【完結】はらぺこサキュバスが性欲の強い男エルフと一夜のあやまちで契約してしまう話【R18】

ケロリビ堂

文字の大きさ
82 / 91
後日談

海辺の街に旅行に行こう②

しおりを挟む
「いや、あはは。振り向いたらいきなりキスしてたもんでお客さん……変な声出してすんません」
「うふふふ、二人で旅行が初めてなので浮かれてるんです、私たち。ね? シルキィ君」
「えへへ……」
「うらやましいことで。しばらくはずっと何もないとこを走るからね。途中で休憩入れながら海辺の街に向かっていくんで……」

 しばらく平地を走っていくと、別のケンタウロス旅客便を見かける。あっちは山のほうへ走っていくみたいだった。

「私がダンジョンの街に来た時にはね、あの山を越えて来たんですよ。山を越えるか海に出るかしかなかったんですけど、あの時はまだクラーケンがいたから山を越えるしかなかったですね。私身体が重くて泳げないから、船が襲われたら絶対死んじゃいますからね」
「わあ、本当にクラーケンが退治されたことって重要なんですね」
「最近ダンジョンの街に来る人がぐんと増えた要因のひとつではあるでしょうね」
「ああそうだよ。船で海辺の街に来て、そこからうちの旅客便でダンジョンの街に向かうって客はすごく増えたね。儲けさせてもらってありがたい話だ」

 山のほうを見ているレイモンドさんは、ちょっとだけわたしの知らない表情をしていた。わたしに会うずっと前に彼はきっと長い旅をしてきたから、いろいろあるんだろうなと思う。あの山の向こうのずっとずっと遠くに彼の故郷もあるのだろうし。
 わたしたちを載せた旅客便は山へ行く道の前で大きく曲がって森に入る。なんども行き来したらしく、道は綺麗に慣らされて思ったほど荷車は跳ねない。

「いくら行きやすくなったからってあっという間とはいかないからな。着くのは夕方になると思うがそれでいいね? 途中の川で一休みするからな」
「はい、もちろんです」

 わたしたちはセントールさんの言う通り、途中の河原でお水を飲んだり、おトイレを済ませたりした。途中で食べるためにわたしが働いているパン屋さんでもらってきたスパイスのきいた甘いパンは、全部食べると向こうでお腹いっぱいでもったいないかもってレイモンドさんが言うので、セントールさんにもわけて三人で食べた。
 そのあと川の水に足をぱしゃぱしゃしたりしながらセントールさんが荷車のチェックをしているのを待っている間、わたしはレイモンドさんが森の空気を気持ちよさそうに吸っている顔を見ていた。今でも時々見える精霊が髪の毛にくっついて光っていて、レイモンドさんはとっても綺麗だ。

「ん? どうしましたか? 慣れない乗り物でやっぱり疲れちゃいましたか?」
「あ、いえ、いいえ。レイモンドさん、森の中のほうがのびのびしてるなって思っただけです……」
「ん、うーん。まあね。どうしても森生まれのエルフですので、街中よりは空気が綺麗で気持ちいいなとは思います。でも私、空気きったないあの街が大好きですから。森はたまにでいいですね」

 にかっと笑うレイモンドさんの歯が真っ白で、わたしも思わずにこっと笑い返す。その時セントールさんがそろそろ出発すると声をかけてくれたので、慌てて足についた水を拭いて荷車に乗り込む。

「しばらく森が続くよ」
「はい、よろしくお願いします」

 季節は夏が近くて、いい天気だけど暑すぎなくてとってもいい感じ。森の木々もあおあおと茂って、葉っぱがきらきら光って、木ばっかり見えてる景色でもいい眺めだった。

「シルキィ君はどうして海辺の街に行きたかったの?」
「え?」

 森の中を走っていると急にレイモンドさんがそんなことを言ってきたのでわたしは返事に困ってしまう。本当はレイモンドさんのほうが行きたがっていたので、彼が行きやすいようにわたしのほうが行きたいと言ってるようなかんじに持っていきたかっただけだから、特別にそこに行きたかったわけではない。ただ、確かに旅行に行きたいとは思っていて、その理由は実は……。

「んっとー……。えっと……。場所はどこでもよかったんです。だけど、パン屋さんに来るお客さんたちに、最近婚姻した記念に旅行するのが若い女の子たちの中で流行ってるって聞いてて……。レイモンドさんと、えへ。それに行ってみたいって思っちゃったりなんかして……」
「……シルキィ君、シルキィくーん」
「えっ、はい」
「んもー。そういうのちゃんと教えてくださいよ~。可愛い奥さんがそんなふうに思ってるのに鈍い私はそんなことぜんっぜんしらなくて……。いつから行きたいと思っていたんですか? 他の女の子が行ってきた話を聞いて、行きたいなぁって一人で思ってたんですか? そんなあ、そんなこと言われたら私空の旅だって考えちゃうのに!!」

