私からなんでも盗っていく義妹、それなら最低男と付き合って押し付けようと思ったのに、今度はちっとも盗ってくれません

まつめ

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盗りに来て

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 私の大切なものは全て義妹のリリアージュが盗っていく。

 お母様から貰った豪華な宝石付きの手鏡も、お父様が外国のお土産に下さった、国では絶対に手に入らない飾り帽子も、従妹のリリアージュが遊びに来た後に無くなってしまった。

 伯爵家である私の家に度々やって来る父の弟の娘がリリアージュ。叔父には爵位は無い。だから伯爵令嬢の私と、貴族ではない従妹の彼女は与えられるものが何もかも違う。

 ある日お気に入りの絵本を背中に隠して部屋を出て行こうとするリリアージュを捕まえて、大きな声で咎めた。
「それは私の物よ盗らないで!」
 そうしたら、その場にいた父も母も笑って「頑張りなさいモニカ」と私を応援する。何が起きているのか分からずにポカンと両親を見ていたら、その間にリリアージュは絵本を持って出て行ってしまった。

 両親に彼女が私の大切な物を部屋から盗んでいくと訴えると、「おまえがきちんと管理しないのでリリアージュが盗って教えているのだ。盗られたら自分で解決できるように機会をつくってくれている、だからモニカはがんばって自分で取り返しなさい」と訳の分からないことを言う。

 父も母もリリアージュが私の物を盗っていると知っているのだ。それなのに、リリアージュがまるで私のために良い事をしているみたいに言うなんて……ショックだった。

 14歳で社交界デビューするために、特別なドレスが私のために作られた。しかしパーティー当日、伯爵家でそのドレスを着たのは同い年のリリアージュだった。
 彼女は今日から我が伯爵家の養女になるのよと両親が嬉しそうに言った。

「でもどうして私のドレスを着ているの? 返してよ!」
「これから妹になるリリアージュになんて冷たいのおまえは、譲っておあげなさい」

 この日からリリアージュは伯爵令嬢になり、両親の愛情を私から盗ってしまった。

 16歳から国の貴族子息子女が通う学園に入学した。
 すぐに友人ができ、学業も毎回の試験で良い成績を出すことができた。

 順調に思われた学園生活はすぐに暗いものに変わった。私の友人たちは、気づくとみなリリアージュの取り巻きになっていた。試験の成績もいったいどうしてなのか、私の答案とリリアージュのものが入れ替わってしまう。私は友人の一人もいない、成績最下位の残念な令嬢になってしまった。

 家でも両親の愛情はリリアージュに一身に注がれて、私は使用人からも馬鹿にされるようになっていった。学院の裏庭でみつけてこっそり世話をはじめた子犬さえ数日後にはリリアージュの腕で撫でられていた。

「もう嫌だ、なにもかもリリアージュに盗られてしまう」
 そこで私は考えた。だったら盗ったことを後悔するようなものを盗らせればいいのだ。

 学園で1番のクズと名高い男に目を付けた。
 彼は公爵家の次男で第三王女様の婚約者だ。身分も外見もすこぶる上級なのに、彼の評判は今や地に落ちて、毎日学院生たちに踏まれている。

 学園に通っておられる第三王女様は、この公爵家次男のレオナルド様と婚約者として仲良くやっていた。けれど、第三王女は今年突然現れた、とある男爵令息とご友人になられた。この男爵令息は幼い見た目で、どこか頼りなく守ってあげたい雰囲気をかもしながら、それでいて物おじせず明るく誰にでも話しかけ、身分の高い近寄り難い令嬢ともすぐに仲良くなって笑顔にしてしまうという天使のような少年なのだ。

 気品あふれるお堅い感じの第三王女の隣に、いつの間にか近づいて、今やその天使の少年は第三王女のお気に入りになって、いつでもどこでも一緒にいるようになった。

 私は学院の裏庭の日陰のジメジメした場所で、1人腐って座り込んでいるレオナルド様の隣に座って話しかけた。
 彼は噂とは違って物腰柔らかく、私と会話して「かしこまらずにレオナルドと呼んでよ」と気さくに言ってくれた。

