パーティーから追い出された劣等賢者ですが、最強パーティーを育てて勇者を世界から追い出そうと思います。

遥風 かずら

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第1章:劣弱の賢者

7.跫音(きょうおん)が鳴る試練の洞窟へ 1

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「……それで、PTに加わりたい理由は何だ? 単に寄せ集めとする余裕も無ければ、大所帯を望んでいるわけでは無いぞ」
「もちろんアクセリさんについて行きたいからに決まってます!」
「お前は何が出来る? 言っとくが、ありきたりに魔法が使えるだとか、剣の実力だけがすごいとかそういうのは見飽きている」
「ご安心を! パディンに所属している冒険者は冒険したことのないあぶれ者ばかり! PTに入る資格を持てなかったので、魔法や剣は劣っております!」
「自慢することでもないだろう……まぁいい。では、試練を課す。義賊のメンバーに加わる為のな!」

 パディンに入り、町の人間に崇められたはいいが、それだけでは何も見出すことは出来ない。

 そうすると当初の予定通り、使えない者ばかりが集っているとされるギルドに行くしかなかった。

「ア、アクセリさま、あのですね……彼女たちは――」

 パナセがやたらと女ばかりを薦めて来たが、気のせいでもなくパナセは男の冒険者に苦手意識を持っているように見えた。

 ベナークの野郎は賢者の俺以外は、女ばかりを連れ歩いていたが、俺はそこまであからさまではない。

 しかしパナセのホームでもあるパディンという町は、他種族も含めて女ばかりが目立つ。

「ど、どうかされたのですか?」
「お前……俺は平気なのだな」
「え?」
「男だ。俺以外の男の近くに寄ろうとしないのは何故だ? 怖いのか?」
「え、えっと……アクセリさまは別物なのです。でもわたしを追い出したPTのリーダーは、粗悪な男でした。ですから、その時に比べたらお優しくて、お傍にいつまでもお仕えしたいなと思うのです」

 ふむ……俺は優しくした覚えは無いのだが、PTから置き去りにされたこともあるだろうし、そういうことをするリーダーなぞ、後で滅ぼしてやればいい。

 あぶれた者がどれだけ使え、この先も共に行けるのか……

 災厄の竜は戦力外としても、薬師のパナセだけでは心もとない。

 ギルドに依頼のクエストをするのも悪くは無いが、ここは入手した地図をもとに動くとする。

「パナセ、端に隠れている双子のエルフと、三白眼さんぱくがんの娘に声をかけて来い」
「わ、分かりまし……双子の男の子もですか?」
「そうだ。嫌ならお前はここで休んでいても――」
「いえいえいえ! 今すぐっ! 連れて参ります」

 ストレという竜人娘は戦力にならないとは、姿が子供になったからというのもある。

 たまたまごろつき連中を沼に沈めたが、その力を都合よく出せるまではその辺の子と同様だ。

 魔王にしても勇者にしても、普通過ぎる強さを取り戻す程度では勝ち目は無いだろう。

 俺にしても、PTに加わる者たちにしても、おかしな力を自在に操ってもらわなければならないのは確かだ。

「つ、連れて参りました」
「そうか、すまないなパナセ」
「――はわっ!? な、何のご褒美ですかっ!?」
「ん? 素直に言うことを聞いたのだから、頭くらい撫でてもおかしくは無いだろう?」
「あわわわわわっ……」

 見れば見るほど愉快な女だ。

 褒められたことが無いとすれば、よほどこれまで不敬な連中としかいなかったのだろう。

「さて、双子のエルフ。名は?」

「「ジュメリ」」

「同時に言うな。男と女で名は異なるはずだ。一人ずつ名乗れ」

「ジュメレ」「ジュメル」

 双生のエルフとは何とも面倒だが、育てれば面白いことになるかもしれない。

 それでもPTの中に加える資質は感じられないが。

「三白眼のキツネ娘、お前の名は何だ?」
「……シヤだ。お前こそ名を名乗れ!」
「俺はアクセリだ。ふっ……活きがいい娘だ。お前は何が出来る? 何故ギルドで暇を弄んでいる?」
「うるさい! オレの勝手だろ!」

 双生のエルフと三白眼の娘を、試練の洞窟へ放り投げて見るのも面白い。

 もちろん俺自身も、源をたどる必要があるわけだが。

「では、パナセはそいつらに支度をさせて一緒に町の外へ来い。俺はストレを連れて待つとする」
「わ、分かりましたー! わたしも何かお手伝いをした方がよろしいですよね?」
「当然だ。お前も役立って見せろ。そうすれば、何度でも撫でてやってもいい」
「は、はいいい! やりますやりますっ!」

 勇者に復讐までかなり遠き道のりとなりそうだが、俺を劣弱にさせたということは、復讐してくることを分かってのことだからだろう。 

 他種族だろうが、人外だろうが、勇者に出来ないやり方でてめえに一泡吹かせてやろうじゃねえか。

 三白眼のキツネ娘は相当俺のことが嫌いらしく、洞窟に向かう道中、パナセに密着するようにして歩いている。

 逆に双生のエルフ二人は、おどおどするかと思えばそうではなく、場所を伝えたその時点で、さっさと洞窟のある方向へ歩いて行ってしまった。

 今回の目的は、賢者の俺にどれほどいい影響を与えられるかについてであり、仲間にするとは決めていない。

 そもそも役に立たないあぶれ者専用ギルドから、役に立てそうな奴を見出せるかどうかが問題と言っていいだろう。

「アクセリさま、それで今回行く洞窟は何という所なのですか? わたし、パディンに長くいましたけど洞窟があったことも知らなかったです」
「お前は粗悪なPTにいて、前も見られる状況ではなかったのだろう? それとも、そのPTは弱い場所にしか出かけなかったのか?」
「は、はい……そうなのかなと、今思えば……なのですけれど」
「安心するがいい! 俺の傍にいれば、今後は退屈させることがないと約束してやるぞ」
「も、もちろん、アクセリさまのお傍から離れることは、断じてあり得ません!」
 