 レイモンドさんは座席の隣からがばっと抱き着いてきて、わたしのほっぺにほおずりしながらそんなことを言う。ほんとは行きたいのに行きたくないふりをしていたのを完全に忘れている彼の様子に、わたしは思わず笑いが漏れてしまう。

「お互いしか見えないのもいいことだがな、そろそろほら、景色見たほうが面白いぞ」

 いちゃいちゃしていたところでセントールさんが声をかけてくれたので、言われたとおりに景色を見てみる。気が付くとだんだん木の数が少なくなってきていて、走っている道はなだらかに下り坂になっている感じがした。するとちょっと森とは違う風が吹いてくる。街の風とも違う、ちょっと独特の匂い。青い空の下、遠くのほうでちかっちかっと何かが光っている。

「シルキィ君! 海です! 今海が見えたと思います!」
「本当ですか!?」

 耳と同じく目もいいレイモンドさんが指さしたのも、わたしが光ったと思ったところだった。もっとよく見たいと思って目を凝らしたところで、わたしたちはちょうど森から抜ける。繁っていた木がなくなると急に視界が開けて、その瞬間わたしが思ったのは「青くてまぶしい!」ということだった。

「わ、わあーっ……!」

 さっきはちらっとしか見えていなかった輝きは今は視界いっぱいに拡がってどこまでも青く、それは空の下でまっすぐにかすんでいる。海はそこで終わりなのに、そこから上は全部空。頬を撫でる風の匂いは近くで嗅ぐとちょっとすごいくらいかわってて、これがきっと海の匂いなんだと思った。

(サキュバス海の匂いはキャンディみたいな甘い匂いだからなあ……)

 わたしたちは今丘の上を走っていて、ちょっと下のほうにはこれから行く海辺の街が広がっていた。あそこまで降りるのがまたちょっとかかるのだとセントールさんが教えてくれたけど、その間このすごい景色を見られるならぜんぜんそれでいいとレイモンドさんがキラキラした笑顔で答えていた。
 海辺の街は白い壁で囲まれていて、浜辺があるほうだけその囲いが途切れている。そしてその壁の周りには小さな家がたくさんあるのが見える。その作り自体はわたしたちが住んでいるダンジョンの街とあんまり変わりないけど、海辺の街は建物の色が全然違った。壁の外にも中にもたくさんある家は、ほとんどが白くて、そして屋根は海よりもちょっと濃い青、青、青! そんな屋根が太陽の光をまぶしく反射していて、光を信仰してるマノンさんが見たら感動で泣いちゃうかも、と思う。

「レイモンドさん! お屋根みんな青いですよ! すごい!」
「ほんとですね! どこが自分の家だかわからなくなっちゃいそう!」
「はっはっは! あんたら自分の宿の場所、ちゃんと覚えときなよ!」

 キャッキャとはしゃぐわたしたちを乗せてセントールさんの旅客便はぐねぐねした道を時間をかけて降りていった。坂道を降りるたびに海の匂いはどんどん強くなって、聞いたことがない鳥の声に、車輪の音が溶けていく。

「シルキィ君、海辺の街ですよ。いっぱい楽しみましょうね」
「はい、たくさん思い出を作りましょう、レイモンドさん!!」

 わたしたちは、今回の旅の目的地、海辺の街にもうすぐにたどり着く!
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

魚人族のバーに行ってワンナイトラブしたら番いにされて種付けされました

ノルジャン
恋愛
人族のスーシャは人魚のルシュールカを助けたことで仲良くなり、魚人の集うバーへ連れて行ってもらう。そこでルシュールカの幼馴染で鮫魚人のアグーラと出会い、一夜を共にすることになって…。ちょっとオラついたサメ魚人に激しく求められちゃうお話。ムーンライトノベルズにも投稿中。

ブラック企業を退職したら、極上マッサージに蕩ける日々が待ってました。

イセヤ レキ
恋愛
ブラック企業に勤める赤羽(あかばね)陽葵(ひまり)は、ある夜、退職を決意する。 きっかけは、雑居ビルのとあるマッサージ店。 そのマッサージ店の恰幅が良く朗らかな女性オーナーに新たな職場を紹介されるが、そこには無口で無表情な男の店長がいて……? ※ストーリー構成上、導入部だけシリアスです。 ※他サイトにも掲載しています。

×一夜の過ち→◎毎晩大正解!

名乃坂
恋愛
一夜の過ちを犯した相手が不幸にもたまたまヤンデレストーカー男だったヒロインのお話です。

処理中です...