「どうしてレオナルド様は、例の男爵令息に嫌がらせをしたり、軽薄な行動をしたりするのですか?」

「嫌がらせというのは、こっそり彼の教科書を破いて捨てたり、彼を池に突き落としたり、パーティーで服に色の濃い飲み物をあびせ掛けたりしたことかな。あと軽薄な行動というのは公爵家という身分にものを言わせて令嬢に次々に手を出しては捨てているとか」

「そうです、あなたは公爵令息なんですから、そんな嫌がらせをしなくても男爵令息に負けたりしませんよドンと構えていればいいんです」

「それがさ、私はそんなことは何1つしていないのに、何故かしたことになるんだよ」
「それれは無実の罪でレオナルド様は学園中の生徒から軽蔑されているのですか?」

「まあそうなんだけどね、どうしようもないのさ」

 私はそれからレオナルドさまとジメジメした日陰で話しをする友人になった。彼は奇想天外な話を私にした。

「私はね異世界から転生してきたんだ。この世界は前の世界でしていたゲームのストーリーと同じで、このままいけば私は第三王女に婚約破棄されて、例の天使のような男爵令息をいじめた罪でどこかに追放されるんだ。その追放先の田舎でスローライフを楽しんでいると、国に魔王が復活して、それを倒す勇者になって国を救うという筋書きになったいる」

「もしそれが本当だとしても、なんだかいろんなストーリーが盛り込まれていてどこに集中していいか分かりません」

「まあ、何にしても私はすでに決まったこの世界のストーリーからは外れることができないんだ」

 そういう訳で、近々第三王女に断罪されて地方に飛ばされることが決まっているらしいレオナルド様とベタベタ仲良くしてもらうことにした。そうすれば、私の物が欲しいリリアージュが目を付けて彼と恋人同士になるだろう。話し相手もいないレオナルド様は、人前で恋人のように振る舞ってもいいよと私のお願いを引き受けてくれた。

「どうせ追放されるからね、それまでは何をしてもストーリーは変わらないから」とのことだ。

 さあ、エサは公爵令息よ、リリアージュ食い付いてきなさい!
 私は学院では常にレオナルド様と行動を共にして、幸せそうにベタベタやった。

 しかしいつもだったらすぐに盗りにくるリリアージュは動かない。そうこうしているうちに、レオナルド様の無実の嫌がらせはエスカレートしていった。

 天使の男爵令息の昼食のパンに芋虫が挟まれていたり、いきなり足元にバナナ皮が落ちて滑って頭を強打したり、とうとう階段から突き落とされて怪我を負った。

 早くリリアージュが盗ってくれないと、彼は追放されてしまうとやきもきしていたある日、学園の全生徒が第三王女に呼び出され、ホールに集められた。

「レオナルド、これからあなたの罪を皆の前で明らかにするわ!」
 怒りにブルブル震える第三王女の後ろで、ウルウル涙ぐむ天使の男爵令息と取り巻きの高位貴族令嬢が鬼の顔で並んでいる。

「あなたがしてきた私の天使への仕打ちをもう許すことはできません! 今日限りあなたとの婚約は破棄します!」

 と言う訳で、レオナルド様は1つもやっていない男爵令息への嫌がらせと、他の令嬢との浮気を咎められた。彼は神妙な顔で反論もしない。ああ、このまま田舎に彼は追放されるのか……と思った時、その場を切り裂く大きな声が響き渡った。

「ちょっとお待ちください! レオナルド様は無実です!!!」
 なんと割って入ったのはリリアージュだった。

「彼は無実です。証拠ならここにございます」
 鮮やかな手際でリリアージュはレオナルド様の無実を証明し、そして彼に寄り添うと、信じられないほどに可愛らしい顔で涙を浮かべた。

「かわいそうなレオナルド様、これからは私がお側についてお守りします」
「ああなんて頼もしく可愛い人だ、あなただけが私を信じてくれたありがとう」

 リリアージュとレオナルド様はひしっと抱き合った。

 あ! 盗られた。でもこのタイミングで?

 それを目の前で見た第三王女はレオナルド様に、無実の罪を着せたことを詫び、二人の仲を応援すると仰った。
「私はこの天使と真実の愛を貫きたい、レオナルドも素晴らしい相手を見つけることができた喜ばしいことだ。だが、ここで1つの謎が残る。私の天使に嫌がらせをしていた真犯人は誰だ」

「それは私が突き止めてあります!」
 リリアージュがレオナルド様と手を繋いだまま、自信満々に叫んだ!