 期待に満ちた目で見つめられても対応に困るが、それとは別に、パナセに引っ付いているキツネは、ずっと俺を睨んでいるようだ。

「シヤとやら、そんなに人間が憎いか?」
「お前もオレを捨てるんだろ! 捨てる為に洞窟に行くってことは分かっている!」
「捨てる? そうか、お前はPTのあぶれではなく、捨てられたことを根に持っているのか」
「人間は勝手だ……オレの目が珍しい、キツネだからと最初は可愛がった。それが飽きたら捨てるとは、非道にも程があるだろ! 人間はどれも同じだ!」

 単なる意地張りなキツネかと思っていたが、人間のことで相当苦しめられたらしい。

 そういうところは分からないでもないが、いずれにしても勇者の野郎といい、そこらの冒険者といい……ロクでもないPTの世界で混沌としているのは確かなようだ。

 双生のエルフはすでに洞窟内に入っていて、俺をジッと見ている。

「ここが空谷のガクオン洞窟だ。特徴としては、足音が鳴り響くといったところか」
「足音ですか? それと試練とどういう繋がりがあるというのですか?」
「ここに響く足音ってのは、ここにいる奴の足音しか聞こえないのが普通だ。だが……」

 ほぼバクチでしかないが、洞窟には名のあるPTが来る率が高い。

 ここの特徴は、一方通行な上に行き止まる部屋が多くあることだ。

 聞こえる足音は俺とパナセとストレ、そしてエルフ二人とキツネの6人だけ。

 足音が響く以外は音の無い世界だ、果たして見分けられるかどうか。

「双生のエルフとキツネは、それぞれで行き止まりの部屋に留まってもらう。部屋に危険は無い。試練というのは至極簡単なことだ。跫音きょうおんを瞬時に見極めてもらうだけだ」
「へっ! 人間の足音なぞ、目を閉じていても分かるぜ。これのどこが試練で、それをしたからって何の役に立つってんだ? オレもそうだが、エルフも人間のお前に味方する気はねえぞ」
「「キツネと同じ」」

 元より言うことを聞かせて仲間に加えるつもりは無いが、成長を促すのが狙いだ。

 弱い上に従わないエルフとキツネをPTに入れた所で、勇者どころか粗悪PTにも及ばないだろう。

 だがここで少しでも能力の向上が見込めそうであれば、女子供であっても、強くなるための知恵を教えることが出来る。

「褒美が欲しいのだろう? 足音を見極めることが出来たら、その身を自由にしてやろう。お前たちだけが、パディンという人間だけの町にいるのは、人間PTの為の奴隷だからなのだろう?」

「「何故、分かる?」」
「お前、何だ? 何者だ?」

 人間だけの町の中に、異類がいれば目立つしすぐ分かる。

 おまけに人間を嫌っているのが分かりやすい。

 人間のパナセに慕っているのは、パナセの境遇を間近で見ていたからだろう。

「自由にはしてやる。さらには、成長を促すための力も与えてやろう! 俺のPTに加われとは一言も言っていない。どうだ? やってみるか?」
「ア、アクセリさま、わ、わたしとストレはその試練は参加しなくてもよろしいのですか?」
「ん? お前はすでに俺の傍から離れないのだろう? 離れたければいつでも――」
「い、嫌ですっ! アクセリさまから離れてやるおつもりはございませんっ」
「可愛い奴め。ストレは言わずともだが……」

 もう一つの狙いは俺の足音などでは無く、ギルドの依頼を見ていた悪そうなPTがここへ来ることにある。

 敵意を持った者の足音かそうでないかを、こいつらが見極めるかを確かめてみたい。

 それが出来れば、キツネにしろエルフにしろ、察知能力を後々に開花させられるはずだからな。

「じゃあ、奥の部屋へ散らばれ! 俺の足音か、パナセの足音かを判断して名前を叫べ! もし敵意を感じた足音だったのなら、力を以て打ちのめせ。外れたら試練は終了だ。お前たちに教えることは何も無い」

「「人間、生意気」」
「くそが、やってやるよ!」

「俺は敵意を出さずに部屋へ近づく。いいか? 敵意は出さないからな?」

 念を押したが、足音で判断するのかあるいは、敵意による察知で手を出すのかは不明だ。

「あ、あの、アクセリさま」
「どうした、パナセ?」
「足音が響くのを見極めるだけでしたら、さすがにお易しい試練なのでは?」
「お前もやるか? 部屋で一人でいたいのならな」
「い、嫌です!」
「これの狙いは足音じゃない。あの子らがこれから生き延びて行く為の、スキル磨きといったところだ」
「そ、そうなのですね。わ、わたしも察知能力を磨きたいです!」
「無理だ」
「はううう……」

 さて、無事にギルドにいた悪どもが、釣られて来るかどうかだな。

 奴等が来ることで、俺もあの子らも弱さの限界を越えられるはずだ。
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