パーティーから追い出された劣等賢者ですが、最強パーティーを育てて勇者を世界から追い出そうと思います。

遥風 かずら

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第1章:劣弱の賢者

1.呪いと裏切りとあまり者

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「おおおおー! さすが勇者様と賢者様だ!」

 俺は賢者アクセリ。
 全知全能にして、剣しか取り柄の無い勇者をずっと支えて来た偉大な智者だ。

 パーティーメンバーに有能な魔法使いを揃えたのも俺であり、有能すぎる治癒魔導士を仲間に出来たのも俺のおかげだ。

 つまり勇者は戦うことしか出来ない能無しで、名ばかりの勇者ということになる。

 賢者の俺が引き立て役をしただけに過ぎないだけで、もてはやされているだけの優男としか言いようがない。

 引っ込み思案で前に出て戦いたくなかった勇者を育てたのは、俺のおかげと言っていい。

 冒険者ギルドで世界平和の為にと、意気投合しただけの関係で知った仲でもない。

 そんなどうしようもない勇者ベナークと俺とで、俺たちの世界を破壊しまくった魔王を討伐することが出来た。

「アクセリ! キミのおかげだ。キミの支えが無ければ、僕は勇者として輝くことも出来なかった。ありがとう」
「何を言うかと思えば、いや、これは賢者だけの支えによるものではないさ。勇者を慕い、ベナークの人柄に頼った者たちによる勲章なんだ。私がいなくとも、ベナークと仲間で倒せたのかもしれないな」

 もちろんこんなお世辞を言う必要は無い。

 他のパーティーメンバーも俺と同じ思いのはずで、意見する程のものでもないことを知っているからに過ぎないからだ。

「……やはりキミもそう思うのかい?」
「いや、言い過ぎたね。勇者の強さは賢者が傍にいるからこそであり、協力の下で成立したということだよ。他の仲間が何を言ったとしても、私はこれからも勇者を支えよう」

 魔王を一匹倒したくらいでいい気になられては困るが、魔族の生き残りを絶やすまでは傍にいてやるとするか。

「いいや、賢者は無用だよ。これは僕を慕う仲間たちの総意によるものなんだ……そう、アクセリは僕のパーティーにいる意味が無くなった。――だから、今すぐ消えてくれるかい?」

「な……何を言っているのです? 魔王を倒すまでの道のり、手っ取り早く強くなるなど……何も知らなかったあなたをここまで強く育てたのは、この賢者である私によるものではないですか! 慕う仲間とは、誰と誰のことです?」

 弱気な勇者ベナークがこんなふざけたことを口にするとは、一体誰が余計な入れ知恵をしたのか。

「黒の魔導士デニサ……ここに来てくれるかい? 賢者アクセリに渡して欲しいものがある……」
「来ましたわ。ベナーク様」

 黒の魔導士の女は勇者に随分と肩入れし、知恵を身に付けさせようとしたロクでもない女だ。

 まさかコイツの仕業なのではないだろうな。

「な、何です? 私に何を渡すというのですか?」

「アクセリ。キミはこれまで僕の為に、いい引き立て役をしてくれた。だけど、魔王を倒せば残りの残党がいたとしても、全知全能な賢者がいたところで意味も無い。そう思わないかい?」

「意味? 意味はあります。私あっての勇者の強さではありませんか!」

「いいや、意味なんて初めから無かったのかもしれない……全知全能? 何もかも優れている賢者? 必要ない……そう、そんな賢者はもう用済みなんだ。だから、キミはかつて弱すぎた僕よりも弱くなる必要がある――」

