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追放編
第3話:嘲笑
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怒りを堪えて支部長室の扉を出た僕は、自分に落ち着けと言い聞かせながら階段を上る降りた。
支部長室は扉から見て左にある主張の薄い階段の奥にある2階……その最奥に位置しており、階段の上に辿り着く頃にはある程度の冷静さにまで戻ってくる事に成功した。
ここまで露骨に怒りを顕にしてしまったのは殆ど初めてだ。姉弟喧嘩でもここまでにはならなかった。
僕の怒りが彼等の悦快に使われたのだとしたらそれは更に腹立たしい事実だが、そこまで考えが至るのなら上等だ。
病気みたいな言い方だが、峠は超したと言っても差支えが無いだろう。
僕は1歩1歩踏み締めるように階段を下り、同時に嫌な気配というか、雰囲気が協会の中に漂っている事に気がついた。
来る時は支部長室に直行したから気が付かなかったが、なるほど。
その視線の半数は、僕に対して向けられた敵意に近い眼差しだった。もう半数は興味本位や面倒事を起こした僕に対しての嫌味の様なもの、哀れみを込めたものなど様々だ。
勿論それら全てを把握していない僕ではない。誰がどんな視線を向けてくるのかは想定の範囲内だし、半分以上は理解出来る。
が、問題は残りの敵意に満ちた視線だ。
僕は今回除名され、それが時間制限付きの公然の秘密と化してしまっている訳だが、それに対して哀れみや呆れは理解出来れど敵意を向けられる意味がわからない。
視線の主を確認すると、その殆どは協会の従業員だった。
仕事を増やしたからだろうか、だとしたら文句は支部長に言って欲しいものだが……今回は僕にも非があるだろう。
協会の従業員は何も関係がないにも拘わらず、巻き込んでしまった形になる訳だ。
僕はそれに謝罪をしようと、少しだけ大きな声で、全員に伝わるように話し始めた。
「あー、……いきなり乗り込んでごめんね。文句があるのは君達のトップであって君達にじゃない。君たちに迷惑をかけたなら改めて……」
「失望……しましたよ」
遮ったのは王都支部勇者パーティ専属が任された受付嬢、メリナだった。
彼女と僕は……否、僕達はそこそこに深い関係だ。
勇者パーティとしてここを訪れてから、依頼や宿探し、ダンジョンの場所や地形などを教えてもらった。1年ほど前からずっと、探索の支えになってきたパーティメンバーの一人と言っても過言ではなかった。
「失望……?何がどうなってそうなってるの?」
「今まで私たちを騙してきたんですよね、しらばっくれないでください!この詐欺師!」
「……は?」
一体今何が起こっているというのか。
何故昨日まで和やかに話していた相手に裏切られ、罵られ、一瞬頭が真っ白になる。
そうか、彼ら彼女らの視線はそういう事か。
彼らは何故か僕が今まで勇者パーティに寄生していただけの、クソ野郎だと勘違いしているというわけだ。理解できれば何という事はないが、今その言葉を放った人物がメリナであるという事が、僕から反論する一瞬を奪っていた。
彼女を傷つけまいという思い、彼女に誤解され、罵倒されて衝撃を受けた心の一瞬の隙に、従業員の一人がつけ込んだ。
「詐欺師を許すな!勇者パーティの足手纏いめ!」
それに続いて周りにいた従業員たちも声を上げ始める。
「寄生虫め!」
「ここは誇り高い探索者のためのギルドだ!出て行け!」
「勇者に気に入られたからっていい思いばっかしやがっていい気味だ!」
「出ていけ!」
「出ていけ!」
「出て行け!」
「「出ていけ!」」
僕はその勢いにたじろぎ、ハンターたちの方を見ると、彼らは目線を合わさぬように酒を飲んでいた。
彼等が僕の強さを証言しても勇者パーティからの追放以上のインパクトは無いだろうから賢い判断だが、同時に薄情な彼等に嫌気がさす。
出ていけコールは止まらず、中には僕への私怨で煽っている人間もいるだろう。そう思って最初に声を上げた従業員を見るとそこには……
「ピクトルッ……!」
あいつは何が目的なんだ!
僕を協会から追放するだけならもう目的は済んでる。なら何故、奴は僕をここまで攻撃するんだ!
