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第六章 恋敵クライマックス
71.無意味な告白と優しいコトバ
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どうして?
振ったはずの元彼とは距離だけじゃない理由で離れたのに、何でか同じ学校に移ってきて、どうしてまたわたしの隣に座っているの?
信じられない――素直に思ったわたしは、思わず窓の外を眺めたくなった。
夏休みも近づいているけれど、空は梅雨空の色を出している。今のわたしもまさにそんな気分。
わたしの味方は近くにいないどころか授業中ということもあって、席へ来てくれるといったサプライズも期待出来そうにない。
「……なぜなのかな」
「ん? そりゃあ、綾希とヨリを戻したいからに決まってるだろ!」
「なにが?」
「いや、だから……」
隣に話しかけたつもりはなくてわたし自身に問いかけていた。つまりは独り言。だけど、半分は訊いていたのかもしれない。
どうしてわたしなの? って感じで。
「どこが好きで?」
「綾希と付き合ってたし、やっぱお前可愛いし」
「あ、そう……」
辛うじて声だけ出ていた。でも、窓の外だけしか見えていなかった。それくらい、何の感情も表情も動かすことなく時間が過ぎていくのを待っていた。
「やり直してくれないか? フラれた理由は後から聞いたけど、でもオレは好きなままなんだよ。悪いとことか直すから、だからもう一度付き合ってくれ! 頼む。マジで好きなんだ、綾希」
確か今って授業中だった気がする。
でも、後ろの席だからか大きい声でもない告白は他の誰にも聞こえていない。もちろん、すぐ隣のわたしにも隣の元彼の告白は全然届いてこなかった。
「いや、授業中にごめん。オレ、待ってるから。返事は放課後に聞かせて欲しい。玄関で待ってるから。だから、頼む。諦めたくないんだよ」
「……じゃあ、放課後」
「おっ! っしゃああ!!!」
ああぁ、何で声を張り上げるかな。
「何ですか? 宇月くん、質問ですか?」
先生に気づかれたら駄目でしょ。
「あ、いやっ、すみませんでした。なんでもないです」
何ていえば相手に届くのだろう?
本当にどうしてわたしなのかな。もう全然気持ちなんてないからさっぱり忘れて欲しいのに。
それなのに放課後に会ったところで何をどう言えばいいというの?
わたしの心の中にはもうあなたの居場所は無いというのに。
「返事をしたら、その返事に対しての約束はしてもらえる?」
「おう! 守るよ! その返事に期待してるし。約束する!」
「それならいい。きちんと返事する……」
「分かった、放課後な!」
わたしには七瀬《彼氏》しか見えない。彼の近くにいられればそれだけでいい……彼のその手に触れたいだけ。
早く授業が終わって欲しい――そう思いつつ、もう何も考えられなくなって誰からの声も聞こえてこなかった。
「おーい、あやきち~? ま、まさか、目を開けたまま寝てる!?」
「綾希さん? 聞こえてない……?」
気付いたら授業が終わってて、元の教室に戻らないといけないのにずっと窓の外を眺めていた。誰の声も聞こえてこないくらいに憂鬱だった。
どうして一度振った相手にまた同じことを言わなきゃいけないのか理解出来なかった。
「泉、林崎。綾希って、今どんな感じだ?」
「七瀬くん! いいところに来たね。やっぱあやきちを起こすのは七瀬くんだけだ」
「上の空ってやつだと思う。俺らの声も聞こえてないし、見えてない。原因はあいつだよね」
教室を出なければいけないことくらい頭の中では分かっている。けれど、ずっと頬杖をつきながら空を眺め続けていた。
このまま時間が過ぎずに動かないでいられればいいな……なんて思いながらわたしなりに必死に抵抗し続けた。
「綾希」
本当にどうしよ。
「綾希なら俺の声が聞こえてるはずだが? それとも泉の言う通り、目を開けたまま寝てんの?」
「寝てない」
「お、ようやく返事したな!」
「なに?」
流石に七瀬の声はすぐに届いている。
「綾希、ごめんな。お前を独りにさせちまった。こっちまで聞こえてこなかったけど俺らは分かってる。だから、綾希。お前は俺が必ず守るから。だから、教室に戻ろう?」
ずっと姿勢を崩すことなく頬杖をついていたわたしに、七瀬は優しい言葉をかけてくれた。雪乃と弘人も心配そうな顔をしながら微笑んでいる。
「友達だから?」
「当たり前だ。友達でもあるし、綾希が大事なんだ」
「うんうん、あやきちのマブダチなんだぜ~!」
「俺も友達だよ。だから、元気出して」
「ん、分かった」
授業の間、一方的な告白と聞きたくもない声から繰り出される話をひたすら遮断していた。それに加えて味方のみんなとも席を離されたことで、自分自身を消してしまいたかった。
だけれど、いつの間にかわたしには大好きな七瀬がいて優しくて面白い雪乃と、気遣ってくれる弘人がいてくれたってことに気付かされた。
こんなわたしでも友達が出来ていたんだ。
「綾希、行くぞ」
「行く」
放課後。
わたしは元彼の世に、はっきりと確かな言葉で伝えなければならない。でも、七瀬や友達たちがいてくれるってだけできっと大丈夫……そう思えた。
七瀬とわたしの恋の敵……もう、そんなのいらない。
これから先の関係にそんなのは全然必要ないのだから。
振ったはずの元彼とは距離だけじゃない理由で離れたのに、何でか同じ学校に移ってきて、どうしてまたわたしの隣に座っているの?
