追放されたギルドの書記ですが、落ちこぼれスキル《転写》が覚醒して何でも《コピー》出来るようになったので、魔法を極めることにしました

遥風 かずら

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漆頁:極めの帰結

139.ノックス・ガーデンの攻防戦

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「ヌシさまっ、一斉に来るです!! レッテは魔獣を相手するでーす!」
「では、わたくしは空の魔物を!」

 レシスのおかげで大森林は脱した。
 だが空は色濃い闇が覆っていて、夜と変わらなくなっている。

 どうやら魔物にとって有利な場所に迷い込んでしまったらしい。

 ここで俺たちを待ち受けていたのは、魔物の集団だった。種族不明の魔物の気配があって、さながらここは魔物の庭といった場所だ。

 空からの魔物が多く見えているばかりじゃなく、魔獣や植物妖精に至るまで、相当な数が俺たちを取り囲んでいる。

 奴らは今にも一斉に襲い掛かって来る様相を呈していて、迷う余裕は無い状況だ。
 リウにはレシスの近くにいてもらい、襲い掛かって来る敵を倒してもらう。

 ルールイとレッテは、それぞれで得意な敵を個々でやってもらうことにした。

「エンジさまはどうするにぁ?」
「心配は要らないよ。俺には魔法があるからね。悪いけど、レシスを頼むねリウ」
「にぅ!」

 レシスはほったらかしても問題無いと思われるが、光の防御効果は永久では無く時間経過で失われる。
 そうなるともう一度防御魔法をかけ直す必要があるものの、今はその時間が無い。

「よしっ、やるか!」
「エンジさま、ファイトにぁ!」

 空の魔物と地上の魔獣は、すでに二人のおかげで離されている。
 おかげでこっちは、大量の魔物だけに集中攻撃が出来そうだ。

「まずはこれでもくらえ!! 【アイスストーム】っ!」

 植物妖精はレシスが噛みついていた大木の魔物だ。
 他の魔物の壁となって前面に押し寄せて来たので、巻き込んで一帯を凍らせることにした。

 もっとも植物系魔物には氷よりも、炎系が有効になるのは理解している。
 範囲魔法は、次への詠唱待機が長いのでここは間髪入れずに、違う範囲属性を展開することにした。

「【ライジングストーム!】【ファイアストーム】!!」

 雷系と炎系の範囲魔法を合わせて、押し寄せる魔物を一気に倒す。
 数だけ見れば相当なものに見えたものの、魔法をはね返す魔物は紛れていない。

「すごいにぁ~! いいぞいいぞにぁ!!」

 本来なら素早い物理攻撃が出来るリウに倒してもらいたいところだが、まずは大量の魔物を一掃する。
 それからやってもらうにしても何も問題は無い。

 幸いにして見事に魔物だけしか見えていないので、使いどころが難しい範囲魔法が初めて活躍している。

「雑魚しかいないからね。リウにも退屈させないよ」
「はいにぁ!」

 闇が深い土地でも火力が闇を上回っているせいか、手こずりそうな魔物は現れる気配は無さそうだ。
 ある程度数を減らしたら、ルールイとレッテの方にも加勢をするのもいいかもしれない。

「あれー? エンジさんはどこへ?」
「近くにいるにぁ。レシスは大人しくしてて欲しいにぁ」
「ここは私も動かないとーー!!」
「にぁ!? だ、駄目にぁぁ!」

 大量の魔物を範囲魔法で一掃したところで、後ろの方から硬そうな魔物が見えて来た。
 魔力が続く限り連続で魔法を放つつもりだったが、さすがにそんなに甘くは無さそうだ。

 攻め寄せている魔物のほとんどは、とにかく突っ込んで来るだけで怖さは感じられない。
 しかし雑魚の後ろに控えていた魔物は、魔法防御が高いのかダメージが通っていないように見える。

 もしかすれば範囲魔法で使った属性では、致命傷を負わせることが難しい可能性がありそうだ。
 このままやみくもに連続で魔法を撃ち続けるのは、キリが無いように思える。

 それとも問答無用で、即死攻撃魔法に切り替えて一気に片付ける手段を取るべきだろうか。

「駄目にぁー! 駄目にぁぁ!!」

 どうするべきかを考えていると、何やらリウが騒いでいる。
 もしかして、範囲魔法から逃れた魔物でも襲って来たか。

 しかしリウなら何も問題は無い。
 ――のだが、リウの傍にはレシスがいたことを思い出す。何かやらかしただろうか。

「エンジさ~ん! レシスが来ましたよ~!! 今度こそ約束を」
「駄目だっ、レシスっ!!」
「ほえ?」

 リウの制止を振り切って、レシスが俺の目の前に現れた。
 どうやら正気に戻っているようだが、魔物が迫って来ていることに気付いてもいない。

「後ろに迫って来ているぞ!! レシスっ!」

 レシスは俺の正面に立ちはだかっている。
 魔物に背を向けているということになるが、同時に範囲魔法の影響も受けてしまうのは避けられない。

「はわわわわ!? 魔物ですよ、エンジさん!!」
「だから早く避けて――あぁ、くそっ! 《ルーセント・ガード》!!」

 全く危機を感じていないレシスには何を言っても通用しないので、先手を取った。
 レシスの全身には微かながらに光が残っていたが、光を上書きするしかない。

「ほえええ!? またまた光ってますよ! いつから私は発光するように!?」

 すぐに彼女の全身が光に包まれたが、強い魔物が眼前にまで迫っていた。

「――レシス、そのままその場に大人しく立っててくれ!」
「ほえ?」

 光防御魔法がかかっている状態で魔法を放てば、範囲魔法の効果が半減してしまう恐れがある。
 そうかといって、レシスに突っ込めとも言える状況にはない。

 レシスがダメージ無効化することを信じて、一気に片付ける手段を取ることにする。
 召喚を使うのはいつ以来か忘れたが、大量の魔物相手にはこれが手っ取り早い。

「来たれ! 召喚《ティアマト》!!」

 漆黒のドラゴンであるティアマトが、周辺の外気を一変させる息を吐き出しながら顕現する。
 召喚獣の場合は命令で動くのではなく、目に見える敵に対してドラゴンブレスを吐き出すだけだ。

 だがその効果は絶大なもので、敵の耐性に関係無く灼熱と腐食、それに石化させて敵を弱体してくれる。
 
 これなら多少手強そうな魔物が控えていても、何も問題は無いはず。
 その意味でも、レシスの光防御に期待した。

 光防御なら召喚獣からの弱体効果も、全て弾くと判断したからだ。
 
「エ、エンジさ~ん……、目の前が全然見えませんよ~? 一体何が起こっているんですか?」
「もう少しの辛抱だから、そのまま待機で!」

 ドラゴンブレスの威力は凄まじく、地上に群がっていた大小の魔物を容赦なく吹き飛ばしている。
 普通ならレシスもドラゴンブレスの範囲内に含まれているのだが、彼女だけは攻撃対象外のようだ。
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