僕は術を隠蔽させて咄嗟に魔法を使おうとするが、そこに現れたのは支部長である彼だった。
「いけませんねステイラさん。せっかく和やかに話し合いを終えたのに、民間人に手を上げようなど」
奴は見抜ける。僕が隠して放とうとした魔法を見抜ける。
僕が普段と同じコンデションだったのなら話は別だろう。たとえ大魔法を放ったとしても、奴は僕によって生み出される魔法の痕跡をすら探知できないはずだ。
だが、最悪のコンデションで、最悪の精神状態で、苦し紛れに急いで編んだ隠蔽術式であれば?
「エルメスティ、よくもまあここまで周到にやったもんだな」
「何のことでしょう」
『貴方ほどの人物なら、多少の小細工など跳ね除けて仕舞いましょうから』
「エル、メスティ……ッ!!」
魔法会話は初歩の魔法だが、しかしここまで流暢に言葉を伝えられるのは彼ほどの実力者でないと不可能だろう。
口ではしらばっくれながら俺にだけ真実を伝える。よくもまあ、本当に。
僕を貶めたもんだ。
「出て行ってくださいステイラさん。これ以上ここに留まれば王国法に抵触するとして通報いたします」
「メリナ……」
「呼ばないでください」
僕が名を呼ぶと、メリナは見たくないものを視界に入れないように、といった具合に視線をそらした。
「足手纏いである事に何の罪悪感も抱かず、寄生し続け、自分の地位を濫用し、挙句の果てに見捨てられたら無様に喚き散らかすなんて、子供でもやりませんよ」
「は、ははは……冗談よしてくれよ。ここにいる全員を殺して実力を示せば満足か?」
「出来ない癖に」
僕は唇を噛みしめてエルメスティを睨みつける。
出来る訳がない。実力的には可能だろうが、ここでそんな事をすればいよいよただの殺人鬼、犯罪者だ。
僕は人間が嫌いなわけじゃない。成長ものの小説とか好きだし、僕の元々いたパーティだってその為に分かれたのだ。
成長の為に。
だからこそそんな生き方をしたくはない。感情に身を任せるのが愚かだと、自分に言い聞かせろ。
「後悔するなよエルメスティ、いい年した男が泣き言言ってるところなんて見たくないからね」
エルメスティがにこりと笑い、魔法会話で僕に意思を伝えてくる。
『くたばれ』
僕は近くにあった椅子を蹴り飛ばして協会を出た。
支部長室は扉から見て左にある主張の薄い階段の奥にある2階……その最奥に位置しており、階段の上に辿り着く頃にはある程度の冷静さにまで戻ってくる事に成功した。
ここまで露骨に怒りを顕にしてしまったのは殆ど初めてだ。姉弟喧嘩でもここまでにはならなかった。
僕の怒りが彼等の悦快に使われたのだとしたらそれは更に腹立たしい事実だが、そこまで考えが至るのなら上等だ。
病気みたいな言い方だが、峠は超したと言っても差支えが無いだろう。
僕は1歩1歩踏み締めるように階段を下り、同時に嫌な気配というか、雰囲気が協会の中に漂っている事に気がついた。
来る時は支部長室に直行したから気が付かなかったが、なるほど。
その視線の半数は、僕に対して向けられた敵意に近い眼差しだった。もう半数は興味本位や面倒事を起こした僕に対しての嫌味の様なもの、哀れみを込めたものなど様々だ。
勿論それら全てを把握していない僕ではない。誰がどんな視線を向けてくるのかは想定の範囲内だし、半分以上は理解出来る。
が、問題は残りの敵意に満ちた視線だ。
僕は今回除名され、それが時間制限付きの公然の秘密と化してしまっている訳だが、それに対して哀れみや呆れは理解出来れど敵意を向けられる意味がわからない。
視線の主を確認すると、その殆どは協会の従業員だった。
仕事を増やしたからだろうか、だとしたら文句は支部長に言って欲しいものだが……今回は僕にも非があるだろう。
協会の従業員は何も関係がないにも拘わらず、巻き込んでしまった形になる訳だ。
僕はそれに謝罪をしようと、少しだけ大きな声で、全員に伝わるように話し始めた。
「あー、……いきなり乗り込んでごめんね。文句があるのは君達のトップであって君達にじゃない。君たちに迷惑をかけたなら改めて……」
「失望……しましたよ」
遮ったのは王都支部勇者パーティ専属が任された受付嬢、メリナだった。
彼女と僕は……否、僕達はそこそこに深い関係だ。
