~不器用な騎士から届く花の手紙~ 傷ついたあの人へどうか少しでも元気になりますように

まつめ

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大泣き

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 カレルの太腿はえぐれるほどに傷を受け、もはや立つことはできなかった。

 2カ月前に発生した、ヨンダルク辺境伯領の魔獣のスタンピードにより、王都から特別討伐隊が派遣された。
 カレルはその討伐隊、第3部隊の分隊長として、魔獣討伐の任にあたっていた。
 不覚にも、魔獣の攻撃を避けきれず、吹き飛ばされて意識を失った。

 体が持ち上げられた。気が付くと部下のヤンセンに担がれていた。

「領主城まで、ここから5キロもある、無理だ置いていけ。俺はもう駄目だ、ここで果てる」
 カレルは何度もそう訴えたが、ヤンセンは答えなかった。
 魔獣の森を、ゆっくりと、しかし確実に進んで、ヤンセンは無事領主城までたどり着いた。

 救護院ですぐに治療をうけた。
 治療師はあまりに若い女性だったので、失礼とは思ったが年齢を聞いてしまった。
 19歳ですと彼女は教えてくれた。亜麻色の髪は肩口で切りそろえられ、長い髪を結う都の婦女子とは似つかぬ髪型だった。
 そうとうの決意でこの戦地に来ていることが、その短く切った髪型で見て取れた。
 治療魔法を、自分の足に施す様子を見ながら、その凛と美しい顔を眺めた。

 綺麗に傷口が塞がったのを見て、礼を言って治療台から降りようとすると、彼女が驚いた顔で止めた。
「体から血を失い過ぎています。とても動ける状態ではありません」
 そう叫ばれて、負傷者のベットに運ばれ寝かされた。そこで、彼女がもう一度回復魔法をかけてくれた。
「私を運んでくれたヤンセンは、怪我をしていないだろうか?」
「え? ヤンセン卿なら、先ほどお亡くなりになりました」
 隣で治療をしていた、男性治療師が振り返って告げた。
「内臓をひどく損傷していました。もう少し早くここに着けば助けられたのですが」

「そんな……」
 その後の言葉をなにも言えず、気づくと涙がこぼれていた。人前で泣いたことなど子供の時にもなかった、けれど、嗚咽を止められず、ヤンセンと叫んで大泣きした。
 もう少し早く着ければ……その言葉が耳から離れない。俺のせいであいつを殺してしまった。

 治療師の女性が背中をさすって慰めてくれた。彼女にヤンセンは5キロも自分を背負って運んでくれた。そのせいで死んだのだと告げた。
「それはおかしいですね」
 彼女の冷静な声がした。
「治療魔法も間に合わない怪我人が、あなたのような大男を背負って5キロも歩けるはずがありません」

                 ◇◇◇   ◇◇◇

「コレイン分隊長、回復されて良かった」
 元気な様子でヤンセンが、ベッドの横に立っている。その隣で治療師の女性がにっこり笑った。
「良かったですね、ヤンセンさんはご無事でした」
 彼女が、部下であるヤンセンを探して連れてきてくれた。亡くなったのは別のヤンセンだった。
「分隊長が大泣きしていると聞いて、信じられない思いです。それほどまでに私の死を嘆いてくださったのですね、ありがとうございます。ヤンセンは何人もいますからね、驚かせてしまいました」

 大泣きしたことを知られてしまい、恥ずかしさに彼女を見た。
 どうして告げた、ひどいではないか、と非難の目で訴えた。
 ヤンセンはそれではと去っていった。

「怒っているのですね、私があなたが泣いたことをヤンセン卿に教えたから」
 頷くと、彼女が少し悲し気な顔をした。
「ここで死ぬから置いていけと言ったそうですね。騎士の皆様が死の覚悟を持って戦われていることを知っています。でも最後まで諦めないで欲しいのです。ここにたどり着いてさえくれれば、私どもの全霊をかけて必ずお助けします。だからどうか戻ってきてください」
 彼女の手が肩に置かれた。澄んだ若草色の瞳を見上げた。
 年下であるはずなのに、まるで母のような威厳があった。

「ヤンセン卿もいつの日か、自分の死を覚悟される時が来るかもしれない。けれど、けして泣かないあなたが大泣きするのだと知っていれば「生きねば」と、彼に思わせる最後の一助になるかもしれません。だから彼に告げました」

「アンネリーン、向こうを頼む」
 若い治療師が、戸口から彼女を呼んだ。ファーストネームで呼ばれるほどに、同僚と仲が良いのだなと思った。治療師たちは皆忙しく動いている。
「忙しいところを済まなかった。ありがとう」
 彼女は会釈して去っていった。
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