「すべての元凶はこのモニカお姉様です!!!」

 えー!!!! 私!?

 そんな訳で、リリアージュの完璧で華麗なる演説によって私の罪はあっという間に明るみになり、とても逃げられない証拠が積み上げられ、全学院生生徒の前で断罪され、無実なのに田舎に追放されることになった。

 両親は激怒して私を勘当した。
 最後の望みの綱で、友だちのはずだったレオナルド様に助けてくれるよう頼んでみた。

「君が無実だということは知ってるけど、私は勇者したくないんだよね。だって戦いとか苦手だし。ここでゲームのシナリオが変更になるのなら、私は是非ともリリアージュと結婚したい。君が田舎でスローライフして、そして勇者もやっておくれよ、じゃあよろしく」

 無情にも私の味方は誰もおらず、私はド田舎に無一文で追放された。

 都からものすごく離れた田舎の地で始めたスローライフ生活は、やってみると意外に楽しかった。作物を育てて、そこで取れた野菜や果物を使ってこじんまりとしたカフェレストランなんて開いたりして、私はこういった庶民の生活の方が向いているかもと、忙しく働いた。

 カフェレストランは嬉しいことに繁盛したので、人を雇うことにした。

 そして1人の若い男性のコータローを採用した。彼は変わった名前だったが、すごい働き者で農園でもカフェレストランでも3人分くらいの仕事をこなしてくれた。それだけでなく良い所がたくさんあった。

 まずとてもイケメンで、優しくて思いやりがあって、趣味が合って、好き嫌いの好みも合って、会話も弾む。そしてなにより私を特別に大切にしてくれる。なんだかもう惚れちゃうな、と思っているところに向こうから告白された。

「モニカさん、実は俺は異世界転移してきた勇者なのです。もうすぐ魔王が現れますので、俺は倒しに行かないといけません。でも帰ってきたらどうか俺と結婚してください」

 なんとー! どこかで聞いた話じゃないか。

「そんな、危険な旅に行かないで!」
「大丈夫です。異世界に飛ばされる前に、この世界の神とやらに様々なスキルを授かっていますから、きっとサクッと魔王を倒すことができます。それにこの世界のストーリーはスローライフをしながらイチャラブがメインだと言っていました」

「イチャラブってなんですか?」

「それはたぶん夫婦円満って意味ですね、だから魔王を倒して帰ってくるのを待っていてください」

「そうですか……でも、やっぱり勇者なんて大変なお仕事をどうしてもしなくちゃいけないんですか?」

「はい、神様の言うには俺の表のステイタスは勇者で、戦闘スキルは最高に高いです。魔王を倒さないとストーリーが始まりません。それから俺には裏ステイタスも授けられました」

「裏ステイタスとは?」

「俺の裏ステイタスはスパダリで、スキルは溺愛だそうです」

「スパダリ? なんですかそれは」
「それが、分からないんです。俺は前の世界で理系の研究者だったので、若者言葉にうといんですよ、溺愛も何のことだか……でも、俺の裏スキルを使う相手はあなただけだと、会った瞬間に分かりました。一目見て恋に落ちた。あなたのスパダリになって溺愛というものをしますよ」

 スパダリで溺愛ってなにそれ聞いたこともない……ちょっと怖い、どうしよう。

 私はリリアージュに手紙を書いた。
『私は田舎で楽しくやっています。勇者の恋人もできました。イケメンで優しくて最高の人です。ぜひ盗りに来てください』

 すぐにリリアージュから返事が来た。
『お姉様、私はレオナルド様の妻になり幸せに暮らしています。彼に愛されてみて、私は今までの自分の行いを振り返って反省することができました。今は自分のしたことを悔いています。お姉様のものを盗ったことをどうか許してください。恵まれているお姉様が羨ましかったの、もうけして盗んだりしないわ、その勇者様とお幸せに』

 えー!!
 リリアージュ盗りに来てよ!

 だってコータローは絶対に私を逃がさないって感じなのよ、私どうなっちゃうの?

 怖いのよ、スパダリって何? 溺愛ってどんな愛?
 うわーん!!
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