勇者パーティとしてここを訪れてから、依頼や宿探し、ダンジョンの場所や地形などを教えてもらった。1年ほど前からずっと、探索の支えになってきたパーティメンバーの一人と言っても過言ではなかった。
「失望……?何がどうなってそうなってるの?」
「今まで私たちを騙してきたんですよね、しらばっくれないでください!この詐欺師!」
「……は?」
一体今何が起こっているというのか。
何故昨日まで和やかに話していた相手に裏切られ、罵られ、一瞬頭が真っ白になる。
そうか、彼ら彼女らの視線はそういう事か。
彼らは何故か僕が今まで勇者パーティに寄生していただけの、クソ野郎だと勘違いしているというわけだ。理解できれば何という事はないが、今その言葉を放った人物がメリナであるという事が、僕から反論する一瞬を奪っていた。
彼女を傷つけまいという思い、彼女に誤解され、罵倒されて衝撃を受けた心の一瞬の隙に、従業員の一人がつけ込んだ。
「詐欺師を許すな!勇者パーティの足手纏いめ!」
それに続いて周りにいた従業員たちも声を上げ始める。
「寄生虫め!」
「ここは誇り高い探索者のためのギルドだ!出て行け!」
「勇者に気に入られたからっていい思いばっかしやがっていい気味だ!」
「出ていけ!」
「出ていけ!」
「出て行け!」
「「出ていけ!」」
僕はその勢いにたじろぎ、ハンターたちの方を見ると、彼らは目線を合わさぬように酒を飲んでいた。
彼等が僕の強さを証言しても勇者パーティからの追放以上のインパクトは無いだろうから賢い判断だが、同時に薄情な彼等に嫌気がさす。
出ていけコールは止まらず、中には僕への私怨で煽っている人間もいるだろう。そう思って最初に声を上げた従業員を見るとそこには……
「ピクトルッ……!」
あいつは何が目的なんだ!
僕を協会から追放するだけならもう目的は済んでる。なら何故、奴は僕をここまで攻撃するんだ!
僕は術を隠蔽させて咄嗟に魔法を使おうとするが、そこに現れたのは支部長である彼だった。
「いけませんねステイラさん。せっかく和やかに話し合いを終えたのに、民間人に手を上げようなど」
奴は見抜ける。僕が隠して放とうとした魔法を見抜ける。
僕が普段と同じコンデションだったのなら話は別だろう。たとえ大魔法を放ったとしても、奴は僕によって生み出される魔法の痕跡をすら探知できないはずだ。
だが、最悪のコンデションで、最悪の精神状態で、苦し紛れに急いで編んだ隠蔽術式であれば?
「エルメスティ、よくもまあここまで周到にやったもんだな」
「何のことでしょう」
『貴方ほどの人物なら、多少の小細工など跳ね除けて仕舞いましょうから』
「エル、メスティ……ッ!!」
魔法会話は初歩の魔法だが、しかしここまで流暢に言葉を伝えられるのは彼ほどの実力者でないと不可能だろう。
口ではしらばっくれながら俺にだけ真実を伝える。よくもまあ、本当に。
僕を貶めたもんだ。
「出て行ってくださいステイラさん。これ以上ここに留まれば王国法に抵触するとして通報いたします」
「メリナ……」
「呼ばないでください」
僕が名を呼ぶと、メリナは見たくないものを視界に入れないように、といった具合に視線をそらした。
「足手纏いである事に何の罪悪感も抱かず、寄生し続け、自分の地位を濫用し、挙句の果てに見捨てられたら無様に喚き散らかすなんて、子供でもやりませんよ」
「は、ははは……冗談よしてくれよ。ここにいる全員を殺して実力を示せば満足か?」
「出来ない癖に」
僕は唇を噛みしめてエルメスティを睨みつける。
出来る訳がない。実力的には可能だろうが、ここでそんな事をすればいよいよただの殺人鬼、犯罪者だ。
僕は人間が嫌いなわけじゃない。成長ものの小説とか好きだし、僕の元々いたパーティだってその為に分かれたのだ。
成長の為に。
だからこそそんな生き方をしたくはない。感情に身を任せるのが愚かだと、自分に言い聞かせろ。
「後悔するなよエルメスティ、いい年した男が泣き言言ってるところなんて見たくないからね」
エルメスティがにこりと笑い、魔法会話で僕に意思を伝えてくる。
『くたばれ』
僕は近くにあった椅子を蹴り飛ばして協会を出た。
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