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第3章:目覚めの力
32.拠点城リルグランへの帰還 2
しおりを挟む「劣弱賢者になったんだってな? アクセリ」
「そういうお前は当時から変わっていないな、魔戦士オハード」
魔戦士はその名の通り、魔術を擁した戦士であるが、気性が荒く協調性に欠けるのもあって、PTに加えるにはリスクが伴う。
ましてこのオハードという男は、血の気が多すぎる。
当時のベナークは大人しめの勇者で、強気のオハードと合わなかった。それだけで、PTから追い出されてあぶれてしまった哀れな男でもあるのだが。
「くかかっ! それはてめえの節穴ってやつだ! 剣を向けるなんざ無駄すぎるから、てめえと同じ魔法で許してやるよ!」
「ほぅ、許してくれるのか? それは優しいことだな」
弱体化した賢者だからなのだろう、武器ではなくあえて魔法で勝負を挑んで来るようだ。
「……それで、そこのガキはてめえのガキか?」
この場にいるのはオハードと俺、そして――
「あ、争いは好きじゃないのだ。我が成敗をしてやってもいいのだ!」
「ああん!? 邪魔すんじゃねえぞ、ガキィ……」
「ひっ! そ、そういうことはおっさんに任せるのだ……わ、我は関係したくない~」
「ちっ、これだから女は面倒なんだよ!」
コイツだけは当時から変わらないようだ。昔も今もオハードの言葉は悪いが、素性は亡国の貴公子だ。
風采に優れ、国中において誰もが見惚れた模範的な男だったらしいが……、女に騙されて国を追われ、行き着いた先がリルグランということらしい。
ここにいたオハードと共に、当時はベナークの野郎と俺の三人で鍛えの日々を過ごしていた。
そのままPTを組み、冒険を繰り広げるはずだったが、女を加え出したことでオハードだけがあぶれてしまった。
当初は女だけのPTにするつもりはなかったが、黒魔導の女を加えてから運命が狂い出したということになる。
「炎魔術のヴールでも喰らえよ! アクセリ!」
「おっと、ウォールで防がせてもらう。で、今でも女は苦手か?」
「苦手じゃねえ! 面倒なだけだ! 風魔術ヴィントで澄ました顔を歪ませやがれ!」
「じゃあ、リオートで返してやろう。だがオハードもその面を整えれば、今でも貴公子そのものなのではないか?」
「……うるせえ!」
――と、オハードとの魔法合戦は会話の中だけで完結してしまうわけだが、本来は自然の要素を従えて攻撃に転じる俺にとっては、キリがない戦いでもあるだけに不利を生むだけだ。
『わわわわぁ!? ア、アクセリさまが戦ってるです! わたしも投げまくりますよ~!』
『バカッ! 止せ、パナセ!』
『えいえいえい、えーい!!』
『あ? 女が何の用――ぐあっ!? し、痺れ……か、風が止められねえ!?』
オハードの手元には小さい旋風が出ていたが、俺はまだ氷を出すに至っていなかった。
そこに来たのが興奮状態のパナセで、訳も分からずに必殺の適当草をぶん投げて来たことで、オハードは全身が麻痺し、手元の旋風が狂いを生じ始めた。
「きゃぁぁぁっ!? か、風が渦巻いてくるです~~!? ア、アクセリさま~い、痛いです痛いです」
「ちいっ! だから言ったというのに! パナセ、俺の手を取れ!」
「ひゃいっ! 手、手~と、届かないです~あぅあぅあぅ」
魔術の繰り広げには、ある程度の抑えも効かせていたとはいえ、知らない奴が割り込めば巻き添えを喰らうのは必至だった。
「おい、オハード! アレを止めろ!!」
「ぅ、あぁ……し、痺れて動けねえ……俺に何しやがっ……」
「くそっ!」
本気の攻撃ではないにしろ、旋風の渦に巻き込まれれば、切り刻みの時間が絶えず続くのは明らかだ。
まして術者の手から離れた風は、無意志のままに対象を刻み続けるだけ。
「パナセッ! 待ってろ、俺は今から氷の要素を従わせて旋風ごと固めてやる!」
「はひぃ~ぎゃうぅ……痛い、痛いです~うぐゅ~」
そうは言ったものの、旋風の渦は弱まる気配を見せないどころか、対象が抵抗していることで切り刻みの渦を強め、竜巻状に形状を変え始めている。
「く……パナセ、た、耐えろ!」
何と無力なことなのか……愛し、守ると言った薬師の女すら目前にも関わらず、救ってやれないとは。
攻撃対象が増しすぎた旋風となると、中々要素は言うことを聞きたがらない。
『どけ、劣弱』
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