 まさか、この男……俺だけを仲間から外すつもりなのでは。

「賢者アクセリ様。せめてもの情けをおかけしたいところですけれど、ベナークさまは全てを奪えとおっしゃっておいでです」

「な、何をする気だ!?」

「賢者アクセリ、【黒魔導グラヴィタ】の渦に呑まれるがいい!」

「――なっ!?」

 黒とも灰色とも取れる球体のようなモノに引っ張られ、俺は重力の渦に呑まれてしまった。

 呑まれながら見えたかつての仲間は、俺を笑い、勇者に寄り添いながら黒い笑顔を見せていた。

 くそっ――賢者たる俺がどうしてこんな目に――

 全身にのしかかる重力は体の自由を奪った。
 そして咄嗟のことで対応出来なかった魔法防御を、上手く展開することが出来なかった。

 意識を落とし、重力に潰されながら眠り続けた俺は、ようやく目を覚ますことが出来たらしい。

 うっすら開けた目に飛び込んで来たのは、生い茂った草の根元だ。

 そして違和感に気づく。

 手足に力が入らず、さらには今まで様々な知恵を働かせてきた脳が、呆けたような感覚に陥っている。
 
 痛いな。何でこんなに頭が痛いんだ。
 魔王との戦いは勇者に任せきりで戦ってもいないというのに。

 それなのに全身に激痛が走っている。

「キキキ……」

 ちっ、弱り目に祟り目という奴か。

 通常なら雑魚な獣ごときに能力を使うまでもない。
 適当な低位魔法でも放てば勝てるだけのことだ。

「――ってぇな……クソ雑魚が! 雑魚に力負けする俺も、雑魚に成り下がってしまったというわけか」

 辛うじてのことだが、弱くなっても四大要素は無くなっておらず、盟約における力も僅かに使えた。

 これがかつて全知全能の賢者だった俺だというのか。

 どうやったかは知らないが、黒魔導士の女は重力魔法に加えて呪いもかけていたらしい。

 俺は全ての能力が弱くなり、全て劣っていたのだ。

「く、くそが……勇者ごときに下手したてに出ていた俺が、何でこんな目に遭っているっていうんだ」

「あ、あの、大丈夫ですか?」
「……誰だ」
「わ、わたしは薬師くすし……です。わたしのパーティーが近くを通りがかり、あなたに気付いて。わたしが様子を見に来て、それで……」

 通りがかった割に魔物が放置されているが。

「回復魔法じゃなく、薬師? 何でもいい……足を擦りむいた。患部に塗ってくれ」
「そ、それでは、ぬ、塗ります」

 いったいどの時代のどこに飛ばされたのか。
 まさか魔法では無く、薬師の処置とはな。

「俺に構ってていいのか? あそこに見えるのはお前のパーティーじゃないのか? このままじゃ置いてきぼりになりそうだが……」

 剣士、魔導士、盗賊か。
 バランス重視型の恵まれパーティーに見える。

 薬師が一人いなくなったところで何の影響もないって奴だな。

「あなたの言った通り、回復魔法が使えない薬師に居場所は無いんです。整った構成メンバーから余ってしまうのは当たり前なのかもしれないんです……わたしはきっとそういう運命なんです」

「……余りもの者同士ってやつか」

 だが薬師にだって利はある。

 魔力が切れる心配も無ければ、合成によるレアリティものを調合することも出来るはずだ。

「……俺はアクセリ。一応、賢者だ。お前は?」
「け、賢者さまですか!? わ、わたしは薬師パナセ……です。アクセリさま、わたしを導いて下さいませんか?」

 どこかに飛ばされて来た俺に、どこに導けというのか。

「どこへ導けと? かすり傷程度は本来、治癒魔法で治せるものだ。それが直せないほど、俺は弱り切った劣等賢者だ。笑えねえけど、笑っていいレベルだ」

「いいえ、それならなおのこと、わたしは賢者さま……アクセリさまについていきます。どうかわたしをお供に……」

 全く面白くも無く笑う余裕も無いが、弱くなった賢者と余り者で、世界中に余りまくった勇者を排除するのも面白いかもしれないな。

 戦うだけの能無し勇者、賢者を除け者とした勇者を世界から消してやる。
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