話があるって言っている。

 わたしも七瀬と話がしたい。

 多分これはわたしの気持ちの問題。そこに弘人だけがいたら、絶対傷つけてしまう。

 ――そんな気がする。

「弘人。雪乃のこと、何とかお願い出来ない? 出来る?」
「うーん……。今って期末でもなんでもないしその期間でもないから難しいと思うけど、店長に話してみる。綾希さんも泉さんに聞いてみて」
「分かった」

 せっかく席に着いたのに弘人はまた立ち上がり、店の奥の方に行ってしまう。

「雪乃に連絡……あ、スマホ持ってきてなかった」
「お前、相変わらずだな。滅多にいないぞ、お前みたいな女子。まぁ、いいや。俺が連絡しといてやるよ」
「任せる。でも、雪乃の連絡先を何で知ってた?」
「この前の昼に聞いてたんだよ。綾希の代わりに連絡出来る係としてな」

 ……それで握手してたんだ。

「あの握手?」
「まぁ、お前の誤解してそうな真相ってそんなもんだ」

 そういうと七瀬はわたしからいったん離れた。

 すぐに雪乃に連絡をしていたけれど、握手したその手を見ていたら何となく、嫌な気分になった。

 すぐに戻ってきた七瀬からの返事は。

「行けるって」
「……だと思ってた」
「本当にお前って変わんねえのな」
「……?」
「だからこそ……」

 七瀬、何かを言おうとしてたけどやめた? 

 その答えを聞こうとしたけれど、無駄だから黙っておいた。そうしたら、丁度いいタイミングで弘人も戻ってきた。

 彼の表情を見る限り、どっちとも取れる感じだった。

「どうだった? 泉さん、休めんの?」
「まぁ、うん。一応許可出た。ただ、来週の土日は休めなくなった。今のところ予定ないからいいけどさ」
「ありがと」
「うん。最初からこうしとけばよかったんだよね。そうすれば俺も変に迷わずに済んだかもしれないし」

 ――今のって何?

「え?」
「何でもないよ」
「うし。じゃあ、俺らは先に帰るわ。綾希も大して食べなかったし」

 時間も時間だし、目的は雪乃への連絡だったから仕方ないよね。

「お前だけ帰れよ。何で綾希さんも帰らせるんだよ?」
「夕方だし、送っていくんだよ。それに俺らは客だけどお前は一応、店員だろ? 奥の方の偉そうな人が何かこっち気にしてんぞ。バイト先でご飯食べるとか、それって結構……」
「……あ」

 七瀬の言うように、確かに奥の方から厳しそうな視線を感じる。

「弘人。ごめんありがと。でも、週末楽しみ。またね?」
「う、うん。そうだね。じゃ、じゃあ俺、行ってくる。七瀬、きちんと送れよ?」
「当然だろ」
「バイバイ」
「またね、綾希さん」

 弘人は慌てて奥の方に戻っていった。

 それもそのはず、夕方だからか結構席が埋まっていた。きっと、そのために呼ばれてしまったかもしれない。

 何だか悪いことしたかも。

「じゃ、行くか。綾希の家まで送る」
「分かった」

 帰る時は流石に手を繋いでこなかった。

 じゃあ、ファミレスでのあの動きはどういう気持ちだったの?

 気にはなるけど、今は我慢して深く訊かないことにする。きっと週末の展望台で分かることだから。

 今度こそ七瀬の気持ちが分かる――そんな気がするから。
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