信じられない――素直に思ったわたしは、思わず窓の外を眺めたくなった。
夏休みも近づいているけれど、空は梅雨空の色を出している。今のわたしもまさにそんな気分。
わたしの味方は近くにいないどころか授業中ということもあって、席へ来てくれるといったサプライズも期待出来そうにない。
「……なぜなのかな」
「ん? そりゃあ、綾希とヨリを戻したいからに決まってるだろ!」
「なにが?」
「いや、だから……」
隣に話しかけたつもりはなくてわたし自身に問いかけていた。つまりは独り言。だけど、半分は訊いていたのかもしれない。
どうしてわたしなの? って感じで。
「どこが好きで?」
「綾希と付き合ってたし、やっぱお前可愛いし」
「あ、そう……」
辛うじて声だけ出ていた。でも、窓の外だけしか見えていなかった。それくらい、何の感情も表情も動かすことなく時間が過ぎていくのを待っていた。
「やり直してくれないか? フラれた理由は後から聞いたけど、でもオレは好きなままなんだよ。悪いとことか直すから、だからもう一度付き合ってくれ! 頼む。マジで好きなんだ、綾希」
確か今って授業中だった気がする。
でも、後ろの席だからか大きい声でもない告白は他の誰にも聞こえていない。もちろん、すぐ隣のわたしにも隣の元彼の告白は全然届いてこなかった。
「いや、授業中にごめん。オレ、待ってるから。返事は放課後に聞かせて欲しい。玄関で待ってるから。だから、頼む。諦めたくないんだよ」
「……じゃあ、放課後」
「おっ! っしゃああ!!!」
ああぁ、何で声を張り上げるかな。
「何ですか? 宇月くん、質問ですか?」
先生に気づかれたら駄目でしょ。
「あ、いやっ、すみませんでした。なんでもないです」
何ていえば相手に届くのだろう?
本当にどうしてわたしなのかな。もう全然気持ちなんてないからさっぱり忘れて欲しいのに。
それなのに放課後に会ったところで何をどう言えばいいというの?
わたしの心の中にはもうあなたの居場所は無いというのに。
「返事をしたら、その返事に対しての約束はしてもらえる?」
「おう! 守るよ! その返事に期待してるし。約束する!」
「それならいい。きちんと返事する……」
「分かった、放課後な!」
わたしには七瀬《彼氏》しか見えない。彼の近くにいられればそれだけでいい……彼のその手に触れたいだけ。
早く授業が終わって欲しい――そう思いつつ、もう何も考えられなくなって誰からの声も聞こえてこなかった。
「おーい、あやきち~? ま、まさか、目を開けたまま寝てる!?」
「綾希さん? 聞こえてない……?」
気付いたら授業が終わってて、元の教室に戻らないといけないのにずっと窓の外を眺めていた。誰の声も聞こえてこないくらいに憂鬱だった。
どうして一度振った相手にまた同じことを言わなきゃいけないのか理解出来なかった。
「泉、林崎。綾希って、今どんな感じだ?」
「七瀬くん! いいところに来たね。やっぱあやきちを起こすのは七瀬くんだけだ」
「上の空ってやつだと思う。俺らの声も聞こえてないし、見えてない。原因はあいつだよね」
教室を出なければいけないことくらい頭の中では分かっている。けれど、ずっと頬杖をつきながら空を眺め続けていた。
このまま時間が過ぎずに動かないでいられればいいな……なんて思いながらわたしなりに必死に抵抗し続けた。
「綾希」
本当にどうしよ。
「綾希なら俺の声が聞こえてるはずだが? それとも泉の言う通り、目を開けたまま寝てんの?」
「寝てない」
「お、ようやく返事したな!」
「なに?」
流石に七瀬の声はすぐに届いている。
「綾希、ごめんな。お前を独りにさせちまった。こっちまで聞こえてこなかったけど俺らは分かってる。だから、綾希。お前は俺が必ず守るから。だから、教室に戻ろう?」
ずっと姿勢を崩すことなく頬杖をついていたわたしに、七瀬は優しい言葉をかけてくれた。雪乃と弘人も心配そうな顔をしながら微笑んでいる。
「友達だから?」
「当たり前だ。友達でもあるし、綾希が大事なんだ」
「うんうん、あやきちのマブダチなんだぜ~!」
「俺も友達だよ。だから、元気出して」
「ん、分かった」
授業の間、一方的な告白と聞きたくもない声から繰り出される話をひたすら遮断していた。それに加えて味方のみんなとも席を離されたことで、自分自身を消してしまいたかった。
だけれど、いつの間にかわたしには大好きな七瀬がいて優しくて面白い雪乃と、気遣ってくれる弘人がいてくれたってことに気付かされた。
こんなわたしでも友達が出来ていたんだ。
「綾希、行くぞ」
「行く」
放課後。
わたしは元彼の世に、はっきりと確かな言葉で伝えなければならない。でも、七瀬や友達たちがいてくれるってだけできっと大丈夫……そう思えた。
七瀬とわたしの恋の敵……もう、そんなのいらない。
これから先の関係にそんなのは全然必要ないのだから。
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