追放されたギルドの書記ですが、落ちこぼれスキル《転写》が覚醒して何でも《コピー》出来るようになったので、魔法を極めることにしました

遥風 かずら

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陸頁:属性石との関わり

131.オーグリスとの戦い 前編

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「ひええええええ……!! エンジさ~ん! エンジさ~ん!?」

 これはまずいことになった。レシスを放置していたとはいえ、よりにもよって何でピンポイントで彼女の元に落ちて来るのか。

 仕掛けの層にいた巨人族とは、比べ物にならないほどの巨大な体躯をした怪物がものの見事に現れた。

「アルジさま、あれはオーガ……いえ、オーグリス女の怪物ですわ!」
「オーグリス!? あんなにでかいのに? 人よりも少し大きいだけの怪物なんじゃ?」
「もしかしたら、この洞窟の主のような存在なのでは?」
「ううむ……」

 見た目は人間に近いが、生気の無い顔なのに目つきはとても鋭くて一瞬で恐ろしさを感じる。
 表情が全く読めないから、言葉が通じるような相手じゃないことは確かだ。

 いくら洞窟の主だからといっても、他の魔物に比べるとまるで種類が異なる。
 変異した存在か、あるいはここの魔物に紛れていたか。

 しかも見た目が完全に女性タイプだから、余計に戦いにくそうだ。

「エンジさま、リウがレシスを助けるのにぁ!」
「分かった! 頼むよ、リウ」
「はいにぁ!」

 リウの俊敏性なら、図体のでかい相手には気付かれずに動けるはずだ。
 これでレシスの方は何とかなるとして、まずはあの怪物の強さをサーチしてみる。

 相手の特性や動きが事前に分かれば、戦い方で苦労することは無い。

 《エンシェント・オーグリス 強さ不明 洞窟の主 ???》

エンシェント古代の……ってことは、俺のコピーと似た存在なのか」
「ヌシさま、青い顔してどうしたです~?」
「あぁ、レッテ。キミならアレとどう戦う?」
「ガゥ……やりたくないけど、ネコと連続攻撃で何とかするでーす」
「――なるほど」

 女性タイプの怪物に遭遇したことが無いだけに、どう戦えばいいのか。
 ここはひとまず彼女たちに先制攻撃をしてもらって、様子を見るしかない。

「ヌシさまっ!! ネコが!」
「うっ!? あっあぁっ!?」

 慌てふためくレシスの元に急いで近付いたリウに対し、オーグリスなる怪物が素早い足払いをしている。
 リウの素早さを上回る怪物だとは、さすがに予想していなかった。

「アルジさま、わたくしが行きますわ!!」
「頼む、ルールイ!」
「かしこまりましたわ」

 レシスに絶対防御があればまだ防げたが、彼女を抱えたままのリウでは防御がままならない。
 ここはルールイに任せて、強引にでもこっちに掴んで来てもらう。

「にぁにぁにぁ!? 足も手も邪魔しに来るにぁぁぁ!!」
「――くっ」

 このまま見ているわけには行かないが、どうするべきか。
 巨躯のオーグリスは、俺とレッテの気配にも勘付いていて、迂闊に動けば被害を広げかねない。

 そこにかなりの飛行速度で近づこうとしているのは、ルールイだ。
 オーグリスからの足払いや巨大な手の間をすり抜けながら、彼女たちの元に飛び込んでいく。

 もしまともに攻撃を受けてしまえば、彼女たちも無傷では済まされない。

「ヌシさま、防御魔法をかけては?」
「し、しかし……」
「不安定な状態では、ヌシさまの攻撃魔法は効かないはずです。早くしないと!!」
「よ、よし、≪トルタル範囲防御≫!!」

 限定的ではあるが、ダメージへの衝撃は和らげられるはず。

「ヌシさま、レッテはどうすれば~!?」
「待って! まだ動いたら駄目だ」

 巨躯な怪物が出て来たのは不意打ちに近い。
 レシスを抱きかかえるリウと、彼女を引っ張るルールイでは、恐らく攻撃に転じることは出来ないだろう。

 その為に防御魔法をかけた。
 だがあの怪物が古代書と同等の力を備えているとしたら、彼女たちでは厳しいはず。
 
「にぁぅっ!? だ、駄目にぁ、避けられないにぁ!!」
「ひぃえええ」

 オーグリスは手当たり次第に、巨大な手足を動かし続けている。
 これではどんなに俊敏な動きが出来ても、予測が難しい。

 リウたちは怪物の足下を上手く避けながら隠れようとしているが、その度に怪物は狂喜に似た雄たけびをあげて、足下にいる彼女たちを吹き飛ばそうとしているようだ。

 徐々に動きを速くするオーグリスに対し、リウたちの動きが緩慢になっている。
 すると、オーグリスの叫びと同時に、奴の腕がリウを掴みかけた。

「リウッ! お避けなさいっ!!」
「にぁっ!?」

 掴みかけられたリウを庇ったルールイが、壁に叩きつけられてしまった。

「ルールイ!! 無事かっ!?」
「……アルジさまのおかげで何とかなっていますわ」

 どうやら防御魔法の効果が功を奏したようだ。
 怪物がルールイに気を取られた間に、リウが俺の元に戻って来た。

「エンジさま、ごめんなさいにぁ……」
「あうぅぅ~……エンジさんん~うぅっ、ぐすっ……びえぇ~」
「……い、いや、俺の方こそ」

 どうやらリウもレシスも無傷のようだ。
 レシスを放置していた俺の責任でもあるし、調子に乗った怪物は俺が倒すしかない。

「アルジさまっ、戻りましたわ」

 ルールイは体のあちこちに切り傷が出来ていたが、大きなダメージを負ってはいないみたいだ。
 しかしリウとルールイの体力は相当に消耗していて、しばらく動けそうにない。

「ヌシさま、レッテはいつでも行けるです!!」
「……うん」

 まともに動けるのはレッテだけだが、巨躯の相手に対しどう動かせるべきなのか。
 恐らくでかいだけで、あまり強くないと思われるが。

「レッテ。キミは奴が弱ってからトドメを刺してくれ! それまで俺が相手をする」
「はいでーすっ!!」

 鉱山洞窟に来てから、まだまともに戦ってもいない。
 ここは魔法のレベル上げも兼ねて、思いきり力を解放してみることにする。

「エンジさま、気を付けてくださいにぁ~」
「うぐずっ……エンジさん~」
「アルジさま。もし吹き飛ばされたら、わたくしの元に!!」
「……き、気を付けるよ」

 レシスだけ泣きじゃくっているが、彼女は体力が有り余っているはず。
 彼女にも協力を頼んでおくか。

「レシス! 多分、洞窟が崩れるかもしれないから、君も防御魔法をかけておいて!」
「わ、分かりました~ぐすっ……」

 本当に大丈夫だろうか。
 とにかく今は、オーグリスを何とかするしか無さそうだ。
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